eスポーツのビジネスとしての現況と 地域活性化の事例

eスポーツのビジネスとしての現況と 地域活性化の事例
原田元晴│株式会社NTTe-Sports

eスポーツを興行的なエンターテインメントと捉えるのみではなく、地域活性化を実現できるポテンシャルを見出している株式会社NTTe-Sports。ここでは同社の取組みの現況と、日本国内でeスポーツにまつわる地域の事例を紹介する。

スライド1│国内のeスポーツ人口推移

いわゆるスポーツと何ら変わりないeスポーツで育まれる要素

本題に入る前に、まずはeスポーツそのものへの考えを述べたいと思います。「eスポーツは果たしてスポーツなのか」。これは日本でも現在、いろんな議論がされる部分であります。
私たち㈱NTTe-Sportsは、いわゆるeスポーツの定義にあります「電子機器を用いて行う競技」(日本eスポーツ連合の提唱に基づく)と捉えています。スポーツであるかどうかについては深刻には考えていないのが正直なところでして、それはこれまでのスポーツの歴史をひも解いても、体を使ういわゆる「フィジカルスポーツ」が19世紀〜20世紀に始まり、20世紀には工業社会の発展に伴い「モータースポーツ」が誕生したことを鑑みれば、現在の情報社会の中で生まれた「eスポーツ」をスポーツと呼ぶことに何ら違和感を覚えないからです。つまり議論として重要なのは、定義よりも中身、と考えています。
確かに、「eスポーツは単なるゲームではないか?」という見方は存在します。特にeスポーツに励む高校生たちに話を聞くと、家庭用ゲームとeスポーツの違いを保護者や学校の先生になかなか理解されていない、のだと。「もっと理解してほしい」とは彼らの本心でしょう。
eスポーツには様々なジャンルのゲームがあり、人気のeスポーツタイトルはサッカーや野球と同様に戦略を考え、複数のプレーヤーとチームを組んで、そこではキャプテンシーを発揮し、お互いに行動をディレクションし、さらにはコミュニケーションを図る、といったスポーツと何ら変わりない【チームワーク】や【スポーツマンシップ】、【リーダーシップ】が育まれる要素があります。これはeスポーツに対する見方として非常に大きなポイントです。
また、市場としては、800万人以上のファンが存在し、20代前後の所謂Z世代が多い、ということと、イベント興行以外の関連市場も含め、世界的に市場が拡大している、ということが大きな特徴です。
さらに日本ではeスポーツはダイバーシティ時代の新スポーツとして大きな期待が寄せられています。性年代を問わない【エイジレス】、【ジェンダーレス】、時間・場所を問わずに国際的な交流や文化の醸成が可能な【エリアレス】、身体的ハンディを越えた【ハンディキャップレス】、そしてコロナ禍などにおいて特に注目された対面での交流を避けつつ参加できる【コンタクトレス】といった要素が、eスポーツの特徴にはあります。
そうした、eスポーツの特徴を捉えて、地域の課題をeスポーツで解決し、地域活性化を図ろうと取り組んでいるのが我々㈱NTTe-Sportsであり、全国様々な自治体様から地域活性化のご相談をいただいています。

NTTe-Sportsの事業展開と高校の部活動へのサポートに注力する理由

私たち㈱NTTe-Sportsの事業としては、戦略設計コンサル事業、イベントや教育事業のほか、施設やプラットフォーム(ネットワーク環境)の構築といったeスポーツに関わるあらゆるものをこなしています。そして、その最大のミッションは【地域活性化】になります。
各地域の自治体や企業を対象に、何年か先の将来イメージを共有し、そこに向けたPCDAサイクルを講じて、実現に向けたソリューションを提供していくのが私たちの役割です。例えばイベントに関して、地域に集客させることを目的としたeスポーツイベントも多く開催しています。
また施設構築の実績としては、東京の秋葉原に「eXe(エグゼ)Field」というeスポーツのスタジオがあり、その構築・運営ノウハウを活かす形で各地域や学校内での施設構築をサポートしています。
学生や若者を対象にeスポーツ施設のゲーミングPC(高機能PC)を活用し、「デジタル人材教育プログラム」としてプログラミング講座や映像編集配信のカリキュラムの提供、そのカリキュラムを教える講師の派遣、さらには純粋にeスポーツのスキルアップやチーム力アップのサポートを事業として行っています。
高校の現場ではeスポーツに携わる部活の立ち上げ支援も実施しており、これは施設への端末導入など環境構築といったハード面と部活指導といったソフト面を一緒に提供する事業になります。eスポーツの総合情報サイト「eスポーツの窓口」(https://dottours.jp/)によれば、部活動としてeスポーツに励んでいる高校の総数は489。また、eスポーツの全国大会への参加チーム数は年々増えており、今後eスポーツ部の益々の増加が見込まれます。
eスポーツ市場の真ん中にいるのは高校生を中心としたZ世代で、その活性化のためには、サッカーと同じように裾野の拡大は必要不可欠です。私たち㈱NTTe-Sportsが、高校の部活動としてのeスポーツに対して、ハードとソフトの両面でサポートすることに注力し、目標となるような大会を共催するのは、そのためです。

スライド2│eスポーツ普及に向けた部活動の活性化

 主要な「eスポーツ×地域活性化」プロジェクトの事例

ここからは私たち㈱NTTe-Sportsのミッションである【地域活性化】の事例をいくつか紹介します。

スライド3│eスポーツ普及に向けた部活動の活性化

神奈川県横須賀市

現在、東京23区に代表される都心部以外の多くの自治体は、若者の流失課題を抱えています。神奈川県横須賀市もその一つ。そこで大学生や社会人になってからも地元に貢献してもらいたいという願いから、Z世代に圧倒的な人気のeスポーツを解決策に取り込みました。
まずは「YOKOSUKA e-Sports CUP」の開催です。これはeスポーツで最も人気のゲームタイトル「VALORANT」で競うオンラインの大会で、4回目を迎える今では参加チーム数も100チーム前後の規模になっています。私たち㈱NTTe-Sportsは大会の企画・制作・運営に携わっており、それと並行して、市内の高校へのeスポーツ部の創設支援としてネットワーク環境のサポートなどを行っています。
現在、横須賀市には私立校を含めて8校にeスポーツ部があり、なかには強豪校になった学校もあります。また、NTT横須賀の局舎ビルを活用して、ゲーミングPCを揃えた施設「スカピア」をつくり、部活とうまく連携させながら、いずれは市内の高校生から世界で活躍するプロ選手が生まれることを願っています。

北海道湧別町

北海道湧別町は高校生をメインターゲットにして、eスポーツをトリガーに住民全体の活性化、町の認知度アップにつなげたいという考えを持っています。これは3ヵ年計画になりまして、1年目は町民への理解獲得と小規模施設の設立、2年目はイベントの拡大、そして3年目はまちづくり推進や魅力発信、といった具合です。
湧別町に関しては文化センターを町内唯一の高校である湧別高校のeスポーツ部員が練習できる場所に設定しています。また、学生たちが町の祭りや行事に携わり、そのメニューの一つにeスポーツ大会があります。町民の方々が集まり、「eスポーツを活用したまちづくり」について理解や機運を向上いただくことを目的としたワークショップも実施しました。
なお、湧別高校は学生数の減少が課題としてあり、高校の活性化を、いずれは地域全体の活性化に広げていく試みの真っ只中です。

スライド4│北海道湧別町での事例

山形県長井市

こちらは、前述の横須賀市と湧別町を足した印象です。長井市の中心部にあるホテルの中にeスポーツの施設「Ne-st」を構築し、そこで地元の若者たちがスキルアップに励みます。また、小学生向けのプログラム体験のほか、同ホテルの会場を使って住民交流大会などを催しています。

神奈川県小田原市

小田原市は、観光地の小田原城やグルメに関して、10〜20代の若者への認知度がそれほど高くなく、むしろ下降傾向にある点が課題でした。そこでeスポーツをフックに若者を集客して町の魅力を高めていくことに着手しました。小田原城址公園でのeスポーツ大会の開催のほか、スタンプラリーなど新しい観光コンテンツを設けました。
当初は観光面の充実が最大の目的でしたが、市外ではなく、市の子供たちや学生、企業をeスポーツに巻き込む動きが拡大して、今に至ります。現在は横須賀市と同様に、小田原市の高校におけるeスポーツ部の開設支援も開始しました。

埼玉県さいたま市

さいたま市は大宮駅徒歩1分の場所に「まるまるひがしにほん」(東日本連携センター)という施設があり、その名のとおり東日本の様々な都市が連携して、各地域の特産物等の認知拡大プロモーション活動をする場になります。ですが、若者がなかなか集まらないということから、eスポーツとして「FORTNITE」の大会を開催しました。実際に、予選には100チームほどがオンライン参加しにぎわいを見せました。決勝大会は「まるまるひがしにほん」でオフライン実施します。
なお、予選大会の模様はオンラインで配信されましたが、そこでは観光PR動画を挿入するなど、施設の主旨にちなんだ取り組みも行っています。

東京都調布市

eスポーツを市民の生活向上に役立てたい、eスポーツでにぎわいを作りたい、と考えているのが調布市です。取り組みの方針は【施設内交流】【施設間交流】【交流範囲拡大】の3つになります。
施設内交流は、高齢者施設の入所者や障がい者施設、児童施設の子供たちを対象に、その施設内でイベントやプログラミング教室を催すもの。施設間交流は、そうした施設をまたいで対抗戦を行うもの。継続的に活動しており、さらに大きなプロジェクトに発展することが見込まれています。

東京都渋谷区&北海道上士幌町

高齢者に特化して、取り組んでいるのが渋谷区と上士幌町になります。渋谷区は障がい者も対象にしたeスポーツを通しての交流機会の実現や、高齢者向けの体験会を開催しており、好評を得ています。上士幌町も介護予防や認知症予防の観点で、「高齢者向けのeスポーツ」プログラムを展開し、定期的にイベントを設けています。

東京都立川市

立川市では、「立飛ホールディングス」という地域の最大手デベロッパーが中心となって、eスポーツを活用した地域貢献のイベントを行っています。2020年9月に立飛ホールディングスとNTT東日本、そして私たちが「立川eスポーツプロジェクト」を立ち上げ、以降、3ヵ年計画で地域交流eスポーツカップという地元企業の対抗戦や大型のeスポーツフェスなどを催してきました。
地域の企業を最初の段階から巻き込んでイベントを実現していく点が最大の特徴と言えるでしょう。年々、イベントへの参加チーム数も増加し、盛り上がりを見せています。フェスでは大型のイベントスペースで若者向けのeスポーツエキシビションイベントを行うと同時に、ファミリー向けには屋外イベントを実施し、この開催にも地元の事業者様に協賛や出店という形で参加していただきました。なお、来場した約1700人の大宗は10代、20代、そして6割が女性という結果が出ています。

NTTe-Sportsが目指す新たな目標

地域活性化を生み出す、いわばエンジンとなるのはZ世代の若者たちです。私たち㈱NTTe-Sportsはeスポーツを通して若者が活躍できる場を作りたい。さらには若者や子供たちがデジタル人材として成長し、中心となったうえで高齢者や障がい者を含めて町の経済全体を活性化させていくことを目指しています。その手段の一つとして、前述の湧別町のように、eスポーツの活動拠点を地域のシンボルプレイスとしてつくり、そこに高性能のゲーミングPCをそろえて、通信回線を準備し、スクールや人材育成に取り組んでいくわけです。また、そうした施設で住民交流やアクティブシニア系のイベントを若者自身が企画して、施設自体の価値が向上することで地域の活力につながると考えています。
そしてその成功体験があれば、地元愛や地元への貢献意欲が湧き、地元企業へ就職する若者が増えたり、一時期は大学進学などで地元を離れても、研鑽を経て再び地元に貢献したいとUターンしてくれたり、そんな地域の賑わいを知って外からIターンしてくれる若者が現れる、といった「地域循環型」のまちづくりが実現できると私たちは考えています。
各地域の事例を紹介しましたが、どこか特定の場所をeスポーツの聖地にするのではなく、反対に、様々な地域でeスポーツをトリガーにしてそれぞれが活性化する。そのなかで若者がどんどん育っていくことを願っています。

スライド5│NTTe-Sportsが目指す将来像(イメージ)

Q&A

Q. ㈱NTTe-Sportsが各地域で拠点を構築したり、eスポーツの部活動支援を行う事例をご紹介いただきました。取り組むにあたっては、どれほどの成果や到達点をイメージされているのですか?
A. 私自身、現職の前にはNTT内のマーケティングのセクションおり、KGI(重要目標達成指標)やKPI(重要業績評価指標)を設定して取り組んでおりました。ただ、現在、携わっている各地域での活動では、KGIやKPIを明確に設定しているものはないのが実情です。例えば、観光業にeスポーツを結びつける場合も、その取り組みがどうなれば成功と言えるか、数値は設定されていません。とはいえ、それをきちんと設定しなければいけないとも考えていますし、同時にクライアントの意向や要望もありますので、それをすり合わせしながら取り組んでいきたいと思っております。

Q. 実際に、事業のなかでeスポーツがダイバーシティ時代の中で達成できたことを実感することはありますか?
A. 例に挙げました、調布市や渋谷区の場合は、企画やイベントの際に住民アンケートをとったり、渋谷区では表情分析を行い、データを集約しました。そこで得られる評価が、いわば達成度を測るものになります。基準値はありませんが、自治体のみなさまには評価いただいた数値となっております。

Q. eスポーツが地域の活性化につながる可能性を備えている。それを周知するために、どのような説明を各自治体にされているのですか?
A. 前提として、各自治体や地域の特色によりけりなので、各自治体ごとにプラスの効果が生まれれば良いのではと考えています。例えば、上士幌町は住民の大半が高齢者であることを踏まえれば、若者向けの効果はあまり意味がありません。

ただ、大多数の自治体で、地域の次代を担うのは若者。若者たちの活躍が地域の盛り上げに影響していきます。
次代を担うZ世代が今、何に興味・関心を持っているのか、そして、それをどう生かすことができるか、という視点で私たちは事業にあたっています。

▶本稿は2024年1月9日(火)開催されたスポーツ産業アカデミー(ウエビナー)の講演内容をまとめたものである。

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