エンターテイメント施設を中核とした総合都市開発 ─AEG社のビジネスモデルより
エンターテイメント施設を中核とした総合都市開発 ─AEG社のビジネスモデルより
北谷賢司│金沢工業大学教授 AEG社アジア担当EVP兼日本代表
1. 新たなスポーツビジネスモデルの指針
もちろんスポーツファンは情熱と忠誠心をチームや選手に注力するわけですが、その際にも今後はビデオがSNSネットワークを介して中継放送されるようになれば、より高品位の既存放送と同等か以上のコンテンツが求められ、制作費はおのずと高まります。しかし、収益性も同期して大きく成長を遂げるのではないかとみています。つまり、ライブスポーツとSNSがドッキングした形で新しい媒体になるのが今後のビジネスモデルであると確信しています。したがって、ライブスポーツはSNSを介してリアルタイムで観戦体験をシェアでき、友人・知人とリアルタイムで感動をシェアできる新たな体験として、さらに利用時間と頻度が増加していくと考えています。
2.スポーツビジネスにおける3つのチャレンジ
現在のスポーツビジネスには3つのチャレンジがあります。
1つ目はコンテンツのデジタル化です。既に、スポーツ中継コンテンツを含めてほぼ全てのコンテンツはデジタル化されています。デジタル化されたコンテンツは、簡単に複製したりシェアしたりされてしまうので、いままでのように著作権保護の観点から複製されることもしくは同時配信されることを妨げる方向で制御するよりも、これからは同時配信されるデジタルコンテンツをいかに利権やプロフィットに変えていくかということをアマチュア、プロを問わず考えていかなければいけない時代になると思います。
2つ目は、無償で共有されてしまうコンテンツを事業化する新しい手法の開拓です。無償コンテンツのマネタリゼーションを考えていくことは非常に重要で、この点においては、スポーツ中継に映り込む大型スクリーン、看板、デジタルサイネージも戦力的な配置が、今後のアリーナやスタジアムの設計、さらには機能の開発が大きな重要性を持ってきます。
3つ目はファンとのメディアを介した接触モデルの見直しです。スポーツファン=オーディエンスとのインタラクションモデル、双方向性のコミュニケーションモデルは大幅に革新し、双方向性、それからP2Pのコミュニティの中でコンテンツの消費が急増、さらにスポーツコンテンツにおいてもVRやAR(特にAR)の技術のアダプテーションが不可避な時代に入りました。そして、ライブスポーツの中継をどのように制作していくことが一番、商業的に妥当なのかということが、スタジアムの設計も含めて今後大きな課題になっていきます。
新しいスポーツコンテンツの配給網が組成されて行く中で、ソーシャルメディアをどう使うか、スポーツとソーシャルメディアをどう複合的に組み合わせるか、ストリーミング技術をどのようにして取り入れるか、更にモバイル通信の機材やアプリケーションをどう使うかということを徹底的に追求していかなければ、デジタル時代における新たなスポーツビジネスは構築できません。
3.ライブストリーミング
DAZNは数年前には存在しませんでした。ところが現在、多岐にわたるスポーツの中継を皆さんはDAZNを経由してご覧になっています。これまで存在しなかった例えばAbemaTVを初めとして、TBS、テレビ東京、日本経済新聞、WOWOW、電通、博報堂も共同で新たなスーパープラットフォームの構築を試みています。こうした新世代のプラットフォームは、今後、スポーツのライブストリーミングの編成にかなり積極的に進出していくものと思います。ライブストリーミング自体は今後もSNSと並行増幅をもって間違いなく成長を続けていくと思いますし、先に述べたように、スタジアム・アリーナ設計、施設運用とも非常に緊密な関係を持ち始めます。
SNS機能を本業とする企業が、自らスポーツのライブ中継をSNS上で展開していくという流れも出てきています。例えば、Twitterは北米においてNFLの試合をすでに10試合1,000万ドルの放映権で試験導入し、16年末に放映したのですが、実況中継を2,000万人が視聴したデータが注目を集め、その後は中継規模が拡大しています。
SNS機能を含むOTTのプラットフォームは、既存放送事業者系、通信系に係わらず、大半がスポーツ中継、 VOD、SVODに積極的に進出しようとしています。英国BBCは2016年のオリンピックの中継の際に、地上波と連動し、毎週1,600万人の視聴者を新たなユニークユーザーとしてウェブサイト、ブロードバンドサイトに導入することに成功しました。アメリカのNBCネットワークはオリンピックの放映時間の大半を地上波からOTTに移行、 Netflix、HuluやYouTubeもライブスポーツ中継の編成を始めようとしています。
従来、地上波放送や衛星放送を中心としていたスポーツビジネスは、いまOTTを中心としたブロードバンド配給上のスポーツビジネスに大きく転換しようとしているわけです。それに対して既存の会場、アリーナやスタジアムが対応できなければ、新しいビジネスを組成することさえ難しくなります。つまり携帯通信が5Gへの移行に伴い非常にビデオ配信が滑らかになる環境を整え、さらにWi-Fiも簡単につながる会場でなければ、会場に集まってくれているファンがSNSを介して相乗効果のある体験がスポーツ観戦中に出来ず、会場は閑古鳥が鳴く窮地に追い込まれかねません。
「今、このスタジアムでジャイアンツ戦を見ているよ」ということをツイートする、もしくはFacebookでショートビデオをアップロードして観戦を自慢する、LINEでも自慢することによって、会場の外にいる人たちがその臨場感を味わうとともに、並行してテレビで中継を見ながら会場内外の友人とチャットして盛り上がるというスポーツの楽しみ方が普遍化していきます。これが今後のスポーツ視聴、スポーツとメディアの融合パターンですので、ここに寄与できるような建物をつくれるかつくれないか。もしくは現在の建物を改修できるかどうかということが、ビジネスとして見た場合、会場の将来の成否の鍵を握っていることはほぼ間違いないと思っています。
4.スマート・スタジアム
全ての観衆が接続や速度に不自由を感じない通信機能が装備された、スマート・スタジアム、スマート・アリーナが欧米においてはいまスタンダード化しています。最近では東南アジア、南米で新たに建設されるアリーナやスタジアムでも。ほぼすべての施設がスマート・スタジアムもしくはスマート・アリーナを前提として施設設計がなされています。
これはカリフォルニア州サンタクララ郡にあるリーバイス・スタジアムで、NFLのサンフランシスコ49ersのホームスタジアムです。このスタジアムではどこでも携帯電話のアクセスがほぼ間違いなく取れます。6万〜7万人のお客さんが集まって、試合中はおそらく4万〜5万人が何らかのモバイルデバイスを使いながら観戦していると言われますが、その人たちが何の途切れもなく携帯とWi-Fiが使える状態にあるとされています。
それはひとえに、場内にモバイル用の再送信のアンテナが非常に多く設置されていて、Wi-Fi通信機材も概ね100席に対して1基という割合で設けられていますので、会場にいるすべての人たちは試合を見ながら、もしくは試合の前、またハーフタイムショー、さらには試合が終わった後もモバイルアクセス、Wi-Fiアクセスが得られる設計になっているからです。
ただ、それだけではなくて、会場に来た人たちに対して、会場にいる間に「この会場のモバイルアプリケーションを取り込んでください」というふうに大型ビジョンでプロモートしていて、会場内のお客さんに対してモバイルアプリを取り入れてくれればこれだけのベネフィットがありますよということをデモンストレーションして見せています。
例えば、あと97フィートで指定の駐車場に入れるという駐車場の案内。これは場外にいる時に指示が出てきます。それからeチケット画面で今日の試合のファン・チケットも取り込まれているのでそれを見ることもできますし、実際に席に座るとプレイヤーのデータや試合を観戦するときに楽しめる補足データを簡単に引き出すことができます。
他にも様々な機能が盛り込まれていますので、飲食でも、ホットドッグを注文するときにトッピングにどんなものが欲しいかとか、Expressレーンに自分で行ってピックアップするのか、もしくは少しお金はかかっても席までデリバリーしてもらうというオプションを選択でき、すべてを1つのモバイルアプリケーションで個人の1つのIDで対応できるという利便性があるわけです。
日本ではどうしても、興行主、例えば球団がモバイルアプリをつくって東京ドームの中でジャイアンツがご自由にやってください。機材の導入は試合の主催者側の責任という発想になりがちです。しかし、欧米の発想は、会場が通信機能とモバイルアプリケーションを自社で持つことによって、その会場を使う観客を会場自らの顧客としてCRMデータを含めて取り込むことに主眼が置かれています。それを持っている会場だからこそ、球団に対しても、他の音楽プロモーターや会場ユーザーに対しても、非常に精度の高い顧客データを囲い込んだアプリを有償使用させてマネタイズすることが可能になります。
貴重な顧客データを持っているということを会場の資産として捉えているのです。そういう発想は日本ではほぼありません。一部、例えば鹿島アントラーズや楽天球団では、スタジアム管理と球団経営を一元化し、近似したサービスを目指していますが、通信インフラにまでは未だ完全に手が届いていません。
日本では、施設管理者とこの方向性について協議しても「それはちょっとうちでは無理ですね」で終わってしまいますし、通信やWi-Fiの機能をなぜ自社で、自腹で持たなければいけないのか、それはテナントが勝手につくればいい話、持ち込みで十分でしょうという話になります。非常に大きなビジネスチャンスを逃しているんだという意識が、日本国内ではまだあまりないのです。しかし、今後。建設もしくは改修されるスタジアムやアリーナにおいては通信網を独自に運用し、カスタマー・データを所有することで、さまざまなマーケティングツールとして使えますし、そこからの利益を追求できるわけですから、ビジネスモデルを転換する大きなきっかけになると考えています。
さらに、グーグルグラスのようなデバイスを使ってAR的なデータを、生の試合を見ているときにそこに浮き上がるような形で出てくるホログラフィックイメージも今後は登場すると思います。それに加えて、携帯電話ではP2Pのコミュニケーションを図っていて、会場にいる人ともコミュニケーションするし会場の外にいる友人とも交信しながら、目の前の試合のことで盛り上がっていくという。こうしたエンターテイメント・ビジネスのモデルを基盤にスポーツが進化していくと考えています。
スポーツビジネスの最新のトレンドとしては、すでにお話させていただいた事項と部分的に重複しますが、次のようなことがあげられます。
①放送偏重からブロードバンド・プラットフォームへの移行
既に述べたように、今までは地上波の放送偏重でしたが、それがブロードバンド・プラットフォームに移行していきます。
②スポーツがエンターテイメント、ライフスタイルと統合
これまで「スポーツ」というカテゴリーがエンターテイメントとかライフスタイルなどとは関係ない精神面でピュアなものだと位置づけている人も多かったと思いますが、スポーツをビジネスとしてみるとエンターテイメントとライフスタイルが統合されて成立するわけで、単にスポーツの効能プレゼンだけは商業性の限界があります。スポーツをメディア&エンターテイメント・コンテンツと位置付けライフスタイル媒体としての競争力を高めることが重要です。
③ファンの期待は「エンゲージングな体験」へ
スポーツファンの期待は、いままでは球場に足を運んで、逆転満塁ホームランが出ればすべてよしということもあったと思いますが、今後はよりエンゲージングな体験が求められます。単にスポーツファンが会場に足を運んで、球場で行われているスポーツの試合に対してエモーショナルになるということだけではなく、それと並行してSNSで友人やファンコミュニティーとつながっている、モバイル通信でリアルタイムにつながっている人たちと一緒に盛り上がる。それが一番エモーショナルに達成感や満足感が高くなることはほぼ間違いない。そこをどうやってマネタイズするのか、商業化するかということを真剣に考える時代に入っています。
④スタジアムやアリーナのアメニティ充実がチケット販売、飲食物販の収益向上に貢献
スタジアムやアリーナのアメニティが日本では特に希薄なので、この部分の充実を図っていけばチケットの販売、飲食・物販の販売、その他の収益向上に必ず貢献します。日本国内ではまずその部分の伸び代があるように思います。旧来の縁日の屋台レベルの飲食を供与するのではなく、国内、そして世界的に認識度の高いブランド性の高い飲食サービスを誘致する必要があります。
⑤VRよりARがベターフィット、スポーツ版「ポケモンGO」
VRも確かにスポーツとの相乗性がありますがARのほうがベターフィットです。例えばポケモンGOがあれだけ世界中で幅広い利用者が存在し、大人も子供も参加して大騒ぎになりましたが、もしポケモンGOのスポーツ版があればどうなるか。今のところ、ポケモンGOのスポーツ・コンテンツ版をつくろうと試みた形跡はありませんが、新たなコンテンツアグリゲーションのビジネスの可能性は巨大なポテンシャルとして存在すると思います。
⑦「編集された噂」は見放され、ファン構築サイトの人気上昇
編集された噂は、スポーツの世界ではだんだんファンから見放されて行きます。ファンがファンの視座から見たコンテンツで構築されたサイトの方がはるかに人気が高いはずです。これも、会場の中でモバイル通信やWi-Fiが自由自在に使える環境であれば比較的自由にできますが、会場の中でWi-Fiや携帯電話がつながらなければその楽しみは得られません。ですから、国立競技場が新設され東京ドームも施設の更新はなされていますが、会場でWi-Fiやモバイル通信が自由に使えなければ、いまの世界の流れは日本ではまったく体験できないということになってしまいます。そこには大きなビジネスチャンスがあるのに、そこにタッピングできない環境になってしまうことが危惧されます。
⑨主催者の権利の過剰制限がSNS世代に乗り遅れる危機を察知。試合観戦中のSNSへのビデオ・アップロードがビジネス振興に有益
いままでスポーツの主催者はどちらかというと権利を過剰擁護してきたと思います。撮影をするなとか、ビデオを勝手に使うなとか。私も音楽の興業ビジネスを長く手懸けましたが、確かに1990年にローリングストーンズを連れてきたり、94年にマイケル・ジャクソンを連れてきたときには、録画・録音するような機材は一切、会場に持ち込むなとか絶対に使うなとか、見つけるとすぐに警備員が行って取り上げる時代でした。ところが最近は、例えばテイラー・スウィフトという若手女性シンガーが東京ドームに来たときには、アーティスト本人が「いくらでも撮ってSNSにあげてね」とあおるわけです。大半のSNSは長尺のビデオはあげられない仕掛けになっていますが、15秒とか30秒くらいのビデオは簡単にアップロードできます。それで、スポーツ会場やコンサート会場に来た人たちがショートクリップを撮って配信することによって、アグリゲーション相乗効果がどんどん会場外に広がり、会場に来ていない人たちも「これだけ盛り上がるなら自分も行ってみたいな」「切符があれば買いたい」「次の試合に行きたい」というチケット購入へのモチベーションがわいてくるわけです。
⑩eSportsはブロックチェーンと仮想通貨により巨大ビジネスへ
eスポーツも、今後はブロックチェーンの技術と仮想通貨が巨大ビジネスになっていきますので、それに牽引される形で規模はどんどん大きくなっていくことが間違いありません。
6.AEGのビジネスモデル
では、こういう環境下において我々のAEGという会社はどういったビジネスモデルで今後の事業展開を図ろうとしているか、ご説明します。
私どもは、娯楽施設を中核とする不動産開発事業会社として世界最大です。ただ、娯楽施設を中核とする以上はスポーツコンテンツも音楽コンテンツも自社で持っていなければコンテンツの原資となるものがないという哲学を持っています。そこで、プロのバスケットボールチーム、アイスホッケーチーム、サッカーチーム、それから大型アーティストの5年から10年に及ぶ、長期間の世界興行権を自社で取得しています。会場の設計は、すべて自社で行いますし、会場の中に入るすべてのテナントやコンテンツ編成についても自社でコントロールしています。
ジャスティン・ビーバー、ローリング・ストーンズ、エルトン・ジョン、セリーヌ・ディオンは全てAEGアーティストです。大規模で斬新なデザインのアリーナだけでも全世界で120カ所経営していて、中規模の施設、劇場他を入れると全世界で500数十カ所の施設を経営しています。ロサンゼルス、ロンドン、ベルリンといった町では、アリーナを核とする総合的な都市開発を行い、ホテルや商業施設のみならず、オフィス棟やコンドミニアム事業も複合的に実践し、新たな街を構築、不動産事業における巨額のキャピタルゲインを生んでいます。 広告宣伝の営業も一元化され、世界のすべての会場のネーミングライツ、スイートルームの販売、そしてデジタルサイネージの販売も自社でロンドンとロサンゼルスを本拠として営業活動を行っていて、年間に900億円規模の売上があります。グラミー賞の放映権、テレビ制作権、その他大型のフェスティバルも全世界で50カ所、興行しています。
従業員は、すべてで3万人程度いますが、世界中のローカルコミュニティでさまざまな社会活動にも参加しています。基本的なビジネスモデルは、例えばロサンゼルスではNBAのレイカーズ、ホッケーのキングズ、プロサッカーリーグのLAギャラクシーといったチームが自社のチームとして存在していて、それぞれをホームチームとするサッカースタジアムやアリーナを複合経営しています。 北米のサッカーリーグの最大株主でもあり、AEGファシリティーズが、AEGの不動産事業部門として全世界のアリーナ、その他の施設を経営しています。そしてAXSは世界第2位の総合的なチケット販売サービス会社で、契約した会場に対してチケット販売、シーズンチケット販売や法人対象でアリーナの中のスイートルーム販売をすべてAXS社のテクノロジーで一元管理しています。
AEGプレゼンツはコンサート事業部門で、リーガルシネマは北米最大のシネコン、ウオルデンは映画制作会社で『ナルニア国物語』やレイ・チャールズの伝記映画など劇場公開映画の制作と配給を行っています。こういった複合的なエンターテイメントを統合的に経営することで、会場の所有と運営に非常に貢献しているというビジネスモデルです。
AEGは創業者オーナーである、フィリップ・アンシューツ社主が健在で、78歳で北米の富豪のトップ10リストに常にランクアップされています。彼のビジョンで、僅か25年で一大エンターテイメント・コングロマリットに成長しました。
7.娯楽施設を中心とした総合的な街づくり
最後に、我々のアリーナ、スタジアムビジネスの基本的考え方をいくつかお示しします。1つは、AEGが建物をつくる場合には最初にコア要件が決まっています。どのくらいの席数の施設をつくらなければいけないか。主施設は1万5,000席〜2万5,000席ですが、それだけでは集客は図れません。大きな会場になればなるほど、ロードインとロードアウトに時間がたくさんかかりますので、その場所をにぎわせるためには中小規模の施設を必ず横に設置して、そこを一年中埋めて行くことで、にぎわいが生じ、商業施設にも顧客が集まりますし、テナントもそれで十分に満足してくれるという相乗効果が図れます。
従って、AEGはアリーナを建設する際には、必ずその施設内に4,000〜7,000席くらいのサブアリーナを設け、更に毎晩必ず何かが起こるライブコンサート会場を1,500〜2,000席のキャパで開業します。この3つがセットになっているので、施設全体に顧客が恒常的に流入する賑わいを演出します。
また、ボーリング場、ダンスクラブ、あるいは日本で言う寄席のようなコメディー・ストアー等も設置します。レストランは1カ所で最低12〜20軒。それは中級レベルからやや上で、でも最上級ではないという位置づけの著名店に集中して招致してきます。ちょっとガールフレンドや奥さんにいいかっこをしたい、子供を喜ばせたいという、憧れを覚えさせることの出来るブランドレストラン、もしくはバーを並べるのですが、当然ながら客単価が高いことでグロス売上は上がり、MG+コミッションで賃貸が入ることでAEGの経営に貢献します。
また、我々の施設の中でデジタルサイネージ、サインボード、のぼり、さらに屋外広告などについて、我々は最初から動線を考えたうえで、どこに広告を出せば最大のアイボール(見ることの出来る、媒体露出人数)のカウントができるかということを綿密に計測したうえで、これを地方自治体に持っていって許諾を取るのです。渋谷の交差点の看板や大形ビジョンのように多くがばらばらに設置されることを許すと、街の美観が損なわれます。統一した設計で渋谷の交差点のサインボードやデジタルサイネージをつくっていないので、景観が崩れています。 AEGでは事前にすべての景観デザインを設計したうえで、どういったサイネージを街作りにフィットさせれば町全体が賑わうか、どのような雰囲気が醸し出されるか、邪魔にならないかを検討します。景観として町のデザインにフィットすることによって、AEGも看板の売上からの利益を最大限追求しています。
ロンドンのO2アリーナは、実は都心から交通の便のよくないところにありました。工業地帯だったグリニッジ半島と言われる都心部から離れたところに建っているので、観光客が好む町の中心部にはないのです。最近は地下鉄とバスのアクセスが充実してきましたので、交通の便は悪くありませんが、そういう場所でより多く集客して、観光名所的に商業施設も栄えさせるためには何をしたらいいかと考え、テムズ川を行き来する水上バスを賄おうということになり、テムズ川の大形高速フェリー8艘をAEGが自社で経営し、ロンドン市の中心部や観光名所からのアクセスを大幅に改善しました。マカオの新しいカジノ街が開拓されたときに、それまでフェリーの港は離れたところにあったのですが、新しいカジノ街をどうやって栄えさせるかという都市設計の中で、ラスベガス・サンズ社は自ら第2の水中翼船サービスを開始、水中翼船を20艘購入し、香港の国際空港とセントラルから直接フェリーで行き来できるようにし、それも24時間、30分〜1時間ごとに送客するということを始めました。それがマカオの現在の盛況につながっていると言われていますが、同じような発想で、アリーナをつくる場合にはトラフィックアクセスをいかにしてつくるか。さらに、商業施設は顧客に期待感、ワクワク感をどうやって抱いてもらうかということを非常に重要視し、意図的に開発計画に組み込んでいます。
18年10月にグランド・オープニングを控える、ベルリンのメルセデスベンツ・プラッツ再開発は、もともとは旧東ベルリンの鉄道操車場跡です。基本的には側に川が流れているだけで何もないところだったのですが、ここにアリーナを建て、エンタメ施設を核に都市開発を行うことにより、ベルリンの中に娯楽を核とした新たな観光地とオフィス、住宅棟も含む副都心をつくりあげてしまうということで開発を手がけました。その結果、さまざまなエンタメ施設、それからオフィス棟、またレジデンス棟、メルセデスベンツ本社まで誘致し、いまやメルセデスプラッツという新しい町が誕生しています。ただ、核はあくまでもメルセデスベンツ・アリーナですから、エンターテイメント施設が町の開発のシンボルになっています。
我々は今後、日本でこういった総合開発を進めて行く計画ですが、基本理念はスポーツ、エンターテイメント、施設の統合で、3つの連携こそが成功要因と考え、事業開発に臨んでおります。
▶︎本稿は、2018年6月5日(火)に早稲田大学国際会議場で開催された「スタジアム&アリーナの新展開~エンターテイメントから街づくりまで~」の講演内容をまとめたものである。