スポーツ産業のイノベーション─㉜ 幸せになりたければIQからEQ、そしLQへ

スポーツ産業のイノベーション─㉜
幸せになりたければIQからEQ、そしLQへ
植田真司│株式会社ニーズ創造研究所 代表取締役(元大阪成蹊大学経営学部教授)

我々は、IQ(Intelligence Quotient)が高ければ成功し幸せになれると考え、学校教育や学歴などを重視してきた。しかし、IQよりEQ(Emotional Quotient)がより幸せに関係しているようだ。さらに、幸せになるには人とのつながりや自然への感謝が必要だ。そこで、人や生き物を含む自然を愛し大切にする指数をLQ(Love Quotient)と定義した。今回は、なぜLQが大切なのか考察した。

IQ「知能指数」の限界
我々は、知能が高ければ成功し幸せになれると考えている。そのために、頭の回転の良さなどの能力を高めようとしているが、ハーバード大学の心理発達科学者であるハワード・ガードナーは、「人の知能は、IQなどのモノサシで測れない」と言っている。事実、学校の筆記試験では、知能の約20〜30%しか評価できていないとされている。そこでガードナーは、人間は誰しも複数の知能を持っていると考え、8つに分類する「多重知能理論」を1983年に提唱した。以下がその8つの知能である。
①言語的知能 言葉への理解力や感受性が高い。
②論理数理的知能 数や予測、論理的思考力が高い。
③空間的知能 視覚的な創造力が高く、絵画が得意。
④運動感覚的知能 運動能力に優れ、運動が得意。
⑤音楽的知能 リズム感、音感に優れ、音楽が得意。
⑥内省的知能 自分の感情や価値観の理解力が高い。
⑦人間関係的知能 人との関わり合いに優れている。
⑧博物学的知能 環境、動物など自然への関心が高い。

IQで測定できるのは、①〜③の言語知能、論理数学知能、空間知能の一部であり、ビジネスで成功した人は、ほぼ⑥⑦の内省的知能、人間関係的知能に優れていることから、学力だけで成功し幸せになるのは難しいことがわかる。また、イェール大学の心理学者ピーター・サロイとジョン・メイヤーは、自己や他者の感情を知覚し、自身の感情をマネジメントする知能を指すEQ「心の知能指数」を1990年に提唱した。1995年には作家のダニエル・ゴールマンが『Emotional Intelligence(邦題:こころの知能指数)』を出版し日本でも話題になった。EQの高い人は、素直で、忍耐力があり、気配りや共感力がある。トラブルでピンチの時にも冷静さを失わないので人格を評価され、信頼を得ることができる。ビジネスで成功し幸せになるにはEQが必要であることがわかる。

思いやり、つながりのLQ「愛の知能指数」
幸せになるためにさらに必要とされている知能が、人に愛される知能であり、持続可能な時代における地球や自然に対する感謝の知能である。そこで、すべてのものを思いやり、つながり、愛し大切にする「愛の知能指数」をLQ(Love Quotient)と考えた。
LQについて調べると、アリババ社の創業者ジャック・マーがダボス会議で「成功するためには、高いEQが必要だ。すぐに失敗したくないなら高いIQが必要だ。しかし、尊敬されたいなら高いLQ、つまり愛の知能指数が必要だ」と語っている。利他の精神、無償の愛、社会貢献、マズローの「自己超越」が大切なのである。
私の場合は、大学で量子力学を学び「二つの粒子が離れた場所にあっても、互いに瞬時に影響を与え合うこと」に興味を持ち、「宇宙が一体であり、すべてが影響し合ってつながっている」と考えた。「すべてがつながっている」と考える仏教哲学や「色即是空、空即是色」の般若心経にも関心を抱き、自然や宇宙に感謝するようになった。
我々は、「全体」から「部分」だけを切り取ったり、境界線を引いたりし、「部分」を所有しようとするが、全体がつながっていることに気付いていないようだ。より幸福に生きるためには所有でなく共有の概念が大切であり、人・自然・宇宙への感謝と愛の心=LQが必要なのである。
ちなみに16世紀にキリスト教伝道者が日本に渡来したとき、「the love of God(神の愛)  」に対応する日本語がなく「ご大切」と訳したようだ。明治になり「LOVE」を「愛」と訳したのは福沢諭吉という。その後、夏目漱石は「I love you」を「月がとても綺麗ですね」と訳し、二葉亭四迷は「I love you」を「私は君のために死んでもいい」と訳した。愛とは、意味が多様で不思議な言葉である。

スポーツを通じて幸せになる
我々が幸せになるには、EQもLQも必要だが、これらは非認知能力であり高めるのが難しい能力である。しかし、スポーツを通じて高めることができる。スポーツは多くの感情をともない、社会的スキルを鍛える場でもある。チームワーク、感情のマネジメント、忍耐、共感、気配り、目標達成意欲、失敗からの学びなど、多くのことを実体験し身につけることができる。
また、スポーツを通じて、愛する心や感謝の心を高めることもできる。スポーツによって、仲間、対戦相手、コーチ・監督、審判、支援者、用品の提供者などスポーツに関わる全ての人々とのつながりが深まり、スポーツマンシップや感謝の心が育まれる。また、多くのスポーツは自然環境の中で行われ、その恩恵を受けることによって自然への感謝の気持ちが芽生える。以上のように、我々はスポーツをすることにより、EQ、LQを高めることができ、幸せに近づくことができるのである。

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