スポーツ産業学研究第33巻第1号
【原著論文】
陸上競技観戦者の快感情と行動意図の関連性
小田 美幸, 冨山 浩三, 紺田 俊
JSTAGE
スキー初学者を対象とした熟達体験の質的分析-スキー実習参加大学生の振り返り記述のSCAT分析を通して-
安住 文子, 北村 勝朗
JSTAGE
剣道熟達者における熟達体験に関するライフストーリー研究
安住 文子, 北村 勝朗
JSTAGE
競技用低抵抗ウエアにおけるニット生地の伸張による空力への影響
鈴木 功士, 山辺 芳, 前田 明
JSTAGE
【研究ノート】
大学野球選手の一塁から二塁ベースへのフットスライディング走と駆け抜け走の時間比較
小野寺 和也, 森本 吉謙, 入澤 裕樹, 吉村 広樹
JSTAGE
運動指導者を対象とした持ち上げ動作や姿勢の言語表現に関する調査
大下 和茂, 古市 将也, 疋田 晃久, 山口 恭平, 名頭薗 亮太, 田代 智紀
JSTAGE
エリートアスリートはなぜセカンドキャリアで教員を選択したのか : 「プロ野球選手」と「Jリーガー」の事例をもとに
飯尾 哲司, 藤岡 成美, 舟橋 弘晃, 間野 義之
JSTAGE
校庭における子ども達の遊びに関する研究-芝生化による影響-
齊藤 太郎, 加藤 朋之, 大山 勲
JSTAGE
【レイサマリー】
陸上競技観戦者の快感情と行動意図の関連性
小田美幸(大阪体育大学)
冨山浩三(大阪体育大学)
紺田俊(鈴鹿大学)
近年、地域活性化に貢献が期待されることから、スポーツツーリズムが推進されている。日本においては,2019年にラグビーワールドカップ,2021年には東京 2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催され, 観戦型イベントへの注目が集まり,これまでスポーツ観戦者を対象とした研究が行われてきた。観戦型のスポーツでは、チームスポーツを対象としたものが多く、スポーツ観戦者研究の多くは、プロスポーツを対象に行われていることから、本研究では,スポーツツーリズム研究において蓄積が少ない陸上競技の観戦者を対象に,快感情と行動意図の関連性について明らかにすることを目的とした.
研究対象は,2021年10月16日,17日に開催された「サトウ食品日本グランプリシリーズ 山口大会第18回田島直人記念陸上競技大会」の開催地域外(山口県外)に居住している観戦者であった.観戦者数は2日間合わせて1,794名であったが,本研究は,同一人物による回答の重複を避けるために,17日のみ調査を実施した(有効回答数71部).調査項目は,高覚醒の快感情(熱中している,喜んでいる,興奮している),低覚醒の快感情(落ち着いている,リラックスしている,穏やかでいる),行動意図の項目は,再観戦意図,口コミ意図を設定し,7段階のリッカート尺度で回答を得た.
結果は、高覚醒の快感情は,再観戦意図と口コミ意図に正の影響があることが明らかとなった.ポジティブな映像を場内で流したり,速いテンポの音楽を流すといった五感に訴えると演出を大会主催者側が実施することで,高覚醒の快感情が高まり,観戦者の行動意図を促すことが期待できる.今後は,観戦前後の感情に着目し,観戦者の感情の変化による行動意図への影響についても研究する必要があるだろう.
スキー初学者を対象とした熟達体験の質的分析-スキー実習参加大学生の振り返り記述のSCAT分析を通して-
安住文子(日本大学理工学部)
北村勝朗(日本大学理工学部)
スキーは,長い板を履いて,重力によって斜面を滑走するという,日常生活の動きの感覚とは異なる運動特性を有しています(全日本スキー連盟,2021:服部・北村,2022).このような特性を持つスキー学習場面では,とりわけ,初学者において,慣れない用具や環境,スピードや怪我などに対する多様な不安や恐怖の生起が想像されます.そして,スキー滑走場面で生起する恐怖は,初学者にとって大きな問題と考えられ,自信が低下した情況で連続的に不安が増強する場に立つ学習面での対応が求められます.
本稿の冒頭では,このような特性を持つスキーの技術や技能向上指導に関し,①学習環境,②指導者の指導,および③学習者の学び,の3つ視点から先行研究を概観し,一連の研究知見からスキーの学習場面では,学習者の恐怖や不安に対処しつつ,学習者の感覚を引き出し,技能向上を目指す指導が求められる点が明らかとされていました.しかしながら,スキー初学者が,学習過程をどう捉えて,何に気づいていったのか,といった熟達過程の詳細を,学習者本人の視点から明らかにする研究知見の蓄積は十分とは言えません.
そこで本研究では,スキー初学大学生を対象とし,短期集中学習過程の熟達体験を,本人による振返り記述による内省報告に基づき質的に分析し解明することを目的としました.
対象者は,大学のスキー実習の授業に参加したスキー初学者6名とし,すべての対象者は,それまでのスキー経験は無く,この実習において初めてスキーを学ぶ学生でした.
分析対象としたデータは,スキー実習終了後に,4日間のスキー実習を通した自身の学習体験を振り返って記載した自由記述とし,得られたデータをSCAT(Steps for Coding and Theorization)による質的分析法を用いて分析を行いました.
分析の結果,スキー初学大学生の熟達体験は,【スキーの学びに付随する戸惑いと不安】【学習方略に基づく学びを通した気づきと体現】【学びを支援し促進する学習環境を求める気持ち】【スキーの学びを通した喜びの体感】の4つのカテゴリーに分類され,それぞれの要素の循環的な関係性の中で説明される点が明らかとなりました.
すなわち,対象者は,心理的かつ技術的な課題に直面し戸惑いや不安を感じている自分自身を客観的に捉えつつ,技能向上に向けた目標を立て,さらに目標を達成する計画を立てて,自身の学習の取組状況および心理状況をメタな視点から捉え,行動や結果を評価しながら,学びの環境を最大限活用し,次の目標達成に向けたフィードバックを積極的に行っていく,といった学習方略を用いていました.その結果,上達の実感を得,スキーを学ぶ過程そのものに意義を見出し,さらなる上達に向けた取り組みの姿勢が示されていることが明らかとなりました.こうしたスキー初学大学生の熟達体験について,モデル図を作成して示しました.
本研究による現場への示唆として,スキー初学大学生の指導においては,①学習者の主体的な学びへの関与を促すための問いかけ,②戸惑いや不安などの要素を学びの契機と捉えた上で,学習者自身に情意的方略の工夫を促すこと,③目に見える形や動きと同時に,動きをつくりあげるまでの感覚や意図に気づかせるアプローチ,以上の3点が重要であると考えられました.
本研究で得られた知見や課題解明の糸口を探ることによって,スキーへの関心の向上やスノースポーツの発展に寄与することを期待しています.
剣道熟達者における熟達体験に関するライフストーリー研究
安住文子(日本大学理工学部),北村勝朗(日本大学理工学部)
全日本剣道連盟が公開している2012年~2022年5月における剣道八段審査会結果によると,その合格率は受審者の1%にも到達せず約0.68%と極めて低い値を示しています.このような傾向に関して,国家公務員試験の難関資格としばしば比較され,最難関の資格試験ともいわれることがあります.こうした剣道最高段位の資格には,剣道の基本的な要素はもちろんのこと,技の練熟度,鍛錬度,勝負の歩合に加え,理合,風格および品位を含めた,高度な技倆を総合的に判断され,修練をなし得た熟達が求められ,それらが認められるに至る過程は非常に厳しいことが推察されます.一方で,このような難関の審査を突破した剣道熟達者であっても,国内最高峰の大会といえる全日本剣道選手権の歴代優勝者には八段の剣士は存在しません.この理由には,受審資格の年齢設定等のほかにも,修行者の技術水準や修行の成果を表す段級がある武道と,競技会で技術の優劣や勝敗を競うスポーツというように,武道とスポーツの特色の差異に近い価値観(藤堂,2004:田中ほか,2000)が,剣道の熟達においても存在すると考えられます.そこで本研究は,剣道の熟達者のライフストーリーに着目し,彼らが剣道に触れてから今日に至るまで,どのような経験を経て剣道の熟達を果たしたのかを明らかにすることを目的としました.
対象者は,国内の主要大会で複数回の優勝経験を有す卓越した剣士2名としました.本研究では熟達体験の過程を対象者の語るライフストーリーから明らかにするため,剣道の最高段位および指導歴を有する人物を対象者として選定しています.データ収集には,筆者2名による1対2のナラティブインタビューを行う形で実施しました.その後,インタビューデータを書き起こし,桜井(2006)を参考として,剣道の熟達をどのように意味づけているかに焦点を当て,対象者による語りを対話構築主義の手法にならい,熟達者2名の語りに焦点化した提示を行いました.
分析の結果,対象者2名のライフストーリーにおいて,剣道の熟達化と関連付けられた共通した熟達体験を見出すことができました.すなわち剣道熟達化には,「幼少期の印象深い剣道体験」によって,その後の剣道の熟達過程における志向性が形成され,「探究的な稽古の体験」を技能向上に向けた練習に没入していったことが確認されました.そうした環境の中で周囲との相互関係を通し,自身の剣道を振り返りながら,技能や稽古の方法を研究し工夫し,考える稽古,厳しくても夢中になる稽古を積み重ねていったことが対話的構築主義的な見方において明らかとなりました.
さらに対象者の語りからは,剣道指導者でありながらも,自身の修業が継続している様子もみられました.つまり,剣道熟達者の持つ熟達に対する価値観においては,剣道の熟達が,剣士(競技者)であると同時に指導者として際限なく極め続けていく過程であり,また単なる技能向上に留まらない複雑な構造を内包するものであるという,新たな見方が可能であると推察できました.これらは,剣士としての熟達,および指導者としての熟達の2軸が並行して存在するという新たな視点を含むものであり,ここにも熟達研究の新たな展開の可能性が見出すことができました.
今後は,本研究によって導かれた剣道における熟達の新たな見方を,指導現場へどのよう還元できるのかさらなる検討が求められます.また,今回は2名の剣道熟達者を対象とした分析であることから,調査対象を拡げ,個人差や異なる熟達段階における検討を行いつつ,本研究における解釈を精緻化していく作業が必要であると考えられます.
本研究によって得られた知見も含め,こうした課題の解明へのアプローチによって,剣道への興味関心の向上につながり,それらの波及効果として,剣道競技をはじめ武道あるいはスポーツの発展に寄与することを期待しています.
競技用低抵抗ウエアにおけるニット生地の伸張による空力への影響
鈴木功士(国立スポーツ科学センター)(鹿屋体育大学大学院)
山辺 芳(国立スポーツ科学センター)
前田 明(鹿屋体育大学)
スポーツにおける空気抵抗は,競技用具によっても低減されます.その中でも,空気抵抗を低減する機能をもつ競技用ウエア(競技用低抵抗ウエア)については,多くの研究が報告されています.近年の競技用低抵抗ウエアは,競技の速度域で空気抵抗が減少するように,表面に粗さ,溝,ゴルフボールの表面のような凹凸(ディンプル)などの特徴をもつニット生地を使用しています.また,競技用ウエアは生地の伸張による着圧も重要とされていますが,着圧によりニット生地の表面形状も変化してしまいます.しかし,表面の溝やディンプルなどの特徴をもつニット生地の伸張にともなう表面形状の変化と空力特性の関係はあまり報告されていません.シンプルなニット生地は,伸張により生地の編目が開き表面が粗くなることが知られています.一方で,表面に溝やディンプルなどの特徴をもつニット生地は,伸張により生地の編目が開くとともに,溝やディンプルの形状も変化し,シンプルニット生地とは異なる変化が推測されます.そこで本研究は,3種類の生地(溝つきニット生地,ディンプルニット生地,シンプルニット生地)の伸張にともなう表面形状の変化と空力特性の関係を,三次元表面性状測定と円柱模型をもちいた風洞実験によって明らかにしました.
その結果,溝つきニット生地とディンプルニット生地は伸長にともない生地の表面が滑らかになる関係がみられました.一方,シンプルニット生地では.伸長にともない生地の表面が粗くなる関係がみられました.ディンプルニット生地とシンプルニット生地は表面が粗くなることで空気抵抗が最小となる風速が小さくなる関係がみられました.一方,本研究でもちいた溝つきニット生地は粗さの変化と,空気抵抗が最小となる風速に関係がみられませんでした.
したがって,選手の好みに合わせた着圧の調整や,選手の身体変化に合わせたサイズの再調整がおこなわれる場合は,生地伸張による空力変化がより小さい,溝つきニット生地が好ましい可能性があります.一方,ディンプルニット生地やシンプルニット生地を選択する場合は,選手着用時の生地伸張を考慮して生地の表面粗さを設計する必要性があります.また,ディンプルニット生地やシンプルニット生地は伸長率を変更するだけで空気抵抗が低減する速度域を,競技の速度域に調整できる可能性があります.一方,溝つきニット生地は速度域の調整のために新たな生地を製造する必要性があります.ただし,この結果には本研究でもちいた溝つきニット生地の溝深さと溝幅が関係している可能性があります.今後,さらに詳細な検証によりスピードスケート競技などの現場に活かされることを期待します.
【研究ノート】
大学野球選手の一塁から二塁ベースへのフットスライディング走と駆け抜け走の時間比較
小野寺和也(仙台大学体育学部)
森本吉兼(仙台大学体育学部)
入澤裕樹(仙台大学体育学部)
吉村広樹(仙台大学体育学部)
野球の試合において,ランナー一塁の状況で内野ゴロが放たれ内野手が二塁ベースに送球を行う際に,一塁ランナーはフットスライディングで二塁ベースに触塁する方法が一般的に用いられる.しかし2021年夏に行われた第103回全国高等学校野球選手権和歌山大会の決勝戦において,智辯学園和歌山高等学校の選手は8回裏二死一,二塁の攻撃で,打者がショートゴロを打ち,捕球した遊撃手が二塁ベースに入った二塁手にボールを送球した際に,一塁ランナーは二塁ベースを駆け抜ける走塁をした.二塁ベースを駆け抜けセーフになったランナーを,相手の二塁手が慌てて追いかけ,その間に二塁ランナーが本塁へ生還した.この場面では,一塁ランナーが二塁ベースを駆け抜けてセーフになったことで,攻撃側がいわゆるトリックプレーを生じさせ得点を挙げたが,二死一,三塁や二死満塁の場面であれば,二塁ベースでセーフになれば三塁ランナーは生還し得点を記録することができる.もし,スライディングをするよりも駆け抜けたほうが,走塁時間が短くなるのであれば,トリックプレーを生じさせる目的以外でも,アウトになるかセーフになるかギリギリのタイミングであれば,一塁ランナーは二塁ベースを駆け抜けるべきである場面も存在すると考えられる.野球の現場においては,ベースに留まらない場合にはフットスライディング走よりも駆け抜け走の走塁時間が短いと考えられていると推察される.しかし,駆け抜けたほうが走塁時間が短くなるという言説に対してのエビデンスはFicklin, et al.による一件のみしか見当たらず,対象者も9名と少なく,日本人を対象としたものは見当たらない.そのため,フットスライディング走と駆け抜け走の時間比較については追加で検討する必要がある.そこで本研究は,一塁ランナーが二塁へ走塁をする際に,二塁ベースへフットスライディングを行うフットスライディング走と,二塁ベースを駆け抜ける駆け抜け走の時間を比較し,走塁指導および走塁研究への一資料を得ることを目的とした.
X大学硬式野球部員11名を対象として,一塁ランナーが第二リードを完了した地点から二塁ベースまでの22mの走塁時間および10m通過時間を光電管を用いて計測し,フットスライディング走と駆け抜け走の走塁時間を比較した.その結果,22mの走塁時間,10m通過時間ともに走法間で有意な差は認められなかった.本研究の結果から,一塁ランナーが二塁への走塁をする際に,トリックプレーを行うという理由ではなく,フットスライディングをするよりも二塁ベースを駆け抜けたほうが早いという理由で,二塁ベースを駆け抜けることは推奨できるものではないと考えられた.本研究では一塁から二塁への走塁についての時間比較を行ったのみであるが,フットスライディング走と駆け抜け走で走塁時間に有意な差が認められなかったという結果は,他の塁間での走塁にも当てはまる可能性も考えられる.本研究をきっかけとして,様々な場面での各走法による時間比較や,映像分析などの,より詳細な知見を積み重ねていくことが望まれる.
運動指導者を対象とした持ち上げ動作や姿勢の言語表現に関する調査
大下和茂(岡山県立大学情報工学部人間情報工学科)
古市将也(岡山県立大学大学院情報系工学研究科)
疋田晃久(九州共立大学スポーツ学部)
山口恭平(九州共立大学スポーツ学部)
名頭薗亮太(九州共立大学スポーツ学部)
田代智紀(九州共立大学スポーツ学部)
腰痛の危険因子として,物の持ち上げ作業が挙げられる.持ち上げ動作と腰痛の関連については多くの議論があるが,膝関節の屈曲を伴わず体幹を前屈させる動作(stoop法)よりも,股関節だけでなく膝関節の屈曲・伸展を伴う持ち上げ動作(squat法)が腰痛予防に適しているとされている.持ち上げ動作をsquat法へ導くには,具体的な動作指示が必要となる.これまでに,持ち上げ動作の言語指示に対して,実際に遂行される動作を調べたところ,「腰を落とす」といった腰の位置に着目する指示でsquat法の持ち上げ動作へ導ける可能性を示した(古市・大下,スポーツ産業学研究,2022).本研究は,実際の指導現場で,squat法の持ち上げ動作を運動指導の専門家がどのように言語表現するか,また,動作を言語で伝えることの難易度についても調べ,指導者間で共通の表現方法があるか,そもそも動作を言語で伝えることは可能と感じているのかについて検討した.高校・大学で体育・スポーツを教える専任教員または各種運動指導団体の指導員認定を有する指導者27名に,stoop法とsquat法の持ち上げ動作の写真を提示し,squat法を指導する場合,どのような言語表現になるか,また動作を言語で表現することの難易度についても質問した.その結果,対象とした運動指導者の7~8割は動作を言葉で伝えやすいと回答し,持ち上げ動作を言語によって適切な動作に導けると感じている者が多いと推測された.表現では,「腰の位置」や「しゃがむ」,「体幹の姿勢」,「視線」に関する表現が多かった.しかし,最も多く回答された表現でも,回答割合は55%と対象者の約半数であり,ほとんどの対象者が回答した共通の表現はなかった.そのため,同じ動作や姿勢であっても,それ表現する言葉は多様であり,運動指導の専門家であっても,専門家毎で表現方法が異なることを示している.今後は,被指導者に対する動作認識調査に加え,今回比較的回答の多かった視線に関する指示など,腰の位置に着目する指示以外の表現方法で実際に遂行される動作を調べるなどの検討を加える.
エリートアスリートはなぜセカンドキャリアで教員を選択したのか : 「プロ野球選手」と「Jリーガー」の事例をもとに
飯尾哲司(早稲田大学総合研究機構スポーツビジネス研究所)
藤岡成美(追手門学院大学社会学部)
舟橋弘晃(中京大学スポーツ科学部)
間野義之(早稲田大学スポーツ科学学術院)
本研究のテーマは「プロ野球選手とJリーガーが,引退後の第二の職業において,なぜ教員を選択したのか」ということです.
日本の学校現場で学生を対象に両スポーツを指導する場合,教員免許は必須ではありません.しかし苦労して,「なぜ教員免許を取得して,セカンドキャリアで教員になったのか」.その職業選択の背景要因を明らかにすることを目的としました.
本研究では,元プロ野球選手9人,元Jリーガー7人にインタビューを中心とした調査を行い,要因として20概念が抽出されました.
一例を挙げれば,ファーストキャリアをセカンドキャリアに活かそうとする点は双方に共通します.ただし,元プロ野球選手はかつての学生野球資格回復制度により,高校部活動を指導するためには,セカンドキャリアで教員になる「必要」があったのです.
一方,元Jリーガーは,プロ野球選手のようにプロ入り時の契約金がなく,かつ選手寿命が短いため,安定した生活基盤の獲得のために教員になる傾向がありました.
さらに,元Jリーガーは恩師の影響を強く受け,元プロ野球選手は家族や友人といった重要他者の影響が大きいことが明らかになりました.詳細については論文をご参照ください.
さて,この23年度から「公立中学校の部活動において,教員が休日に指導しなくてもいい仕組みづくり」が展開され,動向が注目されています.高校においても同様の考え方を基に取り組みを実施します.部活動の円滑な地域移行に向け,さらなる議論が求められます.
校庭における子ども達の遊びに関する研究-芝生化による影響-
齊藤太郎(韮崎市立韮崎小学校)
加藤朋之(山梨大学)
大山 勲(山梨大学)
我が国では,「子どもが外で遊ばなくなった」,と指摘され,既に長い年月が流れている。また,放課後はスポーツ少年団やスポーツクラブで活動する子ども達はいるものの,校庭のみならず,地域で外遊びをしている子どもを目にする機会は乏しい。そこで本研究は,休み時間に校庭で遊んだり,運動したりする子ども達を対象として,子ども達が,より自然発生的に,運動できる校庭のあり方を明らかにすることを目的とした。さらに,芝生化された校庭と,芝生化していない校庭についての比較検討を行うために,芝生の校庭と芝生でない校庭での子どもの遊び行動の実態について,ビデオ撮影による調査を行った。芝生化校庭と非芝生化校を比較・検討した結果,子ども達の外遊びの誘発に,芝生や,遊具やスポーツ器具などの固定施設,自然物などの構造物の必要性が明らかとなった。また校庭の芝生化によって,(1)外遊びを行う子ども達が非芝生化校と比べて多い,(2) 非芝生化校と比べて女子が外で遊ぶ人数が多い,(3)遊びの多様性があり,多くの種類の遊びが出現する,(4)しゃがみ込みなどの動作が多くなる,ことが明らかとなった。