スポーツ産業を測る スポーツサテライトアカウント2019
スポーツ産業を測る
スポーツサテライトアカウント2019
庄子博人│同志社大学スポーツ健康科学部准教授
スポーツサテライトアカウント(SSA)は、スポーツ産業の経済規模を計測する勘定体系として2017年から毎年作成され、最新のSSA2019で4回目の作成となります。本稿では、まず前半でSSA作成の課題を検討し、後半では最新のSSA2019の紹介をしたいと思います。 今回取り上げるSSA作成の課題は、タイムラグの問題です。SSAは、各種統計データを加工した2次統計であるため(一部分、自前の調査も含みます)、推計対象年とデータ入手可能時期にタイムラグが生じてしまい、表1に整理したように、作成年、推計対象年、そして作業時間もかかることから公表年にもズレがあります。
とくに基盤データとして利用しているSNA産業連関表などのGDP統計の最新版がおよそ2年前になることに大きく制約されています。GDPの値は、直近の四半期毎の速報値を報道されることが多いと思いますが、あのGDP速報値は、一部統計のみを刷新した暫定の値であり、確報値は後年に修正され公表されています。したがって、スポーツGDPを推計できるのは、今のところ、およそ2年間データを待つ必要があります。現在、2021年は、SSA2020を公表できるように日本政策投資銀行を主体として準備が進められていますが、SSA2020で推計対象としているのは2年前の2018年です。新型コロナウイルス感染症の影響など、急激な社会変化に対応するために、GDPが速報値を公表しているように、より直近のスポーツGDPを把握する必要もあるのかもしれません。
次に、2020年に公表されたスポーツサテライトアカウント2019(SSA2019)を紹介したいと思います。SSA2019は、スポーツ庁委託事業として、2019年に株式会社日本経済研究所によって推計作業された2017年を推計対象年としたスポーツGDPの値です。
表2にSSA2019による2017年推計と、比較としてSSA 2018による2016年推計を併記しました。その結果、スポーツGDPは2017年には総額で約8.4兆円、GDPに占める割合は1.55%となりました。部門別で見るとスポーツ部門が約5.7兆円、流通部門が約1.2兆円、投入部門が約1.5兆円となりました。2016年との比較で見ると、対前年成長率は、スポーツGDP総額で11.0%のプラス成長であり、GDPに占める割合は、0.12ポイントの増加となりました。このプラス成長に対して、最も貢献している部門は投入部門の21.7%のプラス成長率です。投入部門とは、スポーツ生産を生み出すために貢献している部門であり、例えば、自転車の生産であれば、アルミやタイヤ(ゴム)や卸・輸送などの自転車を作るために必要な産業になります。スポーツ産業における投入部門の成長の理由は、スポーツ産業の成長期待によってBtoB取引が活性化した可能性や、もしくは、材料や資源の高騰が可能性として考えられます。また、絶対額よりも重要なことは、GDPに占める割合が0.12ポイントのプラス成長があったことだと考えられます。欧州諸国におけるスポーツGDPと比較すると、スポーツ産業の先進国である英国、ドイツ、オーストリアは、スポーツGDPのGDPに占める割合は2%以上であり、日本もこれらの国に近づきつつあると言えるでしょう。
今後、SSA2020、SSA2021では2018年、2019年を推計対象としたスポーツGDPが公表されると思います。2019年まではGDP成長もあることから順調に増加していくことが予想されますが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた2020年以降、どのようにスポーツ産業が変化していくのか、エビデンスに基づいて推計されたスポーツGDPの数値を元に議論する必要があるでしょう。
▶スポーツ庁委託事業成果物・日本経済研究所,わが国スポーツ産業の経済規模推計〜日本版スポーツサテライトアカウント2019〜2017年推計,2020.