スポーツ産業を測る 日本版スポーツサテライトアカウントによるスポーツ雇用者数
スポーツ産業を測る
日本版スポーツサテライトアカウントによるスポーツ雇用者数
庄子博人│同志社大学スポーツ健康科学部・助教
(1)スポーツ雇用者
前回は、日本政策投資銀行(2018)による日本版スポーツサテライトアカウント(日本版SSA)の開発とスポーツ産業の経済統計を紹介しました。2014年のスポーツ付加価値(GVA)は6.7兆円(全産業に占める割合1.40%)と推計されています。
今回は、同じく日本政策投資銀行(2018)の日本版SSA1)から、スポーツ雇用者についての結果を紹介したいと思います。表にわが国スポーツ産業の2011年から2014年までの雇用者数の推計結果を示しました。その結果、最新年の2014年は、「スポーツ部門」は約66万人、「流通部門」は約23万人、「投入部門」は約15万人、合計約103万人の雇用者数(全産業に占める割合1.51%)となりました1)。「スポーツ部門」は、スポーツ用品やスポーツ施設など、スポーツの生産に関わる産業そのもののことで、「投入部門」はスポーツ部門を支える産業(例えば、素材や鉄鋼など)、「流通部門」は運輸や商業などスポーツの商品サービスを消費者へ届けるための産業を計上しています。
2014年スポーツ雇用者数103万人がどのくらいの大きさかというと、雇用表の105部門に、もし単純にランキングすれば、19番目に位置する巨大な雇用を生み出している産業になります。また、スポーツ雇用者は、2014年国内全産業に占める割合を見ると1. 51%です。スポーツ付加価値(GVA)の全産業に占める割合は1.40%でしたので、スポーツ雇用者の方がスポーツ付加価値よりも産業に占める割合は大きいという結果になりました。これはつまり、スポーツ産業は、サービス業などの比重が大きい労働集約的な産業であることを示しており、欧州各国のSSA研究結果と一致します。欧州SSAの最新研究レポート2)によると、スポーツ付加価値が1%増加する時、スポーツ雇用者は1.35%増加することが明らかとなっており(つまり、スポーツ雇用者=1.35×スポーツ付加価値)、積極的なスポーツ関連の経済政策が失業対策に効果的な方法であると考察されています2)。
(2)産業政策としてのスポーツ雇用者
わが国スポーツ産業の成長にとって雇用創出の観点は欠かせません。スポーツ産業の成長に必要なファクターは、① スポーツ産業に従事する雇用者数が増加すること、そして、 ②スポーツ雇用者数一人当たりの付加価値を高めること、の2つが挙げられます。
①のスポーツ産業の雇用者数の増加は、どのように実現できるのでしょうか。まず働き手の観点では、スポーツを専攻する若者は増加傾向にあり、2017年度には、スポーツに関連した大学(学部・コース含む)への入学者数は全国で17,481人であると報告されています3)。もちろん全員がスポーツ関連の職を希望することは考えられませんが、今後も教育システムを通して、毎年、安定的に2万人弱の人材をスポーツ労働市場に供給できる可能性があります。問題は、具体的な職を作ることですが、2012年ロンドンオリパラの時には、英国のスポーツ産業は「健康」「金融」「情報通信」など新しいスポーツ産業の分野を開拓することでスポーツ雇用者数を増加させており、わが国においても従来にはない新たなスポーツ産業分野の雇用創出に産業政策として取り組むべきであると考えられます。
また②の、スポーツ雇用者1人あたりの付加価値を高めるにはどうすれば良いのでしょうか。前述までの数字を用いれば、2014年のわが国のスポーツ産業は、103万人の労働投入によって、6.7兆円の付加価値を生み出していると言えます。このスポーツ付加価値とスポーツ雇用者数との関係性を『スポーツ(労働)生産性』と定義することができます(スポーツ付加価値÷スポーツ雇用者数)。「生産性」は、経済が成長する時の最も重要な要因であり、さらにその生産性を決める要因は、教育水準の向上やイノベーションなど、様々な要因があると言われています。2020東京オリパラ大会を契機とした、イノベーションが生まれるための基盤となるスポーツ産業政策が必要とされているのではないでしょうか。