日本スポーツ産業学会藤沢新理事長あいさつ
藤沢久美
国際社会経済研究所理事長/日本スポーツ産業学会理事長
このたび、2024年7月の理事会において理事長に選任されました藤沢久美です。尾山基・平田竹男両会長、中村好男元運営委員長をはじめ、関係者の皆様方のお力により、本学会はこれまで数々の重要な実績を積み重ねてまいりました。この伝統ある学会のさらなる発展に、両会長のリーダーシップの元、新たに運営委員長に就任されました間野義之先生とビジョンを共有し、微力ながら全力を尽くす所存でございます。
私は、学会は、資金力や権力ではなく、「知の力」によって社会を変革し、新たな産業や社会の創造に寄与するべき存在であると考えます。これまで本学会において注力されてきた「研究者による学術的研究」と「産・官・学の連携の強化」を引き継ぎ、異分野間の橋渡しとなるべく、研究論文の質・量のさらなる向上を目指すとともに、産業界とオープンかつ建設的なコミュニケーションの機会を一層増やしてまいりたいと考えております。
近年のAIをはじめとするデジタル技術の進展は、目覚ましいものがあります。それに伴い、企業のみならず、社会全体に対しても変革が求められております。私は4年前、早稲田大学大学院において、平田会長のもと、トップスポーツマネジメントを学び、スポーツが企業や社会の変革において重要な鍵を握っていることを実感しました。産・学・官の連携をさらに深化させるためには、共通の言語となる研究論文の存在が欠かせません。産業界、学界、政府それぞれが異なる視点や論理で動いているように見えますが、アカデミックなエビデンスこそが、三者をつなぐ力となるのです。
たとえば、スポーツチームのマネジメントの体系化は、ダイバーシティを推進するビジネスにおける組織マネジメントの一助となり得ます。また、選手の身体能力向上に関する研究は、社員のウェルビーイングや高齢社会における身体能力の維持に役立つ可能性があります。さらに、国際的なスポーツ組織や選手の移動、試合のマッチメイクに関する研究は、グローバルサウスへと事業展開を進める日本の産業戦略に貢献するかもしれません。
また、スポーツ界は新たなデジタル技術との融合により、新たな社会の姿を牽引する可能性があります。例えば、web3などの新たなデジタル技術のスポーツへの実装が、既存のファン・マーケティングの世界を変革しつつあります。さらには、デジタル社会が人間の価値の再定義を求める今、スポーツとデジタルの融合によって、人間の存在意義の再定義が促されるとともに、人間の能力拡張が期待されます。世界的なデジタル社会の課題でもある、人のつながりの弱体化が引き起こした「孤独」は、感動の共有やフィジカルな協働によって、解決の糸口が見つかるかもしれません。
スポーツという存在は、あらゆる業界の中立な場所に立つことができます。スポーツ産業学会が、スポーツを柱に、産・官・学の様々な分野の方々が交流し、議論し、スポーツ産業が日本の成長産業になるための原動力となることを祈念しています。
プロフィール(藤沢久美)国内外の投資運用会社勤務を経て、1995年に日本初の投資信託評価会社を起業。同社を売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画、2013年に同社代表。政府各省の審議委員、日本証券業協会の公益理事等の公職の他、しずおかFGなど上場企業の社外取締役等も兼務。2020年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。現在、NECグループの独立シンクタンク国際社会経済研究所、理事長。