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日本におけるeスポーツの未来 テレビゲームからスポーツへ その1─eスポーツの現場から─

日本におけるeスポーツの未来
テレビゲームからスポーツへ その1─eスポーツの現場から─
中村鮎葉│ Twitch 社

eスポーツの理解

まず導入で「スポーツとは何か(What is sports?)」ということです。この世にはphysical sportsとmind sportsという2つスポーツがあると申し上げています。physical sportsは身体を動かして競技をするもので、mind sportsは頭を使って競技をするものです。チェスや囲碁がmind sportsと呼ばれて昔からたしなまれているわけです。マージャンやポーカーもmind sportsの一種なのですが、eスポーツもそこに入ります。
過去に囲碁がアジア競技会の種目になったことがあります。その囲碁の代表選手は日本代表のユニフォームを着て、日本代表の印鑑をもらって出場しています。今回のアジア競技会でeスポーツが行われますが、日本のeスポーツ代表が印鑑をもらえるのか、制服を着ることができるのかという議論が起きている状態です。ゲーム自体が新しくできたもので、例えば全国に拠点がないし地域性もない。東京とか、大阪でやっている連中が多い。日本のmind sportsの代表的存在であるマージャンや囲碁と比べた時に、そこの部分が薄いので、日本代表として認められるのかという議論も理解できます。
僕はもともとプレイヤーで、その当時は練習はインターネットで対戦相手を見つけたり、人の家に行って対戦をします。または自主練、家で1人で練習するのは毎日大体1時間くらい。それと別に、インターネットで対人戦をやったり、対戦会に行ったりします。そこでは、45分間同じ相手とワンオンワンで戦って、終わったら15分間感想を言い合ったり、お互いの良い点悪い点を指摘し合って、次の人と交代して下さいみたいにルールが決まっているところもあり、そういうのを行脚していくわけです。
それで培ったものを大会で出します。大会はいろいろな場所にあって、国内遠征をすることもあります。僕は東京育ちなので関西に行ったり、東北に行ったり、国内で遠征して普段とは違うタイプの相手や、違うキャラを使う相手と対戦をしに行った上で、「よし」と気合いを入れてお金をためて、海外に遠征するわけです。ほぼアメリカに行って実力を試したりするわけですけれども、2012~2013年の時点でアメリカは一歩先を進んでいました。専属のコーチがいたり、取材班がいたり、ファンが選手に飯を届けてくれたりとか、環境が整っています。それをレコーディングしている人もいるし、メンタリストがいたり、マッサージ師とか整体師みたいな人がいるわけです。1試合当たりで手を消耗したり、筋を消耗したりするので、それをケアするやつがいる。それに対して日本人は一人ひとり個人で行って個人で勝負をしなければならないので、大分差がある。これはと思いながらゲームをやっていたのですが、結構スポーツしているんですねというのが実感でした。
では、eスポーツとは何かというと、Twitch社では「eスポーツは競技的なゲームが進化し、観客を集めるスポーツの域にまで達した姿」だというように説明しています。イベントを見る人がいる。何で見るかというと、おもしろいからとか、うまい人を見たいから、後学のため、エンタメのため、この人が好き、スターだから、かっこいいからとか、あいつが負けるところを見たいからみたいな、そういう理由でみんな見に行くわけですね。本当に好きで競技をしているところが、みんなが競技をしているところが好きで見るとか、自分が出たくて出るみたいな、それがeスポーツです。
2000年以降、日本の国外ではプレイによって実力差が出るゲームがすごく人気になりました。例えば1人用RPGだとプレイによってストーリーラインが変わったりとか、取得するアイテムが変わったりとか、ラスボスの難易度が変わったりとか、いろいろな差はあるのですが、対人戦をした時に差が出るかというと、1人用のゲームだと対人戦がそもそもなかったりするわけです。しかし、海外では「スタークラフト」を初めとした対人戦のゲーム、人と対戦する、他人と対戦して実力を競うゲームが発達してきました。ネットでのコミュニティが巨大化しました。インターネットが2000年以降広まってきたわけです。日本でも2ちゃんのスレ掲示板とかが出始めて、2000年代後半くらいからTwitterを使う人たちが出てきたり、ニコニコ動画とかで動画を頻繁に出す人が出てきたりとか、だんだんとコミュニティが好きな趣味での輪が広がってきました。その輪が広がったところでゲームはすごく成長していきました。人を集められるようになったからイベントが活性化するようになりました。昔は発信できる人は限られていたのですが、インターネットによって、誰でもイベントを開いて、誰でも人を集めたり発信することが可能になりました。
海外にDreamHackというイベントがあります。北欧で毎年2回、同じタイトルでアメリカでも毎年2回、たまにオーストラリアでもやったりするイベントのブランド名です。びっくりするかもしれないのですが、小さい1個1個の白い四角(写真参照)はパソコンのモニターです。これは全部参加者自身の持ち込みで、ヨーロッパ中、あるいはアメリカとかから飛行機にパソコンに載せて、または車にパソコンを載せて、会場にみんなで集まって、これを設営をして3日間くらいただゲームを皆で楽しむ。ここでお友達と出会ったり、「おまえいつも対戦している相手じゃん。おまえこんな外見していたのか」みたいな、そういうことを初めてここで出会って楽しくなったりする。そういう場所がありまして、eスポーツ向けのステージもあるのですが、そもそも論としてゲームで人が集まるという文化の集大成に近いものですね。DreamHackは、長年ヨーロッパでは開かれてきましたが、日本ではこのようなイベントはあまり開かれて来ませんでした。海外と日本のeスポーツは違う。それはゲーム文化の氷山の一角なのです。そもそも全体的なものが異なるから、その表象(上澄み)として顕在化するeスポーツが異なるのだというふうに僕は思っています。

DreamHack Winter 2004.(Wikipedia /Toffelginkgoより転載)

eスポーツの大きさ

アメリカのeスポーツのファンデータを見てみますと、まず平均世帯収入が600万円から700万円くらい年収がある人。ひとり暮らしをして、ひとり立ちしながら600〜700万円のおうちの子供がeスポーツのファンなのです。ファンの平均年齢が31歳です。見ることもeスポーツのファンで、もう自分はさすがにゲームは無理みたいな方もたくさんご覧になっていて、平均が31歳ということは下が10代で、上は50代までいらっしゃるわけです。そういう人たちが、1週間に平均で400分ゲームをプレイしています。つまり、平均で1日1時間です。これを少ないと感じるのか、多いと感じるのかは人それぞれと思いますが、僕にとってはすごく少ないと思います。  日本もあまり変わりません。ほぼ約8割が男性ファンです、大体週に400分くらいゲームをしています。
eスポーツで一番大きい賞金額の大会は、Dota 2のThe Internationalという大会です。合計賞金20億円で優勝すると10億円くらいもらえる。どこからその賞金が出るのかというと、Valveというゲーム会社から出ていまして、なぜそんなに出すのかというと、キャンペーンの結果なのです。毎年4月から7月、Valveさんから「毎年このシーズンがやってきました。ザ・インターナショナルのバトルパス発売です。4月から7月の皆さんの課金額の20%が賞金になります。皆さん今年も課金をお待ちしています」という感じで4月に毎年キャンペーンが始まって、7月が終わると20%が20億円になる。ゲーム会社はこれ以上のはるかに大きなメリットをユーザーからもらっていて、そのコミュニティへのリターンとして、「本当に皆さんプレイしていただいてありがとうございます」ということで、こんな賞金になる。これは前からの約束の結果として生まれているものなのですが、20億円の賞金の裏に80億円の利益が潜んでいるのです。そういう利益がeスポーツにはまだたくさん眠っていまして、だから海外の企業は魅力があってスポンサーしたり、イベントを開いたり、というふうに舵を切っているわけです。
eスポーツがスポーツと呼ばれている理由としては、“競技性”、“規模の大きさ”、“ビジネスモデル”が挙げられます。ビジネスモデルもスポーツにすごく似ている。観客からのチケッティング、グッズの売り上げもそうですし、スポンサー料がすごく大事です。競技性、規模、ビジネスモデル、これらがスポーツと類似しているということで、eスポーツというふうに英語でも呼ばれているのだと思います。英語でも「eスポーツはスポーツなのか?」という議論をやっています。最初の議論をひっくり返しますが、ヨーロッパ人もアメリカ人も、日本と同様の議論が世界中で起きているのです。
とても重要なことなのですが、じつは“eスポーツのファン”はあまりいないのです。特定のゲームのファンはいるのですが、eスポーツのファンはいないのです。例えば「コール・オブ・デューティ」が好きですとか、「フォートナイト」が好きですとか、「パワプロ」好きです、「ポケモン」好きですという人はいるのですが、eスポーツが好きという人は珍しい。eスポーツを見る人の70%は1タイトルしか見ないし、42%はプレイもしません。eスポーツと一概にいっても、eスポーツが好きなわけではなくて、その7割が1タイトルしか見ないのです。ですから、eスポーツをしたいという時にゲームタイトルを複数一気にやったらそれでいいのかというと、一概にそういうわけではない。むしろ1タイトル、ゲームタイトル、我こそはこのタイトルで一番おもしろい大会を開くぞとか、我こそはこのタイトルで一番強いプレイヤーの事務所になる、一番強いプレイヤーの球団をつくるみたいな、そういう発想でいったほうが、eスポーツがうまくいく傾向があります。(続く)

▶︎本稿は、2018年7月23日(月)に、早稲田大学で開催された第46回スポーツ産業学セミナー「テレビゲームからスポーツへ!日本におけるeスポーツの未来とは~無限の可能性を秘めるeスポーツのこれから~」の中村鮎葉氏の講演内容および質疑の一部をまとめたものであり、3回に分けて連載します。

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