企業スポーツはスポーツGDPに含まれるのか

企業スポーツはスポーツGDPに含まれるのか
同志社大学スポーツ健康科学部准教授
庄子博人

日本のスポーツ界の特徴として、企業スポーツあるいは実業団スポーツの存在があります。陸上競技、バレーボール、ラグビー、卓球など、多くの競技で企業がチームを保有し、選手を社員として雇用しながら競技活動を行っています。日本のトップアスリートの育成や国際競技力の向上において、企業スポーツが果たしてきた役割は極めて大きいと言えるでしょう。調べてみると、実業団チームを保有している企業数や実業団チーム数を網羅した正式な統計はないようですが、日本トップリーグ連携機構に加盟している12リーグだけで330チームも存在しています。では、このような企業スポーツはスポーツGDPに含まれるべきでしょうか。

スポーツGDPは、国民経済計算(SNA)の枠組みに基づき、スポーツに関する財・サービスの生産活動を計測したものです。スポーツ用品の製造、スポーツ施設の運営、スポーツ教室、プロスポーツ興行などは、スポーツに関連する財・サービスの生産活動として比較的把握しやすい分野です。一方、企業スポーツは、その活動を維持するために人件費や施設費など様々な費用が投入されているものの、その活動によって何が生産され、誰に提供されているのかが必ずしも明確ではありません。そのため、企業スポーツのように市場取引を目的としない活動については位置づけが必ずしも定まっていないのが現状です。

例えば、企業が陸上部を保有している場合を考えてみましょう。企業の会計上、選手や指導者に支払われる給与は人件費として計上されます。また、遠征費、合宿費、用具費、施設維持費なども費用として処理されます。企業によって勘定科目は異なりますが、販売費及び一般管理費、福利厚生費、広告宣伝費などとして計上されている場合が多いでしょう。

一方、SNAではこれら費用を別の視点から捉え、中間投入(費用)と付加価値(要素所得)に分解して記述します。選手や指導者の給与は雇用者報酬として付加価値に記録されます。また、企業スポーツを企業内のスポーツ活動を生産する組織とみなすならば、遠征費や合宿費は、その活動を実施するために必要な交通サービスや宿泊サービスの購入であるため、中間投入として解釈できるでしょう。さらに、競技施設や大型トレーニング機器のように長期間利用される資産は固定資本として整理され、その価値の減少分は固定資本減耗として計上されます。これは企業会計における減価償却費に相当する概念です。

ここで注目すべきは、企業スポーツに関する支出そのものは、SNA上も理論的には把握できるという点です(ただし、企業会計からスポーツ部門の費用のみを実証的に抽出・調査できるかという、現実的な課題はもちろんあります)。実際、SNAでは市場で販売されていない活動であっても、生産活動として認識されれば、その産出額を費用の積み上げによって推計することができます。例えば、一般政府(公立学校や警察、消防など)や、対家計民間非営利団体などは、市場価格による売上高が存在しませんが、人件費や中間投入、固定資本減耗などの費用を積み上げることで産出額を推計しています。もし企業スポーツを独立したスポーツサービスの生産活動として認識するのであれば、同様のロジックが適用できるはずです。選手給与、指導者給与、中間投入、固定資本減耗を積み上げることで、企業スポーツ部門の産出額や付加価値を推計することが可能になります。つまり、「市場取引がないからスポーツGDPを計算できない」のではなく、「企業スポーツを独立した生産活動として認識するかどうか」が問題であると思います。

企業スポーツは本当に独立したスポーツ生産活動なのでしょうか。例えば、自動車メーカーが陸上部を運営している場合、その活動は本業である自動車生産とは異なるスポーツ活動です。その意味では、企業内に存在する一つのスポーツサービス生産部門とみなすこともできるでしょう。一方で、企業スポーツは福利厚生、広告宣伝、CSR活動などとして説明されることも多く、企業活動の補助的な機能として理解される場合もあります。この場合、企業スポーツは独立した生産活動ではなく、自動車製造業の活動を支える本業の中間投入(費用)として整理されることになります。

実際には、多くの企業スポーツは両方の性格を持っています。競技会への参加や選手育成という点ではスポーツサービスを生産しているようにも見えますが、その活動目的は広告宣伝や企業イメージ向上、あるいは社会貢献にも及んでいます。そのため、企業スポーツを独立したスポーツ産業として切り出すべきか、それとも親会社の活動の一部として捉えるべきかどうかは、必ずしも自明ではありません。

この問題は単なる統計技術上の問題ではなく、スポーツ産業の境界(バウンダリー)をどこに設定するかという本質的な問いを内包しています。もし企業スポーツを独立したスポーツ生産活動として認識するのであれば、日本のスポーツGDPは現在よりも大きくなる可能性があります。一方で、それを認識しないのであれば、企業スポーツは自動車産業や電機産業などの費用として埋もれたままになります。

 

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