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第1回日本スポーツ産業学会・関西セミナー 大学スポーツ改革と産業の関係性

第1回日本スポーツ産業学会・関西セミナー
大学スポーツ改革と産業の関係性
伊坂忠夫│立命館大学スポーツ健康科学部長兼教授
東 潤一│大阪商工会議所経済産業部ライフサイエンス振興担当課長須佐徹太郎│阪南大学流通学部教授 同大学サッカー部監督藤本淳也│大阪体育大学教授兼学長補佐
コーディネーター 上田滋夢│追手門学院大学教授

第1部 講演

上田 大学スポーツ改革は、スポーツ庁が取り組む「第2期スポーツ基本計画」の中での重要課題です。日本版NCAA が何を目指して、まず何に取り組むべきかということについてですが、大学スポーツが持つ潜在力(学生アスリート、研究者、指導者等の人材や施設等の豊富な資源)には、健康増進、学生の人格形成やリーダーシップを含めた専門的能力の向上だけでなく、地域コミュニティーの形成等に寄与する力があるといわれております。例として、総合型地域スポーツクラブとしての活動や、大学スポーツ施設の地域への開放。学生のスポーツボランティア活動、スポーツ科学研究の社会還元などが挙げられています。
一方で、安全の問題、学生アスリートの学業環境への支援、運動部の運営、指導者確保、責任体制、事故・事件への対応、活動資金の確保といった問題が挙げられ、教育・研究との連携や競技連盟間の連携等の課題についても抜本的な改革が求められています。それらは個々の大学では対応が非常に難しく、複数の大学で連携して取り組むべき課題であり、さらには個々の学生競技連盟でも対応が難しい課題でもあり、大学横断的かつ競技横断的組織として日本版NCAAが必要であるという議論になっています。
事業構想のフェーズとしては、まず第1フェーズ(創生期)には、安全と学業の確保。第2フェーズ(発展期)には、人気上昇、魅力アップ、スタジアム&アリーナ整備などが設定されています。また、活動資金の捻出は常に課題であることから、日本版NCAAの構想について、メディアを含めて大学スポーツのビジネス化や資金集めという話題が先行してしまった側面がありますが、本質的に徐々に発展しながら大学スポーツが抱える諸問題を解決していこうという理念があることを理解する必要があります。

講演1 大学スポーツ改革を受けた関西の動き

伊坂 立命館大学では、1980年代にスポーツ推薦入試を開始し、プロコーチを雇い、強化対策を行い、課外スポーツの高度化に取り組み始めました。これがフェーズ1です。2000年前後ぐらいからフェーズ2として、本格的に課外スポーツを強化した上で、大学スポーツの発展をどのようにとらえるかを議論してきました。
今後は、大学スポーツのコミュニティーへの浸透をどうするのかというところが大きなポイントなのです。おそらくさらなる地域と大学の連携、関西エリアで一つのプラットフォームをつくり、多くの大学の賛同を得て進めるやり方と、両面で進めることになります。特に一つのプラットフォームで進めない限りは、大きなウェーブにならないだろうと考えております。
関西地区で設立しようとしているコンソーシアムの前提
として、1980年代に関大、関学、同志社、立命館、そして、龍谷大学を加えた5つの関西私大が「関西5私大体育研修会」として、体育実技の授業内容、教材開発などについての検討会、研究会をしていたという歴史があります。持ち回りで各大学が報告をする。そこには教学サイドの事務職員も参加しながら情報共有をしてきました。
その後、インフォーマルな研究会、検討会を重ねて、ス
ポーツ振興、学生アスリートの実態、どういうふうな学生スポーツアスリート像を描くのか、米国NCAAをひな形にした学生教育のあり方、学業支援の問題、総合的支援策。あるいは、アスリートの入学前教育の情報交換、大学間連携による事業の組織化、事業のあり方についても検討してきました。
このような素地を基に、今度は5大学を巻き込んでプラットフォームを興すような議論をしてきたのがそもそもです。学生アスリートの育成のための環境づくり。それと大学間連携と競技団体との連帯。そして、賛同者をどう巻き込んでいって、スポーツの真の進化。それから、価値の創造をする。このようなことをやってきました。
とはいえ、やはり各大学の事情があり、少し中だるみが
あったときに、先ほど上田先生がおっしゃったような国の流れが出てきました。国の主導で2018年度につくると言われている日本版NCAA。そうなったときに手をこまねいていると、せっかくこれだけ議論したことがもったいないということで、新たに関西地区でもう少し枠組みを広げて、5大学を超えたネットワークとして、プラットフォームに加盟いただけるところはないかということで、1回目の大学スポーツ振興関西地区検討会を2017年1月にさせていただいたということです。
関西地区でコンソーシアムをつくる意義は何かということ
ですが、やはり大学スポーツの価値を発信して、理解してもらう。その価値は当然、主体となる学生アスリートも、それを支える大学も、応援する方々も、全てを巻き込んだ価値をどう発信するのかということと、今後さらにそれをどう高
めていくのかということ。最終的には、無くてはならない社会の公共財になれるようなところまで持っていきたい。日本に大学スポーツがあって良かったね、あるいは関西の大学スポーツって必要だよねと思われるような存在になれるか。そのためには、一つの大学がそれぞれ頑張るだけではなくて、連合体として我々が手を結んでいく必要があるということです。
ですから、日本版NCAAの議論は、非常に大きなきっか
けをいただきました。学生スポーツの担い手であるアスリート、大学人、関係者が手を携えて、その目線で日本版をつくらなければ、多分日本版にならないし、参加する人が減るのではないか、と思います。ぜひとも、Beyond Border、Borderを越えて大学スポーツを活用する学産官チームの新たな共創を関西から発信したいと思います。

講演2 関西におけるスポーツ産業振興の取り組みについて

東 大阪商工会議所では、3年周期くらいで中期戦略を立てておりまして、今年度は、「たんと繁盛 大阪アクション」という中期プランを策定し実行に移しております。その中で、ウエルネス加速フィールドという、ライフサイエンス産業とスポーツ産業を組み合わせた新しい産業分野を振興していくことが決まりました。
なぜ今、関西でスポーツ産業を振興するのか。日本再興
戦略の中で、スポーツを成長産業化していって、5兆円の市場規模を15兆円に伸ばしていく。国がそれを後押ししていくということですので、経済界もそれに対して何かアクションをとろうと、関西に厚い集積をもつスポーツ産業の振興を一つのテーマとして取り上げたということです。
我々が産業振興を考えるとき、企業の組織や事業領域、大手企業の研究機関や中小企業の知財・技術、小売りや卸の販売力、そして、大学等から輩出される人材を組み合わせる場を提供して、それを循環させることで、イノベーションが加速して新たな産業が生まれる。どれか一つが欠けてもなかなか回らないのですが、商工会議所の企業ネットワークを使って出会いの場をつくっていこうと考えております。 そのプラットフォームとして何を考えているかというと、 最初はセミナー形式の例会を開催させていただきまして、スポーツ産業にどういうニーズがあるのか、どういう課題を持っておられるのかをご紹介いただく。それと企業であったり、大学であったり、企業間や産学官の連携につながるよう、マッチングをしていく。企業同士のマッチングだけではなくて、いわゆるスポーツチームで抱えておられる課題を一般企業で解決することも考えて、視野に入れて展開しようと考えております。
こういった例会を主軸にしまして、スポーツチームの連携であるとか、競技場との連携、展示会の誘致、スポーツイベントとの連携などを含めて、プラットフォーム化をしながら、それを事業化に持っていくための様々な支援を進めていきたいと思っております。
今、スポーツで企業さんにかかわりませんかというと、ス
ポンサーシップ、もしくは社会貢献のどちらかでしかかかわり方がないと思っておられる企業があって、うちはスポーツとは全然関係ないよというところが多いのですが、実はあなたの企業の技術がこういったことに使えるんですよという可能性を見せてあげると、非常に前向きに参画していただけるようになることもあります。また、事業のかかわりを提示して、課題を解決するだけではなくて、それを横展開することで大きな市場が見込めるというところのビジネスモデルづくりが重要。マッチングをするだけではなく、その向こう側を支援していくことで新たなビジネス開発につなげていきたいということです。
大学の先生と企業の研究所の方が共同研究をしても、それを事業化するときに企業が引いてしまうことがあると思うのですが、企業の中にも研究所と事業部のギャップがあります。例えば、大手企業のA社で、研究開発部門から新しい製品のアイディアが上がってきた。それを事業化するかどうかというところで、実現すればある程度売れるという確信があっても、それが企業の事業規模や経営企画と合っていないと事業化を断念されるというケースが多くみられます。我々の医療分野での事業ではそれが多いです。
そこを越えるための大きなネックが人材です。現場の課題と事業までのつながりを一気通貫で見られる人材はなかなかいない。大学スポーツを通じて、スポーツ分野で現場の課題を知って、それをどうすれば企業が売れる製品にして事業展開をしていけるかがわかる人材を大学だけでなく産業側も一緒になって育成していくことが重要だと考えております。

講演3 大学スポーツの現場からの報告

須佐 Jリーグができた当初は、毎年の入団選手の過半数が高体連の卒業生で、大学卒の選手はあまりいませんでした。U-17を強化しよう。それから、U-19、オリンピック代表。さらには、フル代表というように強化の図式があって、その強化の図式から大学サッカーが全く外れてしまうということが93年以降の数年間でした。
ただ、大学サッカーは、95年のユニバーシアード福岡大会で優勝して、その後は「1999年全日本大学サッカー活性化5カ年計画」を策定し、ユニバーシアードを軸とした強化スケジュールをつくって、ある程度の成果を挙げました(ユニバーシアード大会95年以降、全日本大学選抜が6大会で優勝)。
Jリーグに所属する23歳以下の選手のうち、3分の1は全く出場していません。また、5試合(450分)以下も含めると基準以下の選手が3分の2います。これはJリーグが放置してきた問題点で、若手が育っていない。その分、大学が今頑張っていて、リーグ戦を通年化して、公式戦の数を増やし厳しい試合の場数を増やしてきました。
今、四国を除いて、ほとんどの地域リーグが通年化されています。全国大会のあり方を見直して、全国大会で複数の代表枠を付与することで地域リーグを活性化させました。1位だけしか出られないと、「入替戦に行かないために頑張る」という負の頑張り以外は、その可能性の無くなったチームのリーグ戦が途中でほとんど消化試合化するのです。代表枠が2位までになると、リーグ戦の5位、6位くらいまで絡んできます。その下のチームは入れかえ戦の問題があり、そういう中でちょっとだけレベルアップする。厳しい試合ができる環境を何のお金も使わずに創れて活性化できるのです。
さらに、Iリーグと称して、2003年以降、2軍リーグの公式戦化に踏み切って、なおかつ全国大会もつくり、今年(2017 年度)からは、全国新人大会を創設しました。試合機会がちょっと少ない1~2年生に対して厳しい試合に準じる機会をつくりました。2年生が人間的に育たないとプレーの幅も大きくならないので、2年生に仕切らせる機会をつくり大会化致しました。
また、さらなる大学の強化として、特別指定選手制度というものが今現在行われています。大学のリーグ戦と並行してJリーグの指定選手になれば、Jリーグの公式戦に出られるようになります。資金面では、トレーニング費用の支給制度(満額で120万円)が導入されるとともに、FIFAのトレーニング補償金や、連帯貢献金(移籍したら、その前に遡ってお金が支払われる仕組み)も導入されました。
さらなるレベルアップをするために大学それぞれでやらなければいけないことは、トレーニング環境の整備です。本当にきちんとした指導者を配置できているのかどうか。資格を持っているだけではなくて、しっかりと教えられる人を本当に持っているのかどうか。トレーナーも研究者も、形だけでなくて本当に連携をして、体力レベル、能力レベルの開発だとか、診断だとか、そういうことができているのか。それから、試合環境の整備。良い競技場の確保。観客動員…。
でも、一番大切なことは教育です。学生アスリートの生活基盤として、本当に人格形成できる環境で生活をしているのか。その環境づくりは、現状では、現場に押しつけられています。無償で働いている現場の教員に全てを押しつけるのが一番の問題なのです。そういう部署をつくっていない。あるいはそのお金を捻出できていない。
そしてもう一つ、大学としての自立性を追求しなければいけない。大学には研究者がいて、財産なのです。それが競技者を健全にレベルアップさせることにつながると思うのです。地域との連携を強化するといっても、無償ボランティアでというのではなくて、きちんとみんなが生活できる基盤を指導者として築く中核として大学があるというようなことをしながら、大学としてもお金を生み出して、今後の発展に結び付けたいと思っています。

講演4 大学スポーツ改革の先端例-DASHプロジェクト-

藤本 大阪体育大学は、19 64年東京オリンピックの翌年の1965年に開学いたしました。本学の礎は、スポーツ科学と人間教育と平和教育、これに基づいた人材育成にあります。
2014年に本学にお迎えした岩上安孝学長のもと、開学50周年の2015年に、10年後に向けての「大体大ビジョン2024」が策定されました。「大体大力、新しい時代を切り拓く」というテーマを掲げたこのビジョンの中核事業として「DASHプロジェクト」が生まれました。
「DASHプロジェクト」には三つのミッションがあります。一つは、ハイパフォーマンスを支えることです。スポーツ科学の博士後期課程を持っている大学ですので、研究と現場をしっかり結び付けます。二つ目は、人材育成です。この人材というのは指導者に限らず、サポートする人材も含まれます。例えば、スポーツマネジメントの人材をいかに学内のシステムで育てていくか、学外との連携で育てていくかにもチャレンジします。三つ目は、学生スポーツの健全な発展です。関西にある体育大学なので、本学がリーダーシップを発揮していこう、という決意を打ち出しました。
ここでも、軸となるのはスポーツ人材の育成です。これは本学が50年間柱として培ってきたものでありますし、力です。そして、これを軸にしながら、私たちは他大学を含めて皆様方と連携して取り組めないかと考えているのが大学スポーツの振興と事業化です。事業化の意味というのは、お金をかせぐだけではなく、しっかりとお金が回る仕組みをつくっていくこと。それから、地域交流。地域との結び付きをつくり、私たちのファンをつくっていくことです。
イメージとしては、F1で培った先端技術を市販車に落としていくように、トップの技術、支える技術をまず構築することによって、それを一般に落とし込んでいく。落とし込みながら浸透させ、学生を育てていきながら指導者として社会に送り出していく。さらに、そこで出てきた英知を中高大学で選手一環教育に発展させます。さらに、対象を地域の中高齢者に拡げ、その実績を学生や学内資源と結び付けて有機的に発展させて、健康増進や子供の体力向上につなげていこうとしています。
本学も、スポーツ庁の大学スポーツ振興推進事業大学に選定されました。スポーツアドミニストレーターをしっかり輩出していこうと人選を進めておりますし、既に「DASHプロジェクト」を立ち上げた当時に学外の民間から専門家を招いています。彼らを中心にビジネスとして、しっかり回して もらう。そのモデル事業を通じて、いろいろなことを検証しながら、一定の実績をもって2018年4月のスポーツ局の設立と未来へと進んでゆきたいと思います。
最後になりますが、やはり大阪体育大学だけではできないことが当然沢山あります。一方で連携を組むとできることも沢山あります。今、2020年へ向けてスポーツへの機運が高まっているこのチャンスに、スポーツ産業学会そして関西を中心とする他大学と共に関西のスポーツ界を支え、発展させていくために、皆様方と一緒にもう1歩を踏み出させていただきたいと思っています。

第2部 シンポジウム

上田 伊坂先生からは関西の動きについて、東さんからは産業、ハブ、プラットフォームのお話、須佐先生からは、現場の強化のためにはやはりお金が必要。そのためにはいろいろな仕組みづくりが必要ということ。藤本先生からは、選択と集中の中で、特化した状態からハイパフォーマンスを広げていく。もう具体的に始められている大阪体育大学のプロジェクトについて、お話を頂きました。各々、非常におもしろいトピックスが出てきたと思うのですが、それらを踏まえて、大学スポーツの改革がどう産業に結び付いていくのか、皆様のお考えをいただければと思います。
伊坂 やはりどういうふうに回っていくのかということかと
思います。大学スポーツっていいよね、何か雰囲気のいいことをやっているよねということをどれだけ伝えて、自然な形で大学スポーツへの関心と理解が広がることをどううまく回して続けられるかということしかないと思っております。そこでは、やはり主役の学生アスリートや見守る人たち、どれだけすてきな人たちが集まってくれるのかにかかっていると思います。
東 今企業が見ているスポーツとなると、スポンサーシップか、社会貢献か、どちらかしかない。やはり、スポーツを応援することで自社の実業にもつながっていく、事業拡大にもつながるというところをいかに見せるかが大事なのです。大学スポーツにおいて「する」と「支える」は非常に充実してきていると思うのですが、「みる」がまだまだ十分ではない。そこをどうやって工夫して、企業にもニーズの出るようなサイクルを回していくかということが必要ですし、産業界と大学が一緒になって担っていかなければならない。
須佐 現場の課題と事業の課題をどうつなげていくか。それは一大学だけではなかなか難しい。きちんとしたスポーツ事業を大学内部あるいは共同で展開することが、良い教育、良い指導をしていくためにも、選手を育成していくためにも必要かと思います。
藤本 いろいろお話を伺って、大学側も産業側もスポーツで何かをしたいとか、するべきだという思いがある。現場も課題を抱えている。これをどのようにつないで発展させていくか、解決していくかが大事だと思います。関西のコンソーシアムが一つのプラットフォームになるのではないかという期待感が非常に大きいです。
上田 4先生方に共通されているのが、やはり教育、学生
をいかに育むかということだと思います。しかし、教育の議論をする場合、お金のことを言ってはだめだというような、非常に縛られた現況があります。
東 世の中にある全ての製品であるとか、サービスは、もともと大学が持っている資源であり、行き着くところ種は必ず大学にあります。大学が種を輩出して、人材が育ってお金のなる木にしたいということなので、教育の現場で種がどういう木になるか、どういう実をつけるかということ、それがどうやって社会に貢献して、人々にどうかかわるかというところまで、大学には責任があると思います。
伊坂 昔、MOT(Management of technology)の先生とお話をしたことを思い出しました。先生が言われたことは三つあって、「できますか」、「売れますか」、「もうかりますか」。この3段階があって、多分大学はいつも「できますか」というところはやってきた。今考えているのは、「売れますか」、いわゆる広げられますかというところ。これが、関西コンソーシアムが今狙っているところです。さらに言うと、それを永続的にやろうと思ったら、「もうかりますか」というところにいかないといけない。
会場 日本版NCAAはスポーツ界においてのブレイクスルーになるのでしょうか。そのためには何が必要でしょうか。
伊坂 我々が議論をしていたとき、アメリカ版のNCA A がどうやってきたかという勉強会をしましたから、日本版NCAAがそうなってほしいという期待と思いがございます。日本版NCAAでは、一つの大きなベンチマークが置かれましたし、目標の人数が設定されましたから、それに対して知恵を出せということだと思います。待っていたら多分だめだと思うんです。いい知恵を寄せてやっていこうと。関西が進んで、主体的に、大学関係者が中心となりながら、企業の方も含めてやっていくことが恐らく成功につながると思います。ぜひ関係者で力を合わせてやりたいなと思っております。
東 私も日本版NCAA自体は応援していますし、ぜひ実現してほしいなと思いますけれども、日本版NCAAの議論が、どちらかというと、関連する大学の中だけでされているのではないか。コミュニティーに参加してほしいという意思をちゃんと、企業の方々であったり、地場の大学の近所で喫茶店や定食屋さんをやっている事業者でもいいと思うのですけど、「こういうことをやりたいんです。皆さん、応援してください」と言うと、地域の人はみんな応援してくれると思うのです。
藤本 日本版NCAAは、それなりにはブレイクスルーになるのではないかと期待しています。例えばJリーグがスタートしたとき、プロスポーツがハイブリッド産業としてあらゆる産業が絡んでくる形ができ上がってきました。スポーツというのは、その品質をしっかり管理すると、そこに多くの産業が絡んでくるチャンスが出てきますし、絡んできて、「売れます」~「もうかります」という構図が恐らく見えてくるのではないか。
では大学スポーツはどうかというと、最も重要なのは教育で、学生と大学スポーツの品質管理が最優先と思います。こういうチャレンジの達成は、やはり数年ではできない。旗はスポーツ庁が振ってくれていますが、やはり現場の大学と地域の産業が先例をつくっていくしかないと思うのです。 会場 日本版NCAAに一つ疑念を抱くところは、何を主目的にしているのか、ちょっとわからない。単純に日本がスポーツ産業、スポーツ生産を増やすためにNCAAを導入したいということであれば、それはちょっと違うのかなと思っています。
ただ、本日話題になった大学スポーツコンソーシアムin関西は、日本の大学スポーツが目指すところではないかなと思います。よりよい大学スポーツ、学生アスリートをつくって、彼らがしっかりと努力しているところが、大学スポーツの良いところで、そこができなければ、いつまでも見るスポーツに耐え得るものにならないと思います。
そういう意味では、例えば大阪体育大学、あるいは立命館大学において、運動部の学生に対して、学業ではないところの全人教育、ライフスキルの教育が、どのような形でなされているのかということをお伺いしたい。
藤本 具体的な学習の支援システム、全学的なものは、実はこれからなのです。だから、私もこのコンソーシアムの構想に入って、龍谷大学で学ばせていただいたりしているのです。本学の現状で言いますと、一般教育の先生方を中心に、特に英・国・数は1年生から習熟度別クラスを開いているので、入学後に学修力が伸びて、素晴らしい成績で卒業した学生もいます。一方で問題は、部の先生は支援室に行きなさいと言ったが、支援室は待っていても来ませんでしたということがあって、これをちゃんとシステム化しようとしています。
伊坂 全人教育をどうするかということ。課外で自分が専攻する種目を一生懸命することは当然ですが、それに加えて、ボランタリーでの場、例えば、震災復興支援の手伝い、地域に各クラブが出かけていって小中学生の指導をするということもしています。
ただ、それぞれ個別の大学で扱っているだけではなく、コンソーシアムとしてある程度の共通プログラムができれば、コンソーシアムに入っていただくことのメリットも出る。それを関係者に使っていただき、そういうことに長けた嘱託講師なり、常勤講師をコンソーシアムでお雇いして、その人たちに満遍なく回っていただくことで、いわゆる教育の質保証をするということ。全人教育を強化できないかと。将来的には、そういうところまで行けるかと思っています。
上田 最後に一言ずつ。
伊坂 やはり大事なことは、学生をどう育てるかということに尽きると思います。大学スポーツが関西にとってはなくてはならない、日本にとってはなくてはならないというふうにするには、やはり「できますか」、「売れますか」、「もうかりますか」というキーワードを横に置きながら、皆さんの力をいただきながら進めていきたい。
東 ビジネスにしていくということ、企業の知見、そういうところをぜひうまく活用していただいて、巻き込んでいただくことが重要なので、我々もぜひともご協力させていただきたいと思っております。
須佐 きょうは私のほうが皆さんからヒントをいっぱいいただきました。
藤本 大学人として、学生アスリートをしっかりと品質を高める。部活の品質をしっかり確保して高める。大学のブランディング。この三つを全学的にしっかりとやっていきます。スポーツ産業学会には、ぜひ1歩踏み込んでいただいて、そのきっかけとして、関西でやっているコンソーシアムなどと一緒に1歩踏み出してもらって、ぜひスポーツ産業の中に飛び込んできていただきたい。関西から大学スポーツというキーワードのもと、関西の売上につなげていけるようなところに、一緒に1歩踏み出すことができればと願っております。 上田 まだまだ日本版NCAAの中でも議論は尽くせないと思いますし、現場で戦っていらっしゃる方々の知恵も共有したい。皆様方からこういう機会をいただいたことに感謝申し上げます。

▶本稿は2017年10月1日(日)に追手門学院大阪城スクエア大手前ホールで開催された、第1回日本スポーツ産業学会・関西セミナー
「大学スポーツ改革と産業の関係性」(大学スポーツ推進コンソーシアムin Kansaiと共催)の講演内容をまとめたものである。

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