サンフレッチェ広島・新スタジアム 建設事業の進捗と今後の展開

サンフレッチェ広島・新スタジアム
建設事業の進捗と今後の展開
信江雅美│株式会社サンフレッチェ広島 総合戦略室長 兼 スタジアムパーク準備室長

広島では、日本初都心交流型スタジアムパークの2024年開業を目指して、2022年2月に着工し、現在、順調に建設工事が進んでいる。
中四国最大の拠点都市である広島市の中心部に開設される「まちなかサッカースタジアム」の詳細と意義、「まちなか」(=都市中心部)という立地に不可欠な周辺地域との連携の取組み、まちづくりと地域活性化、スタジアムパークが目指すものなど、様々な観点からクラブの考え方と具体的な取り組み、今後の展望について講説する。

スタジアムと公園を一体整備し、広島のシンボルに

サンフレッチェ広島、総合戦略室長の信江と申します。スタジアムパーク準備室長を兼務しております。よろしくお願いいたします。広島のスタジアムパーク構想は、広島市の中心部の中央公園広場という場所に、スタジアムと公園を一体で整備していこうというプロジェクトです(資料1)。

©️広島市

資料1 俯瞰イメージ©️広島市

我が国では、少子高齢化が急速に進んだ結果、2008年をピークに総人口が減少に転じています。現在、総世帯数は単独世帯の増加にともない増加傾向にありますが、将来的にはこれも減少に転ずるものと思われます。少子高齢化対策は国全体の課題ですが、一方で、地方では、子育て世代の「住みやすさ」を実現することで、年少人口や生産年齢人口の増加を図ろうという動きが顕著です。
広島は近郊にライバルが見あたらない街と言えます。岡山市や北九州市、福岡市などの他の政令指定都市は、新幹線に乗らないと行けない距離にあります。そういう意味では、他の自治体との生産年齢の取り合いという傾向はまだ希薄と言えますが、これも徐々に厳しい局面になるのではないかと考えています。スタジアムパーク構想は、アフターコロナの時代を見据えて、世界に誇れるサッカースタジアムを中心に、広域に多世代の人々を惹きつける魅力的な施設や機能が集積した公園空間を整備し、広島都心部の回遊性を高めるためのプロジェクトです。私たちはスタジアムパークの建設が、広島を「遊びに行きたい」「働きたい」「住みたい」、そして最終的には「暮らしたい」街にしていく契機となることを願っております。
広島の街は原子爆弾による被害からの復興計画にあたり、高名な建築家の丹下健三氏が立案した「広島平和公園計画」のプランが下敷きになっていると言われています。その丹下氏の元々のプランでも、この場所にスポーツ競技場が計画されておりました。工事が始まる前には、ご近所の方が散歩をしたり、時折フードフェスティバルのような大規模なグルメイベントが開催されたりしていました。2024年の2月にはスタジアムが開業し、公園広場部分が8月に開業する計画です。
アクセスルートは相生通りという一番人通りの多い幹線に接続する、幅10mの園路を新たに作って、直接ペデストリアンデッキを使ってスタジアムの2階デッキに入っていく計画になっています。基本的に試合をやっていない時も賑わう、街の景観にとけこみ、開かれ、公園と一体となったスタジアムパークを目指しています。
欧州にも多くの素晴らしいスタジアムがありますが、私たちが特に参考にしたのは、米国メジャーリーグサッカー(MLS)のスタジアムです。ピッチを囲むように配置されたインナーコンコースはそのひとつです。
また、スタジアム内の飲食サービスは、来場動機として大きな割合を占めており、MLSではこれをたいへん重視してきました。試合中、席にずっと座って見ているのではなくて、コンコースの色々な施設を楽しみながら、お客さんが回遊しながら見ているのが米国のスタジアムの特徴だと思います。
欧州のサッカースタジアムは基本的にサッカーの熱心なファンやサポーターが見に行く場所であり、一般の観客席は男性客の割合がとても多く、ブンデスリーガでもプレミアリーグでもその傾向が顕著です。しかしながら米国のスタジアムは女性客や子ども、ファミリーの割合がとても多くなります。ずっと椅子に座って見ている方もいらっしゃるし、飲み物を片手に色々な場所で観戦していたり、コンコースの売店に買い物に行ったり、様々なところで施設全体を楽しむといった米国のスタジアム良さを採り入れたのが、広島のスタジアムの特徴です。

3つのコンセプト

今回の新サッカースタジアム構想には、大きく3つのコンセプトがあります。
1つ目は「多目的多機能化、複合化」です。「多目的多機能化」とは、スタジアム施設の中に、基本的にはサッカーの試合とは関係なく稼働している集客施設を設置することです。「複合化」とは試合時に特定の目的のために使用される諸室を、試合をやっていない日には別の目的に活用できるような設計にしておくことです。
2つ目は、競技環境、観戦環境ともに、Jリーグのスタジアム基準を満たすことは勿論のこと、国際試合に対応する世界水準の機能を備えた施設を作るということです。
3番目はこれが非常に大事ですが、初めて訪れたお客様が繰り返し来たくなる、思いっきり楽しめる空間を作っていこうということです。広島のスタジアムについてはファン・サポーターだけでなく、初めて来たお客様をターゲットにしています。初めて来たお客様が非日常的なスタジアム体験を経験することによって、リピーターになっていただくプロセスが最も重要なことと考えています。また、主な特徴ということで以下のことを上げています。
スタジアムの西側は旧太田川(通称本川)という一級河川に面していて、岸辺は河岸緑地として整備され、バーベキューを楽しむ方とか、川のスポーツを楽しまれる方が多くいらしゃいます。スタジアムの2階デッキの南北には、この河岸緑地からスタジアム東側の公園、さらには広島城に向けて自由に回遊できるパークコンコースを作っています。試合の有無に関わらず、自由に歩くことができます。
また、特徴的な外観なので、ぱっとシルエットだけ見ても単なるサッカースタジアムではなくて、広島のスタジアムだということが分かっていただける個性的なデザインと言えると思います。
観客席は28,500席です。駐車場は試合をやっていない時は時間貸しの駐車場として稼働します。メインスタンド1階には試合運営で使う多彩な諸室が設置されており、VVIP、VIP、一般のお客様、チーム関係者、メディア関係者など、観客動線と運営関係者動線を確実に分離しました。大会運営室・各種控室等はカルチャー教室や会議室として、記者会見室・記者室は企業や団体の記者発表のためのプレス会場としてなど、さまざまな複合利用を計画しています。
スタジアム東外側(バックスタンド外側)1階には170㎡が2か所、50㎡が1か所のリーシングエリアがあります。また、1,100㎡のサッカーミュージアムを設置する計画です。単なる展示型施設ではない体験型ミュージアムとすることで、サッカーファンはもちろん、広く県民・市民、観光客など幅広い人々が楽しめる場を提供し、年間を通じたスタジアムの賑わいづくりに寄与するとともに、日本サッカー発展への貢献や平和への思いなどサッカー王国広島のレガシーと誇りを次世代へ継承し、国内外へ発信します。
また、さまざまな視点でスタジアムを周遊できるスタジアムツアーを用意します。初心者から熱心なファンまで楽しめ、観光スポットとしても訪れたくなる体験と見学を提供します。
コロナ禍以前、広島市には県外から観光で訪れる方が1269万人いらっしゃいました。沢山の方が訪れる原爆ドームから直線距離で500mと至便な場所にあるので、スタジアムパークを広島の新しい観光地、新たなランドマークになるよう努めてまいります。

様々なホスピタリティエリア

メインスタンド2階のVIPエリアとVIPラウンジ、4階のスカイボックスとビジネスラウンジは、企業・団体・個人向けのバンケットホール・パーティーフロアとして、企業イベント、学会、公式な会議、セミナー、各種集会の他、パーティー会場として活用いただけます。可動式パテーションで分割し、会議後の懇親会や、小規模セミナー会場としても使用可能です。
また、新設のスタジアムとして国内初のトンネルラウンジを設けます(資料2)。ミックスゾーンから選手の入場を臨みながら、隣のラウンジで応援することができます。

資料2 トンネルラウンジ©️広島市

メインコンコースを魅力あるフードコートに

3階にはピッチを取り巻く形で幅10mのメインコースがあり、どこからでも試合を観ることができます(資料3)。コンコースなどには、多彩で魅力的な飲食店舗を多く配置します。魅力あるフード&ドリンクなどの飲食サービスはスタジアムへの重要な来場動機です。これまでの国内スタジアムで一般的であったスナックや揚げ物中心のメニューを一新し、新鮮で美味しい肉料理、魚料理、野菜など真に魅力あるフードを提供し、コンコースをフードホールにしたいと思っています。

資料3 幅10mのメインコンコース©️広島市

多彩なシートバリエーションと最新の統合演出設備

バラエティに富んだシートバリエーションを提供するのが4階です。メインスタンド側にはスカイボックスという個室とホスピタリティエリアやビジネスラウンジ、バックスタンド側にはスイートテラスやパーティーテラス、カウンターシート、デラックスシート、ロングシートなど、グループ、家族、カップル、もちろん一人でも、多様な観戦スタイルで自由に楽しめる観戦環境を用意します。従来型のサッカースタジアムではなかなか無かったのだと思います。
また、試合を開催していない日の複合利用としては、4階と6階のメインスタンド側の部屋をコワーキングスペースやレンタルオフィス、シェアオフィスなどに活用できるように設計をしています。
初めて来たお客様に楽しんでもらうために、飲食に加え、映像音響照明をこれまで以上に活用します。現時点では、日本に3台しか入っていないアメリカの最新型の統合演出装置を導入します。大型ビジョンやリボンビジョンといった映像装置、高音質の音響システム、カラー照明を連動させた迫力ある演出で非日常的な体験を提供します。通常のスタジアムですと、だいたい2時間前の開場が基本ですが、このスタジアムは4時間前ぐらいから開場し、試合の2時間と計約6時間、スタジアムの中で愉しく過ごしていただきたいと考えています。

スタジアムと広場と5つのゾーン
このスタジアムパークには7つの魅力あるゾーンを持っています(資料4)。1つは世界に誇れるサッカースタジアム機能を核とし、多目的かつ多機能化した都心交流型の「スタジアムゾーン」、もう1つは多様なイベント会場として活用でき、都心で憩える青空と広大な「芝生広場ゾーン」。それ以外にA~Eの5つのゾーンです。
Aゾーンは「STADIUM ACCESS ゾーン」。スタジアムと公園をシームレスに繋ぎ連携する商業を配置します。ミュージアムやカフェレストラン、軽飲食店舗、物販店舗が芝生広場に向いて配置されます。
Bゾーンは県民・市民に都市の中の公園の心地よい環境と、それを最大限に活かす機能を提供し、新たな都市生活を提案する「パークライフスタイルゾーン」。
Cゾーンは道路を挟んで広島城に面しています。ここは広島の様々なモノやコトを体験・購入できる場所として「HIROSHIMA STYLE ゾーン」と名付けています。
Dゾーンは「SPORTS & COMMUNITY ゾーン」。子供の知育、県民の体力づくり・健康寿命増進を意識した、スポーツアクティビティ機能の配置が計画されています。
パークコンコースを通ってスタジアムの西側に行くと、親水環境・眺望を活かしたウェルネスコミュニティ機能を有したEゾーン「RIVER SIDE & WELLNESS ゾーン」があります。SUPやBBQが楽しめる、水辺の眺望を活かした施設を計画しています。
ABCDEのゾーンに加え、スタジアムと広々とした芝生広場ということで合計7つのゾーンがあるのがこのスタジアムの特徴です。
大阪市の「てんしば(天王寺公園)」、名古屋市の名城公園北園の「トナリノ」や久屋大通パーク、富山市の「富岩運河環水公園」などの整備された公園を手本として、都市の中の魅力ある公園空間を作っていきたいと思っています。

資料4 ゾーニング

公園とスタジアムで季節に応じたイベントや演出

これらのスタジアムや公園空間を使って、年間100日以上イベントを開いていきたいと思っています。サンフレッチェが今取り組んでいる、ピースマッチや、様々なコラボイベント、サンフレッチェの選手やチアを使ったイベントやミニコンサートなどに加え、地元のお祭りやローカルコンテンツをスタジアムと公園と連携して動かすことによって、魅力あるイベントゾーンとしても稼働させていきたいと思っています。また、シーズナリーイベントに力を入れ、例えばクリスマスのイルミネーションなど、季節に応じた演出をしていきます(資料5)。

資料5 ライトアップイメージ©️広島市

周辺商業地域との連携

2022年2月に着工し、現在、2024年2月のJリーグ開幕をめざして、順調に工事は進捗しています。3月に女子WEリーグの後半戦が始まるので、2024年には男女ともトッププレイヤーがここでリーグ戦を戦います。7月末から8月にかけては公園部分がオープンになります。スタジアム部分と公園部分と2回のオープニングイベントを行い、8月にグランドオープンという予定です。
まちなかのスタジアムにとっては、市内中心部の賑わいに寄与するために、周辺の既存商業エリアの事業者さんや商業施設といかにネットワークを作っていくかが重要です。サンフレッチェは新サッカースタジアムがホームスタジアムとなることを踏まえ、広島市や経済産業省の協力を得て、スタジアム周辺の商業エリアとの相互送客連携ツールとしてスマートフォンアプリを利用した「サンフレッチェコイン」の実証実験を2019年11月から始めるなど、スタジアムパーク建設を契機とした広島都心部の賑わい創出について検討を重ねてまいりました。2回の実証実験では、もともと市内中心部の紙屋町に行くことがなかった利用者の約7割が来場するなど、具体的な集客効果や売上効果に繋がることが実証されました。
また、既にサンフレッチェは、市内中心部のまちづくりプラットフォーム「カミハチキテル」や、「紙屋町基町にぎわい協議会」に参画しており、市内中心部の賑わい創出や活性化を目的としたまちづくりに貢献したいと考えております。

三本の矢をイメージしたロゴ

最後にスタジアムパークプロジェクトのロゴの説明をさせていただきます(資料6)。ローマ字表記の「広島」の頭文字である「H」をかたどったフォルムの中、下部の緩やかに広がる曲線から空(未来)に向かって伸びる三本の矢印は、サンフレッチェ広島のクラブ名の由来である毛利元就の「三本の矢」の故事であるとともに、行政、企業、そして県民がひとつになって未来を沸かせていく、元気な希望のシンボルです。水の青、公園の緑、そしてサンフレッチェ広島のクラブカラーである紫の背景に描かれているのは、サッカーをプレイする姿と、公園を散歩する家族の姿、そして、広島城から原爆ドーム・平和公園のシルエットであり、世代を超えて人々が集い、楽しみ、歓喜し、憩う、これからの「感動共有拠点」になることを表現し、夢と期待に満ちあふれた新しい広島の街をデザイン化しています。

資料6 ロゴ

質疑応答

Q.住宅が北側にありますが、音がうるさいなどの苦情があったりする可能性はあるのでしょうか。
A.北側にできるだけ音が漏れないように、建築構造で音を塞ぐ形になっています。逆に南側は開口部が大きく開いていて音が抜ける構造です。基本的にサッカーは、ホームチームのお客さんの方が多く、一番熱烈に応援する人たちが北側に陣取りますが、今回は逆になっています。南側がホームのサポーター席やサポーターズシート、北側がアウェイのサポーターシートです。また、スピーカーの配置や、音の反響を精緻にシミュレーションして、北側の住宅に配慮した設計計画が練られています。

Q.指定管理はスタジアムだけではなくて公園の全部一体でしょうか
A.スタジアムは100%公共事業施設です。公園は官民連携(PPP)の仕組みであるPARK-PFIで整備されます。つまり、スタジアムと公園は異なる手法で整備されます。このように、スタジアムと公園の指定管理者はそれぞれ別の事業者が担うことになりますが、例えるならば、スタジアムが家だとすれば、公園広場は庭です。家と庭が異なるコンセプトで運営されるとあれば、ちぐはぐなものになってしまします。将来にわたってある程度の一体性を担保するために、両者がLLP(有限事業者組合)を組成することになっています(資料7)。

資料7 PARK PFI

Q.建設においてサンフレッチェ広島の意向はどの程度反映されていますか?
A.建設にあたって建設推進会議というものが最初に作られました。この建設推進会議というのはメンバーが広島県知事、広島市市長(事業主体)、商工会議所会頭、サンフレッチェ会長、県サッカー協会会長の5者が集まって方針を決定する上部組織です。その配下に、それぞれの組織の事務方からなる作業部会が作られ、基本計画などの作成にあたりました。サンフレッチェは、その一員として、ホームスタジアムとして主たる利用者であるサンフレッチェの意見や提案を申し上げてきました。

Q.試合がある日もない日もみんなが交流できるスタジアムであることが、サンフレッチェの基本の考えであると考えてよろしいですか。
A.そうですね。サッカーの試合をするということだけであれば、別に郊外でもスタジアムであれば試合はできます。ただ、プロスポーツチームとして、たくさんの方に来ていただきたい。お年を召した方も、幼いお子さんがいるご家庭でも、体が不自由な方でも、どんな方でも行きやすいところというと、やはり地方都市では中心部になります。「まちなか」に作るということは、365日稼働する、楽しい施設でないといけないと思います。365日人が集まり、商業が集積した公園というのは広島にまだありません。バックスタンド外側は全て公園利用者の為に活用し、また試合をやってない時は全て試合ではないことに活用できる設計にすることが、サッカースタジアムがプロスポーツチームのホームスタジアムとして都市中心部に存在するために、必須の要件である私は思っています。

▶本稿は2022年10月11日(火)に開催されたスポーツ産業アカデミー(ウエビナー)の内容をまとめたものである。

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