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サッカーJ3グルージャ盛岡にマスコットが誕生した。折り鶴に足の生えたマスコットは名を「キヅール」という。
2016年に公募されたきり先送りにされていた盛岡のマスコット選定は、のちに経営再建を託された宮野聡氏が常務取締役として着任したことで再び動き出した。昨シーズンの開幕戦直前に公表された4つの最終候補の中で異彩を放っていたキヅールを泡沫候補と思った人も多かったであろうが、蓋を開けてみると大方の予想を裏切り圧勝。立体化された姿がお披露目されると反響は海外にまで及んだ。そして昨年11月に東京・渋谷で開催されたイベントには全国から多くのファンが集結。会場では盛岡の特産品も振舞われ、キヅールは早くも観光大使の役割も担い始めている。
このように注目されるマスコットが生まれた裏には、宮野氏らによる綿密な計画があった。SNSを使った一般投票により全国的に知名度を上げることに成功し、キヅールを立体化するための資金集めという難題はクラウドファンディングで乗り越えた。返礼品にも趣向を凝らし、ひと月で目標額を大幅に超える500万円を44都道府県の1069人から集めた。また折り紙の質感を失わずに立体化するため特殊衣装の製作会社まで探し当て、完成にこぎつけたのだ。
表舞台に現れて以来、キヅールは短期間でクラブ関係者を驚かせるほどの活躍を見せたが、これは一羽の折り鶴がクラブの救世主となるための序章に過ぎない。忘れ去られようとしていたマスコット候補「キヅール」の盛岡への「鶴の恩返し」はこれから だ。「祈り」の「鶴」と書いてキヅールと読む。そこには、どん底にあるクラブを救い、さらには岩手を象徴する存在になってほしいという熱い思いが込められている。
グルージャ盛岡というクラブ、そしてマスコット・ビジネスの可能性を背に乗せ、キヅールはこれからどこまで高く飛べるだろうか。
▶早稲田大学法学部2年 伊㔟采萌子