スポーツ産業を測る スポーツ産業の生産・支出・分配

スポーツ産業を測る スポーツ産業の生産・支出・分配
庄子博人│同志社大学スポーツ健康科学部・助教

スポーツ産業は、日本再興戦略2016に取り上げられ、国家戦略として産業規模を3倍にする計画が立てられています。3倍を達成する方策を考える前提として、今回から続くシリーズでは、そもそもスポーツ産業のサイズをどのように計測するのかについて、考えてみたいと思います。
まず、スポーツ産業が3倍になるというのは、どのような状態になることでしょうか。この疑問に答えるのは簡単なようで、意外と難しい問題です。スポーツ企業数、スポーツ事業所数が3倍になれば良いのでしょうか、スポーツチーム数やクラブ数が3倍になったらどうでしょうか。あるいは、スポーツ産業のアウトプットとしてのスポーツ実施者数、スポーツ観戦者数が3倍になれば良いのでしょうか。ところがこれらの指標が把握できたとしても、日本経済全体にどの程度の影響を与えるのか、もしくは、他の産業とどのような関係になっているのか、などの比較ができず、経済活動としてのスポーツの影響力が計測できません。したがって、あまりにも当たり前のことですが、スポーツ産業を計測するということは、金額によって計測する必要があります。
一国の経済を金額で把握する指標にGDPがあります。
GDPは、「ある期間に国内で生み出された付加価値の合計」と定義され、生産・支出・分配のどの面からも求めることができます。企業が生み出す商品・サービス(生産)、それを買う消費者(支出)、そして、その企業の雇用つまり所得(分配)、の3つの側面から経済を計測できる、というわけです。そこで、GDP計算の考え方をスポーツ産業に適応したのが国内スポーツ総生産(Gross Domestic Sport Product:以下GDSP)と呼ばれます。
スポーツ産業学研究の記念すべき第1巻で、平田(1991)は「スポーツ産業の規模の推移について」の論文で、スポーツ産業規模を1975年から1989年までの14年間で名目3 . 9 倍、実質2 . 2倍の成長をとげたことを報告しています。「近年のスポーツ産業規模の成長は我が国の経済規模の成長を上回るものであり,特に国民のスポーツニーズの多様化・高級化等を背景として,スポーツサービスのウエイトを高めながら成長を続けてきている.」と述べ、スポーツ産業への期待を表明しています。その後、平田は、家計調査によるスポーツ消費を「スポーツ係数」(スポーツ産業学研究1997,1998,2011)と定義し、エンゲル係数のスポーツ版としての指標を開発します。つまり平田の研究は、消費を重要視しているといえます。また、これまでの研究では、スポーツビジョン21の通商産業省(1990)、早稲田大学スポーツビジネス研究所RISB(2002)、日本政策投資銀行DBJ(2015) 庄子ら(2016)、などの研究があります。
スポーツ産業のサイズをはかる、という時に生産・支出(消費)・所得(雇用)のどの点で計測するか、ということは極めて重要なポイントです。これをプロスポーツで個人、球団、スポンサー企業の3者のモデルで考えると表1のようになります。

例えば、「観戦料」という費目では、個人(= 消費者)にとっては消費になりますが、球団にとっては売上(生産)、になります。これをどちらも計上したら二重になってしまいます。以下同じように、費目と立場によって、売上なのか、消費なのか、所得なのか、が変わってきます。これを区別しないで合計してしまって、〇〇産業の大きさはいくらである、というような方法は、GDP計算の考え方では間違いということになります。
言い換えれば、GDSPは、「生産→賃金→消費=売上=(再)生産」という「流れ=フロー」の大きさのことであり、各面のどこで計測するのかが重要と言えるでしょう。
今回は、スポーツ産業規模の推計において、生産、消費、雇用の区別が重要であることを述べました。次回は、生産・消費・雇用によって計測される「付加価値」について、とくにスポーツ産業の付加価値とは何か、について考えていきたいと思います。

▶平田竹男「スポーツ産業の規模の推移について」スポーツ産業学研究 Vol.1,pp.17-22,1991.
▶平田竹男「スポーツ係数の提唱について-スポーツ係数でみるスポーツ産業の変遷-」スポーツ産業学研究 Vol.7,No.1,pp.1-17, 1997.
▶平田竹男「スポーツ係数でみる世帯主収入五分位階級別スポーツ支出の推移-オリンピック年(68年72年76年80年84年88年92 年)を中心に-」スポーツ産業学研究 Vol.8,No.1,pp.29-37,1998.
▶平田竹男「スポーツ係数でみる1993年以降のスポーツ産業の変遷に関する研究-品目別・年代別・世帯主収入五分位階級別スポーツ支出の推移-」スポーツ産業学研究 Vol.21,No.2,pp.133-139, 2011.
▶通商産業省産業政策局「スポーツビジョン21」スポーツ産業研究会報告書,pp.49-57,1990.
▶早稲田大学スポーツビジネス研究所( R I S B)「スポーツ消費とG D S P」スポーツ白書〜スポーツの新たな価値の発見〜第6 章,pp.127-128,SSF笹川スポーツ財団,2006.
▶日本政策投資銀行地域企画部「2020年を契機とした国内スポーツ産業の発展可能性および企業にするスポーツ支援〜スポーツを通じた国内経済・地域活性化〜」2015.
▶庄子ら(2016)「わが国における国内スポーツ総生産(GDSP)の推計と経年比較」スポーツ産業学研究 Vol.27,No.2,pp.255-268, 2016.

 

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