eスポーツアリーナの可能性とIT環境の役割
eスポーツアリーナの可能性とIT環境の役割
岩瀬功樹│梓設計
古澤明仁│RIZeST代表取締役/日本eスポーツ連合国際委員会委員長
影澤潤一│NTT東日本 ビジネス開発本部
米国では、eスポーツのリーグがホーム&アウェイで行われることが計画され、その専用アリーナの建設も構想されている。本邦においても様々なeスポーツイベントが開催されており、その多くは小規模専用施設で開催されているが、昨年幕張メッセで開催されたリーグオブレジェンドの日本決勝戦では4千枚のチケットが即日完売したと言われている。そこで、本会では、eスポーツゲーム実施・運営ならびに施設設計の各々の観点から「eスポーツアリーナのあり方」について話題提起をいただいた。
───コーディネータ : 中村好男 早稲田大学教授
設計者の視点から見た eスポーツアリーナ
岩瀬功樹│梓設計
私たちが描いている“NEXT ARENA(次世代のアリーナ)”は、1)ユニークなデザインの追求、2)アリーナタイプの追求、3)おもてなし(ホスピタリティ)の追求、という3つの大きなコンセプトを掲げています。
まず最初に、“ユニークデザイン”の追求ですが、「ぱっと見たら、このアリーナのことは忘れない」というようなアリーナをつくりたいというのが、私たちの狙いです。 例えば、アトランタのメルセデスベンツスタジアムは、世界観が統一されているというか、大きな建物なのですけれども、ファルコンズの印象を踏襲し、エントランスや機能のデザイン、そして外観(シンボルとしての羽)のデザイン。こういったところが、いろいろやられている。eスポーツの専用アリーナでも、韓国のLoL-Parkは、小規模であっても同じことがやられているようです。
例えば、エントランスとかのゲームの世界観とか、早速没入させてくれますし、いろいろな内観デザインも世界観に没入できるような仕組みがたくさんちりばめられていて、ここに来れば「あっ、来たな」みたいな感覚をもたらしてくれる。一種のテーマパークみたいなキャラクターがそろっているのかなと分析できます。私たちも、“インスタ映え”する写真を撮ってもらえるような空間、おもしろい空間とか驚くような場所があったらいいなと思って、アリーナとかスタジアムを計画しているつもりでおります。
2つ目は“アリーナタイプ(用途)”の追求。スタジアムでもアリーナでも、いろいろなイベントへの展開性と多目的利用に対応することが日本では特に多いですし、海外でも十分考えられています。私たちが分析するのは、スポーツタイプだと“ロの字”とか、音楽専用アリーナだと“扇形”がいいじゃないかと、じゃあ今後そういう多目的な日本のニーズに対応していくのは、もしかしたら“U字”がいいんじゃないかなとか、ステージ常設でやっていくのが、もしかしたらステージ収益性も上がっていいんじゃないか、などと検討しています。
また、サブホール併設という考え方も大事です。例えばスポーツのときウォームアップコートに使ったりだとか、イベントのときは物販に使って収益を上げるとか。サブアリーナでもコンベンションでもレセプションでも何でもいいのですけれども、そういった併設型のサブホールが必要なのではないかと考えております。 3つ目の“おもてなし”の追求。当たり前のことですが、ホスピタリティが重要です。海外の方もいらっしゃっても楽しめるようなアリーナが重要で、前述しました“映えるポイント” と連携して、同じような感覚で皆が集まれるような“スナッキングできるような場所”があってもいいんじゃないか。
あとは、「次のグレードの空間が見える」ということが重要と考えていて。例えば、“スタンダード”のところに行ったときに次のグレードが見えて、ちょっと次にはお金払ってみようかな、もっといい席で観戦してみようか、みたいな仕組みが段階状に見えて、アリーナにその仕組みが計画されていると良いかなとかも考えています。また、選手に会えるとかアイドルに会えるとか、そういう空間を用意してあげておくと、ちょっと+αでお金を払ってもいいかなとか、そういった空間も最近重要だなと認識しております。
あとは、バックヤードよりの話になるのですけれども、コンセッションとかショップを両側に面するようにつくることも重要かなと考えています。施設内にだけつくって休日で稼働しても、平日は稼働しないとか。そういったことがないような建物のつくり方をしていきたいなと考えています。
eスポーツアリーナとは
eスポーツというのは、僕らゲーム世代からすると不思議なことはなくて自然と起こることだと思っているので、きっと盛り上がっていくのだろう、盛り上がっていってほしいなという思いで私も研究しております。
私が最近行ってきた韓国のLoL-Parkは、商業施設の中の一角に入っているだけなのですが、規模としては400人のアリーナです。入口のエスカレーターを上って導かれるようにその空間に入っていくと、ちゃんとインスタスポットがあって、すごく簡易的なチケット売り場があって、ゲームの世界観みたいなところが描かれたカフェ、トレーニングセンター(eスポーツカフェ)があったりとか、選手のユニフォームがあったりとか非常に魅力的でした。このアリーナ自体は扇形なのですけれども、400人の割には充実した設備機器がそろっていて、3面のセンターステージと、結構LEDのライトも動いたりとか演出に合った動きができるようにつくられていて、プロジェクションもうまく演出と合っていたりとか、この規模では想像できない一体的な空間をつくっていました。
私もこのeスポーツ専用アリーナというのは正直初めての経験だったのですけれども、世界観がかなり出ていて、MR (VRとARの融合)というのはちょっと言い過ぎなのですけれども、現実空間とゲーム空間の融合みたいなこと、ビジョンの中にカメラのセンターステージが映っていて、そこにキャラクターが映って重なっているみたいな、二重のMRみたいな演出もありました。
あと、本当に女性客が多くて驚いたのですけれども、7割ぐらい女性客で、すごくきゃぴきゃぴしている方がいらっしゃったりとか。本当に熱狂的なファンがたくさんいらっしゃって、日本と同じような価値観を持っている韓国の方々がこれだけ盛り上がっているのに、日本で盛り上がらないのはなぜかなと思うぐらい、すごい盛り上がりでした。
もう一つは、ビル自体がそのままeスポーツの施設になっちゃったみたいなのが、OGNのeスタジアムが入っている建物なのです。ビルのエントランスにチケット売り場があって、建物のほとんど全部がeスポーツ関連のものになっています。アリーナ自体はテレビの撮影のスタジオみたいな感じで、シートもシアター仕様で800人収容可能なのですが、世界中でたくさん配信されるので、800人の裏に何億人いるみたいな世界がつくられています。
ホワイエ空間はちょっと寂しい感じがしたのですが、施設としてはすごく充実していて、作戦ルームも充実していましたし、スタッフのスペースもたくさんありました。選手のリラックススペースもあったのですけれども、放送スタジオがたくさんあって、配信性が高いところだと見受けました。
ギャラリーもあり、韓国はすごくeスポーツの歴史が深いので“年表ギャラリー”まで演出できる。VRの体験ブースがあったり、施設一体で盛り上げているような感覚がありました。フェイスブックがスポンサーのアリーナがあったり、暗転ができる平土間のホールがあったりとか。
ちょっとおもしろかったのは、ゲームとIT関連のwework (スタートアップの企業が入りやすい世界でも有名なシェアオフィス)みたいなのが同じ建物の中に入っていて、相互作用を生んでいそうだなと思わせる施設がたくさん入っていました。この関係性、eスポーツ関連でみんなで盛り上げていくという建物の可能性も、日本でもあるのではと思いました。
eスポーツの施設に関する分析のまとめとして、世界観に没入することと、平日も盛り上がる仕組み、配信力を意識したスタジオ併設型。そういったところも含めてeスポーツ専用ならではの可能性をLoL-Parkから感じとってきました。
施設に関しては、規模もさることながら、特化型と多目的型、センターステージ型とエンドステージ型というマトリックスを組んでみると、LoL-Parkは特化型でセンターステージ、マカオの施設は、エンドステージというかシアタータイプとなります。
LoL-Parkは、設計側から見ますと、シネコンのようなイメージで、アリーナを構えてホワイエがあって、その前に建物のコア、エレベーターがあるのですけれども、そこにギャラリーが少しあって、周りにカフェがへばりついている。そして奥にバックヤードがあるという施設構成で結構シンプルなのですけれども、充実したホワイエの中に選手に会うために、グッズをもらうために、たくさんの人が並んでいる。ソフトな運用面もこの世界観をちゃんとつくり上げているという分析もしております。
あと、これは私個人がすごく気になっているところですが、ゲームの種類とか種目によって、相応しい見せ方とか見え方が変わるんじゃないかなと考えていて、スポーツでも、サッカーはこういうふうに見たほうがいいよ、バスケはこうやって見たほうがいよとか、たくさんあると思うのですが、 eスポーツにも種目による違いがあるのではないかと感じています。
施設ハードの視点
座席については、LoL-Parkに行ったときはシアター寄りで座面は布の材質で、カップホルダーがあってUSB充電があって、長時間座るからそういった仕様になっているのかなとか。USBはSNSなど配信したりするから、マストなんじゃないかなとか。もうちょっと何かできそうだなとか思って。ゲーミングチェアは選手に最大のパフォーマンスが出せる設計になっているのかなとか。でも、デザインは、eスポーツっぽさというかこういうふうにするとかっこいいなと、いつも思っています。
また、グッズショップはフィジカルスポーツと同じような感じで考えればいいのか(何かユニークはあるのか)どうか。体験スペースはフィジカルスポーツとは違って、おもしろいところが造れるんじゃないか。仮設的にはやっていると思うのですけれども、もしかしたら建物にビルドインでできることもあるんじゃないか。スポンサーブースも、もしかしたらビルドインしていけることもあるのかもしれない。
あと、専用スタジオとか配信スタジオの設備投資というか、どれぐらいアリーナに対して投資していくべきなのか。もしかしたらアリーナの本体設備よりも投資すべきなんじゃないかなと思ったりもしています。そういったところで専用スタジオとか配信スタジオをアリーナのチームとかアリーナを所有する人が持ってしまうみたいな可能性もあるんじゃないかなと思っています。そうすれば、そこから利益が生まれる可能性もあるので、オーナーがコンテンツメーカーとなるようなアリーナのつくり方みたいなのも考えられるんじゃないかな。 あと、スイッチャースペースについても、どれぐらいの設備を置けばいいのか。テレビスタジオみたいなイメージでいいのかなとかなど、建築設計側から見ると、まだまだ本当に分からないところがたくさんあります。 あとは、私たちがアリーナを考えるときに、必要設備について様々なことを議論するのですが、特に気になるのは、 eスポーツはコンサートと一緒じゃないかということ。一般的には「コンサートができればeスポーツもできるだろう」というのですけれども、そうとも限らないような気がするなと思って。その辺掘り下げないとeスポーツならではの演出力というか、ファンに対するエンタメ力も上がっていかないんじゃないかなとも思っています。
最後に。eスポーツだけじゃ多分完結しないので、まちづくり全体でやっていきましょう、人を動かしていきましょうと、私たちはいつ提案しています。商業施設も、例えば保育園も一緒にやっていきましょうと。シンガポールのタンピネスハブみたいなものをやっていきたいなとか思って、私たちも横浜の文化体育館に携わらせて頂いているのですけれども、これもまちのことをすごく考えて計画しております。ホテルが横に併設されたりとか、アリーナもスポーツモードとかエンタメモードとかを転換できるようになっています。あとホスピタリティーも前述のコンセプトを意識して計画しています。 あとは、もしかしたらアリーナがメディアアリーナみたいなものになっちゃうんじゃないか。箱があれば別に建物、人、デザインとか、機能とかに投資しなくても配信できればいいじゃん。コンテンツがあって、そこに最大限の投資をして、それを配信できればいいじゃんというふうにもしなってしまったら、私たちの仕事はすごく寂しいものにはなります。でも、そういう未来もちょっと意識しなきゃいけないのかなと、最近すごく議論をしています。そのときに5Gとか、配信スタジオとか、ネーミングライツをうまく活用したりとかして、そういったところで運用していかなきゃいけないかなというところで、メディアアリーナ、バーチャルアリーナみたいなものもやってみたいなということで、NEXT ARENAのスケッチを描いたりしています。アリーナ本体で演出するというのは当たり前になってきて、それ以外でもいろいろな観戦の環境であったりとか、いろいろなデータ分析であったりとか。もしかしたらVRなどXRで参加したりとかしている人もいるかもしれないし、席のプロジェクションみたいなことも、そういう未来が来るんじゃないかなということを先取りしていきたいなと考えております。
施設運営の視点から
古澤明仁│RIZeST代表取締役 日本eスポーツ連合国際委員会委員長
私の会社は、eスポーツ専用の箱物ビジネスを行っています。2011年に千葉の商店街の雑居ビルの中にパソコン20台を詰め込んでテストケースを経て、ゲームの聖地である秋葉原に移転し、eスポーツ施設事業を拡大展開しています。
eスポーツ施設運営に何が必要なのか。絶対にエラーを起こしちゃいけないのが、十分な電源容量と高速インターネット回線。これは生命線です。試合中にインターネットの回線が落ちてしまったら、競技がストップしてしまう。我々の施設ではリスクを極限まで下げるために(かつ快適な競技運営を行うために)、3プロバイダーと高速インターネット回線契約を結び、合計4回線を常設しています。仮に使用中の回線接続が切れたとしても、自動的に他の回線に切り替わるようシステムも組まれています。
また、施設には40台以上のPCが常設しており、すべてのPCには様々なゲームタイトルが常時最新の状態で準備されています。オンラインゲームタイトルは原則、「アップデート」が頻繁にあるためその都度手作業で全台PCのアップデートをかける作業を行うと人件費も相当かかってしまいます。なので、我々はITサービスを介して夜間営業時間外中に自動的にこうしたアップデートを人の手を借りずに行えるシステムも導入しています。eスポーツ専用施設でPCだけでなく、家庭用ゲーム機、スマホなど様々なゲームタイトルを用いてサービス展開しています。
2014年当時は今のようにeスポーツは盛り上がっていなかったですし、ネットカフェと同じようなマネタイズモデルを行っていました。月曜日から日曜日、本当に1年間休みなくずっと施設運営していると、ターゲットはゲーマーじゃないですか。「皆さん、ゲームを楽しんでください。1時間何百円です」と。平日の昼間、ターゲットにする学生さんとか社会人とかが来ちゃいけないですよね。実際そんな感じで平日は全然人が来なくて。でも、お酒を出したりとか食べ物を出したりしているので、料理できる人を固定で置いておかなきゃいけないとか、スタッフを置いておかなきゃいけないと、人件費ばかりかかっちゃうので。しばらくしてから、思い切って施設利用料0円(制作支援プログラム)でコミュニティーに貸し出すということと、B2Bモデルに思い切りシフトしました。一般営業をやめたという考え方ではなくて、eスポーツを促進啓蒙するために、志を持った方になるべく安い値段で貸し出して、そこで上がる収益をシェアしていきましょうというモデルに転換してから、施設の稼働率はぐっと上がりましたね。そこの一番のお客さんが影澤さんで。毎週水曜日に定例のイベントをやっていただいています。
こういった施設は、単純に箱だけつくっても、うまくいかないです。今、eスポーツがこれだけ盛り上がっていて、特に地方自治体や企業の方々とか地方創生という文脈で、「不動産を持っているんです。リソースは十分にあるので施設を作ってもらえませんか?」という熱い思いを持った方からの問い合わせが非常に多いのですけれども、95%はお断りしています。
なぜかというと、僕らからしたらデザイン、プロデュースとか機材だとかを卸すことによって、一時的に我々の収益にはなるのですが、うまくいかないのです。ハードとソフトを一緒に導入しないと無理です。このソフトは、ITのソフトウェアという意味ではなく、人財です。ゲームのことを、ゲーマーの心理が分かる人財です。
eスポーツの施設運営は多種多様なイベントを日替わりで行っています。毎日です。クライアントもゲーマーだったり、コミュニティーリーダーだったり、ゲーム会社さんなど様々。手ぶらで来店されても十人十色の需要を満たす、同じ目線で、言語で通じ合えるスタッフが内製化されている必要がありますし、さらにはイベントを実施するための物理的なハードウェア、ソフトウェア(ゲームそのものの知識や放送など技術)の知識はもちろん、ゲームタイトル=IPの許諾をゲーム会社からもらうなどなど、、多くのタスクが発生するんですね、施設運営というのは。こうした全てをワンストップで巻き取れる、提供できるノウハウが知識・経験であり、人財 = ソフトウェアだと思います。これがないとeスポーツ施設運営は事業として必ず失敗します。なので95%をお断りしていま。
残りの5%。実際にそこもしっかり勉強します。こういった機材を導入してこんな体制でやりますというようなところを、しっかりと歩みをともにしていただける施設に関しては、一緒にやらせていただいているというような状況です。
eスポーツの興行・マネタイズを行う箱物って3種類あると思います。
1つ目は、コンベンションセンター型と言われるもので、国際展示場とか、幕張メッセとか東京ビッグサイトとか、そういうところですね。もう既にある箱に機材だとか人だとかを全部突っ込んでイベントをやります。こういったイベント制作に裏側で入ると設営が大変です。一からトラスを立てないといけないとか、配線、電源を一から引っ張っらなきゃいけない。時には、施設の中で指定の業者にしかそれを発注できないので、見積もりの3倍ぐらい請求されるとか。あとは想定見積もり以上の付帯設備使用料金をイベント後に請求されるとか。箱は十分広く、柱もなくて使いやすいのですけれども、eスポーツをやる上で一番カロリーを使うのはコンベンション型だったりします。
2つ目が、eスポーツ専門のアリーナ/競技場。これが日本にたくさんできたら素敵です。でも、投資が難しい。常設の何がいいかというと、搬入搬出がない。常設にすると、機材トラブルのリスクが減るんです。僕ら、いろいろなタイトルのいろいろなイベントを手掛けていますが、毎回組んでばらして、組んでばらしてというと機材が傷んだり、技術的な観点からは安定性にもリスクが生じてきます。設営のスピードは1年ぐらいたつと、すごく速くうまくなり、ケーブルの巻き方とかそういったノウハウばかりがたまるのですけれども、やはりそこの設営を、本番の1日前から箱を借りて設営してリハーサルをやらなきゃいけないこともあるので、これらが不要になると本当に素晴らしいのですが、投資がすごくかかる。
先ほどご紹介いただいたリーグ・オブ・レジェンドの韓国のLoL PARKですね。あれは100億円だそうです。
500席しか入らないのに、どういうふうに収益を上げているのかというと、結局、サッカーでいうリーガ・エスパニョーラなのです。500席しかないのですけれども、優良コンテンツは多言語でのライブ配信を含め、世界の様々なマーケットを相手に商いが可能 = 収益化が行える。韓国のプロリーグが世界で最も注目されているコンテンツなので世界の顧客をターゲットにできるわけですね。NBA, MLBなどと同じですね。なので、やはりそこは100億円という投資が会社としてしっかりとできるのかなと。
また、ブリザードアリーナとか、アメリカだとディズニーとかESPNだとか、これから伸びるコンテンツとしてeスポーツに多額の投資をしています。テレビ局のスタジオでもeスポーツ専用の投資というのは、何十億円単位で行われています。あと、ラスベガスのカジノ。ホテルの中に専用施設があったりとか。
最後がスポーツ・アンド・エンターテインメント・メニューというようなところで、音楽施設や興業に向いた施設でeスポーツをやるケースなのです。eスポーツの大型大会決勝戦などはバスケットアリーナを使うケースがすごく多い。既に4面のLED、もしくはスクリーンがあって、中に選手ステージだとかというのをつくるという形で、実はコスト的に一番かからない。もともと真ん中のコンテンツを見せるというところで、バスケットコートがすごく使いやすい。
そういった意味で、500席のLoL PARKは、すごく作りが贅沢でありながら、個人的には最もリッチなeスポーツ専用スタジアムだと思う。選手のアイコンタクトが肉眼で確認できるとか。わっといったときの肉声が直接聞こえるとか。そういったリッチな体験というようなところが、eスポーツはすごく重要なんじゃないかなと思っています。必ずしも何万人を入れるということがゲーマーは喜ぶのかなというと、数年前にこれをやりたいと僕は思っていたのですけれども、今ならLoL PARKのように400〜500人の箱でリッチな経験をさせるということのほうが日本にも向いているし、それが求められているところなんじゃないかなという気がしています。
どのような施設が必要になるのか?
eスポーツの箱物で何が必要なのか。ここには、1)イベント制作、2)プレイヤー、3)メディア、4)オペレーション、の4つの観点があります。
まず、イベントを制作する側で必要なのは、当たり前ですがステージです。このステージというのも、格闘ゲームに向いたステージもあれば、リーグ・オブ・レジェンドみたいに5対5で戦うようなステージもあったりだとか。eスポーツ対応の施設です。いろいろなデベロッパーさん、協賛会社をたくさん応援したのですけれども、eスポーツ対応施設で何を満たさなきゃいけないですか。このステージで、要はどのゲームジャンルにもレイアウトが柔軟にできると言えるとすれば、それはeスポーツに向いた施設になります。
次が、チームプレーヤーブースです。これもゲームタイトルによってなのですけれども、特にカードゲームとか。本当に音をシャットアウトしなきゃいけない、戦略がばれちゃいけないとかで防音のものが選手のブースのところになきゃいけないとか。自分が選んだキャラクターがお客さんの肉眼でしっかりと見える、システム連動で出せるようなスクリーンも必要になる。
あとは、ステージ環境。最近はスマホのeスポーツがすごく盛り上がっています。僕らはずっと家庭用ゲーム機とかPC系のゲームタイトルなどをいろいろやっていて、マウスの動きとか、あと格闘ゲームでも結構動きがダイナミックなので、カメラマンでゲームを抜いたときだと、割と臨場感がいい感じに撮れるのですが、スマホの大会はみんな、絵が地味なのです。
だから、そういうようないろいろな。モバイルだったらモバイルとか、PCだったらPC、家庭なら家庭というようなところで十分に対応できるような、こういったステージ環境が特に必要です。
当然ながらスクリーン。あとはキャスターステーションというキャスターブースですね。「はい、こんばんは」といったときに、後ろをグリーンバックで出すというやり方もあれば、会場のわーっとなっているところを映すというようなところ。だから、本当にキャスターのブースというのをどこにつくるかというようなところも当然ながら、音響とかのバランスなども見ながらつくるというのが、非常に重要です。
2つ目がプレーヤー側の観点。先ほどの話でいうと、おもてなし。プレーヤーのためのおもてなしがどれかなのですが、ロッカールームとかプレーヤーラウンジと言われるような、ファンとプレーヤーがハイタッチできるような、そこの導線をどういうふうに引くかとか。あとは練習エリアだとウォームアップエリア。 本番環境だけ用意すればいいと思いがちなのですけれども、選手は結構ぎりぎりまで作戦会議をしているとか、ぎりぎりまで練習するというのがeスポーツの場合すごく多くて、それを十分な形で準備したい。今の日本の施設だと、できるところ、できないところがあって、最悪のケースだと試合会場の隣のビルに会議室を借りて、そこにPCだとか設置して選手に練習してもらうということもある。雨のときとか、かわいそうですよね選手が。そうではなくて、なるべく最短距離で選手が行けるような導線ができるような1ストップの環境が用意できるといい。
3つ目はメディアの観点。まず、配信のオペレーション(チームの)スペース/ルーム。このスペースがあまりにも小さい会場が多過ぎます。日本の都内の会場で。大きい大会とかやるときに、どれぐらい必要かというと、2〜300平米ぐらい必要です。プロリーグとかで、メッセとかじゃなくてテレビ局のスタジオとかでやるところでも、大体その半分ぐらいは必要ですね。
例えば僕らが行っているプロリーグとかでも、配信スタッフだけで20〜25人ぐらい常に入れているような状況なので、その人たちにパソコンの機材とかいろいろ並んでいると考えると、やっぱりそれぐらいのスペースがなきゃいけないですね。
あとは、インタビューのブース。これも実は日本でなかなかまだ設けられていないのですけれども、野球のスタジアムとかバスケットのコートって、ヒーローインタビューとか記者会見ができる部屋とかブースって必ずありますよね。これも、今後eスポーツが興行化していくときに、必ず場所として必要になる。あとはすぐに記者に記事にしてもらうためのプレスルームもあると理想的ですね。 あとはゲームのA/Vコントロールというようなところが必要になるんじゃないかなと思っています。
4つ目は、設営のところで、トラックがしっかり入るような導線。某施設だと、場所はいいのですけれども、機材を小さいエレベーターでちまちま搬入しなければいけないとか搬入エリアに屋根が付いていなくて雨の時に手間がかかってしまうこともあります。なので、しっかりと機材を搬入搬出できるようなところ。あとはメンテナンスができるようなスペースとか。
あと、場所によっては月に1回とか毎週やるというのが決まったら、その機材だとかもしっかりと管理、収納できるストックルーム/スペース。僕らも結構大きい大会とかというのを毎週やるにしても、郊外に安い倉庫を借りて、トラックを毎週走らせながら往復して、ステージ備品や機材などを管理しているのです。コストがもったいないですね。あとはローリングするところとか。あとは、そこにいる運営とかをしっかり管理するスタッフというようなところが、しっかりと誘導しながら管理ができるということが、まだ日本には欠けているんじゃないかなと思います。
通信環境設計の視点から
影澤潤一│NTT東日本 ビジネス開発本部
私がまず申し上げたいことは「切れないインターネット回線はない」ということです。
先ほどの古澤さんの施設では4本回線を引いていると仰っていましたが、そのように冗長性を担保して限りなく切れないネットワークを構築することももちろんできます。ただそうすると、月額50万とか100万とかのお金が必要で、施設の運営費に対する回線費用の割合をどの程度にするのかということが問題になります。ネットワークの可用性を上げるには、弊社のフレッツを2本引くと言ったやり方から、数社から線を引く、収容される局舎を分ける、専用線を引くなど、様々なグレードのやり方があるので、用途やコスト感とバランスのとれた手法を選ぶ必要があります。
昨今では、座席に電源やドリンクホルダーがあり、観客の方々の滞在時間も伸び、その中で動画を撮影して配信を行ったり、SNSを発信するようなシーンも増えてきました。そうなると、通信容量をオフロードするためにWi-Fiが必要になります。ここを例えば、安易に大量のWi-Fiルーターを置いて対応しようとすると電波の設計がちゃんとできずに、最悪つながらないような事態も生じます。「テーブル1個1個にWi-Fiルーターをわざわざ買って置いたのに、なぜつながらないんだ」といったことを言われることもあるんですね。きちんと適切なスペックの機器を入れて、エンジニアがチャンネルなどの設計すれば、しっかりしたWiFi環境は構築できます。特に競技で使うWi-Fiなどはコストをかけて高い品質のものを設計することが必要です。ここも、用途に応じた環境構築、コストとのバランスの見極めが重要となるでしょう。
通信についての相談は、施設の設計(施工)が進んで、最後の最後に持ちかけられる場合もしばしばあります。「回線が足りなくなったから増やして欲しい」と最後に言われても、建物の中に配管が無いと、最悪通せない場合もあります。我々としては、施設の企画段階から一緒に考えさせてほしいと考えております。
NTT東日本は、地域活性化というミッションを掲げて事業に取り組んでおります。私たちは人や物というところで、様々な地域に多様なアセットを持っています。また、社内チームを結成して全国にeスポーツに明るい人材を配置しています。そういったリソース・人材を活用し、eスポーツ×地域活性化ということを推し進めております。
またeスポーツシーンをサポートするICT技術として、例えば興行面で言えばパブリックビューイングをするための映像配信の仕組みでしたり、会場環境でいえば、IoTで会場のトイレの空き状況を表示するものなどがあります。eスポーツは、パラスポーツとしての活用も注目されていて、会場設備として多目的トイレの需要があります。ところが、基本的に会場の多目的トイレは数が限られており、特にビルなどでは、トイレが埋まっていたら別の階に行く必要があり車椅子の方はわざわざエレベーターで何回も移動することになります。そうなってくると、最初から狙いを定められた方が便利です。
今までは並べばいいかなと思っていたようなトイレの混雑も、違う切り口で見た時、こういったニーズの発見のような体験もあり、eスポーツに取組むことで、新しいことに挑戦する面白さも日々感じてます。
我々はeスポーツを事業として掲げている中で、色々なお客様から話を伺います。その中で、メリットはもちろん、リスクや、eスポーツとしてハード・ソフト面を両立する難しさなどを最初にお伝えしており、それでも取組みたいというお客様には、全力でサポートを行っております。これからも、お客さまのニーズに、弊社の様々なアセットを掛け合わせ、様々な地域のeスポーツシーンを共創して参りたいと考えております。
▶︎本稿は、2019年7月9日(火)に、早稲田大学で行われた「スポーツICT研究会」での講演内容をまとめたものである。