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日本スポーツ産業学会冬季学術集会シンポジウム2017 2020を超えてスポーツ産業拡大をいかに実現していくか その2│ディスカッション

日本スポーツ産業学会 冬季学術集会シンポジウム2017
2020を超えてスポーツ産業拡大をいかに実現していくか
その2│ディスカッション
間野義之│早稲田大学教授
金森喜久男│追手門学院大学教授
土方政雄│株式会社アシックスシニアアドバイザー 2020東京オリンピック・パラリンピック室渉外担当
司会 水野利昭│大阪成蹊大学教授

水野 いままでのスポーツ施設は公共でつくって民間が使う、一般の方がそこで競技するという視点が中心でしたが、スポーツの投資という視点が必要だという話がありました。そういったものを民間でいかに広めていくか。掛け声だけではなかなかうまくはいかないとは思いますが、政府あるいは各省庁からそういったことを積極的に展開していくかというような動きはありますか。
間野 まずスタジアム・アリーナから言いますと、これまでは公共投資という考え方が当然だと思われてきましたが、P FI法という法律ができて民間事業者でも投資できるような環境が整ってきています。一方で都市公園法という法律があっていろいろな制約があり過ぎて、民間の投資対象にはならないというふうに思われがちなのですが、都市公園法があっても実は様々な事業ができることがわかってきています。
むしろ今は自治体の条例による規制が厳しいのです。例えば公園の中で花火をやるのは火事になるから禁止だとか、スタジアムの中でも火は使えないとか、安全サイドに自治体の側が規制しているのです。これをどんどん撤廃して、いまの条例さえ変えればもっとできるのだということを知ってもらうために新たなガイドラインをつくろうとしています。民間が投資したくても投資できるような条件がいままでは整っていなかった。そういった規制とか、ある意味で既得権に近い話もある。例えば、金森さんが阪神タイガースの株主になりたいと思ってもなれません。それは親会社がある意味で独占的に株式を保有していて、戦後の企業スポーツの延長でプロ野球が存在していたりする。
昭和29年の国税庁通達というのがあって、球団が出した赤字は親会社が損失補てんしてよくて、それを損金算入できる。要は節税対策になっていた。親会社にとっては損をだしても困らないという意味で便利なのですが、もっとみんなが投資して、球団の株式を持って例えばスタジアムを変えていくとか、メジャーリーグの選手を取っていくとか、そういうことが今はできない状況にある。
逆に言うと、そういうことをやればもっと急激に成長できる可能性があるわけです。プレミアリーグとJリーグは、20年前には市場規模はほぼ同じだったのですが、日本のJ リーグは株式上場が禁止されていて外国人の持ち株比率も制限されているわけですが、イギリスにはそんなことはなくて、アラブ人でもロシア人でもお金を出してくれれば誰でもOK。イギリス人でなくても、世界のトッププレイヤーが来てくれれば誰でもいいということになって投資が促進された。そういう違いがあるのではないかと僕は思っています。水野 金森さんのおっしゃっていた顧客視点での投資については如何でしょうか。
金森 吹田スタジアムは民間の寄付で145億円集まりました。なぜ集まったかというと、完成したスタジアムを公共団体に寄付するというところがミソなのです。そうすると、各企業からいただく寄付がふるさと納税扱いになって損金算入できる。企業が寄付しやすくなったということで700社以上の企業から寄付をいただいて、それが全部で98億円くらい。それが核になって、スポーツ振興財団さんからの30億でほとんど賄えるという形になりました。ですから、自治体の現在の条例、法律との関連の中でいろいろな仕組みが考えられるということがまず1点。
2点目に、ガンバ大阪の今期を見ると入場料収入が旧スタジアムと比べると3~4倍になっています。入場料と合わせて、スタジアムが良くなるとスポンサー料も高くしていただける。入場者が増えるとグッズもたくさん売れるということで総収入が非常に伸びている。そうしたら、よい選手をとるためにどうしたら良いかとか、お客様サービスをどのようにやっていくかということができるようになるのです。
先ほども申し上げましたが、我々メーカーは何か新しい製品をつくろうとすると、100億200億の投資をして新しい工場をつくって機械を導入する。新しい価値をつくるためには、投資をしなければ返ってこないという考え方をしっかりとスポーツ産業界も学んでいきたい。それを共有化したいというのが現在の私の気持ちです。
水野 そういったスポーツ投資の一方で、競技者が少なくなっているという現状があり、メーカー側にとっての純競技市場は小さくなっている。その一方で、例えばランニングは盛んで個人で参加したいという人は増えている。競技の用具はどちらかというとライフスタイルにシフトしつつあって、そのイメージでブランドのオニツカタイガーも売れたり、よい影響があるのではないかと私は考えているのですが、その中でアシックスブランドのカジュアル展開に良い影響があるということは考えられますか。土方 一つの契機になったのは確かにオニツカタイガーの発表で、ヨーロッパを中心に爆発的に売れたりしましたが、東京マラソンが11年前に始まったことも大きな転機です。誰でもマラソンを走れるんだということが世の中に浸透した。それまでは専門家が走るものだという感じだったのですが、東京マラソンで一つのムーブメントができて、私たちもその中から、もしかしたらランニングというのはアスレティックというカテゴリーではなくて、ライフスタイルの一環だろうという感じでいろいろなモノづくりをしてきました。10年以上前に現場に行ったときには、後ろ姿が素敵な女性は必ずナイキかアディダスの靴を履いていたのですが、最近は後ろ姿も前から見ても素敵な人の半分以上がアシックスの靴を履いてくれるようになっています。
それはたぶん製品のセンスが良いとか悪いとかではなくて、自分の生活の中でランニングとは何なのかということをランナーの方々が本質的に考えたときに、用具の選び方などもずいぶん変わってきたのではないかという気がしています。そういう意味では、いまのランニングブームが私たちのブランドイメージを変えてきているという気がします。 金森 僕は10年前イギリスに住んでいたのですが、そのころは本当に素敵な女性たちはみんなオニツカタイガーを履き始めていて、日本のブランドイメージとはまったく違うなというふうに思ったのです。アシックスさんのすごいところはスポーツ工学研究所というR&Dの研究所を持っていて、素材から全部つくっていて、デザインだけじゃなくて機能が良い。
水野 イギリスにしてもアメリカにしても、例えばランニングでしたら専門のランニングショップがあるのですが、日本ではあまり見かけ無い。ブランドとしてアシックスもミズノもランニングショップを展開していますが、街中のコミュニティの中心となるようなお店は日本には少ないと感じます。例えば、アメリカやヨーロッパでは地域のお店単位でのランニング大会をよく見かけますが、日本では大型の大会に集約している。東京マラソン、大阪マラソンも大切ですが、もう少し地道なローカルなマラソン、お店が中心にやっていくようなコミュニティをベースにした大会がもう少しあっても良いのではないかと感じます。
会場からの質疑応答
会場 金森さんに一つご相談ですが、これからはプロチームが地域のスポーツコミュニティの主体になっていただけるのではないかと期待しております。これまでは総合型スポーツクラブが地域に展開していますが、用品メーカーやプロスポーツチームなどのいろいろな主体が少しずつ分担して地域を活性化していただくという拠点をつくっていくということができるのではないかと感じています。スタジアムにはその入口として、スポーツコミュニティの核になることができるのではないかと期待しております。
金森 スタジアムをつくろうとした理由の中に、関西から高校サッカーが東京に移ったことが挙げられます。本当は高校サッカーは関西から始まって54回までやっていましたが、移った大会が来ない理由の一つがスタジアムでした。地域との関係の中では、シンボルとなるスタジアムがどうしても必要なのです。先ほど間野先生がいろいろな国の話をしてくださいましたが、地域の中でスタジアムが1つのシンボルになっていて、スポーツを関係づけて地域が活性化するという傾向がある。甲子園と言えば高校野球とか。甲子園の地域の方々はけっこう広範囲に大阪も含めて一つのシンボルとして考えている。大阪城みたいなものですね。ですから、私は余計にそういう施設というか、まずはそういうメインの設備を1つつくることが、どうしても成長産業をつくっていくうえで1つの大きなポイントになるのではないかと思っている次第です。
間野 オールドトラフォードというマンチェスター・ユナイテッドのスタジアムは、地域の誇りですよね。サッカー文化が違うのかもしれませんが、それは求心力とか一体感とかの核となっていて、試合がある日は朝からみんなワクワクしている。そういうものをつくっていくためにはサッカーカレンダーなどをいじる必要があるのかもしれません。トップチームがJ1で試合をやっている間にその横でサッカースクールをやっているというよう話を聞いたことがありますが、その日はやっぱり特別な日だという演出も必要なのではないかという気がします。
会場 アメリカIMGアカデミーのようなものが日本にできない理由は何でしょうか。
金森 IMGアカデミーというのはニック・ボルテリーテニスアカデミーも含めてということですね。あれはみんなつくりたいと思っていて、いま一番つくりたいと思っているのは奈良県ですね。奈良県が奈良県スポーツアカデミーというのを考えて、ニック・ボルテリーというのは有名なテニスのコーチですが、彼を呼んで、去年はIMGに視察に行ったりもしています。
でも、本来は民間投資で行われるべきところなのですが、民間の食指が動かないというのは、たぶん事業計画を考えたときに日本の土地はあまりにも高すぎる。IMGアカデミーはとても広いですよね。何万平米とある。野球場があってフットボールができてテニスができて、全寮制で。そういうことがまず事業としての問題かと思います。
水野 堺のトレーニングセンターは如何でしょうか。
金森 堺では大阪ガスのタンク跡地を堺市が譲り受けてトレーニングセンターができあがりました。「あんな広い土地を放っておいて」という批判もあったようですが、結果的には企業側の固定資産税の負担も無くなって両者にメリットができたと聞いています。
私はラグビーワールドカップのときに、東大阪にある花園ラグビー場をどうしたらいいかという相談を受けました。資産活用を見ると採算が合っていなくて赤字の基なのだから、施設も土地も全部寄付したらいかがですかと提案しました。そうしたら税金を払わなくてもよい。それで、実際に上物はみんなでつくるという仕組みを一緒につくりましょうと言ったところ、いろいろな状況を考えて、寄付ではなくて買ってもらおうというスキームになってしまったなってしまったようです。
それで東大阪市がそれを購入したのですが、結局、上物を建てる資金がなくなって頓挫してしまったようなところがありました。大阪ガスの状況も含めて、日本の企業の土地はけっこう余っているのです。工場をどんどん海外に出していますから。ですから、そこを国の税制と合わせて企業が使ってもらいやすいような環境をつくって、サッカーとかラグビーとかいろいろなスポーツ業界とのタイアップの中で有効活用を進めてくれると、実は固定資産税をたくさん払っているという悩みが企業としてもあるものですから、一つの解決手段になるのではないかということが私の考えです。
京都の亀岡にスタジアムができますね!私が寄付をお願いしに行ったときに話が出たのですが、そこのスタジアムを単独で使うのではなくて、亀岡、神戸、吹田にもサッカー専用がありますので、その3つを1つのスタジアムとして考えて大きな大会、アジアのサッカー大会、中学生の大会などを同じような形でやれないかと。吹田が4万人だからいつもここで決勝をやるというのではなくて、今年は亀岡で、次の年は神戸でもやるという形で一緒に運営していくスキームをつくったら、もっとスタジアムが有効に活用できるのではないかと。1つのスタジアムだけで考えると、非常に効率が悪いのですよ。そういう提案を受けて、実は現在、サッカー界の中ではその案をつくっていて何とかしようというのが現在の状況です。
水野 確かにスタジアムの問題を考える上では固定資産税の話は重要ですね。先ほど間野先生から国の規制の話が ありましたが、投資をスポーツの発展にうまくつなげていくためには、規制緩和や税制改正を今後いかに展開していくかということがキーポイントになってくるようですね。
会場 広島にはいろいろなプロスポーツクラブが存在していますが、例えばサンフレッチェ広島と広島東洋カープというのはファンのいる場所、商圏がバッティングしている部分があると思います。そういうことでサンフレッチェの試合がある日にカープの試合があるということも起こると思うのですが、スポーツ界全体で観戦者を増やしていくためには、異なるスポーツ同士で試合がバッティングしないようにするようなシステムづくりが重要なのかなと思うのですが、スポーツ間のシステムづくりというのはどのように考えていらっしゃるでしょうか。
金森 ものすごくよい質問で、やらなければいけないでしょうね。ただ、実はものすごく難しいです。ひとつには、観客が見られる時間帯ということがまずあると思います。
2つ目としては、私もガンバの社長をやってみてわかったのですが、サッカーを好きな観客と野球の好きな観客は違うのです。私は阪神が好きだとガンバ大阪の社長になったときに言ったらみんなに怒られました。いま私は大阪エベッサのサポートをさせてもらって動向調査をしているのですが、バスケットは新しいスポーツ種目としてみんなから認識されつつあり、サッカーが好きな人、野球が好きな人、テニスが好きな人もだんだん「見に行ってみようか」という状況にあります。今は各々スポーツが独自の努力で新しいファンを構築していくことだと思います。
会場 お話の中で、スタジアムを地域に寄付していくスキームだったり、イギリスでは地域の宝として扱っているというお話がありました。自治体や企業とそこに住んでいる市民、生活者が一緒になってつくっていくことが大事だと思うのですが、自治体との関わり方について、自治体の条例の規制とどう向き合っていくのか。スポーツの実施、スタジアムの運営、周辺の複合型設備も含めて、自治体との関係性をどういうふうにこれから発展させていくべきなのかということを教えて下さい。
金森 現在、自治体(市町村)は全国に1,700余あります。
そのうちの半分近くが消滅可能性都市。そこでは、30代の女性がどんどん減る。要は人口が増えないので消滅してしまう可能性がある自治体が900近くあるわけです。そのうちの7割くらいがスポーツを一つの基軸にして消滅可能都市から脱却しようとプランニングしているのです。
多くの自治体が消滅可能性都市を脱却するためにスポーツを考えている。だから私はチャンスだと思うのです。ものすごくよいチャンスで、実際に脱却できると思うのです。いくつかの自治体さんが相談に来られているのですが、私としてはスポーツをもっと積極的に活用していくべきだろうと考えています。
水野 間野先生は規制などについて自治体の話をされていましたが、いかがですか。
間野 意識の問題なのですね。建築技術とか文化とか法律とかは問題がないので、自治体が本当に「見るスポーツ施設」というものを公共財として考えるかどうか。その一つの例が沖縄市のアリーナです。1万人入る施設で、沖縄市という沖縄本島の真ん中にある自治体が琉球ゴールデンキングスのために「見るスポーツ施設」としてつくりました。そういう例が出てくると、前例主義みたいなところもあるから、これから変わってくると思います。
金森 私は産業界で電機メーカー社員として過ごしてきて、国の政策にはものすごく感謝しています。日本の経済成長を支えてきたのは、前のオリンピックに合わせて新幹線をつくっていただいて、高速道路を全国に整備して、港湾は大型の輸送船が入るようにしていただいて、自動車でも電器でも大量に輸出できる環境を政策としてつくってくれたのですね。それが日本の高度成長を支えてきたと思うのですね。飛行場とか。
今般、国家戦略としてスポーツの成長産業化が位置づけられましたので、その考え方をもう一度取り入れていただけないだろうかと。いままで高速道路をつくってきた、新幹線をつくってきた、下水道をつくってきた。同様にスポーツの環境整備を積極的に盛り込んでいただくと、スポーツ産業はスポーツ未来開拓会議で報告された計画以上に伸びる可能性があると思います。
水野 本シンポジウムでは、これからどのようにスポーツ産業を拡大推進していくかということについて議論を頂きました。規制とか、税制とか、企業の遊休地の活用とか、新たな需要と供給の創造などのアイデアをいろいろ組み合わせて新たな展開を仕掛けなければ、スポーツ産業を2倍、3倍と拡大するというのは難しいのではないか。今後はここで話をしたことを政策に活かしていただけるような働きかけができるように、私たちも考えていきたいと思っております。

▶本稿は、2017年2月11日に大阪成蹊大学で開催された冬季学術集会シンポジウムの講演内容をまとめたものである。

 

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