スポーツ産業を測る オーストラリアのスポーツ産業とスポーツGDP

スポーツ産業を測る オーストラリアのスポーツ産業とスポーツGDP
庄子博人│同志社大学スポーツ健康科学部准教授


1.国家スポーツ計画「Sport2030」とスポーツGDP

2020年3月に、Sports Industry Economic Analysis  Exploring the size and growth potential of the sport Industry in Australia1)というタイトルでオーストラリアの保健省スポーツ局(Office for Sport-Department of Health)から、オーストラリアのスポーツGDP算定及びスポーツ産業分析のレポートが出されました。このレポートは政府の正式なレポートとしてpdf版で153ページに及ぶ超大作であり、オーストラリア政府のスポーツ産業への熱意が伺えます。このレポートが作成された理由は、2018年にオーストラリア政府が国家スポーツ計画「Sport2030」を策定し、その重要施策の1つに「スポーツ産業の強化」が掲げられことが大きく関わっています。そのスポーツ産業強化の実現に向けたファーストステップとして、資金投入される成長分野の見極めのためのエビデンス確保を目的として、このレポートに明記されるオーストラリア版スポーツサテライトアカウントのプロジェクトが開始されています。

さて、このレポートによれば、2016/17年のオーストラリアのスポーツ産業全体(total sports related sales=これはおそらく国内生産額に輸入を足した市場全体の概念であり日本版SSAでも算出済)が約322億豪ドル、そこから国内分の付加価値を算出したスポーツGDPは約144億豪ドル(≒約1.1兆円)と報告されています。また雇用者数は、12万8千人と推定されています。これらの数値は、オーストラリア全体のGDPの0.8%、雇用の1.5%に相当します。このスポーツGDPの規模は、オーストラリアの他産業と比較すれば、宿泊・飲食サービス業の約3分の1、小売業の約5分の1です。また雇用者数12万8千人は、電気・ガス・水道・廃棄物サービス部門よりも多くの雇用を提供しており、労働力の規模は鉱業部門に匹敵すると指摘しています。また、スポーツGDP成長率は、2012/13年から2016/17年の間に18%のプラス成長をしています。

このスポーツGDPを日本と比較すれば、最新の日本版SSAにおいて、日本のスポーツGDPは、2016年約7.9兆円、全産業に占める割合は約1.4%であり、マクロで見た場合、わが国のスポーツ産業の方が金額においても割合においても国内産業への貢献は大きいといえます。

2. 部門別のスポーツGDP

  表に部門別のスポーツGDPを明記しました。オーストラリアのSSAは、「スポーツオペレーション」、「教育・トレーニング」、「スポーツ医学・科学」、「メディア」、「イベント・会場・施設」、「ギャンブル」、「スポーツ用品・アパレル」、「スポーツテクノロジー」、「栄養・サプリメント」の大きく9部門から成ります。この定義は、欧州とオーストラリアの経済統計の違いを考慮して、欧州SSAのスポーツ定義であるヴィルニュス定義をオーストラリア版に調整し再編集したものです。詳細はレポートを確認いただきたいですが、オーストラリアSSAは、定義の違いこそあれ欧州SSAと比較可能になっています。日本においても欧州との経済統計の違いが大きな問題になりますが、欧州との比較可能性を担保する方法は日本版SSAとは別のアプローチを採用しており、今後、参考になる面があると考えられます。

部門別に見ると、最も大きい部門は、「スポーツオペレーション」で38.4%を占めます。次に「教育・トレーニング」24.8%、「スポーツ用品・アパレル」10.9%と続きます。日本のスポーツGDPの場合は、「スポーツ活動」「商業・輸送」「教育」の順で部門割合が大きくなっています。両国において、スポーツ活動を主とする部門が1位であること、教育も上位に位置することは共通点と言えると思います。ただし、部門定義に厳密には日本とオーストラリアで異なる点もあるようですので、今後、厳密な比較のためには、部門組み替えなどの操作も含めて詳細な分析が必要になりそうです。

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