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スポーツの賑わいで港湾開発をリードする ジーライオンアリーナ神戸 -スタジアム・アリーナ視察研究会レポート-

スポーツの賑わいで港湾開発をリードする ジーライオンアリーナ神戸
-スタジアム・アリーナ視察研究会レポート-

スタジアム・アリーナ視察研究会 日本女子体育大学教授
上林功

日本スポーツ産業学会は、2024年から新たな取り組みとして「スタジアム・アリーナ視察研究会」を開始した。本研究会は、国内外のスタジアム・アリーナの視察を通じて、学術的知見の獲得と実践的な提言を目的とするもので、今回はその第二弾として2025年4月に開業した「ジーライオンアリーナ神戸」を視察した。 本稿では、同年4月20日(日)、21日(月)に38名の参加者により実施された模様を報告する。

ジーライオンアリーナ神戸全景

港町神戸の復興・再開発のシンボル

神戸港は、明治期の開港以来、日本を代表する国際貿易港として発展してきました。異文化を受け入れながら成熟してきたこの港町は、1995年に発生した阪神・淡路大震災によって甚大な被害を受け、長きにわたる復旧事業を余儀なくされてきました。神戸市では復旧のために発行した市債(総額2,788億円)を2020年度にやっと完済し、25年に及ぶ復旧事業に一区切りをつけ、震災からの復興を越えた「創造的都市再生」に向けた新たなまちづくりが進められています。

新港突堤エリアは、かつてはコンテナ取扱や貨物線が整備された神戸港の物流機能の中心地でしたが、港湾機能の移転に伴い役割を終え、長年再活用が模索されてきました。

海に突き出した三本の突堤の真ん中、第2突堤の再開発をすすめるなかで、神戸市は2020年に公募を実施し、翌2021年には株式会社スマートバリューとNTT都市開発株式会社、株式会社NTTドコモの3社企業コンソーシアムが提案した「KOBE Smartest Arena」構想によって選定されました。

同エリア周辺ではこれまでにも地元企業フェリシモやジーライオングループのオフィス、タワーマンションや水族館「神戸ポートミュージアム」の開業など、港湾都市神戸における「次世代型の顔」としての再生を遂げつつあります。

今回の視察ツアーでは、構想段階から本プロジェクトに携わり、ジーライオンアリーナ神戸および周辺施設をまとめたエリア「TOTTEI(トッテイ)」全体を運営する株式会社One Bright KOBE(以下、OBK)のベニューマネジメントマネージャー・渋谷樹氏より、現地の案内とともに、施設整備・運営に関わる詳細なお話を伺う貴重な機会を頂きました。

複層的PPPスキームによるエリアマネジメントの統合

本事業では神戸市の再開発事業に当たるジーライオンアリーナ神戸のみならず港湾緑地の公園整備を含めたエリア全体について「TOTTEI」と名付けて一体運営できている点に特徴があります。事業スキームとして、①公共からの定期借地による民設民営、②みなと緑地PPP、③民設民営スキーム内での建屋全体の一括賃貸借といった複層的な官民連携のスキームが組み合わされており、統合したエリアマネジメントの実現に繋がっています。

新港第2突堤は、中央の65m幅の敷地にのみ建築が許され、両側の20mは港湾緑地として建築が認められていません。こうした制約のある中で、アリーナ本体と周辺の緑地空間がどのように一体的に整備されるかが課題であったと言われます。

アリーナは、NTT都市開発が建設と所有を担い、施設の運営はOBKが行っています。運営にあたっては「建屋全体の賃貸借」が採用されており、OBKがアリーナ全体を一括で借り上げることで、施設の所有と運営を分離しつつ、柔軟で効率的なマネジメント体制を実現しています。

一方、アリーナに隣接する港湾緑地「TOTTEI PARK」や「WEST CORRIDOR」については、OBKが直接、整備・運営を担っています。こちらは、国土交通省が2022年に導入した「みなと緑地PPP」と呼ばれる新制度の第1号事例であり、港湾空間における公共施設の整備・維持管理に民間の力を活用する新たな枠組みです。

通常であれば、アリーナと港湾緑地はそれぞれ異なる制度や行政のもとで別々に運営されることになりますが、TOTTEI KOBEでは、いずれのエリアもOBKが関わり、一体的に運営・維持管理を担っています。その結果、突堤全体を「TOTTEI」という統一ブランドのもと、敷地全体にわたって統合的な企画・運営が行われ、利用者にとってもわかりやすく魅力的な空間が実現されています。

アリーナ建設にかかる事業スキーム

ジーライオンアリーナ神戸の空間構成と機能性

ジーライオンアリーナ神戸は、突堤という限られた特殊な敷地条件を活かして、むしろその立地を魅力に変えたユニークなエンタメ空間を作り出しています。観客席は三方向に配置された馬蹄形(コの字型)構成で、観客がコートやステージを取り囲むように配置されています。これはメイン・バックスタンドを確保するためで、エンドスタンドの片方を思い切って壁面にすることで幅狭な敷地にはめ込まれています。メイン・バックスタンドは南北方向に迫り上がるように伸ばされ、スタンドに併せて屋根も「馬の鞍」のような反り上がった形状になっています。特殊な敷地形状で座席規模を維持しつつ、視覚的な臨場感を持たせながら室容積を抑えて空調負荷を低減するという一石四鳥の工夫が独特なアリーナ形状として表れています。

アリーナ内部はロウワースタンドとアッパースタンドの2層構成で、中間階にはホスピタリティ機能を持つスイートフロア「KOBE 270°Club sponsored by ANA」が設けられています。メイン・バックスタンドの両サイドにはスイートボックスが計18室(1500〜1800万/室・年)並び、オープンスタイルのスイートラウンジがベランダ状にエンドスタンド上部に設けられています。年間契約でレギュラーシーズンの30日間に加え20日間の興行時利用を保証しており、音楽興行についてもOBKがアーティストに交渉し、別途イベントそのもののチケットが必要ではあるものの年間契約料のなかで席を確保できる仕組みになっています。

センターハングビジョンやリボンビジョンはもちろんながら、最大の特徴となっているのはステージ側となる壁面に設置された13×24mの国内アリーナ最大級となる大型映像装置です。連結ラインアレイスピーカー7基をはじめとして全50基のスピーカーと連携した迫力の映像や音響は他に類を見ない空間演出につながっています。

アリーナの収容人員は約1万人で、B.LEAGUE公式戦をはじめ、音楽ライブや企業イベント(MICE)など多様な用途に対応する多目的施設として整備されています。1階に選手・スタッフおよび運営管理エリアを集約して2階以上の観客動線と選手・スタッフの動線が明確に分離されており、快適かつ効率的な施設運営を実現しています。選手エリアはサブアリーナやコートサイドラウンジを経由して来場者エリアをつながっており、明確なゾーニングとファンとの接点にメリハリを持たせた建築計画となっています。

TOTTEI PARKと緑の丘

TOTTEI PARKは、アリーナに隣接する港湾緑地として整備されただけでなく、便益施設として設けられた「緑の丘」とともに、都市と自然、地域と訪問者をつなぐ公共空間として新たな風景を形成しています。とりわけ、緑の丘の設計にあたっては、建築家・畑友洋氏の手による、ランドスケープと建築の融合をめざすユニークなアプローチが採用されました。

この緑の丘は、海に向かって緩やかに傾斜する人工地形としてつくられており、屋上緑化の概念を拡張しながら、周囲の港湾風景や神戸の山並みとの連続性を意識した設計となっています。地面から丘がつまみ上げられたような形状が自然な形で公園と接続し、丘には植栽とグレーチングを組み合わせた独創的な屋上緑化が採用され、市民に開かれたくつろぎの空間となっています。

緑の丘は単なる景観要素としてではなく、人が滞留し、交わり、活動する「場」として設計されていることに特徴があります。港町神戸の開放的な空気感を取り込みながら、海と街の間をつなぐこの公共空間は、イベント時のにぎわいの受け皿としてだけでなく、日常的な散策や休憩の場所としても機能しています。

また、設計者である畑氏自身も神戸ゆかりの若手建築家であり、TOTTEIのような都市再生プロジェクトにおいて、地域出身の設計者が創造性を発揮した点も注目されます。丘のかたちや芝の彩色、視線の抜けや光と影の扱いなど、細部にわたって地域性と創造性の両立が図られており、都市と人の新たな関係性を提案する空間となっています。

ジーライオンアリーナ神戸およびTOTTEI全体についてツアー見学したあとは、神戸ストークスの試合観戦、満員のお客さんが入ったアリーナや夜の神戸を楽しむTOTTEI PARKにきた来場者とともに、魅力的なウォーターフロントが生み出す環境のホスピタリティを体験しました。翌2日目にはツアーを先導頂いた渋谷氏とともにTOTTEI PARKの施設計画を担当した畑氏をゲストにお招きし、研究会とツアー参加者による意見交換会を実施しました。会場はアリーナのネーミングライツを持つとともにTOTTEIの「協創パートナーシッププログラム(※)」のオフィシャルトップパートナーである株式会社GLIONグループの本社ビルの高層ラウンジをお借りし、アリーナを見下ろす最高のロケーションでの開催となりました。

(※)従来の広告露出に重きを置いたスポンサーシップに留まらず、民設民営アリーナならではの柔軟性を持った取り組みで、新たな街の魅力づくりを協創するTOTTEI独自のパートナーシッププログラム

のぞき込むような迫力あるアッパースタンド

都市のスポーツマネジメントに広がるマーケティング

研究会では渋谷氏、畑氏から本プロジェクトのプレゼンテーションを頂くとともに、アリーナに留まらない神戸全体への戦略についてお話を頂きました。

TOTTEI全体の一体運営の背景には、単なる施設管理にとどまらず、神戸市域全体を対象としたスポーツを活用したエリアマネジメントを構想する姿勢について話して頂きました。アリーナとクラブチームである神戸ストークスの連携による地域イベントの開催、アプリを活用した観戦体験の拡張や地域回遊の促進など、従来のスポーツ施設運営とは異なる都市経営的視点についてふれて頂いています。

渋谷氏はアプリを都市のマーケティング装置として挙げたうえで、TOTTEIアプリによる情報提供と利用者動線の最適化です。施設情報やイベント情報の集約、デジタルチケットやキャッシュレス決済の実装、さらにはビーコンによる位置情報を活用した来場者分析など、スマート技術の導入によって、施設の利便性と経営効率の双方を向上させる考えを話して頂きました。

畑氏からは単なる公園の便益施設に留まらない「緑の丘」の役割について言及頂き、TOTTEI PARKの緑の丘を使ったフェスの開催や地域向けマルシェ、音楽イベントなど、地域住民や観光客、エリアに来訪する全ての人々との関係性を深めながら、新たなにぎわいの創出への寄与など、施設が生み出すエリア全体の価値向上についてふれて頂きました。

ソフトとハードが一体となり、エリア全体で魅力を発信するなかで、今後は、神戸市内に点在する他のスポーツ施設や観光資源と連携しながら、より広域的な視野でのスポーツ・エンタメによる都市ブランドの構築を目指すとのこと。事業スキームやロケーションを上手く活かした統合的な施設戦略は、単なるスポーツ施設管理を超えた「まちの価値づくり」の実践であり、スポーツ産業における新たな運営モデルとして、むしろこれからの地域社会への影響を含めた注目すべき事例と言えるように思われました。

港湾アリーナに見る都市とスタジアム・アリーナの未来

ジーライオンアリーナ神戸とTOTTEI PARKのプロジェクトは、港湾空間という制約の多い立地において、官民連携、空間設計、地域連携を高度に融合させた先進事例であるといえます。とりわけ、複層的PPPスキームの活用やZEB Ready認証の取得、TOTTEIアプリをはじめとするICTの活用など、これからのアリーナ整備に求められる多様な要素を先行的に実装しています。

本プロジェクトが示しているのは、アリーナという施設が単体で完結するのではなく、周辺環境と一体となって都市空間を形成し、まちの魅力や価値を高めるハブとして機能しうるという可能性です。スポーツ・エンターテインメントを核としながら、商業、観光、交流、防災、環境といった複数の都市機能を組み合わせ、総合的な都市装置として展開されている点において、本施設の意義は大きいといえるでしょう。

また、スマート・ベニュー政策やみなと緑地PPPのように、国の政策とも接続しながら民間主導で進められた点は、他地域への展開可能性を高めるモデルケースともなります。現在、多くの自治体が都市再生やスタジアム・アリーナ整備を検討する中で、本施設は、地理的・歴史的文脈と制度的条件を踏まえた柔軟かつ包括的な取り組みとして注目されます。

今後もジーライオンアリーナ神戸およびTOTTEI全体が、都市とスポーツの関係を再構築し続ける場であり続けることを期待したいと思います。

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