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日本スポーツ産業学会 第31回シンポジウム 「するスポーツ」における新たな価値創造

日本スポーツ産業学会 第31回シンポジウム
「するスポーツ」における新たな価値創造

川岸滋也│東京フットボール株式会社 代表取締役社長
鈴木良介│Now Do 株式会社 取締役副社長兼 COO
松本 有│埼玉西武ライオンズ 経営企画部 L-FRIENDS グループマネージャー
大山 高│帝京大学 実行委員会メンバー
モデレータ 塚本拓也│帝京大学 実行委員会メンバー

スポーツ庁は文部科学省で有識者による「運動部活動の地域移行に関する検討会議」を開き、公立中学校の休日の部活指導を民間スポーツ団体などの地域に委ねる「地域移行」を、2023年〜2025年度の3年間で集中的に推進することを発表した(スポーツ庁、2022)。本シンポジウムは「運動部活動の地域移行」に関する課題に対して「するスポーツにおける新たな価値創造」の視点から、地域移行の在り方を構想する。

part 1│プレゼンテーション
地域との協働マネジメントと大学の貢献
塚本 公立中学校の部活動地域移行の課題対応としまして、1.スポーツ団体等の整備・充実2.スポーツ指導者の質・量の確保3.スポーツ施設の確保4.大会の在り方5.会期の在り方6.保険の在り方7.関連諸制度等の在り方と7つのポイントが指摘されております。
このシンポジウムは「するスポーツ」における新たな価値創造の観点から地域との協働マネジメントをどのように行っていくのか、さらに、大学がハブとなってスポーツを通じて地域との協働に貢献するという、横の連携の可能性について検討することを目的としております。

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FC東京の子どもたちへのサッカーの普及活動における教育機関との連携について
川岸滋也

サッカーを楽しんで心を育む
自治体や教育機関との連携の部分を中心に活動をご紹介したいと思います。FC東京はJリーグのJ1のクラブです。スタジアムで華やかにサッカーをしている、そんなイメージが強いと思いますけれども、自治体の方々、教育機関の方々といろいろ連携をしております。
FC東京はJリーグのクラブとして24年、前身の東京ガスサッカー部からだと86年くらいの歴史があり、東京でずっとサッカーの活動をしてきました。高校生のU18、中学生のU15のチームもあり、U18だと1チーム、U15だと2チームが活動をしており、それぞれ150人程度のお子さんが、プロを目指してサッカーをしています。
その下に東京全域にスクールを展開しており、東京都内で28か所、3800人ぐらいのスクール生がいます。FC東京直轄校とコーチ派遣をしている派遣校に分かれております。
クラブのビジョン、ミッションの中心となるのは、スポーツを楽しむ文化の醸成と、青少年たちがスポーツを通じて可能性を広げてもらいたいと考えています。
普及活動でお話ししたいのは、幾つかある私たちが出向いていく活動です。その中でスマイルキャラバンとキッズ巡回というものがあって、これは小学生・保育園・幼稚園生に対してもサッカーの普及活動を行っています。教育機関から求められて行くということになります。
小学校ではボール遊びをお手伝いしたりしながら、サッカーを少し楽しんでもらっています。2019年は110回やっており、延べ1万人の小学生にサッカーに触れてもらったり、ボールに触れてもらう機会を提供しました。
教育現場の1つの課題としては、体育の授業や総合学習のような形の中で球技やボールに触れる機会や、スポーツを楽しんでもらうような切り口を探すのがなかなか難しいという話があります。コロナ禍で、私たちもなかなか現場に出向けないということもあったので、「あかおあドリル」というものを作りました(写真1)。

私たちがコンテンツを考えながら、各教育委員会の方々と議論をしながら作ってきたものです。学校の現場からすると、ボール遊びやスポーツを楽しんでもらうというところから、運動嫌いをなくしていくとか、運動を好きになってもらう活動のきっかけにならないかということです。
中身は非常に単純で、体をどう動かすかというようなことで、小学校1年生だと少し難しい部分がありますが、先生方の副教材的に使えるようなレベルになっています。府中市、三鷹市、調布市、小平市、西東京市、それと小金井市、杉並区の1万7000人のお子さんにお配りしています。
私たちが「するスポーツ」の楽しさをどのように伝えていくかというところで、3つのポイントがあると思っております。まず、サッカーの技術向上を促していくこと。もう1つは人としての成長を促していくというところ。最後にサッカーの魅力を伝えるというところ。サッカーを楽しんで心を育むという、この3つの組み合わせで、取り組んでいます。
スクール現場では、競技志向のお子さんと、あくまでスポーツを楽しみたいというお子さんと分かれます。いずれにしてもサッカーをやっていますので、指導レベルを上げていかなければなりません。ここについては積極的にコーチの方々にレベルアップを頑張ってもらっています。サッカー協会からいろいろなコンテンツも提供されますので、それらを学び、フィードバックしてもらって、クラブ全体の指導レベルを上げていくよう取り組んでいます。
スポーツをするお子さんの人としての成長を促していくというのは、簡単に言うと、人間力を上げていきましょうということです。活動の1つは、先ほどの「青赤キッズの心得」で、スポーツをやるときやチームで集団行動をするときに気をつけるべきことを訴えたり、コーチとお子さんの間で、できたこと、できないことを交換日記もしています。お子さんからすると、自分のできたこと、できないことをダウンロードすることで気づきがあって、その気づきからさらに成長していきます。言語化をするといろいろな気づきがあるので、翌週来たときにサッカーのレベルが上がっていたり、やることが変わったりということも生まれています。
サッカーの魅力をどう伝えていくかというところでは、スクール体験に来られる方はたくさんいますが、実際にスクールに入る、入らないというのは結局、親御さんとして月謝を払う意味があるかどうかということに加え、お子さんがやりたいかどうかがすごく重要になります。
そこの部分で、体験会1回のタイミングでいかにお子さんにとって満足して帰ってもらえるかというところに取り組んでいます。1回の体験会でお子さんが成功体験を持って帰ってもらう。スポーツを好きになる、サッカーをやりたいと思う、体を動かすことが面白いと思ってもらえるように、集中して取り組んでいます。
FC東京の活動の多くはこういう普及活動にリソースを割いています。教育機関、自治体の方々と課題を共有しながら進めていますので、我々のリソースやノウハウが地域の皆さんにどのような貢献ができるのか常に考えています。我々のノウハウやリソースがうまく活用できるのであれば、ぜひ、いろいろ取組を進めていきたいと思っています。

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西武ライオンズの地域との取り組み
松本 有

4本の軸で地域連携
私はアメリカの大学院でスポーツ経営学を学び、その後、楽天イーグルスで14年、2019年から現職、西武ライオンズの経営企画部で地域貢献やアカデミー事業を行っております。
ライオンズの地域貢献活動は2018年以降、L-FRIENDSという名称に集約して行っております。2008年に西武ライオンズという名称から埼玉西武ライオンズに名称を変えまして、そこから埼玉県内を中心として地域に対して何かしらできないか、地域との連携ができないかという動きを活発化させております。地域活性、子供支援、そして野球振興という3本の軸で進めておりましたが、2020年からは環境支援という柱も加え、4つの軸を持って活動をしております。
地域活性では、埼玉県内には63の自治体がありますが、その中で56の自治体とフレンドリーシティという協定を締結しております。あわせて埼玉県とも連携協定を結んでおります。そして、商店街とは、所沢市と大宮区にオフィシャル商店街という地域を盛り上げる活動も行っております。
また、プライドリームス埼玉といいまして、ライオンズ、浦和レッズさん、大宮アルディージャさんなどが集まり、年に1回、2回、加盟団体の選手によるトークショーを開催したり、それぞれのスポーツが体験できるイベントを行ったりしています。
子供支援では保育施設訪問として、マスコットやチームが抱えているチアリーダーが、フレンドリーシティ協定を結んでいる自治体に対して、ダンスを教えたり、野球の投げる動作を教えるような活動を行っています。また、埼玉県との取組で、県内の小学校1年生が入学した際、ライオンズのオリジナルキャップを全員に配布をしております。大体6万人になるんですけれども、これを2018年度以降毎年行っております。
3つ目の柱の環境支援では、環境省や埼玉県、そして所沢市と連携をしながら活動を行っており、特に球場周辺で出る大量のゴミのリサイクル活動などを行っております。
また、SAVE LIONSという絶滅危惧種である野生のライオンを救う活動も行っています。我々の球場でライオンズの選手がホームランを打ったら、それに掛けること1万円をオクスフォード大学のライオン保全活動を行うWildCRU(ワイルドクルー)という団体に寄附をしております。
4つ目の柱の野球振興です。野球の競技者人口は、特に中学生では、2011年は30万人ほど軟式野球部員がいましたが今ではもう15万人まで下がっています。少子化だからという御意見がありますが、少子化のスピードよりもはるかに速いペースで、野球の競技者人口は減っております。
これを少しでも食い止めようと、ライオンズに所属しているアカデミーのプロ野球OBコーチがいろいろなところへ出向いて活動を行っております。
1977年くらいから10年ほどベースボール型授業が体育からなくなりました。それが徐々に徐々に、学習指導要領が改訂を重ねていくごとに復活して、2011年からどの学校でも3・4年生、5・6年生、中学1・2・3年生と、ベースボール型授業が行われるようになっております。ここに、我々ライオンズのOBが学校に出向きまして、小学校3・4年生を対象としてベースボール型の授業を行うという活動をやっております。年間で大体100回程度行っている活動になります。また、ティーチングセミナーという、教員向けの勉強会も行っています。ベースボール型授業を通常は先生方が教えていますが、野球を教えることが苦手な先生がいらっしゃるので、私どもライオンズのOBが教え方を指導します。埼玉県の教育委員会や各市町村の教育委員会からの依頼を受けて行っている活動で、年間5回程度、埼玉県内を中心に行っております。
続いてコーチングクリニックです。これは、野球の指導を既にされている方々に対して行う講習会になります。例えばスポーツ少年団で野球を教えている方々、中学校で部活動を教えられている先生、こういった方々を対象としまして、埼玉県や埼玉県内の市町村と協働で行う活動になります。こちらも、年間では5回ほど行っている活動になります。
全く別団体との連携の事例を御紹介します。埼玉西武ライオンズ・レディースというチームがあります。ライオンズとは全く別の団体が保有されている女子のアマチュアチームです。こちらのチームに対して我々は、西武ライオンズという名称の無償提供や、グラウンドの無償提供をしております。加えて、彼女たちが着ているユニフォームやキャップ関しましても、我々のほうから無償で提供しています。これは、女子野球の支援を軸として考えているものです。野球の競技者人口は急激に減ってきていますが、それは男性においてのことで、女性に関してはなだらかですが徐々に増えていっている傾向があります。野球は今までは男性しかやっていなかったスポーツですけれども、サッカーやほかのスポーツと同様に、女性がやってはいけないことはありません。野球の振興活動を行っている身としては、非常に大きな可能性を秘めている場所だと思っており、女子野球の支援も力を入れて行っております。
地域の野球団体、チームとの連携の事例を紹介させていただきます。野球界はいろいろな団体が乱立しています。高野連さん、中野連さん、大学野球協会などいろいろありますが、埼玉県内において野球振興を一緒に進めていくことを目的に、共に立ち上げた団体が、埼玉県野球協議会という団体です(写真2)。

こちらの団体で我々の本拠地のベルーナドームで、野球に全く触れたことのないお子さん、未就学児、小学校の低学年の方々を集めまして、野球の楽しさを伝えるイベントを開催いたしました。各自治体との連携とは異なる形での連携ができるものになっておりますので、今後力を入れて地域との連携を強めていきたいと考えております。
最後にまとめです。我々ライオンズは、L-FRIENDSという活動を通して地域の方々との連携を深めております。それが地域活性であり、子供支援であり、環境支援であり、野球振興という、4本の柱を軸として行っております。
埼玉県や埼玉県内の市町村との協働で小学校への学校訪問や教員向けの勉強会、そして既に野球を指導されている方々に対する指導者講習会などをまず行っています。そして、地域の団体との協働で、女子野球支援を軸として、埼玉西武ライオンズ・レディースというチームを支援しております。そして最後に、地域の野球団体、チームと一緒になって野球振興を軸として、埼玉県野球協議会を設立して活動しているところでございます。
これら以外でも様々な活動は行っておりますし、そしてさらにいろいろな活動ができるのではないかと考えております。特に中学校の部活動の地域移行というところで、これらの活動を通して、もしくは加えてできるところがないのか、今後も模索をしていきたいと考えております。。

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IT×教育×スポーツ
オフラインで解決できないことデジタルで解決する
鈴木良介

スポーツ格差をなくしたい
サッカー選手本田圭佑とNowDo株式会社など幾つかの会社、事業を立ち上げてきました。本日は我々が行っている事業を説明致します。私自身は、帝京大学で授業を持っており、ホーム感があり、非常にやりやすい場所です。
まず、我々のミッションは「世界中の誰もが夢を追い続けられる世界へ」ということです。2010年に本田圭佑が南アフリカのワールドカップで孤児院を訪れた際、貧困が理由で起きている教育格差やスポーツ格差をなくしていきたいと思ったそうです。そこから我々はその格差をなくすために様々な事業に取り組んでいます。
50人ぐらいでNow Doという会社はやっています。自分たちでサービスを開発しているので、ほとんどがエンジニアやデザイナーというメンバーで、サッカーをやったことがあるのは僕と本田しかいません。
2020年3月31日に5.3億円調達し、様々なサービスを展開しています。スポーツ選手でいうと長友選手、石川遼さん、錦織圭さん、ダルビッシュさんなど様々な方からサポートいただきながら会社を経営しています。
創業時にまず取り組んだのが、子供たちに夢を持つことの大切さを伝えていこうということで始めたサッカースクールです。今では60か所で5000人ぐらいの子供たちをお預かりして、サッカー以外の様々なことも伝えられるサッカースクールを行っており、海外にも同じようなサッカースクールを展開しています。海外の場合は、現地の指導者を育てて、夢を持つことや、サッカーを通した人間形成の部分をやらせていただいています。上海、カンボジア、タイが主に活動拠点となっております。
それ以外にも、アフリカのウガンダ、ルワンダ、ケニアの3か国をうちのコーチたちがキャラバンで回って、学校を終わった後の子供たちと一緒にサッカーをするという活動もあります。本田自身も11か国を回っております。サッカーを通じて、子供たちの教育という部分に携わらせていただいています。サッカースクールは、ソルティーロ株式会社が運営しています。
カンボジアのシェムリアップとウガンダでプロクラブの経営もしています。過去にはオーストリアのSVホルンというクラブも経営していましたが、今はこの2クラブを中心にしています。貧しい国であると、生きることで精いっぱいで、夢を持つことすらできない子供たちを多く見てきました。そういう中、身近にこういうプロサッカー選手がいることで、子供たちが夢というものを認識できるような、そのような機会を提供できる活動に取り組んでいます。
ここから自治体さん、企業さんとの取組事例についてご紹介します。中学校の部活動の問題でも、恐らく施設や場所という問題にぶつかると思います。そういった部分では、まちづくりの一環で、ZOZOPARKというサッカーコート1面とフットサルコート6面、テニスコートなどの施設を暫定土地利用という形で作っています。
金沢大学とは国立大学の中に、我々民間でお金を使って、サッカーコート3面を整備しました。地域の方々が大学のグラウンドを使って地域のいろいろなスポーツのイベントを開けます。いわゆる産学官連携として、我々と金沢大学さんと金沢市さん、あとは文科省さんと一緒にやった事例でして、本当に様々な方に使っていただけるようなスポーツ施設です。
そのような形で、我々は全国の施設運営、または施設を造ること、さらに指定管理者として自治体のスポーツ施設の運営管理を行っています。
スポーツ施設は、平日の午前中に使う方々がいなくて、なかなか稼働しないのが課題です。先ほどのZOZOPARKではシェアリングエコノミー的な概念で、施設が空いている時間帯を保育園、幼稚園の子供たちの園庭にしています。子供たちが体を動かす場所を提供できるということで、先ほどのZOZOPARKの隣にインターナショナル・プリスクール、0〜6歳の企業主導型保育園を作りました。午前中、園庭で子供たちがたくさんスポーツをしながら、施設の中ではネイティブな先生たちから、英語を使って授業を学ぶというインターナショナル・プリスクールの経営もしています。
もう一つ、ウェアラブルのセンシングデバイスの開発、販売もしています。スポーツ選手の運動データを可視化するもので、走行距離だったり、心拍数だったり、それらのものから取れるデータを測れます。今までは海外製品しかなかったので非常に高額で、育成年代、いわゆる小学校、中学校、高校、大学の年代の子たちにこういうものを導入することはできなかったんです。ただ、その年代は非常に重要な年代だと思っていますので、我々は自社で、日本の企業と組んで開発して、今では日本全国300チームぐらい、小学校からトップクラブ、Jリーグのチームまで、我々の製品を使っていただいています。
オフラインで解決できないことをデジタルで解決しようということで、エンジニアデザイナーを集めてNow Doという会社をつくっていますが、「IT×教育×スポーツ」という形で、我々は3つのサービスを今、展開しています(写真3)。

オンラインの学校のNow Do。音声のプレミアムSNSのNow VOICE。そして、スポーツマッチングサービスのNow EX。この3つのサービスを立ち上げています。
Now Doというオンラインの学校は簡単に言うと、教育が抱える問題を解決できないかと思っています。1つは教育にかかり過ぎているお金の問題、もう一つは地域での格差です。情報格差を生んでしまっていることや、地域の問題、教育者の問題。この3つを、誰もがよい教育、情報にアクセスできて、格差のない教育を実現したいと思っています。日本全国では1万7000種の職業があると言われていますが、今、社会で活躍している方々、プロフェッショナルな方々を子供たちとマッチングして、子供たちがいろいろな職種の方々から様々なお話を聞いたり、どんな職業があって、その方々がどんな苦労をされているのかということを学べる機会を提供します。
また、Now VOICEという音声プレミアムSNSに関しては、今、活躍されている様々なトップランナーのスポーツ選手やタレントの方々が、今までの経験や体験を声で発信していただくサービスを展開しています。
最後に、このスポーツマッチングサービスNow EXですけれども。これは3年前ぐらいからスポーツ庁さんとも一緒に取り組んでいて、最初は、スポーツ指導者とユーザーさんとスポーツ施設の三者をマッチングするような、マッチングサービスという形でした。少しずつ、我々もサービスを変えながら今に至りますが「スポーツから世界を変える」というビジョンでやっております。
貧困が理由で起きている格差をなくしていきたいですが、日本の中でもそういうことが起きていると感じています。今、Jリーグがない県は7県あります。この7県、なぜJリーグがないのか。そういう県ではどんなことが起きているのかということを、本田と一緒に実際に足を運んで見てきました。島根県、高知県、和歌山県、滋賀県、奈良県で、そこにいる子供たち、保護者の方、スポーツ振興家の方、市長または県知事、様々な方とお話をして、現状のお話を聞きに行きました。最後には、各省庁や岸田首相のところまで行って、現状をしっかりお伝えして、何を変えなければいけないのかということもお話しさせていただきました。
現状のスポーツ環境の課題、地方が抱える格差と課題を分けて子供、保護者、社会という形でまとめみると、子供が抱える課題は、外で遊べる環境が少なくなったことで運動離れや体力の低下が著しく、その結果、健康面での課題が起きたり、学力低下にもつながっていると言われています。あとは、子供同士のコミュニケーションの減少。多分、子供と大人のコミュニケーションの減少も起きていると思います。YouTube、ゲームという、スポーツとの競合に当たるもの、いわゆるスポーツ以外の余暇の増加によって運動離れがすごく加速してしまっています。
保護者、親が抱える課題では、子供だけで遊ばせられないような、安全で安心できる環境の崩壊です。外で子供たちだけで遊べる環境が、非常に減っています。これは地方でも同じです。そのため保護者が、金銭面、送迎等の時間の負担が伴う習い事教室を利用しないといけない環境になってしまっています。習い事のお金を払わなければいけなかったり、共働きや片親で送迎ができないと、このような環境を子供に用意できないということが、東京だけではなくて、地方にも多いということです。
社会が抱える課題では、自由に安心安全に遊べる場所、近くの公園だったり、今までいろいろ遊べた場所がどんどん、スポーツができなくなってしまっている。ボールを使ってはいけないとか、大きな声を出して騒いではいけないという公園が増えてしまっています。先ほどもおっしゃっていましたけれども、指導者がいない。指導者不足が大きな理由になっています。あとは、習い事費用がそれらの理由で高騰化してしまってます。
なので、我々は、ユーザーに場所を提供できるようなサービスを展開しています。それがNow EXというサービスです。スマホで好きな時間、場所、遊びたいスポーツをリクエストすると、プレイヤーと呼んでいる、子供と安心安全に遊べる、競技経験のある高校生以上の方々をそこにマッチングすることで、スポーツ環境を整えるようなサービスを展開しています。
最後に、今、墨田区の小学校の空いている場所を使って様々なスポーツができる環境を作っています。サッカーをやっていたり、野球をやっていたり、1つの学校のフィールドの中で空いている場所を利用して、サッカー、野球、または体操、ダンスといって、1つの場所でいろいろなスポーツが子供たちが経験できるような、このようなことが我々が今、目指したい世界観です。安心安全な場所で、様々なスポーツを子供たちができると。このようなことを今、自治体さんとも一緒に組んでやらせていただいています。

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競技団体の垣根をこえた“多種目協働型プラットフォーム”の紹介
大山 高

プラットフォームBalance is Better
大学に入る前、14歳から19歳までニュージーランドにいて、社会人になってから、三洋電機に入社してバトミントン、ラグビー、Jリーグヴィッセル神戸といろいろな種目をやってきました。
今日はニュージーランドの競技団体の垣根を越えた他種目協働型プラットフォームを紹介いたします。
私がニュージーランドで感じたのは、とにかくいろいろな競技団体が様々な連携が取れているということです。私も帝京大学で今、何をモットーにやっているかというと、とにかく我々のステークホルダーと協働したいと、それを目指しております。
ニュージーランドでは部活動が非常に盛んで、シーズン制でマルチスポーツな国です。それとオリンピックのメダルの獲得率は人口で計算すると実はトップクラスです。日本の人口に換算すると、今度の東京オリンピックでいうと500個ぐらい取っている国です。皆さんも御存じのとおり、オールブラックスというラグビー世界一のトップブランドを持っている国です。
それから、ジェンダー・ギャップがあります。女性首相はこれで3人目です。コロナ感染者ゼロという、政策が強い国です。
ラグビーのオールブラックスの選手で、ジェフ・ウィルソンという超有名なスーパースターがいました。ラグビーと同様に人気のクリケットでも国の代表選手として出ておりました。彼が私がマルチスポーツを研究するきっかけです。
そんなラグビー、クリケットが人気な国ですが、実は今、サッカーが人気です。ナイキがスポンサーについているんですけれども、来年2023年には女子サッカーのワールドカップがオーストラリアとの共催で開催される等、まさに競技の面で人気もラグビーが少し押されているという状況になります。
ニュージーランドでも日本同様の問題が起きています。子供たちのスポーツをする二極化という状況が挙げられます。スポーツから離れていく原因が以下のように挙げられています。
○トップレベルの選手に育成しようと強要しないか。
○私たちの期待に応えることを押しつけていないか。
○1つのスポーツに特化し過ぎなのではないか
○早過ぎるラベリング、あなたはキーパーだとか、フォワードが向いているとか、本人ではなくて大人が決めているのではないか。
○トップチームでやらないと意味がないというような価値観
○プロのようにプレーしろというプレッシャー。
子どもたちの”スポーツ離れ”を阻止するために誕生した啓発KEEP UP WITH THE PLAYという啓発キャンペーンでは、スポーツの遊ぶ気持ちを忘れない、ということを挙げました。競技種目関係なくバランスが大事ということです。
ニュージーランドといえばラグビーですが、競技人口が増えていないという課題もありました。こういうところは、日本の競技団体、特にサッカーもぜひ知っていただければと思うんです。
オールブラックスを率いるニュージーランドラグビーの協会が、サッカーやクリケットの協会6団体と、子供たちの現状をみんなで見つめ直そうよ、と、Balance is Betterというキャッチコピーを掲げたプラットフォームをつくりました。
これが出来たのが2019年です。その後、バレーボールやバトミントンやゴルフ等の協会も集まり、今、大きな組織として、各競技団体が連携する体制が整いました。
最初私が注目したのは、選手の奪い合いをやめよう、そして情報をシェアしていこうという点でした。日本ではサカイクやサカママという、競技別では親がよく見るサイトがあるんですけれども、競技を超えて皆さんが集まって、そこで共通する課題を見られるようにしていこうではないかという形です。
ステートメントには
○競技レベルに関係なく、全ての子供たちが質の高い経験ができることを保証
○ユーススポーツに関わるリーダー、コーチ、運営者、親・保護者の態度と行動の変化をリードする
○マルチスポーツを推奨
○燃え尽き症候群、オーバーユースなどの課題を各競技団体がみんなでシェアしていこう
と書かれています(写真4)。

アカウントを取ると、様々な競技団体がみんなで議論してプロデュースしたコンテンツが見られます。保護者向けや、指導者向けにだけではなく、運営経営者やリーダー、要は運営側の方たち向けのコンテンツもあります。
保護者向けにメッセージをアスリートがキャンペーン的に作っているものでは「そんなに早い段階で競技を専門化しないほうがいいよと」と動画があったり、指導者向けのコンテンツの中には、人と少し違う形のサッカーの指導プログラムを学べる期待感を持たせるようなコンテンツがたくさんあります。
ユーススポーツ向けでは、クロストレーニングと呼ばれる、サッカーとラグビー、バトミントンとクリケットなどをあえて掛け算してトレーニングさせることによる効能、効果を、動画、ウェビナー、記事で紹介されております。
ニュージーランドの一例ですが、理念に共感する競技団体が集まって、インターネット上でまず、プラットフォームをつくるべきなのではないかと思います。まずは帝京大学の中でそういうのを検討しつつ、地域の皆さんたちもアクセスできるようにしていければと考えております。

part 2│ディスカッション
「するスポーツ」における新たな価値創造

塚本 スポーツ庁の提言では様々な改革の方向性が述べられていますが、いきなり、中小のクラブチームや町クラブのチームが対応するのは非常に難しいものがあると思います。そういった観点から、影響力のあるプロスポーツ球団、FC東京様、埼玉西武ライオンズ様が、公立中学校に対してそれぞれどういった具体的な協力、貢献ができるのかという点をぜひ、御意見をいただきたいと思います。
川岸 スクール事業では基本的に、「するスポーツの部分」でサッカーをやりたい子、もしくはサッカーに興味のある子に対して指導をしております。ですので、私どもが持っているノウハウは、指導をしていく部分であろうと思います。施設も借りたり、持っていたりしますが、中学校に施設はありますから、そこを借りるのであれば、やはり指導だろうと思います。指導者が不足しているという話は課題としてあると聞いていますから、指導者をどう増やしていくかというのをお手伝いしていくと思います。
私たちの指導者の数は、中高で15人くらい、小学校で24,5人というところです。ここを全部使っても面的には網羅できないので、ノウハウを地域に提供させていただいて、指導者を増やしていくというところでしょうか。
松本 我々西武ライオンズもアカデミーを持っておりますが、我々が抱えている講師、コーチは西武ライオンズのOB8名しかいないというのがまず現状です。
とはいえ、FC東京様と一緒で、我々がこの地域移行に対してできることは、指導者を派遣をしていくということがまず1つ目かと思っております。そして2つ目としては、指導者講習会を行っている関係もありまして、指導者の方々を増やしていく活動ができると考えております。プロ野球球団は12球団しかありません。ほとんどの県でプロ野球のチームはございませんので、これだけではなかなか解決策にはならないと思っております。
そこで1つの案としては、人材バンク的なものを球団が主導して行っていき、隣の県、その先の県も含めて、指導者をさらにつくっていくという活動をして、Now Doさんのマッチングなどを活用させていただくこともできるのではないかと思っています。
また、我々は球場もしくは室内練習場を持っております。試合などで使えるのは夕方以降だけという縛りはありますが、隙間はあります。プロがやっている環境で練習を行うというのは、これは子供たちの成長にも非常にいい刺激になると思いますので、そういったところの開放等を行っていければと考えています。
鈴木 Now EXというサービスは、全国の子供たちのスポーツ環境を整えるということをやっております。指導者だけではなく、大学生や高校生、または社会人でも、スポーツをやっていた人たちが新しい環境をつくり出せるというのは、サービスをやりながら感じています。指導者だけに頼ってしまうと、移行はなかなか難しいと思っており、サービスを展開しながら、指導者以外の可能性を探って行けるのではないかと思っています。
塚本 今後、ステークホルダーの皆さんの横展開というところで一緒に何か協働していくことが実現可能なのかお伺いしていきたいです。
川岸 やり方はいろいろあると思います。ただ、考えなくてはいけないのは、野球、サッカーもそうですが、少子化とスポーツ人口が減っているところです。学校という場でスポーツの魅力を伝えていったり、スポーツをやることの意味を一緒に作っていくことが必要だと思っています。私たちもスクールにおいて、そこを非常に大切にしてはいますが、学校という場、もしくは部活でも、いろいろなスポーツをやってみようというような働きかけを複数の競技団体で一緒に、ある意味コンソーシアムを組んでやっていくことができればと思います。その中でやりたいスポーツが見つかり、それを1つのライフワークにしていければ、我々プロスポーツ球団だけではなく、いろいろな方々に入っていただいてそれを支えていくことが必要になってきます。ここには帝京大学さんも含めて4者いますけれども、それぞれが出し合っていくと、いろいろなことができるんだろうと思っています。
松本 もちろん課題は幾つかありますが、何かしらできると思っていますし、何かしらはしなければいけないと思っています。
野球人口はどんどん減っています。スポーツをやる子が減る以上のスピード、少子化のスピード以上のところで減ってしまっています。野球だけのことを言っていても、仕方がないのかなと思っていて、他のスポーツチームと協働でいろいろな活動を増やしていくことも重要だと考えています。選手の取り合いではなく、マルチスポーツという概念をより幅広く持てればと思います。季節ごとに異なるスポーツであればいいんですけれども、そうではないスポーツもたくさんあるので、その辺りをどのようにやっていくのかというのは、これはこれから考えなくてはいけないところです。
スポーツ自体をする子が減っているということは、スポーツの魅力がしっかり伝わっていないのではないかと考えています。健康維持やストレス解消になるなど、体的に良くなるところがスポーツの良さとして捉えられていますが、もっと別の魅力がないのか。スポーツをしている子供が将来がトッププロになるのは、それは良いと思いますが、それ以外の形で成功している事例などがきっとあると思うんです。スポーツをやったからしっかりと社会人としての生活を高めることができたなど、そういった事例がきっと埋まっています。そういったものを皆さんと一緒になって探して、お子様を含め、親御さんなどにも伝えていく、そんなことが将来的にできればと思っております。
塚本 本シンポジウムのテーマ「するスポーツ」における新たな価値創造が必要だということで、非常にありがたい示唆だと思います。
最後に大山先生にお伺いしたいと思います。部活動の地域移行において、様々な資源を持っている大学がアクターとして今後どのように課題に対応していけるのか。さらに、ステークホルダー同士の横の連携をどのように今後展開できるのかについて、御意見をいただければと思います。
大山 大学として縦割りだった組織を横につながりをつくっていく、その表現がこの4月に設立された帝京大学スポーツ局です。地域の部活に関しても同じく、ヒト・モノ・カネ、情報といった資源を、大学の公式パートナーさんたちに地域に伝えてもらいたいと思います。また、する場所がなかなか無いときに、大学というのがその1つのハブとなれる可能性がある。先ほど鈴木良介さんが出していた、墨田区の事例など民間で実現できている現状も大学は真摯に受け止めなければいけないと思っております。

▶本稿は2022年7月10日(日)に開催された、日本スポーツ産業学会第31回学会大会の同名シンポジウムをまとめたものである。

 

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