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TOKYO2020セミナー「オリンピック、ワールドカップの動画配信最新動向」

TOKYO2020セミナー「オリンピック、ワールドカップの動画配信最新動向」
須賀久彌│株式会社プレゼントキャスト代表取締役社長

プレゼントキャストについて

プレゼントキャストとは、2006年に在京キー5局と広告会社4社で立ち上げた合弁会社です。インターネットを通じてテレビの魅力を伝えるとともに、インターネットによるテレビの可能性を拡げることを目的としています。
最初(10年前)に手がけたのは、「テレビドガッチ」という自社媒体です。当初はスポーツ配信もやっていましたが、今はエンタメニュースのサイトになっていて、毎日のテレビ番組の紹介やイベント情報などをニュースとして配信しており、この中で、サッカー日本代表戦などのハイライト動画も配信しています。
テレビドガッチでは、現在、1日あたり約10〜20本、年間約6,000本の記事を書き、それをSmartNewsやantenna、グノシ―などのキュレーションサイトを中心に外部配信をしています。ある意味、放送局のプロモーション機関として、ニュースを拡散していく仕組みを作っていると言えます。 私たちのメインの仕事は、「gorin.jp」というオリンピックサイトの制作・運営と、在京キー局5局が2015年から始めた「TVer」というサービスの運用です。TVerは、テレビ番組を放送直後にインターネットで広告付きで無料で見せる、いわゆるキャッチアップと呼ばれる“テレビの見逃しサービス”になります。

インターネットによるスポーツ配信

スポーツに関しては、2006年の4月3日に会社を立ち上げて、同年6月9日に始まったFIFAワールドカップドイツ大会のインターネット配信を行いました。会社を立ち上げて最初の仕事がサッカーワールドカップのインターネット配信でしたが、そこから20 07年までの間に、バスケットボール世界選手権やワールドカップバレー、世界水泳、世界スキー(ノルディックスキー世界選手権札幌大会)、世界陸上、世界柔道、世界卓球など、世界大会のインターネット配信や高校サッカー選手権の配信などもやりました。
2007年には、サッカーJリーグのJ1、J2を全部やってみようということになり、ナビスコカップも含めて1年間で約640 試合のハイライト配信も行いました。
振り返ってみると、2006年のワールドカップドイツ大会の時は、「インターネットで動画を配信する」ということの理解が足りておらず、かなり苦労しましたが、全64試合を1カ月間でやるというのは、実は比較的楽なことだと、後になって気が付きました。例えば、同じサッカーの大会でも高校サッカーの場合は、1回戦16試合とか、1日に8回以上のダブルヘッダーの試合があるなど、1日に行われる試合数が多く、それを即日にハイライトを作り上げるのでかなりの労力が必要となりますが、ワールドカップの場合は、多くても1日4試合なのです。
そういう意味では、世界陸上も大変でしたが、最も大変なのはオリンピックです。

オリンピックとの関わり

日本のオリンピックは、NHKと民放5 社のジャパンコンソーシアム(JC)で放送権を取得するという世界でも稀有な放送体制になっています。例えば、アメリカではNBCという 1つの放送局がIOCから放送権を取得して放送しますので、NBC以外の局では、ニュース枠以外ではオリンピックは放送されません。ところが、日本では、NHKと地上民放の6系列が放送権を持っているので、大会期間中は“テレビがオリンピック一色”になります。
そのJCでは、2008年北京大会で初めて、インターネットでの動画配信が実現します。IOCから「北京大会もインターネット配信をしてみないか」との要請がありました。
その当時、民放もNHKも放送だけで手一杯という状況の中で、「どうしよう」ということになっていたので、「民放共通のオリンピックサイトをプレゼントキャストでやらせてもらえませんか?」という提案を民放連にさせていただいたところ、「いいじゃない、やってみて」という感じで北京大会から始まったのが、「gorin.jp」というオリンピックの配信サイトです。
7月頭に正式に実施が決定して、8月8日の開会式までの1カ月弱でサイトを立ち上げるという、かなりタイトなスケジュールの中で準備を進めました。競技ハイライトについては、放送局が収録した各競技のテープ素材を、我々が編集所に入れて、そこで初めて映像を見てから編集するという、とても信じがたい作業をやりながら、期間中、約380本のハイライト動画を編集しインターネットで配信しました。

オリンピック配信の現状

2010年バンクーバー大会からは、とてもテープ素材の受渡をやっている場合ではなく、日本に入ってくる国際映像回線に直接編集用パソコンを接続して編集しました。今回のリオ大会もそうですが、JCはデジタルの5回線を使って、現地から国内へ映像を入れてきますので、その5つの回線をその場で取り込み、編集しながら動画をアップロードしています。ちなみに、ロンドン大会とソチ大会では、2,000本以上のハイライト動画を配信していますが、その中でも、ロンドン大会では約400時間、ソチ大会でも230時間を超えるライブストリーミングの配信も行っています。リオ大会では、ライブストリーミングを2,500時間実施する予定で、基本的には地上波で放送される競技以外は、ほぼ全てライブストリーミングでお届けするという体制で臨む予定です。
実は、国際映像回線は45本あって、その全てで競技を収録できる状態になっています。その45本の国際映像のうち日本で放送されるのは、NHKか地上波で1本、BSで1局、民放が2本(重要な試合が重なると3回線になることもある)で、基本的には4つのチャンネルだけでやっています。たとえば、卓球競技を4 本の回線で中継しているとして、そのどこかで日本人選手が出場していても、残りの3 つは外国人選手対外国人選手の試合なので、日本では誰も中継しません。同じように、テニスが5回線で中継しても、錦織選手以外は、日本では使われません。その残りの映像を全部インターネットで配信するとしたら、45本のうち25本ぐらいは常時中継されていますのでJCが使う4〜5本を引くと、2 0本ぐらいは同時に「gorin.jp」でご覧いただけるということになります。IOC発表では、全競技時間をあわせると3 ,160時間になっていますが、日本の放送局で放送する約500 時間を除いた残りの約2 , 500 時間を「gorin.jp」が受け持ちます。

東京大会への眼差し

なぜこの話が重要かというと、4年後の東京大会では、「出場国」という扱いで日本人選手が多数出場するので、これまで放送されなかった競技にも日本人選手が出場します。そうなると国際映像として配信されるチャンネルのほとんどに日本人選出が出場する可能性があるのです。つまり、 マイナー競技も含めて、これまでテレビでは放送されていなかった全ての競技をどうやって見せていくのか、あるいは、私たちは関わっていないパラリンピックをどのように放送し、競技会場に人々を呼ぶために活用していくかは、2020 年に向けた大きな課題だと思っています。
イギリスのチャンネル4が配信したパラリンピックの番宣動画は、とても格好よく仕上がっているのですが、そのレベ ル(領域)に達しているイギリスと、パラリンピックの競技を見たことがある人がほとんどいない日本との差をどのように埋めるかは、とても重要な課題ですし、知名度が少なく日本で中継されてこなかったような競技をどう見せていくかが、今回の「gorin.jp」での私たちの大きな使命です。

今後の展望

2014 FIFAワールドカップ ブラジル大会では、テレビドガッチではなく「LEGENDS STADIUM(レジェンドスタジアム)」という新しい傘下の常設サイトを立ち上げました。レジェンドスタジアムでは、ハイライト動画の配信もありますが、リアルタイムの放送もあり、そこではマルチアングル配信という技術を使ってテキスト情報を流しています。試合中に「どの選手がファールした」、「あの選手にイエローカードが出た」、「選手が交代した」というようなテキスト速報を、サイトの中でリアルタイムに配信しています。
データという切り口は、デジタル領域においてはかなり大きな切り口だと思っています。人が流れていくのを1つ1つデータ化しなければならないので、これを作るのはかなり大変で、見せていくのも大変です。どうすると見やすくなるかということを突き詰めないと、マニアックに楽しんでいただける方には評価してもらる一方、初めての方には、“すごいね”と評価されても、そこから2度3度と見てもらえるようになるまでのハードルはなかなか超えられません。
スポーツの圧倒的な価値はリアルタイムで主張することで、ハイライトは、「見逃したので一応確認しておこう」ということにしか使われないと思います。一方で、「前の試合がこういうことだったのか」とか、「この選手のこういう動きは新しい」というような確認しながら見ていくことで“放送時間外の関係構築”ができるようになるというところに、ハイライト動画の意義があると思います。
あるいは、試合の得点が決まった直後にそのハイライトがあることで、それをFacebookやTwitterなどで動画を つけてシェアしてもらえるようにすることも1つの取り組みだと思っています。
最後に、試合に関するデータや選手情報、あるいはルールなどの情報をきちんと用意して、見ながら確認してもらうようなことも必要だと思っています。我々の主眼はデジタルを補完しながらどうやって見せていくかということであり、また、動画と一緒にスポンサーのマーケティングをどうやって広げていくかということが我々の仕事だと考えています。

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