スポーツビジネスの振興

スポーツビジネスの振興
三木谷浩史│楽天株式会社代表取締役会長 兼 社長

はじめに

本年6月の政府の成長戦略でスポーツビジネスの振興が大きく位置付けられたところであるが、楽天野球団の事例を交えながら、自分の考えを以下に述べていくことで、今後のスポーツビジネスの振興政策の在り方の議論に貢献できれば幸甚である。

楽天野球団の挑戦

今年で設立してから14年になる。当時はプロ野球危機というものがあった。プロ野球はどちらかというと縮小均衡しようとしていた。近鉄とオリックスが合併して、さらにもう一個合併させて、リーグをどちらかというと小さくして、縮小均衡だという流れの中で楽天野球団は手を挙げて進出したわけだが、これが完全にプロ野球のダウントレンドを変えたと思っている。我々が参入した当初の宮城球場は、正直に言えば、こんな老朽化したボロの球場で誰がやるんだという中で始めた。現在のkoboスタジアム宮城は、今年から天然芝に全面張り替え、外野席に観覧車をつけ、3万人近い観客が動員できるようになった。また、日本のプロスポーツの中で最大のグッズの販売ステーション、それから、さまざまな形で地域貢献活動というものをどんどんと進めている。観客動員は非常に順調で、去年が150万人だった。今年はスタジアムを増強し、今のところ2万6,0 0 0人以上である。平日の昼間で2万6,000人集まり、仕事を休んでいっぱい見に来るというようなところまで進化してきている。ファンクラブの会員が多いとともに、男性、女性問わず来ており、その他の東北の県からも来ている。経済効果は優勝時点で約230億円となっている。

日本のスポーツビジネスに必要なこと

ここまで楽天の事例を述べてきたが、ポイントをまとめたい。まず1つ目のポイントは、アントレプレナーシップをスポーツビジネスにどうやって持ってくるかということである。今までにないような観覧車を外野席につくってしまうとかである。ボールパークだというのは、大企業ではできない発想というものを、ベンチャーが入ってくることによってどんどんと新しいことをやっていくということによって盛り上がってきているということなので、どうやってベンチャー、アントレプレナーシップをスポーツビジネスに持っていくかが重要である。これはNBAにせよ NFLにせよ同じことである。MLB、NFL、それから、ほぼ全てのプレミアムリーグのオーナーは大体、大資産家かベンチャー企業となっており、彼らが新しい最先端のビジネスメソッドをスポーツ経営に持ち込んでいるというところがポイントである。その中で、アメリカと日本とは置かれている立場が全然違う。支援も大量にあり、また、農産物も非常に豊富であるアメリカという国と、資源がない日本における目指すべき経済方向性というものは大分違う。楽天の経済効果は230 億だが、あくまでもこれは国内で金が回っているという話で、外部経済からどうやって金を引き入れてくるかを考えると、世界レベルのリーグを確立して、世界にコンテンツを売る、世界の人が見に来たくなるというものをやる必要がある。それによる副次的な効果としては、日本のブランド向上があげられる。プレミアリーグは明らかにイギリスのブランド向上につながっていると思うし、レアルマドリード、FCバルセ ロナはスペインのブランド向上につながっている。メディアがリーチできることによって、いろいろな意味での副次効果も出てくるし、また、外国人観光客が日本に来るということも出てくる。経済規模については、図をみていただくとわかるとおり、日本のプロ野球も結構がんばっていた。1995年、たかだか20年前だが、このときの日本のプロ野球の売上とアメリカのメジャーリーグの売上は、ほぼ一緒だった。これがこの20年間の間にMLBは6.8倍になった。
日本のプロ野球はほぼフラットということで、この差は何なのかを問うべきである。これはやはり1つは分配金のシステムが違うことである。それから、地方からの支援が違うということもあるのかなと思うが、一番のポイントはやはり日本人だけでやっているスポーツであるということである。今、中国サッカーのスーパーリーグというものがあり、こちらのほうがブラジル代表だ、アルゼンチン代表だ、ヨーロッパのほとんどの国の代表が根こそぎ集まっており、残念ながらJリーグは圧倒されている。時々対戦するとJリーグが勝ったりするが、いる人の魅力あるいは観客動員においても完全に負けつつあるというのが現状であり、そんなに悠長な状況ではない。例えばSNSの積極的な活用もあり、全然広がりが違ってきているということで、中国の脅威というものは非常に大きいものがある。

これからすべきこと

では、その中で何をしたらいいかということであるが、 1つは、スポーツ施設整備への支援の拡充である。楽天の現在やっているkoboスタジアム、正式名称は宮城球場だが、実質的なお金は全部我々が出して、寄附という形で宮城県にさせていただき、そのかわりに管理許可を得て使用する権利をいただいているという構造だが、アメリカの場合はそうなっていなくて、基本的には民間オーナーシップである。アメリカの場合はいろいろな税制優遇があったりするが、規模が違うからなかなか投資採算に合わない。なおかつ莫大な土地を使うので、この場合の固定資産税は非常に大きいので、もし民間にやらせるということであれば、スポーツ施設等に関しては固定資産税を免除するという特例措置が必要である。
また、宮城県にはお金の支援はほとんどいただいていないが、アメリカの場合はプロスポーツに関してはかなりの補助金が出ているので、そこら辺もあわせて考えるべきだろう。
2番目は、外国人枠の問題である。日本のスポーツがなぜ海外のメディア価値がないかというと、外国人枠があるためである。プロ野球であれば4人。Jリーグで言えば外国人枠は3人+アジア枠が1つ。あとはC契約とかいろいろあるが、一方、ヨーロッパのリーグについてはEUでほとんど外国人枠はないということだし、メジャーリーグについては時々ほとんどアメリカ人がやっていないときがある。一時、ニューヨークヤンキースがA.ロッド 以外は全員外国人であるというときもあった。私は、プロスポーツはウィンブルドンでいいと思っており、ウィンブルドンになることによって日本のプロ野球、Jリーグあるいはbjリーグ、あらゆるスポーツを海外の人が見るようになる。日本のいわゆるナショナルチームの強化は今も下部リーグがあり、そこで十分なされるので、トップリーグについては、大相撲のように、基本的に外国人枠は撤廃して世界から一流の選手を集めてくることによって外国に対するメディア価値も上がるし、観光客も見たくなるということでやるべきだと思う。
3番目は、サッカーの振興くじtoto、これが実際にはサッカーに十分還元されておらずスポーツ全般に使われているということで、もう少しサッカーに返していただいていいのではないかと思っているが、いわゆるアンダーグ ラウンドのスポーツ賭博を廃止するという意味においても、広範にそのような特殊性のないくじのような形のものは、プロ野球を初めほかのスポーツでもどんどん導入すべきである。これはかなりの興行収入にもなる。
その他としては、プロスポーツチームによるスタジアム管理運営の推進である。わたしは、サッカーはヴィッセル神戸をやらせていただいており、これは赤字であり、イー グルスは黒字である。どうしてかというと、我々がスタジ アムを管理しているためである。メジャーフランチャイズを持っているスポーツチームがスタジアムの管理をするという方向に持っていくべきかと思っている。

さいごに

今後、政府のほうで、強力にスポーツ施策の振興が行われていくと思うが、上記の観点が盛り込まれていくのか注視していきたい。

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