sports scene
初詣の名所として知られる、神奈川県川崎市の川崎大師。ここは、近代以降の初詣ブーム発祥の地である。表参道や仲見世通りには、とんとんと軽快な音を鳴らしながら飴を切り売りすることで有名な『とんとこ飴』や『久寿餅』『大師巻』など、参拝客の味覚を楽しませる名物を販売する店が軒を連ねるが、厄除け・開運という川崎大師のご利益を形にした土産物である「だるま」店も目を引く。大小色とりどりのだるまを所狭しと並べた店が参道を華やかに彩るのは、川崎大師ならではの光景だ。
だるまの広まりは江戸時代、疱瘡が流行したことに起因する。当時の日本人の死因として最も多い病気の一つであった恐ろしい感染症を恐れた民衆は、(諸説あるが)疱瘡の神が嫌うとされる赤い色で塗られただるまを疫病除けとして求めるようになった。その後、種痘(ワクチン接種)の普及によって疱瘡は根絶されたが、「悪いことを除け運気を上げる縁起物」としてだるまの人気は今も絶えることはない。
スポーツのシーンでも、だるまに願掛けをするシーンはたびたび目にする。川崎市に本拠地を置くサッカーの川崎フロンターレやバスケットボールの川崎ブレイブサンダースも、毎年川崎大師で必勝祈願を行い、必勝だるまの護摩祈祷を行っている。川崎大師の表参道に店舗を構える昭和21(1946)年創業の『小田切商店』はフロンターレのサポートショップとしてチームを支援。毎年チームカラーのだるまを販売し、サポーターからの人気を集めている。同店によれば、必勝だるまの販売を開始したのは50年以上前。当初は選挙の当選祈願として注文されることが多かったが、近年はプロ・アマ問わずスポーツに関わる人から需要があるという。スポーツだけでなくコンクールに出場する吹奏楽部の関係者が購入することもあるといい、ジャンルを問わずこれから勝負に臨む人々がだるまに思いを託していることがわかる。
2023年、スポーツ界ではラグビーW杯や延期されていた世界水泳選手権をはじめとした、大小さまざまな勝負が繰り広げられる。今年も多くの人が、だるまに願いを託すだろう。願うことの素晴らしさは、それによって自分の身が引き締まること。筆者自身も、自分のために小さなだるまをひとつ購入してみた。大きな勝負事はないが、元旦に決めた今年の抱負の達成を見守ってもらおうと思っている。
▶文・写真│伊勢采萌子