名古屋から世界レベルのスポーツ・エンターテインメントを目指す IGアリーナ(愛知国際アリーナ)
名古屋から世界レベルのスポーツ・エンターテインメントを目指す IGアリーナ(愛知国際アリーナ)
スタジアム・アリーナ視察研究会/びわこ成蹊スポーツ大学講師 明世熙
日本スポーツ産業学会は、2024年から新たな取り組みとして「スタジアム・アリーナ視察研究会」を開始した。本研究会は、国内外のスタジアム・アリーナの視察を通じて、学術的知見の獲得と実践的な提言を目的とするもので、今回はその第三弾として2025年7月13日(日)にグランドオープンを迎えた「IGアリーナ(愛知国際アリーナ)」を視察した。本稿では、同年12月20日(土)、21日(日)に27名の参加者により実施された模様を報告する。
民間のノウハウや創意工夫を最大限に活かす日本初のケース
名古屋のランドマーク、名古屋城の隣に誕生したIGアリーナ(愛知国際アリーナ)。本施設は、世界のスポーツ・エンターテインメント業界のトップを目指してスタートしました。名古屋市営地下鉄名城公園駅の出口からすぐ目の前に位置するこのアリーナは、公式ホームページで最寄り駅の名城公園駅から徒歩約0分で案内されるように、アクセス良好です。
1964年10月の東京オリンピック大会直前に完成した愛知県体育館は、施設の老朽化に伴いその活用に課題を抱えていました。2017年に開催が決まった2026年第20回愛知・名古屋アジア競技大会にふさわしい、スケールアップした施設として愛知県体育館の増床新築移転計画が動き、名城公園北園エリアを候補地とするプロジェクトがスタートしました。
PFI方式で基本計画が検討され、民間ノウハウを活用すべく、事業者が自らの提案をもとに施設の設計・建設を行った後、愛知県に施設の所有権を移転するBT(Build Transfer)コンセッション方式を採用。愛知県は初期予算の負担額を減らすことができ、民間事業者は、設計・建築から維持管理・運営を一つのプロジェクトとして高い自由度を持ちながら施設整備および運営が可能となりました。

出所)愛知県庁(2020)愛知県新体育館整備・運営等事業に係る概要について
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kokusai-arena/shintaiikukan-gaiyou.html 内容を基に著者作成
民間のノウハウや創意工夫を最大限に活かすことで、収益性のある施設運営が期待されました。PFI法のBTとコンセッションを組み合わせ、設計・建設費に維持管理・運営費を加えた額から、利用料金収入等を差し引いたサービス購入料が、いくらになるかの提案を受ける手法は、今回が日本初のケースとされています。
世界一のアリーナへ
本プロジェクトの事業者として、3グループの応募から前田建設工業・NTTドコモを代表企業とするAichi Smart Arenaグループが落札候補者として決定し、2021年にSPCとして「株式会社愛知国際アリーナ」を設立しました。コンソーシアム構成企業である株主7社は、世界レベルのスポーツ・エンターテインメントを目指す各分野を代表する企業で構成されています。各分野のトップが意気投合したIGアリーナの始まりは、グランドオープン後にも、各社が持つ様々なノウハウ、そして、経験豊かな人材を登用しながら専門人材を内製して世界一のアリーナとなるべくスタートしました。
世界水準のスポーツ・エンターテインメント興行環境
今回の視察初日は、IGアリーナツアーに加え、実際に世界レベルのアリーナでの観戦体験として、ここをホームとするBリーグ・名古屋ダイヤモンドドルフィンズ(以降、名古屋D)とファイティングイーグルス名古屋の名古屋ダービーを観戦しました。
IGアリーナツアーの担当は、株式会社愛知国際アリーナの上村哲也氏でした。客席が設置されたフロアに移動すると、屋内にいながら解放感のある空間が目の前に広がりました。天井高30mのIGアリーナは、日本国内アリーナの標準的な高さ20〜22mの約1.5倍の高さで設計されました。海外アーティストのライブツアーの使用機材は、30mを基準に設計されるケースが多く、これまで日本ではその高さに対応できるアリーナは少なかったようです。
つり下げ荷重100トン超を実現する天井フックからの大型ビジョンは、八角形の上段とリング型の下段の構成でどの座席でもリアルタイムで情報確認と臨場感を感じることができました。さらに、館内のデジタルサイネージは、250枚が設置されており、参画企業のドコモの技術を用いてアリーナのどこにいても一体感を楽しめることも特徴です。館内のサイネージは、観客にとっては没入感を演出する重要なツールですが、施設側やスポンサーにとっては可変性のある広告チャンネルともいえます。施設側が営業活動を行うIGアリーナにとっては重要な商材でもあることが伺えました。
アリーナ全体を俯瞰してみると、すり鉢状座席配置でスポーツ観戦に適したオーバル型とコンサート鑑賞に適した馬蹄型を融合させたハイブリッドオーバル型です。側面の黒い壁に吸音材を使用することで、IGアリーナの残響は約2秒の設計が実現できています。試合終了のブザーや、好きなアーティストの声が少し遅れて届くことで、観客は一体感から外れてしまう瞬間がたまにありますが、IGアリーナでは秒差まで極めた精緻な音響環境が印象的でした。
続いて、IGアリーナのBtoBビジネスモデルの核心ともいえる3階のMUFG Suiteに足を運びました。全40室で構成されるこのフロアは、各室ごとに企業と契約されており、契約企業は、IGアリーナで開催されるほぼ全ての興行が観覧できる特別な日常が楽しめます。
専用エントランスから入場でき、モダンなデザインと作品のようなこだわりの空間が広がっています。また、大きい窓から真正面に姿を現す名古屋城は大きな贅沢と言えるでしょう。戦国時代にタイムスリップしたような特別な時間が過ごせそうでした。
MUFG Suiteの余韻が消える前に、2階のd CARD LOUNGE(プレミアムラウンジ)へ移動。ラウンジ利用券付きのチケットを持参することで当日の試合観戦ができるエリアです。ラウンジエリアではありながら、直接会場と繋がっているので一体感を感じられる構造でした。また、2か所のプレミアムバーと2か所のプレミアム飲食店舗では、ここだけの特別なドリンクや新鮮なお寿司、愛知グルメなど五感でアリーナを楽しめます。その他にも、アリーナには食の世界旅行をテーマに、愛知らしさを前面に出したメニューから本格的な各国料理まで個性豊かな20店舗の飲食が観客を待っていました。
IGアリーナを一周し、ツアーのスタート地点に戻ると、いよいよ名古屋ダービーの開始です。「RED CHRISTMAS」のテーマでIGアリーナ自慢の音響設備が大活躍。生演奏のクリスマスキャロルを楽しみながら場内は一層盛り上がりました。試合終盤まで接戦が続き、悔しくも78対80で名古屋Dの負け試合でした。残念ながら、勝利の瞬間を味わうことはできませんでしたが、IGアリーナでの観戦体験は記憶に残る瞬間でした。悔しかった結果はあとにして、最後に名古屋市内での研究交流会を行いました。多彩な背景の参加者が集まるからこそ、さまざまな意見が飛びかいました。次の日の研究ディスカッションに持ち越し、初日は終了しました。
「名古屋飛ばし」から「名古屋目指し」へ
二日目は、IGアリーナをご紹介いただいた株式会社愛知国際アリーナの上村哲也氏、IGアリーナをホーム球場とする名古屋ダイヤモンドドルフィンズ株式会社の園部祐大氏をお招きし、施設とプロスポーツクラブ各立場からみたIGアリーナについて研究ディスカッションを行いました。
最初は、ご登壇いただいたお二方の簡単なご紹介を兼ねて各社の立場からみたIGアリーナについてお話を聞くことが出来ました。約90分のディスカッションを通じて共通することは、今までのスポーツビジネス領域の考え方を越え、IGアリーナと、ホームとする名古屋Dは、名古屋・愛知地域に留まらず、日本からアジア、そして世界に誇らしい、名古屋・愛知のアイコンになってほしいという強い意志が示されました。今までは、名古屋を飛ばして東か西に向かった流れが、IGアリーナができることで、そしてIGアリーナをホームとする名古屋Dの試合があることで名古屋を最終目的地として目指す方向になること。それが、名古屋・愛知の地域住民のシビックプライドとなり、地域全体が盛り上がって、この街の人々の笑顔が増えることをお二方が考えていることが伺えました。
スタジアム・アリーナは、物理的な空間の利用に留まりません。また、その影響力が地域だけではなく、国全体を、世界を目指す規模の新しいビジネスへシフトしていることを今回のIGアリーナ視察で改めて考えました。






