オンラインヨガプログラムの展望

オンラインヨガプログラムの展望
渡辺久美│桜美林大学芸術文化学群・特任講師

コロナウイルスによる緊急事態宣言後、オンラインでのヨガ・ワークアウトの受講者数が大きく増加したと言われている(スモールブリッジ)1)。今般のコロナ禍が落ち着くことで、ヨガスタジオやフィットネスクラブ等での対面プログラム(SP: Studio Program)は再開となるが、オンラインプログラム自体はSPとは異なる独自の形で今後も発展していくことが想定される。オンラインプログラムには、ビデオ型とライブ型とがあるが、本稿では、今後の発展が期待されるライブ型のオンラインヨガプログラム(OYLP:Online Yoga Live Program)について、その現状と今後の展望について論考する。

OYLPとは何か

本稿で言及するOYLPとは、Web空間を介して同一時間(リアルタイム)に交わされる双方向通信技術を活用した指導プログラムである。Skypeやzoomなどのアプリを活用して配信され、画像情報が双方向に共有される。SPと対比すると「実空間/Web空間」という差異があり、ビデオ型プログラムと対比すると、リアルタイム性で区別される。
スモールブリッジが展開するカフェトークの講座サイトでは、5月21日時点で501件のOYLPが提供されており(内、 187件は海外居住者から)、今回の緊急事態宣言期間中の講座数は、前年同期の3倍近く(186%増)に達していると報じられている2)。

OYLPの特徴

OYLPでは、Web空間を活用することによって、スタジオに足を運ばず自宅でヨガの実践が可能である。また、リアルタイムで行われるため、いつでも視聴可能なビデオ型とは違い、指導者と利用者が同じ時間を共有しながらプログラムが進行する。実空間は共有しないため、空間的な参加者人数の制約はない。もちろん、参加人数が多くなるほど、指導者と利用者とのコミュニケーション機会が希薄になることは否めないので、無尽蔵に人数を増やすことはできないが、参加者と指導者とのコミュニケーションを公平に保つことも可能になる(後述)。
一方、利用者にとってはスタジオへの移動時間が不要であり、その間、有効に時間の活用ができる。さらに集団プログラムではあるものの、自宅環境は他者を気にすることなくヨガが実践できる空間となりうる。
しかしながら、指導者にとっての一番の問題は、PCを介して利用者の状況や動作の把握がしにくいことだろう。映し出される利用者の画面は小さく、効果的な動きのフィードバックが困難である。また二次元の画面世界では、指導の立ち位置(ポジション)と見せ方、わかりやすい伝え方の配慮が必要である。これと対比し利用者は、PC上からの細かな動きはわかりにくい。鏡のない環境や指導者から効果的なフィードバックが得られなければ、利用者が自己流になることも予測される。

成功する秘訣

上述した現状を踏まえ、OYLPが成功する秘訣を挙げる。
1)Web(PC)を介したコミュニケーションの独自性(特異性)を最大限に活用
利用者は、目の前に指導者がいるような感覚「ライブ感」を求めている。ビデオ型との大きな違いでもあるが、オンラインだからこそ、 指導者と共にプログラムが進行している感覚が必要である。
さらに、PCの画面が小さいため、聴覚からの情報を十分に活用すべきである。つまり指導者は的確な動きを見せるだけでなく、わか りやすい言葉で利用者を誘導し、効果的な言葉がけをすることで、 よりよい動きの変化につながることを意識したい。
2)経験者と初心者の差別化
オンラインとなると、動作に習熟している経験者からヨガ初心者ま で様々な層が混在する。利用者人数が増えれば、利用者の状況把 握に限界がある。一方で、初心者は、ヨガの専門用語の羅列に馴 染めない。さらに、PCの画面から動きが捉えにくい状況は初心者 を戸惑わせる要因にもなる。クラス設定をし、対象者のレベルに あった内容を提供していく必要があるだろう。
3)集団の中にある1対1のコミュニケーション
SPでは、利用者がスタジオのどの場所で受講するかで、指導者と の物理的な距離に差異が生じる。しかし、OYLPの場合、参加人数が多くても実際に目の前に映し出される指導者との距離は、パソコ ンと利用者の距離に過ぎない。これは、集団プログラムでありなが ら、自分一人に向かって指導を受けている感覚と近く、物理的距離 感だけでなく、心理的距離感が近くなる可能性がある。先に利用者 の状況や動作の把握がしにくく、効果的な動きのフィードバックが 困難であると述べたが、平等な距離感でレッスンを進行することが 出来るとなれば、いかに利用者に対して、より良い言葉がけができ るかが重要となってくる。プログラム前後のコミュニケーションも その一つかもしれない。

まとめ
Web空間とリアルタイムのOYLPは、集団プログラムと共に個別に近い指導が受けられる特有の状況を生み出している。したがって指導の工夫や環境の改善により、多くの方がヨガを継続できるのではないだろうか。今後のOYLPの展開に期待したい。
▶ 1)スモールブリッジ、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/ 000000001.000007081.html  2020年5月14日閲覧
▶ 2)「オンライン習い事 人気は「ヨガ・ワークアウト」スモールブリッジ 緊急事態1カ月」日本経済新聞 2020年5月9日付朝刊

関連記事一覧