スポーツ産業のイノベーション 大阪・神戸のスポーツ産業発展の要因

スポーツ産業のイノベーション
大阪・神戸のスポーツ産業発展の要因
植田真司│大阪成蹊大学マネジメント学部教授

大阪の産業とは

「大阪の産業とは?」と質問すると、よく返ってくる答えが、食と薬業である。確かに、「食い倒れのまち」道頓堀や、「くすりの町」道修町(どしょうまち)が有名である。ここには、武田薬品工業、田辺三菱製薬、塩野義製薬、小林製薬、小野薬品工業の本社が集まっている。
また、大阪・神戸には、アシックス、ミズノ、デサント、ゼット、エスエスケイなどのスポーツメーカーが集まっている。今回はなぜ、大阪・神戸にスポーツメーカーが集積し、スポーツ産業が発展したのか、その要因を考察する。

綿業や靴職人の協力

大阪の歴史を振り返ると、食や薬以外にも盛んな産業があった。綿の紡績業や織物業で「東洋のマンチェスター」と呼ばれた。日本初となる蒸気機関を用いた大阪紡績(現:東洋紡績)はじめ、天満紡績、摂津紡績など多くの企業が開業し、東洋棉花、伊藤忠、丸紅などの繊維商社がこれらの企業を支えていた。ちなみに、大阪に綿業が集積したのは、河内木綿などの栽培が盛んであったからである。1)
綿業が、スポーツウエアの製造に繋がっただけではない。私の出身の八尾市では、綿のハンモックや網などの製造が有名であり、その技術を応用し、テニス、バレー、バドミントン、サッカーなどのスポーツネットを製造していた。今でも鐘屋産業、寺西喜商店など、八尾に本社を構え活動している。
神戸は「履き倒れのまち」「靴のまち」として有名である。外国人が居留している周辺の草履・下駄職人が、彼らのために靴を修理し、新しい靴をつくったことから、靴職人が集まるようになり、神戸は「靴のまち」になった。㈱アシックスの前身である鬼塚商店が、最初にバスケットシューズをつくったのも、神戸に優れた靴職人がいたからだろう。
このように綿業や靴づくりがスポーツ用品産業の発展に協力していたと考えられる。

私鉄の協力

関西の私鉄5社は、鉄道の利用者を増やすため野球場や多目的運動場を沿線に建設し、プロ野球球団を所有し、スポーツ産業の発展に協力していた。
阪急電鉄は、1913年に豊中運動場、1937年に阪急西宮球場を、京阪電気鉄道は、1922年に寝屋川運動場を、阪神電気鉄道は、1916年に鳴尾球場、1924年に甲子園大運動場(現:阪神甲子園球場)を、近畿日本鉄道は、1928年に近鉄藤井寺球場、1929年に近鉄花園ラグビー場(現:東大阪市花園ラグビー場)を、南海電気鉄道は、1939年に中百舌鳥球場、1950年に大阪球場を建設している。2)
また、私鉄5社のうち4社がプロ野球球団を所有した。阪神電気電鉄が、1935年に阪神タイガースの前身である大阪タイガースを、阪急電鉄が、1936年にオリックス・バファローズの前身である阪急軍を、南海電気鉄道が、1938年に福岡ソフトバンクホークスの前身である南海軍を、近畿日本鉄道が、1949年に大阪近鉄バファローズ(〜2004年まで)の前身である近鉄パールスを所有。京阪電鉄だけプロ野球球団を経営しなかったが、これはプロ野球に興味が無かったのではなく、当時の寝屋川球場に来た観客を輸送する能力に限界があり、あえて球団を持たなかったようである。

新聞の協力

大阪毎日新聞は、1901年に50マイル徒競争、1905年に海上10マイル長距競泳、1908年に関西中等学校連合庭球大会など多くのスポーツ大会を開催。大阪朝日新聞は、1915年に、第1回全国中等学校優勝野球大会(現:全国高等学校野球選手権大会)を豊中運動場で開催。
大阪毎日新聞は、全国中等学校優勝野球大会に対抗し、1918年に、第1回日本フットボール優勝大会(現:全国高等学校サッカー選手権大会及び全国高等学校ラグビーフットボール大会)を豊中運動場で開催。さらに、1924年に、第1回選抜中等学校野球大会(現:選抜高等学校野球大会)を開催している。2)
このように、新聞社は購読者を増やすために、野球・サッカー・ラグビー・陸上競技・テニスなどのスポーツ大会を開催し、スポーツ産業の発展に協力していた。

まとめ

大阪・神戸にスポーツメーカーが集積し、スポーツ産業が発展したのは、スポーツメーカーやスポーツ関連企業の努力だけでなく、綿や靴産業の協力、さらに鉄道会社が競技場をつくり、プロ野球等のチームを所有し、観客を輸送、新聞社がスポーツ大会を開催し、スポーツ関連情報を提供し、スポーツを観る人、スポーツをする人が増え、スポーツのニーズが高まったためと考えられる。
今後も、多様な分野の企業が、スポーツを核に互いに助け合い協力し合うことで、新たな産業が創造され、さらにスポーツ産業は発展するだろう。

▶ 1)阿部武司・沢井実;東洋のマンチェスターから大大阪へ,大阪大学総合学術博物館叢書6,2010
▶ 2)なにわのスポーツ研究会;なにわのスポーツ物語,丸善プラネット,2015

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