スポーツ庁ビジネス便り
スポーツ庁ビジネス便り
由良英雄│文部科学省スポーツ庁参事官
11月から年末にかけて、横綱日馬富士関の問題ではメディアの報道も過熱しました。暴力根絶を強く訴えてきたスポーツ庁としても、八角理事長から鈴木大地長官への報告などで相撲協会のガバナンス強化を含む対応を促してきました。日本の大切な文化でもある大相撲の更なる発展を祈念してやみません。平成30年を迎えるに当たり、スポーツ庁の最新の情報をお届けします。
1. 平成30年度政府予算案
平成30 年度の政府予算案がまとまりました。また、平成29年度補正予算案も合わせて決定されました。スポーツ庁関連では、2020大会前の強化拠点としてのナショナルトレーニングセンターの拡充、中学校の部活動指導員の配置促進、健康のためのスポーツ促進の取組事例の支援などの予算が計上されています。
スポーツの成長産業化の関連では、①スタジアム・アリーナの先進事例創出支援
②スポーツ経営人材の育成と競技団体の経営改善支援
③アスリートのセカンドキャリア支援のための官民連携などで取組を拡大するほか
④地域におけるスポーツ・エコシステムの検討
⑤スポーツビジネスの国際展開の市場調査
なども盛り込まれました。
2. 人づくりを実現する新しい経済政策パッケージの閣議決定
アベノミクスの取組を更に強化するための「新しい経済政策パッケージ」が12月8日に閣議決定されました。今後3年間の集中投資期間に取り組むべき事項を明記し、生産性革命と人づくり革命を車の両輪として位置付けて取り組んでいくこととされました。
スポーツの成長産業化もその中の項目として位置付けられ、スタジアム・アリーナ改革の推進、スポーツ経営人材の育成と活用のための仕組み作りなどを推進することとされています。
3. 経営人材研究会
経済産業省サービス産業室とともに、スポーツビジネスを担う経営人材の確保、活用策に関する議論を行っています。経営人材の育成のためには、教育研修のカリキュラムを充実していくことはもちろん大切ですが、スポーツビジネスの分野は特に日々のオペレーションの中から事業を育てていくことが求められますので、生々しいクラブ経営の具体的ケースに対応できる分析力の習得や現場を経験する模擬実践(インターンなど)の場、転職を円滑にできる仕組みづくりも重要です。また、受け入れる企業、団体側でも人材に対して先行投資できるような経営環境や思い切った権限委譲に取り組むことが必要です。
現在様々な大学のスポーツ学部や大学院においてスポーツマネジメントの人材育成が行われていますが、その更なる充実のため、経営学科の科目の履修と連携を広げることや大学外で提供されている現場の素材を取り入れていくなどの新しい動きを促進していく必要があります。
また、例えば、スポーツ・ヒューマン・キャピタル(SHC)では、Jリーグなどリーグ経営の現場に近い強みを活かして転職マッチングや人材投資促進の強化を図っています。経営人材の候補者のプールを広げていく中で、適材適所の人材の参入、キャリアアップを支えていくことも可能になっていくものと思います。
スポーツ庁としても、こうした人材の育成や活躍の枠組を変えていくための取組が進むよう検討していきたいと考えています。
4. スポーツ・アナリティクス・ジャパン(SAJ)2017
スポーツのデータ・アナリティクスを核としたスポーツ×テクノロジーのカンファレンスSAJが12月2日お台場の未来科学館で開催されました。米国大リーグ(MLB)に変革をもたらしたMLB Advanced MediaのInzerillo 氏の講演を始め、映像分析のスペシャリストや競技力強化の最前線のキーパーソンも集結して白熱した議論が行われました。
スポーツ経営人材の発掘、活躍の場面を拡大していく登竜門としても重要な役割を果たすカンファレンスです。先進的な発表に加え、学生対抗の分析コンテスト
「SAJ甲子園」もプログラムとして行われました。
開催の体制の中では、スポーツ庁、スポーツ産業学会も協力・後援に名を連ねています。スポーツ庁では、今年はスポーツチームにおけるデジタルマーケティングに着目して、ヤクルトスワローズの取組と成果の実例、Jリーグでのデータ統合の方向性などの紹介をもとに将来像を探るセッションも提供しました。
来年は、さらに殻を破った新たなスタイルで開催することが検討されており、スポーツ庁、スポーツ産業学会もその一翼を担っていくべきと考えています。
5. 日本版NCAAの組織と機能
日本版NCAA創設に向けた学産官連携協議会は、学業充実WG、安全安心WG、マネジメントWGの3本立てで議論を進めており、12月12日にはそれぞれのWGの検討状況を持ち寄ってWG座長会+合同WGも開催しました。
①学業充実WG 各大学の取組を促進する意味で、体育会系アスリートの学業成績をその指導者である部長や監督が把握し、必要な指導を行える仕組み作りのガイドラインを作成することなどを検討中。
②安全安心WG 脳、心臓、熱中症など重大な障害につながる事故の防止のための共通ルールの徹底や種目別、課題別の情報を一体的に収集提供できる情報集約機能を持つことなどを検討中。
③マネジメントWG 各事業を担当する委員会のほか新たな事業を立案する体制を置くことなど組織構成を検討中。学生競技団体がそれぞれに実施している事務処理や大会運営を効率化する支援なども検討の視野に入れている。
3月までに構想を設立趣意書案としてとりまとめ、新たな体制の立上げに賛同する大学、団体などの主導により実現のための準備を進めていく枠組を固めていきたいと考えています。
6. スタジアム・アリーナの運営とまちづくり研究会
スタジアム・アリーナ改革の実現のため、具体的な先進事例の創出を支援する地域連携協議会事業を進めていますが、共通して課題となる運営体制の検討やまちづくりの視点からのキーポイントの特定などについて指針の充実を図るため、研究会を開催しています。
12月8日の第1回では、アリーナの収益力の確保のためには音楽のコンサートも収益源として明確に位置付け、そのために必要な施設や設備転換手順を標準化することなど、アリーナ単体だけでなく視野を広げた対応が必要との議論が展開されました。3 0 年3月までに数回の会合を開催して、具体的な対策を取りまとめます。
7. スポーツGVAの試算(2014年6.7兆円)
スポーツの成長産業化を計測する手段として、スポーツに関わる産業が生み出している付加価値額(GVA) の総計を算出するスポーツGVAを試算しました。日本政策投資銀行・同志社大学の研究会において、スポーツ庁、経済産業省なども協力して行ったもので、英国においてロンドンオリンピックを契機に実施された算出手法を日本のGDP統計・産業連関表に当てはめて使用することにより、国際比較可能かつ経年変化を確認できる試算となりました。
試算の結果、2 014 年時点での日本のスポーツGVAは6 .7兆円とされました。スポーツ庁では、現時点でのスポーツの市場規模はおよそ5 .5 兆円としてきましたが、これは教育の中でのスポーツ関連の費用(例えば学校の体育館の建設費)など成長産業化と唱っていく際にぴったりと当てはまりにくい事項を除いて5.5兆円と説明してきたものであり、それぞれ合理性のある数値です。
今後引き続き、毎年のスポーツGVAの試算を進めて行く予定ですが、その際、スポーツGVAの計算に当たっては、例えば、情報通信や旅行業といった分野で、そのうち何%をスポーツ関連として算入するのが適切かといった点で検証や年々の改訂を続けていく必要があり、そのような精緻な作業を継続していきたいと考えています。