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2022年度日本スポーツ産業学会・奨励賞受賞論文 日本における国際的なスポーツ人材育成のための 海外短期研修の開発に関する事例的研究 ──3大学の事例を比較して

2022年度日本スポーツ産業学会・奨励賞受賞論文
日本における国際的なスポーツ人材育成のための海外短期研修の開発に関する事例的研究
──3大学の事例を比較して

塚本拓也│帝京大学 経済学部 経営学科 准教授
大山 高│帝京大学 経済学部 経営学科 准教授
松尾博一│筑波大学 体育系 助教

この度は、2022年度日本スポーツ産業学会奨励賞を授与して頂き、誠にありがとうございます。この論文が多くの方に読まれ、各大学で開発される海外短期研修の設計の一助となれば幸いです。以下に受賞対象となった論文の内容を簡単に解説します。

まず本研究では、国内のスポーツ分野における複数大学(仙台大学、筑波大学、帝京大学)の海外短期研修の開発事例を分析し、その開発を事例的に明らかにすることで、今後の日本の国際スポーツ人材育成における海外短期研修の在り方を検討することを目的としております。そのため、各大学における海外短期研修の開発に中心的に関わった大学教員及び職員を対象にインタビューを行いました。

その結果、スポーツ分野における海外短期研修の開発の現状として、「海外短期研修の単位化」と「海外短期研修に参加する学生の金銭的負担への軽減の仕組み」に対する考え方が3大学とも共通していることが明らかとなりました。まず、「海外短期研修の単位化」について、海外短期研修を効果的に活用するためには、開発された研修が学部カリキュラムにしっかりと位置付けられた一貫性のある科目として、事前・研修中・事後と継続した研修内容を構築し、教員が期間を通して学生に対する効果的な教育的介入をする必要があると示唆されました。また、「学生の金銭的負担を減らす仕組みづくり」について、大学が主催する海外短期研修では、収益を生むのが目的ではなく学生の教育が目的であるため、なるべく多くの学生に機会を与えたい大学側の思惑があることも示唆されました。

さらに、スポーツ分野における海外短期研修の開発に必要な経営資源の考え方には、共通点と相違点があることが明らかになっております。まず、経営資源における「ヒト」の内部資源は、大学経営幹部、教員、事務職員であり、外部資源に研修先の大学関係者、旅行代理店、エージェントとなり、「モノ」の内部資源は特になく、「モノ」の外部資源は研修先の施設と3大学とも共通の認識があることが明らかとなりました。他方、3大学とも「カネ」における外部資源の調達方法が異なり、各大学の経営事情に合わせた柔軟な対応をしていることが示唆されました。また、「情報」について、筑波大学と帝京大学が海外短期研修の情報が内部資源として体系化できていないという課題を抱えているのに対して、仙台大学は研修先大学と基本合意者を締結し、その過程で研修先に本学の教員を配置するなどの長期的な視点から体制強化を図れている違いがありました。
一方で、スポーツ分野における海外短期研修の今後の在り方について、仙台大学と帝京大学の研修タイプは中塚・小田切(2016)が示す「価値発見型」と認識され、筑波大学の研修タイプは「交流型」と認識されていることが明らかとなりました。その上で、3大学とも中塚・小田切(2016)が示す「課題解決型」や「知識共有型」への研修タイプに進化させたいという思いがみられました。研修タイプを「課題解決型」や「知識共有型」に進化させるには、学生を主体と捉えつつ大学教員が積極的に関与する開発の仕組みを考慮した上で、研修内容を研修先による講義及び研修先の視察など一方的な形にするのではなく、研修の依頼側からも研修を通して新しい卒業研究及び共同研究プロジェクトの創出を行うなど双方向に共有できる関係構築を行う必要性が示唆されました。

そのために、研修タイプを向上させるのに必要な経営資源は、「ヒト」の内部資源であり、井上(2020)が示す研修のコーディネーターの配置が必要であると考えられました。求められるコーディネーターは、申請などの事務処理を主な業務とする事務職員ではなく、筑波大学のSAのような適切な研修を準備及び運営できるマネジメントスキルのあるコーディネーターを大学の内部の資源として採用する必要があり、海外大学、スポーツ、旅行代理店、そしてエージェントなどの外部機関と学内の教員、事務職員、学生と日常的なコミュニケーション促進する機能を果すなど、運営面での貢献が期待できれば、教員や学生はより連携先との「研究成果」の部分に集中できると考えられます。

この論文では、日本のスポーツマネジメント教育の課題を解決する一つの方法として「外部機関との連携した授業づくりの検討が必要」という課題意識から出発しております。これまでの先行研究では、海外留学及び海外短期研修の開発過程や開発に際する課題が十分に検討されておらず、たとえ成功した事例があったとしてもその知見が共有されないままになっていました。そのため、事例的ではありますが、日本における国際的なスポーツ人材育成のための海外短期研修の開発に着目し、研究成果を公表することにしました。今後本研究から得られた知見を関係者に共有することで、ますます充実した海外短期研修が開発され、多くの学生が高等教育機関を通して、貴重な体験を積み重ね、社会で活躍していくことを期待します。

 

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