大学eスポーツの最前線 :現場だからこそ話せる「いま」と「未来」(1)
大学eスポーツの最前線 :現場だからこそ話せる「いま」と「未来」(1)
小澤 行央・西田 陽良(一般社団法人 学生e-sports連盟 副代表理事)
Session1 大学eスポーツの現在地
小澤 行央 一般社団法人学生e-sports連盟 副代表理事
学生e-sports連盟副代表理事の小澤と申します。立命館大学在学中に、eスポーツサークルを立ち上げました。その経験からサークル活動を通して顕在化した大学eスポーツならではの課題を解決すべく、他大学のサークルと協力して学生e-sports連盟の立ち上げに至りました。
私の話の流れとしましては、まずは日本のeスポーツの現状を簡単に振り返り、その上で大学eスポーツに取り組む意味と、大学eスポーツの現状に対して学生e-sports連盟がどのような取り組みを行っているのかという順番でお話しさせていただきます。
eスポーツの言葉自体は以前からありましたが、2000年に日本初のeスポーツ企業が創業したことが最初の1歩となります。2009年には日本eスポーツ学会が設立。2011年には日本初のeスポーツ施設が誕生しました。特に、日本でeスポーツの動きが激しくなってきたのは2018年。「eスポーツ元年」と呼ばれております。
この年は、日本eスポーツ連合JeSUが発足されたり、吉本興業がeスポーツへの進出を発表したり、CyberZがプロリーグを開催されたり、Jリーグが明治安田生命e Jリーグを開くと発表されたりしました。
2019年には茨城国体の文化プログラムの一環として、全国都道府県対抗eスポーツ選手権が開催。2021年にはNTTドコモ社主催でPUBG MOBILEというスマホゲームで賞金総額3億円の大会が開催されるという流れがあります。
eスポーツ元年からの活発的な動きと共に、日本のeスポーツ市場も拡大してきております。さらに2020年、2021年はコロナの影響もあり、大幅に市場規模が拡大しており、2024年には約180億円の規模になると言われております。
そのeスポーツ元年以降の市場拡大に向けて、どういう動き、どういう取り組みが日本でされていたのかを、大きく2点まとめると、「プロプレイヤーの環境整備」と、「社会性の確立」の2つが挙げられます。
1.プロプレイヤーの環境整備
まずはプレイヤーの環境整備は、こちらも大きく分けて2つあり
1)単発のイベントとしての大会からリーグ戦への移行の動き
2)法人格を持ったチームの増加
という2つの特徴があります。
eスポーツ元年以前は、そのゲームの1つのコンテンツとして大会が開催されていましたが、eスポーツ元年を機に、eスポーツとしての競技性を重視したリーグ戦が開催されるようになりました。それによりプロプレイヤーのモチベーションの維持や、ファン層の獲得という狙いがされております。
特にNTTドコモ社主催の大会を例に挙げると、2021年にPUBG MOBILE JAPAN LEAGUEというスマホゲームのプロ日本リーグが開催されました。この大会は賞金総額3億円で、2021年12月時点で日本過去最高金額の賞金大会となりました。この大会は、その賞金の総額だけではなく、レギュレーションがかなり特徴的です。参加条件として、チームが法人格を所有していることや、チームオーナーが選手に年間350万円以上の給与を支払うという条件が挙げられています。このような動きもありプロチームが年々増加しております。
プロチームの誕生前は、選手が個人でマネジメントや、スポンサー営業も行っていましたが、法人として取り組むことで、選手が練習に専念できる環境が整えられました。これまでのプロゲーマーの収入としては賞金や、ストリーミング等の収益という不安定なものしかなかったのですが、それに加えて給与が加わったことで、プロゲーマーとして生活が保障されるようになったという動きがあり、まずはプロプレイヤーの環境整備が取り組まれてきました。
2.社会性の確立
第二の社会性の確立に関しまして、3つの取り組みが大きく挙げられます。
1.高校生のeスポーツ大会
2.スポーツとしてのeスポーツ
3.自治体の取り組み
です。
高校生のeスポーツ大会としては、毎日新聞と全国高等学校eスポーツ連盟が共同主催である「全国eスポーツ高校選手権」と、電通とテレビ東京が主催する「STAGE:0」の2つの大きな大会が開催されています。
これらの大会がプロリーグと異なる点は、親や学校からの理解というところに力を入れている点にあります。「eスポーツ=ゲーム」と直結してしまうために、ゲームは教育によくない、社会性がなくなってしまうのではないか、子供がゲームばかりして将来が不安という親御さんの気持ち、ゲームは遊びじゃないかという考えなど、ネガティブなイメージが根強く存在している中で、それらを払拭するために、ガイドラインを作成し、学校からの理解を得るという活動をしています。また、オフラインで大会を開催し、親世代が子供の取り組んでいるeスポーツそのものに対して関わるきっかけを作ることで、親からの理解を得る工夫がなされております。これらを整えることで、将来有望なプレイヤーに対して活動しやすい環境づくりとなっております。
2つ目のスポーツとしてのeスポーツでは、2019年の「いきいき茨城ゆめ国体」にて全国都道府県対抗eスポーツ選手権が開催されました。経緯としては、性別であったり、年齢であったり、障害などでハンディキャップが無いという特徴が大きく、採用されるきっかけになりました。2020年には鹿児島、2021年には三重で引き続き継続して開催されました。
3つ目の自治体の取り組みですが、京都府、富山県、北海道の3つの例をご紹介します。
京都府の事例は「産学公を掲げ地域の活性化を目指す」とし、産に関しては「eスポーツをきっかけとした人材の活躍のフィールドを提供」。学に関しては「京都府出身の優秀な人材に、eスポーツをはじめとするゲーム関連業界に興味や関心を持ってもらう」。公に関しては、「eスポーツをきっかけにゲーム関連業界を活発化させ、京都府全体を活気づけること」。そして産学公それぞれの連携を強化して、地域地方創生が目指されております。
富山県では「親子や若者をメインにイベントを多数開催」しています。2019年9月28~29日に高岡テクノドームでeスポーツイベントが開催されました。VRを利用した5G体験ができ、親子連れや若者にも人気の高いイベントとなりました。
北海道の事例は「中心市街地を若者が集う活気ある街に」ということで、北海道旭川市では2020年に向けてeスポーツの拠点施設が整備され、札幌・すすきのでも、eスポーツに特化した施設が多く作られています。この意図としては、小中高生子供向けに楽しんでもらう施設、中心街を中高生・若者が集う街にということに加え、小学校でのプログラミング教育が義務化される中で、学校以外(教育の外)でもeスポーツを通してICTに親しんでもらうということも目的の1つとして採用されております。
-大学eスポーツに取り組む意味
日本のeスポーツそのものが発展して行くにはどうすればいいのかを考えた時に、スポーツの発展にヒントを得ました。昔はそもそも遊戯として親しまれていたものが発展し、地方の大会が各地で開催されていました。地方によってローカルルールがあり、それらを統一するために組織が作られ、さらに競技性を増して学生リーグ、さらに発展して、プロリーグという流れで、日本のスポーツが発展しているということが分かりました。
これをそのままeスポーツに置き換えて考えると、eスポーツ元年以前より遊戯として存在していて、地方大会も単発のイベントとして開催されていました。eスポーツ元年(2018年)には日本eスポーツ連合が発足し、さまざまなタイトルでプロリーグが開催され、今年(2021年)には賞金総額3億円規模の大会が開催されました。
しかし、eスポーツの発展を他のスポーツの発展と比較すると、学生リーグの発展という部分を飛ばしていることに気づきました。これが要因でeスポーツそのものが広く普及していないのではないかという結論に至りました。だからこそ、今の日本で、日本のeスポーツの発展のために、学生eスポーツに取り組む必要性があると考えております。
学生eスポーツへの取り組み内容としては、eスポーツ元年以降と同様に、プレイヤーの環境整備と社会性の確立の2つに取り組む必要があると考えており、学生eスポーツの分野でこれらに取り組むのが学生e-sports連盟となっております。
-学生e-sports連盟の取り組み
学生e-sports連盟は、一般社団法人として活動しております。設立が2019年の7月3日で、今現在3年目を迎えている組織です。代表理事、副代表理事をはじめ、学生理事として京都大学、同志社大学、東京大学、青山学院大学など関東関西含め20名程度の学生たちが活躍しています。さらに全国から100大学850名の学生会員と協賛会員から構成されており、協賛会員も順次増えている状況です。
学生e-sports連盟のビジョンとしては、「当事者意識《心》と行動《技》が一体となった若者で溢れる社会を目指し、日本の産業の発展に寄与する」、というものを掲げています。
このビジョン達成のためのミッションとして、「大学eスポーツの文化創りを通して人を創る」というものを掲げています。大学eスポーツの文化を創っていく取り組みとして3つ掲げております。
1.環境整備として、大学対抗eスポーツリーグの開催
2.社会性の確立として、eスポーツを通した人材育成とスキル開発
3.ゲーム依存に対する医療モデルおよびゲームを通した社会復帰
この3つです。
まず、「1. 環境整備である大学対抗eスポーツリーグの開催」について、eスポーツに取り組んでいる学生を取り巻く環境を説明します。現在ほとんどすべての学生が、eスポーツサークルとして活動しており、eスポーツサークルの仲間が自然と集まる一方で、この大学のサークルシステムそのものがスポーツに取り組む学生の活動の難しさの一因となっている現状があります。大学において、すべてのサークル活動は、1番下の非登録団体というところからスタートします。
そこから3年ほどかけて団体として実績を積んで部員数も増えていくことで、登録団体やその上の公認団体となります。さらにその中でも特に実績を残すクラブが重点強化クラブとなり、学校の予算の使用や特待生の確保が可能となります。大学により制度の違いはありますが、大きくこのような制度が取られております。
今現在存在しているeスポーツサークルのほとんどが非登録団体になっております。非登録団体は、その学校の中に部室もなく、新入生歓迎の際も募集のビラを配ることができません。メンバーと活動場所を確保して活動を続けていくことが困難であり、組織そのものの継続が不可能な状況です。そのため、2019年以前の大学eスポーツサークルは、まずは友達同士でサークルを立ち上げるところから始まりますが、サークルとして取り組む目標目的がないため、仲間同士でゲームをするだけになってしまい、立ち上げたメンバーの中でもモチベーションが低下してしまう。そのようなサークルには下級生が魅力に感じてもらえずに、メンバー集めに失敗して、立ち上げメンバーの卒業と同時に廃止され、その後にまた違う人がサークルを立ち上げて、内輪でゲームしてモチベーション低下してメンバー集め失敗して潰れるっていう悪循環を繰り返しておりました。
私自身、2019年に立命館大学在学中にサークルを立ち上げた際にツイッターで調査した時も、最終更新が2016年の夏ごろというようなサークルが多く存在しておりました。つまり、大学生としてeスポーツをプレイする環境を整えるには、サークルが登録団体や公認団体になる必要があると考えています。そのために必要なことがサークル活動として取り組むモチベーション、さらには新入生が入り、サークル活動として継続して行く仕組みであり、これらを生み出すために大学対抗戦の開催に取り組んでおります。
当連盟が開催する大学対抗戦の紹介ですが、現在はPUBG MOBILEというスマホゲームとAPEX LEGENDSというパソコンのゲーム、League of Legendsというパソコンのゲームの3タイトルで開催しております。
1つのタイトルにつき年4回開催しており、現在は3タイトルで開催しているので、年12回の大会を開催しています。年間通してリーグ戦という形で開催し、選手・サークルのモチベーションの維持、ファン層の獲得の工夫をしています。
PUBG MOBILE の大学対抗戦は、1年目は17チームで、2年目では27チーム、3年目では37チームと年々参加チームが増加しています。1年目では、PUBG MOBILE 本社とタイアップしての大会であったために、広く広報が可能で、視聴回数が4.5万回となりました。2年目以降は、大会に参加するためにサークルを作るという動きが見られ、それが参加チームの増加に繋がったのではないかと考えております。また、1年目に出場したチームも現在継続して出場しているので、大会そのものが新入生がサークルに入るきっかけなっているのではないかと考えております。
大学対抗戦がもたらす効果として、1つ目に大学対抗戦に出るためにサークルを立ち上げ、大学対抗戦そのものがサークル活動のモチベーションとなるので、仲間同士の内輪のゲームからサークルとしてのゲーム、eスポーツという方向性に持って行くことが可能となっております。さらに、大学対抗戦に参加して好成績を残すことはサークルの実績となるので、公認サークルになりやすくなり、開けたサークル活動となるので、新入生の目に触れる機会が増える効果があります。それらが相まって、現在では学生会員出場チームは、北海道から九州まで全国から学生が出場しております。
会員数に関しましては、2020年の春から増え続け、2021年12月現在では100大学850人に至ります。特に関西・関東・中部のエリアに関しては参加している大学数が多く、その地域の大学生に比例した数となっております。このコミュニティの中で特徴的なのが文理の内訳で、850人のうち理系が63%を占めるという特徴があります。学年に関しましても、2年生、3年生で60%を占めている若いコミュニティとなっています。
2.社会性の確立として、eスポーツを通した人材育成とスキル開発
eスポーツを通した人材育成・スキル開発ですが、学生e-sports連盟の運営そのものを学生主体で行っております。広報・企画・営業・事務局・会計など全て学生主体で行い、その学生自身のスキルアップに繋げております。今後、日本でeスポーツが発展して行く中で欠かせないeスポーツ人材、eスポーツに精通した人材を育成するためにも、学生自身のスキルアップのために学生主体で運営を行っています。
.ゲーム依存に対する医療モデルおよびゲームを通した社会復帰
ゲーム依存に対する医療モデルの研究とゲームを通した社会復帰の2つの研究を進めています。少し前のニュースですが、WHOがゲーム依存を病気と認定したこともあり、eスポーツを学生に普及するだけではなく、それに対してどう柔軟に対応して行くのか、学生がeスポーツに取り組むこと自体の社会性を確立させていくためにも研究に取り組んでおります。ゲーム依存に対する医療モデルの研究は、京都大学精神医学の村井教授の協力のもと、例えば「どのようにすればゲーム依存にならないのか、ゲーム依存になればどのように抜け出せるのか、さらにそのゲーム依存を利用して超集中状態(ゾーン)状態に効率よく入るにはどうすればいいのか」という方向性で、医療面での研究を進めております。
またeスポーツゲームを通した社会復帰に対する社会モデルの研究も進めています。京都の美山高校にてeスポーツプログラミング講座を2020年度より実施しています。京都美山高校は通信制の高校で、現場の先生いわく、少しコミュニケーションに難のある生徒であったり、少し過去に人間関係でトラブルを抱えているような生徒が多いため、eスポーツを通してコミュニケーション能力を培ったり、さらには自ら学ぶ力、ものの考え方、論理的思考力を培うことが目的となっております。ここで得た知見をもとにeスポーツを通した社会復帰の研究を実施する予定となっております。
-連盟設立後の日本の大学eスポーツの現状
学生e-sports連盟設立後の日本の大学eスポーツについて、連盟の活動により得られた効果として、まずは大きく母数の増加があります。
2019年11月最初のPUBG MOBILE 大会は20大学弱であったのに対し、1年後の2020年11月には約50大学、さらにその1年後、2021年11月には100大学と、1年で約2倍のペースで母数が増加しています。
また大学交流戦開催団体という、横のつながりを強固にするような団体を大学対抗戦に出ていた選手が立ち上げています。例えばPUBG MOBILEは年に4回開催しているので、その1回目と2回目の間に大学交流戦が行われ、横の繋がりが生まれております。また、大学対抗戦はすべて配信しており、配信出演者の主催大会に参加する学生も多く、そこで縦の繋がりも生まれております。母数・全体を広げながら、縦のつながり、横のつながり、すべて強固にして行く取り組みができています。
1年に約2倍のペースでサークル数が増えているので、遅くとも2024年には、日本に存在する788大学のうちのほとんどの大学にeスポーツサークルが存在するという状況を実現できると考えております。大学eスポーツの文化形成する上でのスタートラインと考えております。
2点目が大学対抗戦を経験した世代が社会で活躍することで、企業側のeスポーツへの取り組みがさらに加速すると考えています。
3点目に、eスポーツに取り組むということの社会的価値そのものが向上することで、eスポーツが就職の1つの手段になるのではないかと考えています。そのためにもより一層大学eスポーツの文化づくりを通して人を創る。この点に強く取り組む必要があると考えています。
※本稿は、2021年12月14日(火)に開催されたスポーツ産業アカデミー(ウエビナー)の講演内容(質疑応答)をまとめたものである。
大学eスポーツの最前線 :現場だからこそ話せる「いま」と「未来」(2)
https://sportsbusiness.online/2022/03/01/se-sf-2/
大学eスポーツの最前線 :現場だからこそ話せる「いま」と「未来」(3)
https://sportsbusiness.online/2022/03/01/se-sf-3/