コロナウイルス問題に対するゴルフ業界の対応と今後の展望について

コロナウイルス問題に対するゴルフ業界の対応と今後の展望について
服部 宏│株式会社ダンロップスポーツエンタープライズ

弊社はプロゴルフトーナメントの企画運営をしております。
ちょうど3か月前の2月14日、3月に沖縄で開催される開幕戦に向けての打合せをしている最中にそのニュースが飛び込みました。「沖縄県で1人目の感染」という速報でした。
開幕戦は3月2日から始まるため16日前の出来事でした。その後主催者、日本女子プロゴルフ協会、地域、関係各社との協議を重ねましたが、2月28日に中止が決定しました。その後現在まで、女子ツアーは18試合、男子ツアーは8試合の中止が決定し、現在も開幕ができない状況が続いています。

ゴルフ業界全体への影響

まず、ゴルフ業界につきまして紹介させていただきますと、ゴルフ規則や都道府県のゴルフ連盟をとりまとめる「公益財団法人日本ゴルフ協会」、3つの「プロゴルフ協会」、「用品・産業・ゴルフ会員券などの諸団体」、「ゴルフ場やゴルフ練習場という施設関連の諸団体」などたくさんの団体がそれぞれの領域にてゴルフの普及発展の目的で活動するとても大きなスポーツ業界です。そのうち16の団体では「日本ゴルフサミット会議」という議会での情報や意見の交換、共同活動宣言等を行い、日本国内のゴルフの諸活動が進められています。

4月7日、政府は「新型コロナウイルス感染症」の拡大防止の為、7都府県(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県・大阪府・兵庫県・福岡県)を対象に、「緊急事態宣言」を発令しました。その後4月16日には「緊急事態宣言」を全国に拡大し、先の7都府県と同程度に蔓延が進んでいた6道府県(北海道・茨城県・石川県・岐阜県・愛知県・京都府)を緊急事態措置が必要な区域に加え13都道府県を「特定警戒都道府県」としました。
ゴルフ場は各自治体で発表している「緊急事態措置」において休業要請の対象施設にはなりませんでしたが、経営は難しくなりました。ゴルフのプレー以外にもクラブハウス等の施設(1000㎡以上の屋内施設の自粛要請)、キャディ等のサービス部門、レストランの飲食部門、コース管理(グリーンの旗竿やバンカーレーキ等の共有備品など)において、いろいろな感染拡大防止策の観点から、クラスターを引き起こすような3密はないものの、それぞれの部門において検討する場合、注意が必要な箇所が多く存在することが確認できました。どこかからの指導や指摘があったわけではなく、感染者をださないように各事業者の自己点検により、サービス提供の停止、密集エリアの使用制限により、営業形態の変更をするゴルフ施設が多くなりました。
飲食方法を簡略化する、浴室の利用を禁止する、ゴルフバックの運搬などを自身で行う等、通常より削減されるサービス、スループレーや1人プレーの導入や、複数組でのゴルフコンペ制限、県外移動の自粛要請などと外出自粛要請などもあいまって、「利用客減少が加速」、「プレー料金を値下げ」とう循環が生まれました。但し、コース整備(芝刈り)や施設(証明・空調・人員)は同じであり、仕入食材の抑制以外はコストが通常通りにかかるということもあり、その循環は大きく早くなる事態となりました。
日本ゴルフ場経営者協会のデータによりますと、「ゴルフ場の営業を自粛」したゴルフ場は、全体の約7%であり、感染拡大を防止し早く収束させ通常のゴルフ場経営に戻すという考えに基づくそうです。残り93%のゴルフ場はサービスを制限し感染防止策を講じて営業を継続したとのことでした。但し前述の通り、客単価は低下していることが予想され、新型コロナウイルス感染症についてのダメージは計り知れません。
現時点では、緊急事態宣言が発令されている期間の営業数字はまだでておりませんが、終息が見えない状況下では、まだまだ厳しい状況が続くことは間違いないことです。

プロゴルフツアーへの影響

新型コロナウイルスの影響で、国内男女ゴルフツアーは、今シーズンは開幕できておりません。(5月22日時点) 男子ツアーは、4月の開幕から6月までの大会の中止が決定し、女子ツアーは3月の開幕戦から7月上旬までの18試合が中止となり、シーズンで約半分の中止が決定しています。現在は「緊急事態宣言」が継続する最中であり、今後宣言が解除されても、感染の第2波、第3波が再流行し、再度「緊急事態宣言」等が発令される可能性が残る現状においては、引き続き警戒と準備と両方成立させながらの、残りシーズンの実施可否を検討していかなくてはなりません。
ゴルフという競技は、屋内スポーツに比べると「3密(密閉・密集・密接)」を避けやすい競技ですが、プロトーナメントとなりますと、その競技特性として問題になることも多くなります。

出場選手及び選手に帯同する関係者が多い
出場選手は、84~156名(時期・日照時間により変動)、競技中に選手はキャディを帯同する。(ゴルフクラブの運搬・アドバイスができる帯同者)また、選手には、キャディ、コーチ、トレーナー、マネージャーや家族(2名までAD配布)が随行します。またこれ以外に契約メーカーのサポートスタッフが会場には詰めていることになります。上記の選手関係者に加え、プロ協会関係者、主催者、大会事務局、テレビ放送スタッフ、取材メディア等々を計算しますと、無観客で開催しても1000名近い関係者が存在します。
個人スポーツ、全国からの移動
加えて、チームスポーツとの違いは、宿泊・移動という試合会場外においては選手個人で行う必要があることが大きな問題です。更に毎週主催者、大会事務局、テレビ放送局が毎週変わることなど、プロゴルフトーナメントの構造上の問題も大きな原因となり、その大半が全国の都道府県から集まるという状況が原因で中止せざるを得ない状況を作りました。

ガイドラインの完成

5月4日。安倍首相は、「緊急事態宣言の延長」を決定しました。しかし、そのタイミングにおいて10日後となる5月14日に再度専門家会議と政府対策会議を開催し「業種別ガイドライン」を作成することが決定しました。経済産業省、スポーツ庁との協議の結果、「ゴルフ関連」におきましては、3つの業種別ガイドラインを作ることが決定いたしました。 ①ゴルフ場に関するガイドライン(日本ゴルフ経営者協会・日本パブリックゴルフ協会・経済産業省にて作成)
②ゴルフ練習場に関するガイドライン(全日本ゴルフ練習場連盟・経済産業省にて作成)
③日本国内プロゴルフトーナメントのガイドライン(関連5団体・スポーツ庁にて作成)
上記①と②のガイドラインは5月14日、③のガイドラインは5月20日に発表されました。
上記③「プロゴルフトーナメントのガイドライン」は、日本野球機構(NPB)およびサッカー・Jリーグの対策連絡会議での提言を参考にしてまとめられ、ゴルフトーナメント独自のリスクを明確にしました。大会開催の可否は政府および開催地の自治体の見解に従うこと。緊急事態宣言発令中は、特定警戒都道府県では「中止する」、それ以外の地域での開催についても県境を越えて観戦する観客の識別等は困難で、「当面は無観客で開催とする」と定義されました。また実施基準が段階的に設けられ、①通常開催、②催物(プロアマ大会など)の縮小、③無観客開催、④非公開開催、⑤延期・開催地変更および中止を検討することが定義づけされました。感染症拡大期には①~⑤と制限し、感染症減少期には⑤~①へと制限を緩和するガイドラインが提言されました。
開催時の感染予防対策、各大会の医療・検査体制が指導され、選手の出場規則、外国人選手の来日に関する問題などツアー開催における規則・規定の整備、人との接触増にともない、感染リスクが高くなるクラブハウス内での食事会などを極力避けること、受付や精算時における対人業務の簡略化を推奨。また、選手・関係者が全国から集まることや、選手と観客との距離が他競技に比べて近いことを特徴に挙げ、サインやハイタッチなどファンサービスの方法の変化、来場者についてはサーモメーター等を利用した検温の実施、マスク着用を呼びかけ、各大会が手指消毒剤を設置するなど感染予防策を講じるなど、コロナ禍における再開にむけての手引きができました。

新たな開幕に向けて

まだ終息しない状況ではありますが、私が従事しているプロゴルフトーナメント(言い換えればプロスポーツ、スポーツ競技会、イベント)は、「社会・経済・地域」と深く密着しているということ、また人を集める責任や果たす役割の大きさの再確認ができたこと。今まで制定・準備していた規則や資格、規定、運営マニュアル、イベント構造、アピールポイント、宣伝効果などすべてが、この状況下においては通用しなかったということがわかりました。
試合数が半減すると資格はどうするべきか、仕組みはどうするべきか、選手や下支えする人々をどう守るか。スポーツイベントのブランドイメージや広告宣伝効果ばかりを考え、唱えていたのではないか。地域・社会との協力体制や地域への還元はどうであったかなど、いろいろな部分を見直す機会を与えられたこと。
再開後にはより強くするという意欲を持てたこと。ガイドラインの作成に一致団結できたことは有意義でありました。 新しい開幕に向けて、スポーツの力、すべての再点検を急ぎます。

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