スポーツ都市ランキング 前半
スポーツ産業を測る㉝
スポーツ都市ランキング 前半
同志社大学スポーツ健康科学部准教授 庄子博人
本稿では、株式会社野村総合研究所(以下:NRI)、株式会社日本政策投資銀行(以下:DBJ)、同志社大学、フロム・シェフ株式会社が実施した、スポーツ都市に関する調査を紹介したいと思います。この共同研究は、NRIの「スポーツ環境に関する都市ランキング〜スポーツを活用したまちづくりの効果とスポーツ都市の考察」という研究と、DBJの「わが国スポーツ産業の経済規模推計—日本版スポーツサテライトアカウント」という研究の知見から、スポーツ都市を構成する要素をインプット、アウトプット、アウトカムに体系化したモデルを提示し、スポーツ都市の価値を明らかにすることを目的としました。
スポーツを通じた価値創造を実現できている都市をスポーツ都市と定義し、スポーツ都市インデックスとしてインプットに「スポーツ資産」、アウトプットに「スポーツ活動」と「スポーツ消費」、アウトカムに「社会的価値」と「経済的価値」を設定しました(図1)。特徴的なのは、「社会的価値」と「経済的価値」が「スポーツ資産」に対して再投資するという循環モデルになっていることです。これらの指標を用いて国内106都市を対象に調査を行い、スポーツ都市ランキングを作成しました。
スポーツ都市インデックスを紹介します。インプットである「スポーツ資産」は、有形資産、無形資産、人的資産、自然資産の4つで構成されます。アウトプットである「スポーツ活動」はスポーツ実施率、スポーツ観戦率、スポーツボランティアで構成され、「スポーツ消費」はスポーツ関連消費額で構成されます。
アウトカムである「社会的価値」は地域住民の健康、地域活性化で構成され、「経済的価値」はスポーツ生産活動、周辺産業生産活動で構成されます。NRIとDBJがこれまでに研究してきたスポーツに関する指標が整理・体系化され、循環モデルとして成長サイクルが駆動する状態が、理想的な姿とされています。
それでは、調査の結果から明らかになった具体的な都市ランキングを見ていきましょう。全インデックスの合計得点である総合評価では、さいたま市、福岡市、福島市、名古屋市、高崎市が上位5都市となりました。
さいたま市は、項目別ではスポーツ活動、スポーツ関連消費、社会的価値で高い評価を得ており、スポーツ消費においては、スポーツ月謝、スポーツ観覧料、スポーツクラブ使用料など、スポーツ関連消費の小項目ほぼ全てで全国上位でした。特に突出しているのはスポーツ観覧料で、浦和レッズ、大宮アルディージャ、さいたまブロンコスといったプロリーグに所属するクラブが立地するほか、近隣地域に西武ライオンズが立地している影響もあると思います。また、大規模スポーツイベントの開催会場にもなる「さいたまスーパーアリーナ」のスポーツ資産としての存在も大きいと思われます。
一方、総合評価で同じく高い評価となった福岡市は、項目別では、スポーツ活動において1位の得点になりました。他に個別項目での高い値は無かったものの、各項目で平均的に高い値を記録したことが1位に繋がっており、「みる」「する」「ささえる」の各側面でスポーツが地域生活に根付いていると言えるでしょう。詳細項目別でみると、特に観戦率(みる)に関するスコアが高く、福岡ソフトバンクホークス、アビスパ福岡等の、福岡を本拠地とする複数のプロスポーツチームが近年好成績を残していることが市民の観戦意識醸成に繋がっていると考えられます。また、ボランティア関連のスコアも特に参加意欲に関して高い値を記録しており、福岡市スポーツ協会等と連携した情報発信・意識醸成の取り組みが広く浸透していることが伺えます。
また、スポーツ資産で1位となった松本市は、特に自然資産のスコアが高く、2つの山脈(山地)の間にあるという地理的特性が最大の要因であると考えられます。また、人的資産(選手や審判員、指導者等)も比較的高いスコアを記録しています。
社会的価値は、1位が豊中市、2位が吹田市となりました。豊中市と吹田市は、地理的には隣接しており、どちらも閑静な住宅街というイメージがあります。どちらも市に対する愛着や誇りを示す指標である「シビックプライド」が高く、吹田市にある「パナソニックスタジアム吹田」、そのスタジアムを本拠地とする「ガンバ大阪」が位置し、これらの存在がスポーツ活動への意識の高まり、ひいてはシビックプライド等の社会的価値に結び付いているものと推察されます。実際に吹田市の「スポーツ資産」の値は全国6位、スポーツ活動における「観戦率」の値は全国7位と高水準になっており、スポーツ資産・スポーツ活動・社会的価値が結び付いている好例と思われます。
また、経済的価値で1位となった福井市は、「する」スポーツに関する民間施設が多く、人口一人当たりのフィットネスクラブ数は106都市の中でトップ(106都市平均の約1.6倍)です。気候が厳しい中でスポーツを実施する環境として、フィットネスクラブが福井市で整備された可能性があると言えるでしょう。また周辺産業生産活動も活発であり、他地域との比較では、地域で古くから栄える繊維工業に関わる数値が高い点が特徴的であると言えます。スポーツ消費が活発でない中、域外輸出できる商材(スポーツに用いられる繊維製品等)を多く生産することで、周辺産業生産活動を活発化させているのではないかと思われます。
次回、スポーツ都市ランキング後半では、項目別ランキング結果の詳細を紹介するとともに、項目間の関係性から循環モデルが成立しているのかどうかを考察しようと思います。