TV情報番組における スポーツの取り上げ方とその特徴

TV情報番組における スポーツの取り上げ方とその特徴
恵 俊彰│タレント/ニュースキャスター

テレビの歴史はスポーツの歴史と言っていい。1953年2月1日NHKがテレビ放送を開始した当時、テレビは家にあるものではなく、ほとんどが盛り場や駅、公園などにあった。街頭で人々はプロレスやボクシングに熱狂。視聴率調査開始(1962年12月3日)から現在までの全局高世帯視聴率番組(関東地区)のトップ50番組中20(トップ10に限っては7番組)がスポーツ番組※1であり、テレビ放送スタート時からスポーツは大事なコンテンツであった。

情報番組で中継したWBC決勝

注目すべきは2009年年3月に行われたWBCワールドベースボールクラシック(WBC)第2回大会。この中継は、同年の年間視聴率トップ20に7つもランクイン※2。同年の視聴率ランキングを席捲したコンテンツであった。一方、同年の視聴率で20位にランクしたのは3月24日に放送された「2時っチャオ!」。情報番組としては同年で最高となる25.9%の視聴率を記録した。この番組は、当時平日の午後2時から4時まで生放送していた情報番組で、同じく6位にランクした3月24日放送のWBC決勝戦(韓国戦)が36.4%の高視聴率でランキングされた後の番組。その決勝戦が延長になり、「2時っチャオ!」の枠で日韓戦をそのまま生中継したのであった。

舞台はアメリカ、ドジャー・スタジアム。決勝戦は9回裏、優勝まであとアウト1つという場面で同点に追いつかれて延長に突入。3−3で迎えた延長10回表の日本の攻撃で、イチロー選手が2点タイムリーヒットを放ち日本が勝ち越し。日本中が興奮した一戦である。ところが、テレビ的には延長により中継の枠では試合が終わらない。中継の後には生放送の情報番組が編成されていたので、情報番組「2時っチャオ!」は当然、最大関心事である延長戦を生中継したのだった。

ただし、番組の途中で試合が終了。スポーツ中継であれば終了して次の番組に変わるが、番組はそのままドジャーズ・スタジアムをただ映し続けた。解説の槙原氏、佐々木氏とのやりとりはあったものの、基本的には選手がいなくなったドジャー・スタジアムを撮り続けた。結果25.9%の高視聴率を獲得。「世界一」になったことが大前提だが、勝った後の余韻を伝えることも情報番組にとっては欠かせない要素であるといえる。

「ひるおび」にみる情報番組でのスポーツ報道の特徴

筆者が司会を担当しているTBSの「ひるおび!」※3でも、これまでに多くのスポーツを取り上げてきた。表1のように、2010年から2019年までの10年間の全放送2578回のうち、スポーツを取り上げたのは691回(26.8%)。特に、2018年は平昌五輪に始まり、大谷翔平選手の二刀流での活躍、日大アメフト問題、サッカーW杯などなど、情報番組としての話題に事欠かず、95回(37.1%)の番組でスポーツを取り上げた。

このように、情報番組でも時々の話題に応じてスポーツが報じられるが、その報道のされ方にはスポーツ中継とは異なる特徴がある。

まずは「日韓戦」。2009年のWBCでも、日韓戦が大きく報道されたが野球だけではなくあらゆるスポーツ競技で日韓戦は盛り上がる。

2010年のバンクーバオリンピックの女子フィギアスケートではキムヨナ選手が金メダル。浅田真央選手は銀メダルに終わった。情報番組は二人を比較し徹底分析した。2018年平昌オリンピックでも、スピードスケートの小平奈緒選手が世界記録を持つ最大のライバルであり地元韓国の国民的英雄でもあるイサンファ選手との対決を制しての金メダル。会場に沸き起こるイサンファコールの中、銀メダルのイサンファ選手を抱きしめた小平選手。会場ではギクシャクする日韓それぞれの国旗が揺れていた。

また、スポーツには政治を持ち込まないと言うが、情報番組で取り上げるスポーツ競技の背景には政治的要素または事件的要素が欠かせない。

2018年の平昌オリンピック開会式では、北朝鮮から金与正氏、金永南氏。韓国は文在寅大統領夫妻、アメリカからペンス副大統領夫妻、日本から安倍総理大臣(いずれも当時)、そしてIOCのバッハ会長らが貴賓席に着席。世界がその距離の近さに注目。情報番組も貴賓席を中心に報道。オリンピックと政治の距離を改めて感じさせたシーンであった。

2020 年の全米オープンテニスで大坂なおみ選手は全7試合、黒人への人種差別や警察による暴力で犠牲になった人たちの名前が入ったマスクを着用した。見事優勝を果たすが、自身のTwitterに「スポーツに政治を持ち込むなと私に言ってきた人たちが、かえって勝利へと奮い立たせてくれました」と投稿している。情報番組はむしろ優勝よりもこのマスク着用を大きく取り上げた。

2017年10月25日に起きた日馬富士暴行事件は、「スポーツ」の出来事ではなく、被害届が警察に出された傷害事件であるが、引退に追い込まれた元横綱だけでなく、一連の対応が理事の忠実義務に反していたなどとして理事を解任された巡業部長の貴乃花親方など、この事件には情報番組が欲しがる要素がふんだんに散りばめられていた。横綱の暴力は指導なのか愛の鞭なのか。貴乃花の乱、組織のルールに従うべきか否か。相撲部屋とは、家族とは。そして、巡業中の事件だけに、本場所と巡業の違い。巡業に登場する相撲の禁じ手を面白おかしく紹介する初っ切りの説明にまで至った。

放送のやり方にも特徴がある。

例えば、2018年のサッカーW杯。西野マジックと言われ、「大迫半端ない」には再び火がついた。W杯の映像には制限があるため、情報番組は「大迫半端ない」をきっかけにして大迫選手の中学、高校時代の半端ない努力家ぶりや負けず嫌いぶりを掘り下げた。物議を醸したポーランド戦の残り8分間のパスまわし。これも事件的要素と言える。結果7月3日ロストフで行われたベルギー戦の敗戦。それでも戦前の予想を良い意味で裏切ったベスト16。番組は7月5日の帰国会見を生中継で対応した。

同年9月10日(月)。「ひるおび!」はニューヨークからの中継を交えて日本人初めての全米オープン優勝を伝えている。決勝戦はセリーナ・ウイリアムズ。表彰式でのブーングにも笑顔で対応する大坂選手。番組は翌日以降も大坂なおみ選手を特集。大坂選手の魅力が凝縮された“なおみ節”。そしてメンタルを上手くコントロールしたサーシャ・ベイジンコーチにも注目。9月13日(木)は帰国会見、9月17日(月)は日本で行われる東レパンパシフィックオープンテニスに向けての会見を生中継。この年から大坂選手にとって会見やインタビューの数は激増した。

また、2019年のラグビーW杯も、映像に制限があるため情報番組ではプレーの映像以外の演出を考える必要があった。番組が取った作戦はルールの説明。ジャッカル、スローフォアードなどを丁寧に、スタジオに選手を呼んで実演。10月23日(水)には、田中史朗選手、具智元(グジウォン)選手、松田力也選手をスタジオに呼んでベスト8の勝因を分析。12月11日(水)は日本代表の感謝 パレードを生中継した。

「事件」を伝える情報番組

情報番組はスポーツ番組とは違うため使える映像に制限がある。しかし社会現象になっているスポーツ大会を取り上げるには、事件的要素、政治的要素、経済的効果、などが含まれるとより取り上げやすい。

それが顕著にみられたのが今年4月の松山英樹選手マスターズ優勝である。TBSでは早朝から大会を生中継。ひるおびでは午前10時25分からの枠でオーガスタから松山選手の喜びの声を生中継で伝えた。午後の枠では松山選手の優勝を徹底的に分析するわけだが、その前にまず伝えたのが写真のシーン、実況の小笠原アナウンサーと解説の中嶋常幸プロ、宮里優作プロの涙である。

毎年現地から放送しているが、コロナのためオーガスタには行けない。そこで今年はクロマキー処理といって、放送上はオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブからの映像と合成できる、「グリーンバック」と呼ばれる殺風景なスタジオから放送していた。優勝の瞬間、中嶋プロの目から涙が溢れる。それを感じた小笠原アナウンサーが涙声に。宮里プロはもう言葉にならない。この涙の沈黙が約55秒。

放送上はオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブが映されているので、沈黙ではなかった。しかし、ひるおびはここに注目。スポーツ中継上は絶対に放送しない殺風景なスタジオでの涙を、あえて放送した。殺風景なスタジオでの3人の涙、そして55秒の沈黙は、松山英樹選手が成し遂げた優勝によって起きた「事件」である。情報番組には「事件」がよく似合う。

スポーツ番組は競技を中継する。しかし、情報番組はスポーツ競技によって起きる世の中の変化、つまり事件を伝える。逆に、情報番組が伝えているスポーツこそ、勝ち負けに関係なく、世の中に影響を与えている、世の中を変化させているスポーツである。

▶※1:ビデオリサーチ:「全局高世帯視聴率番組50。視聴率調査開始(1962年12月3日)からの全局高世帯視聴率番組50【関東地区】」、https://www.videor.co.jp/tvrating/past_tvrating/top50/

▶※2:ビデオリサーチ:「2009年年間高世帯視聴率番組30(関東地区)」、https://www.videor.co.jp/tvrating/past_tvrating/top30/200930.html

▶※3:TBSテレビで月曜日から金曜日の午前10時25分から午後13時55分まで生放送している情報番組。

▶視聴率については、ビデオリサーチの許諾を得て掲載。

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