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2013年、「福島の復興」を掲げ、「福島復興サイクルロードレースシリーズ」は始まった。シリーズ全10回の初戦、4月のレースは「ツール・ド・かつらお」だ。双葉郡村は福島第一原発から車でおよそ50分の山間にあり、原発事故によって全村避難を余儀なくされた。2016年に一部地域を除いて避難指示が解除され、今では村内に点在する線量計がわずかに事故の記憶をとどめている。しかし、居住者数は避難前の3割に満たないという。震災から13年を迎えた今年、大会の目的は「復興の象徴」から「交流人口の誘致」へと変わった。大会事務局長の米谷量平さん(37)は「ツール・ド・かつらおを通して、村に関心を持ってほしい」と意気込む。
4月20日、21日の大会にエントリーした選手のうち、およそ6割は福島県外者だった。
宇都宮市から初参加した加藤瑛典さん(31)は「1日5000円程度という破格の参加費が魅力ですね」と、来場者に振る舞われた地元産の和牛を美味しそうに頬張った。中学2年生の岡田愛裕來(あゆら)さん(13)は震災直後に生まれた。「このレースには子どもも参加できるので、毎年参加しています」と、落車による膝のかすり傷を気にせず、爽やかに答えた。
「ツール・ド・フランス」で知られる自転車ロードレースの起源は古く、1896年の第1回オリンピックの種目にもなった。公道を利用しているため、レース開催地と選手との距離は他競技に比べ、格段に近い。選手はその土地の風景や文化、人の思いを肌で感じて、走っているのだ。ヨーロッパで始まった自転車ロードレースは、1世紀の歴史の中で地域振興の期待を担うまでに進化している。
桜の咲くコースを駆け抜ける選手たち。出迎える地元住民は、交通整備や特産品を使った郷土料理でもてなす。汗と笑顔の中心に、自転車ロードレースがある。春風とともに、葛尾村の新たな1年が始まった。
▶文・写真│高田彩乃 早稲田大学文化構想学部