サッカー代表選手選考の進化 ~FIFAワールドカップ2026北中米大会
サッカー代表選手選考の進化 〜FIFAワールドカップ2026北中米大会
早稲田大学スポーツ科学学術院教授・博士(スポーツ科学)、弁護士
松本泰介
2026年6月にはサッカーW杯が開催されました。このイベントにおいて4年に1度行われるのが、当たり前ですが、日本代表選手選考です。本年も5月15日に、FIFAワールドカップ2026北中米大会に向けた日本代表メンバーが発表されました。W杯に向けた日本代表メンバー発表は、以前から大物選手が外れたり、一方で意外な選手の発表に驚きが生まれたり、大きな話題になってきましたので、いろいろ思い出がある読者の方も多いのではないでしょうか。今回の発表も日本サッカー協会自身が配信、NHKが生中継していたほか、民放各局も特別番組を組んで生放送していました。そこで、今回は、サッカー代表選手選考の進化をテーマにしたいと思います。筆者は代表選手選考に関する研究を主たる研究テーマとしていることもあり、いろいろな競技の代表選手選考を見てきましたが、実は現代のサッカー代表選手選考はなかなか興味深い事象です。
サッカーの代表選手選考は、
個人の実力なのか
近年、日本人サッカー選手の海外での活躍は目覚ましく、イングランドプレミアリーグ優勝に貢献したリバプールFCの遠藤航選手や、オランダエールディヴィジ得点王になったフェイエノールトの上田綺世選手、ヨーロッパチャンピオンズリーグベスト8に進出したポルトガルスポルディングの守田英正選手など、数多くの選手が世界最高峰のプロリーグで活躍しています。
このような実力のある選手が増加している中での代表選手選考は、選考者として非常に悩ましい問題になります。現代の代表選手選考では、選考者の主観のみで選考することはもはや法的合理性が認められる時代ではありません。客観的な代表選手選考が求められるものの、様々なデータで個人の能力を計ることはできますが、そもそもサッカーは1人1人が個性のあるプレーをするので、そのプレーをどのように客観的に評価するのかも難しかったりします。またサッカーはチームスポーツで、単純に個人の実力で判断することはできません。しかもポジションが決まっているようで、特にフィールドは区切られておらず、チームプレーの流動性が非常に高い競技ですので、個人の実力を引き出すも殺すも周りの選手の影響が強いスポーツになります。このような競技特性を踏まえながら、代表選手選考を行わなければならないところに、サッカーの代表選手選考の難しさがあります。
実際の代表選手選考においては、様々なデータをベースにして大枠のリスト作成は行えたとしても、そこから限られた枠のメンバーを選考しなければなりません。個々の選手の実力の評価や、チームプレーとしての実力の評価は、やはり試合や練習で様々な組み合わせをしながら、最もチームとして機能する組み合わせを探すことになります。サッカーW杯は4年に1回行われるため、それに向け選ばれた監督や強化スタッフ陣は、4年後のW杯に向けて様々な選手を選考し、強化試合においてその組み合わせを試し続けます。代表は常にチームとして存在するわけではないので、1年に数回ある代表招集期間にこのトライアルを続けることになります。このチームとして機能しているか否かは、試合だけでなく、代表招集合宿中の行動なども踏まえて判断されるので、一般ファンにはなかなかわかりにくいところもあります。
さらに、この4年間にまた新しい実力をもった選手が生まれてくるので、同じメンバーでトライアルを続けるのではなく、新たなメンバーも加えながらトライアルが続きます。このような4年間のトライアルの中で、実力のある選手らの組み合わせの中から、最も結果を出しやすい組み合わせを導くことになります。
ですので、個々の選手に実力があることや所属しているクラブで結果を出していることはもちろん素晴らしいことなのですが、W杯の日本代表のメンバー選考においては、個々の選手の実力よりも、周りの選手のプレーを引き出せるのか、チームプレーとしての実力の評価が極めて重要になります。今回の選考でも守田選手など大きな結果を出している選手が選考されないことが議論になっていますが、これまでもそのような選考はありましたし、あくまで現在のチームとしての機能を考えた中で当てはまらなかったという結果だけだったりします。
本大会に出場しない選手を選考することの是非
代表選手選考は、上記のとおり限られた枠をトップレベルの選手で争っているため、その1枠1枠は非常に貴重な枠となります。
今回、たまたま5月31日に行われるサッカー日本代表のFIFAワールドカップ2026北中米大会に向けた壮行試合に、選考した選手が1人参加できない事情があったため、その1枠をどう使うのかが論点となりました。その1枠を元代表キャプテンであった吉田麻也選手を選考したことを受けて、いろいろな議論が起こりました。
もちろん代表選手選考は実力なので、フィールドでのプレーを評価することになりますが、本大会に出場しない選手を選考することの是非についていろいろ議論が出るのもわかります。むしろ今回も発生した追加招集メンバーを1人でも早く招集し、上記のようなチームプレーの精度を少しでも高める方向もあるとも思われます。
しかしながら、本大会に向けた準備、そしてその後の本大会での帯同サポートを含め考えた場合に、本大会には出場しない現役選手を選考すること自体が全く否定されることではありません。これも本大会での結果を出すための1つの方法を考えた場合に、代表選手選考の1枠を使用することは大いに考えられるでしょう。むしろ他競技を含めこれまでこのような選考自体があまりなかったことの方が例外なのかもしれません。
なお、スポーツビジネスの興行として、著名な選手を起用し、事実上の引退試合興行にすること自体は極めて有効な方策とは思われます。もちろん代表試合が実力のある選手同士の試合であることを否定するつもりはありませんが、このような興行により話題、壮行試合としての機運の醸成なども含めて、スポーツビジネスとして非常に大事です。
選手に代表選手選考される法的権利はあるのか
また、今回のW杯に向けた代表選手選考については、怪我をした選手に対する不選考、離脱も話題になりました。特にサッカー日本代表の中心選手であった三笘薫選手の不選考、前回大会以降キャプテンを務めてきた遠藤航選手の途中離脱は大きなニュースになっています。遠藤選手の離脱については、少なくとも先日の壮行試合でプレーしていたことや大会前の合宿でのプレーなどを見ていると、試合に出ることができないわけではなかったと思われます。選手にとって怪我は日常茶飯事で、一定の怪我を抱えながら競技をしている現実はあるので、プレーできる感覚にはなると思います。
ただ、法的に重要な整理として、実は選手に代表選手選考される権利が認められるわけではない、ということがあります。代表選手選考は、国際大会に派遣するのかしないのかも含め、管轄する日本協会の判断であり、選手側に権利がある話ではありません。ですので、今回遠藤選手が代表選手であり続ける権利はなく、あくまで選考者の判断に従わざるをえないということはあります。
ここを選考者にて判断するところが本当に難しいところですが、サッカーW杯のようなメガスポーツイベントは、その商業性もあいまって、極めて高度な競技レベルになっています。筆者もW杯の試合を見てきた中で、通常のリーグ戦とは違った雰囲気もあり、世界最高峰の大会として、全選手がサッカー人生をかけてプレーしています。一瞬の隙や判断ミスが結果を左右する緊張度の高い試合が続きます。今回、出場国数増に伴い、勝ち上がるための試合数も1試合増加しています。このようなことを考えた場合に、いかにフレッシュな万全な選手で、限られた枠を使い切るかを考えられたのでしょう。以前のような大会であれば、遠藤選手を選考したままにすることも考えられたかもしれませんが、今回はそれを許さない背景があることは踏まえなければなりませんでした。サッカーの代表選手選考とは既に高度なスポーツビジネスとして成熟しているサッカーの代表選手選考は、単純なスポーツの代表選手選考であるだけでなく、今回解説したような様々な背景事情が絡む悩ましい問題になっています。
今回、サッカーW杯にのぞむ日本代表監督である森保監督は、日本代表チームの戦術をカメレオンのように臨機応変な対応を目指しているとのことですが、現代のサッカー代表選手選考はまさにこのようなカメレオンのように、様々な背景に応じた対応が求められる、とても興味深い事象だったりします。競技としてのプレーだけでなく、それを支えるチームサポート、機運の醸成、興行としての成功など、様々な思惑が入り組んでいました。
様々な競技の代表選手選考を比較して見ていると、その競技、ビジネスの特殊性が表れています。皆さまも普段とは違った競技の代表選手選考を楽しんでみてはいかがでしょうか。
参考文献
拙書「スポーツビジネスロー」(大修館書店、2022年)
拙書「代表選手選考とスポーツ仲裁」(大修館書店、2020年)

