日本スポーツ産業学会第9回冬季学術集会 オープニングセレモニー尾山基会長挨拶
日本スポーツ産業学会第9回冬季学術集会 オープニングセレモニー挨拶
2022年2月26日(土)、zoomによるオンライン開催
尾山基(日本スポーツ産業学会共同会長、株式会社アシックス代表取締役会長CEO)
皆様おはようございます。
本日はweb開催とはなりましたが多数の皆様にお集まりいただき、大変ありがとうございます。
新型コロナウイルス感染症の変異株の猛威は、未だ予断を許さない状況となっています。長く続く戦いの中、日々多くの命と向き合っている医療関係者の皆様に心から感謝するとともに、このような状況下のオンライン開催に対応くださった、実行委員長である上田先生をはじめとする実行委員会の皆様、ならびに、追手門学院大学様にも深く感謝申し上げます。
まず初めに、触れずにはいられないこととしてお話いたしますが、ロシアがウクライナに侵攻致しました。私たちは2021年に開催された東京オリンピックの時にウクライナオリンピック委員会のスタッフ、メンバーとも会い、ウクライナオリンピック委員会のセルゲイ・ブブカ会長の強い要望により陸上ナショナルチームにユニフォームを提供するなどご縁もあり、とても心配な状況であります。ロシアにおいても当社の事業所を今年1月から運営しており、日本人スタッフも含めて彼らの安否も心配しています。一部始まっていますが、金融制裁(SWIFTから排除)されますと国際決済ができなくなり、世界経済の面でも大変なことになろうかと言うことで、CNNを中心とする海外メディアの情報も取るようにして、日々の動静を伺っているところです。
社内外での年頭の挨拶で、「非常に地政学的リスクが増えている」と申し述べたところでしたが、同時に、インド、ブラジル、インドネシア、カザフ、ロシアと保護貿易的動きが大変強くなっております。私が会長を務めます世界スポーツ用品工業連盟としても、OECDの助けを借りながら関係国に手紙も送っておりますが、このような保護貿易の動きは一朝一夕には取り下げないと思いますので、貿易についても大変難しくなっている状況です。また、みなさんご存知のように、素材等の値上げも不安材料として挙げられます。多いものは19年度比平均で6倍ぐらい上がっておりまして、その他もろもろ物価も上がっておりますので、粗利益に対するインパクトは世界中で大企業小企業を問わず、大きなプレッシャーになっている現状でございます。
2つ目に、世界スポーツ用品工業連盟が21年後半にマッキンゼーと共同で行った二回目の調査によりますと、20年の調査と同じように、1人(非接触)での郊外での運動、すなわちウォーキング、ランニング、ゴルフ、自転車というものは人気が高く、2年続けて同じ傾向が出ています。逆に、室内で閉じこもってする運動は避ける傾向にあります。屋内トレーニングジムでの運動は減る方向となり、自宅もしくは野外での運動、活動が大変増えている、という状況です。
また、デジタル化も大変進んでいますので、それに係る物販は大変伸びているということであります。報道もされていますように、アメリカ、ヨーロッパ、中国を中心としたEC普及率は大変伸びており、当社の中国事業(500億に上っていますが)は今や、50~55%がeコマースによる売上となっております。今後は一層その傾向が強まって行くだろうと思っています。
さて、三番目にはこの2年間の運動機会の減少です。高齢者の外出自粛などによる運動機会の減少とともに、室内でのフィットネスがコロナ、オミクロンの影響があって、なかなか行きたくとも行けないという状況です。当社は関西で機能訓練特化型のデイサービス施設を運営しています。20年度、21年度は感染対策を講じながら運営を行ってまいりましたが、このオミクロンの流行により、従業員、それから患者様にも波及しまして、なかなか正常に運営できないという状況が続いています。このように運動機会の減少により、運動機能の低下も懸念されます。
また気になりますのは、子どもたちの運動する場所の閉鎖。今特にオミクロンで、幼稚園、小学校など、各種学校活動が制限され、自宅にいる時間が増えています。外に出ず家の中にこもっている日が続くとメンタルにもよくない影響が出てくると思いますので、当学会としてもこのあたり、研究の成果を踏まえて社会的提言をどこかで発信して行くべきではないかと、思っております。
四番目は、サステナビリティについてです。特にヨーロッパ中心に、サステナビリティへの意識が大変高まっています。(前述の)マッキンゼーのデータによりますと、67%の消費者がサステナビリティ素材の商品購入を検討していて、Z世代、ミレニアル世代は、特にその意識や関心が強いというデータが出ていました。しかしながら、まだまだデザイン、訴求する機能、宣伝、価格というのがまだ合っていないという状況です。大きな流れとしては、ウェアも靴も、サステナビリティの方向に向いてきている、と感じております。私たちも、カーボンゼロは、2050年までの数字目標として出しています。
五番目は、東京オリパラでございます。ここにおられる皆さんの多くはご覧になられたかと思いますが、IOCより公式のデータが出てまいりまして、東京オリンピックの視聴者は、テレビとデジタルプラットフォームを合わせて30億5000万人と発表されました。公式デジタル配信された動画の視聴回数は280億回に上っております。16年のリオ大会に比べますと139%増です。またパラリンピックは、2020パラリンピックの放映は、世界で述べ42億5000万人以上と過去最多に達したと発表されました。スポーツへの関心の高さを示すと同時に、デジタルプラットフォームをついての視聴も大変増えているということを、如実に物語るものだと感じます。
北京オリンピック冬季大会が、2月4日から20日に開催され、91の国・地域が参加いたしました。アスリートの活躍を通してスポーツの感動、素晴らしさを再認識した一方、ジャッジメント・審判に対する疑念が、この世界最大のスポーツ大会の中で初めて表面化したということは、一つの課題ではないかと思います。パラリンピックの競技が3月4日から13日まで開催されますが、依然として厳しいコロナ対策状況が続いておりますし、この時にロシアとウクライナの関係はどうなっているのか、それも気になるところです。オリンピックは平和の祭典で、「オリンピック休戦」もありますが、それぞれの国の主張や考え方によっては、そうした国際的活動をないがしろにする世界もあるということを、リアリティとして改めて見せつけられたと感じます。
2020年東京パラリンピックをきっかけに、日本でもやっと障害者スポーツへの関心が高まってきました。これは大変勇気づけられたと思います。ヨーロッパからの強い流れもあり、少しの段差をなくす、トイレを使いやすく、広くするなど、様々な課題が、IPCから出されていますが、そういう社会に向かっていくべきですし、自治体の首長の方々もこれをかなり意識しています。すなわち、パラリンピアンが移動しやすく活動しやすいということは、少し歩行に不安がある高齢者や、小さいこどもを連れた家族にとっての優しい街づくりにもつながります。日本においては、パラリンピックの1つのレガシーとしても、より共生社会に向かっていくべきと思っています。
最後になりますが、2013年に会長に選んでいただいた当初、当学会のマーケティング機能を強化したいと申し上げました。論文発表の場所のみならず、「日本スポーツ産業学会の調査によると云々」、「学会の発表によると云々」といった発信や、もしくは、マーケティングの請負をするという活動まで踏み込んでいいのではないかというのが、今思うところです。そして、当学会の情報誌を出していただいていますが、それも更に活用して、学会の内外、大学や社会への情報発信、提言も、今後強化して行きたいと思います。