アメリカ大学スポーツにおける エリジビリティ(競技参加資格)①

アスリートの教育とキャリア形成④

アメリカ大学スポーツにおけるエリジビリティ(競技参加資格)①
帝京大学医療技術学部 教授
束原文郎

連載「アスリートの教育とキャリア形成」、第4回からはアメリカ大学スポーツ統括機関NCAAの定める競技参加資格(Eligibility:エリジビリティ)を考えていく。

エリジビリティの構成

アメリカ大学スポーツ統括機関NCAAの定める競技参加資格(Eligibility:エリジビリティ)とは、学生アスリートが大学の競技に参加するために満たすべき要件であり、大きくは「学業要件」「アマチュア要件」「時間要件」から構成される。

学業要件は、高校で所定のコアコースを定められたGPA(Grade Point Average)以上で修了することや、SAT/ACTといった標準テストで一定の成績を収めることなどが含まれる。入学前の基準はディビジョンごとに異なり、ディビジョンI(D-I)とII(D-II)ではNCAA資格審査センターの認定が必要となる。在籍中のチェックはNCAAが設定したAcademic Progress Rateにまつわる基準群に従って大学が行い、毎年NCAAに報告する義務がある。

アマチュア要件とは、学生が競技を通じてプロとしての報酬を得ていないことを証明するものである。プロ契約の締結、プロチームでのプレー経験、代理人の雇用、金銭的な報酬の受け取りなどが含まれ、2020年代に入る前まではこれらの行為はアマチュア資格の喪失を意味した。NCAAには、学生が学業を最優先とする環境でスポーツに参加することを重視しているという建前が存在し、商業的な利益を目的としない活動を求めてきたからだ。

しかしながら、近年、学生アスリートによるNIL(Name, Image, and Likeness:氏名、イメージ、好感度、いわゆる肖像権)の商業利用や、年間最大2,000万ドル(約31億円)を上限とした運動部収入の選手への分配を認めるHouse合意に基づき、大きな変革がもたらされている。これらについては十分な紙幅を必要とするため、後に特別回を設けて詳述する。

時間要件とは、大学での競技参加において時間的な制約を設けるものである。D-I・D-IIの学生アスリートが、初めて大学に登録してから通常5年以内に4シーズン分の競技参加資格を使い切るという「タイムロック」と、特定のシーズンに競技に参加せず、練習のみを行うことで、そのシーズンの競技参加資格を温存する「レッドシャツ」が主な要素である。
今回は新入生の初期学業要件について紹介する。

新入生の初期学業要件

学生アスリートが大学に初めて入学する際の学業要件は、各ディビジョンの学生に対する基本的な考え方を示していると考えられる。D-Iの学生アスリートになるには、高校を卒業し、NCAAが承認するコア科目16科目を修了した上で、最低2,300のGPAを達成している必要がある。この16科目には、英語4年、数学3年(代数I以上)、自然/物理科学2年(うち1年は実験を伴うもの)、社会科学2年などが含まれる。最も厳格な要件として、学生は高校の7学期目(最終学年の開始時)までに、16科目のうち10科目を完了しなければならない。この10科目のうち7科目は、英語、数学、自然/物理科学から構成されなければならず、これらの科目と成績は、その後に取得した科目で置き換えることはできない。ただし、2025-26年度から、NCAAの初期資格要件としてSATやACTといった標準テストの提出は必須ではなくなった。

この「10コア科目早期完了要件」は、学生が高校の早い段階で学業に真剣に取り組むことを促し、過度な競技活動への集中を防ぐことを目的としている。これは、D-Iの理念である「学業経験の優位性(The Primacy of the Academic Experience)」を制度的に保証しようとする試みであり、学業と競技の両立という原則を守るために、具体的な基準を設けているといえる。

D-IIの初期学業要件は、D-Iと似ているが、若干緩い。高校卒業後、NCAA承認のコア科目16科目を修了する必要があるというのはD-Iと同じだが、GPAの最低要件はD-Iよりやや低い2.200である。D-Iのような「高校7学期目までに特定の科目を完了する」という早期完了の義務はなく、2025-26年度から標準テストの提出も不要となっている。

D-IIIの学生アスリートは、NCAAが定める統一的なGPAやコア科目数の要件を満たす必要はない。学生がD-IIIの大学で競技に参加するための唯一の学業要件は、その大学が一般学生に課す入学基準を満たしていることである。この規程は、「学生アスリートを他の学生と区別しない」というD-IIIの哲学を忠実に反映している。これにより、学生アスリートは学業成績だけでなく、個々の学校の特色に合わせた多様な入試プロセスを通じて入学することが可能となっている。

次回は学業要件のうち,在学中の単位取得要件と進級要件に加え,転校に関する規程についてもディヴィジョンごとに整理していく。

1NCAA. (2025). 2025-26 NCAA Division I Manual. ,NCAA. (2025). 2025-26 NCAA Division II Manual. ,NCAA. (2025). 2025-26 NCAA Division III Manual.はhttps://www.ncaa.org/sports/2013/11/20/legislative-actions-and-issues.aspxよりダウンロード可能である.

 

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