スポーツ産業学研究第31巻第2号

【原著論文】


「スポーツ用品市場の拡大に伴うスポーツメーカーとSPAの現状比較-2015年から2019年の分析-」
齋藤 れい(桐蔭横浜大学スポーツ健康政策学部)
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「ラッシュガードの着用が中学生の水泳授業に対する好感度に及ぼす影響-水着着用に関わる生徒の心理的問題に注目した検討-」
上野 耕平(香川大学教育学部)
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「中学校運動部活動の活動指針に対する保護者の態度に影響する要因 : 質的分析を用いた検討」
古川 拓也(大阪成蹊大学経営学部) 他1名共著
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「大学時代に体育会系であった勤労者は精神的に優れているか?
-東京都に位置する総合私立大学の卒業生を対象として-」
荒井 弘和(法政大学文学部) 他4名共著
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「大学サッカー競技を対象とした競技成績と学生のライフスキルの関係について-縦断調査からの検討-」
亀谷 涼(大阪体育大学大学院スポーツ科学研究科) 他3名共著
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【研究ノート】


「大学生の新型コロナウイルス感染症に対する関心についての予備的考察」
江原 謙介(追手門学院大学教育開発センター) 他5名共著
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「韓国におけるeスポーツの発展過程と現状」
朴 明姫(北海商科大学) 他3名共著
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「学齢期のスポーツ観戦および実施経験時期による成人期以降の直接観戦行動との相関関係の比較」
菅原 尚子((一社) 日本バレーボールリーグ機構) 他1名共著
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【レイ・サマリー】


近年のスポーツブランド市場の拡大と台頭するSPAの現状比較
齋藤れい

ここ数年、スポーツ用品・スポーツブランド関連の製品やサービスは世界中に市場を拡大しています。スポーツウェアやトレーニングウェアを日常生活の中で着用する「アスレジャー」というスタイルが世界的なブームとなっていることも、要因の一つであるといえるでしょう。スポーツ用品・スポーツブランド関連市場に関わるプレーヤーは大きく分けると三つあります。一つ目は、NikeやAdidasに代表される世界的なスポーツブランドです。 二つ目は、近年成長著しいINDITEXやH&M、ファーストリテイリングに代表される「ファストファッション」を展開するSPA(製造小売業)とよばれる新業態です。三つ目は、日本国内のスポーツ用品メーカーです。本稿では、スポーツ用品・スポーツブランドに関連する企業を横断的に比較したデータが限られていると考え、関連する代表的な企業の経営状況の最新データの比較検討を行いました。
その結果、年間売上高4.4兆円企業のNIKEを筆頭に、INDITEX(3.6兆円), H&M(3.0兆円), ADIDAS(3.0兆円), ファーストリテイリング(2.3兆円)の5社が他社を圧倒していることがわかりました。これらアスレジャーに関連するメガ企業といえる5社に共通するのは、スポーツ用品・スポーツブランドまたはアパレルブランドとしての基盤を持ち、それぞれがアスレジャーを意識した製品展開も行っていることと、グローバルな協力生産拠点と販売網を持っていることです。日本の国内スポーツ用品ブランドは、堅実な経営を国内市場中心に行っているものの、海外売上高比率を上げていくことによって成長している世界的スポーツブランドやSPAと比較すると厳しい状況といわざるをえません。
元来日本企業は電化製品のみならずスポーツ用品においても世界を魅了する商品を世に送り出してきました。 国内スポーツ用品メーカーは、国内でも無難にビジネスとして成り立っていますが、NIKEもADIDASも自国だけでなく世界のスポーツブランドとして新興国やアスレジャーの需要を取り込んで成長を続けています。更なる成長を目指すためには、世界に進出して各地域の需要やトレンドに即した展開を行っていく必要があります。国内でも、自社の強みを活かした製品開発を行うと同時に、アスレジャー需要を取り込んで既存の世代のみならず新しい世代に支持されることと、ブランド力をつけて海外からのインバウンドに応える価値あるサービスの提供をしていく必要が求められているといえるでしょう。


ラッシュガードの着用が中学生の水泳授業に対する好感度に及ぼす影響
─水着着用に関わる生徒の心理的問題に注目した検討─
上野耕平

水泳は男女共に70%を越える児童が「楽しかった」と回答する唯一の種目であるにも関わらず,思春期を迎え他者からの視線や自らの身体が気になる中学生では,好感度が低下する状況が認められた。そこで本研究では,肌の保護を目的として開発された水着である「ラッシュガード」に着目し,その着用の可否が分かれる2つの中学校に通う生徒を対象として水泳授業に対する好感度及び,水着の着用に関わる心理的問題(体型,他者からの視線,日焼け,体毛に対する不安)等について調査を行った。その結果,「ラッシュガードの着用は日焼けに対する不安を低減することにより,中学生の水泳授業に対する好感度を高める」と考えられる結果が得られた。その他,男子生徒では日焼け及び体毛,女子生徒では日焼けに対する不安が高いほどラッシュガードの着用希望が高くなる,さらには,ラッシュガードを着用しても他者からの視線に対する不安を低減することは難しいことを示す結果が得られた。水泳の授業時に,ラッシュガードの着用が認められていない学校は未だ少なくない。ラッシュガードの着用は水泳授業に対する好感度を高め,授業への積極的な参加を促進することにより,生涯にわたって水泳に親しむ児童や生徒を育成する上でその役割を果たすと考えられた。また本研究は,水泳授業用のラッシュガードを開発する際に留意すべき心理的側面を明らかにした研究としても意義を持つと考えられた。


大学時代に体育会系であった勤労者は精神的に優れているか?―東京都に位置する総合私立大学の卒業生を対象として―
荒井弘和

「体育会系だった勤労者は精神的に優れている」
これは,わが国において,100年にわたって根づく通説です.はたして神話か? 実話か?
大学で運動部に所属する学生のことを「体育会系」と呼びます.一般的に,体育会系は,精神的な優位性を持っていると考えられています.しかし,体育会系が卒業して社会に出た後も,精神的な優位性を持ち続けていると裏づける定量的なデータは見当たりません.
そこで本研究では,大学在学中に体育会に所属していた体育会系の卒業生と,体育会に所属していなかった非体育会系の卒業生を対象として,両者の精神的要素を比較しました.本研究の対象者は,東京都にある四年制の私立大学を卒業して10年以内の若手卒業生477名 (体育会系246名,非体育会系231名) でした.
分析の結果,体育会系卒業生の方が,非体育会系卒業生よりも,現在の主観的幸福度とワーク・エンゲイジメント (仕事に関連するポジティブで充実した心理状態) は高く,現在の心理的ストレスは低いことがわかりました.よって,非体育会系卒業生よりも,体育会系卒業生の方が,卒業後の精神的要素は好ましいことが明らかとなりました.
体育会系として,フォーマルな雰囲気を持った運動部に所属して,運動・スポーツ活動を中心とした心理社会的活動を経験したことによる精神的優位性を確認できたことには,大きな価値があると考えています.


 

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