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スポーツ法の新潮流  eスポーツビジネスのステークホルダー eスポーツの法律実務《その3》

スポーツ法の新潮流
eスポーツビジネスのステークホルダー eスポーツの法律実務《その3》
松本泰介│早稲田大学スポーツ科学学術院准教授 弁護士


新型コロナウィルス問題によりスポーツ界は甚大な影響を受けています。特にリアルのスポーツイベントを前提としたスポーツビジネスは、軒並み中断、中止に追い込まれています。特に多くの観客を動員するスポーツビジネスは、新型コロナウィルス対策を十分に踏まえた観戦方法に目途が立っていません。2021年に開催されることが延期された東京オリンピックパラリンピックでさえ、その開催は危ぶまれており、先行きは不透明です。
一方で、2020年4月29日に、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は、発表した新型コロナウィルスに関する書簡の中で、eスポーツとの関係に言及し、電子的かつバーチャルな形でのスポーツの統轄や、ゲーム企業との関係構築について、早急な検討を促しています。また、eスポーツ界では、オフラインでの大会開催はできなくなっているものの、オンライン上での大会では同時視聴者数で過去最高を記録するなど、新型コロナウィルス問題の中でも堅調です。
そこで、今回は、以前から行っているeスポーツの法律実務を再開し、eスポーツの法律実務の全体像を整理していきたいと思います。

1.eスポーツの法律実務のポイント

まず、少し時間が空きましたので、従前のeスポーツの法律実務で解説させていただいたポイントを説明します。スポーツビジネスの法律実務を理解する上で重要なのは、業界内ルールを前提とした取引において折衝を行うために、該当するスポーツビジネスの業界内ルールを把握するという点でした。これは、スポーツビジネスが、民法や商法、知的財産法や独占禁止法などの法令遵守は前提であるものの、実際のスポーツビジネスで取引を行っていく上でまず先に必要になるのは、該当するスポーツビジネス業界の業界内ルールだからです。  そして、このようなスポーツビジネスの考え方は、eスポーツビジネスも大会を中心としたビジネスモデルであり、また、発展の歴史がスポーツビジネスと近似していることから、eスポーツビジネスにも適用して考えることが得策です。また、業界内ルールを定めるコンテンツホルダーの所在がまだまだ不明確であるのが現段階のeスポーツビジネスの特徴であり、このようなeスポーツビジネスの現状を踏まえて、業界内ルールの内容を見極めていく必要がある点を解説しました。

2.eスポーツビジネスの法律実務の全体像 その1~ステークホルダー

そして、このようなeスポーツビジネスの法律実務の全体像を検討する上で、まず、大事になるのが、ステークホルダーと主要な業界内ルールの整理です。そこで、今回は、eスポーツビジネスのステークホルダーの整理を行ってみます。  ステークホルダーの整理から始める理由は、スポーツビジネスの法律実務を検討する上で最も重要な業界内ルールの把握において、この業界内ルールは法律ではなく、契約によって形成されるためです。つまり、誰と誰との間の契約によってルールが形成されているのか、ということを明確にする必要があるため、ステークホルダーの整理から始めます。
eスポーツビジネスのステークホルダーですが、上図を参考にしていただけるとわかりやすいです。2017年と少し前の資料ですが、今でもその基本構造は変わっていませんので、こちらを見ながら説明します。
①主催者
真ん中の「COMPETITIONS」と記載された部分が、eスポーツビジネスの主催者です。パブリッシャーであることもありますし、THIRD PARTYと書かれているように、パブリッシャー以外の第三者が主催している場合もあります。
主催者は、eスポーツの興行を行うものとして、またそのeスポーツの業界内ルールを形成する者として、最も重要な存在になります。ここは、従来のスポーツビジネスでも、eスポーツビジネスでもその重要性に違いがありません。
②上部団体の存在、不存在
主催者との関連で、その存在、不存在が大事なのは、主催者の上部団体の存在です。従来のスポーツビジネスであれば、スポーツを主催する団体が加盟する統括団体(いわゆる国内競技連盟(National Federation)やオリンピック委員会などの競技横断的な団体です)、あるいはその上部の国際団体(いわゆる国際競技連盟(International Federation))などが存在します。従来のスポーツビジネスは、これら統括団体あるいは国際団体が定める業界内ルールの影響を受けますので、これらの上部団体が定める業界内ルールの内容も把握する必要があります。
一方、eスポーツビジネスでは、以前解説しましたとおり、 International Esports Federation(IeSF。国際eスポーツ連盟)という国際団体や日本eスポーツ連合(JeSU)という国内団体がありますが、これらがeスポーツビジネスの主催者全ての上部団体ではあるとは限りません。ですので、eスポーツビジネスの主催者を考える場合、その業界内ルールの形成に影響を及ぼし得る上部団体の存在、不存在を確認する必要があります。
③パブリッシャー
eスポーツビジネスの最大の特徴が、図の左側に「PUBLI SHERS」と書いてある、パブリッシャーの存在です。また、このパブリッシャーが対象となるゲームの著作権を筆頭とした知的財産権を保有する点も特徴です。通常のスポーツビジネスには、このようなスポーツ自体の提供者はおらず、主催者と同一になります。また、スポーツ自体に著作権などの知的財産権は認められないのが一般的ですので、大きく違いが生まれる点です。パブリッシャーが主催者になる場合もありますが、そうでない場合もあり、この違いが、主催者の業界内ルール形成能力にも大きく影響します。
日本でいえば、ゲームメーカーを思い浮かべる方が多いと思いますが、オンラインゲームの世界では、ゲームメーカーとパブリッシャーが異なる場合もありますので、ここはパブリッシャーとさせていただきました。
④チーム、選手
eスポーツというと、個人がゲーム機の前で戦っているイメージが強いかもしれませんが、個人戦だけでなく、団体戦もありますので、チームが存在することもあります。図の右側にある「TEAMS」あるいは「PLAYERS」という部分です。
また、eスポーツビジネスの特徴としては、選手個人が独立した事業主体として、例えば、YouTuberとしての活動、 SNSでのインフルエンサーとしての活動など、eスポーツプレイヤーとは別に、様々なビジネスを行っていることもありますので、そのような活動との関係を意識する必要もあります。
⑤プラットフォーマー
もう1つのeスポーツビジネスの特徴が、図の右上に「PLATFORMS」と記載されたプラットフォーマーの存在です。
eスポーツビジネスは、もちろんオフラインでの大会を開催する場合は、観客を集客していますが、それ以上に、オンラインで大会模様を配信し、世界中から視聴者が集まります。取引事業者である映像事業者の1つですが、特にeスポーツビジネスは不可欠かつ重要な存在となっています。いかに視聴者を集められるプラットフォームか、人気のあるeスポーツコンテンツを配信できるかがポイントになり、従来のスポーツビジネスでは存在しなかったステークホルダーです。
⑥取引事業者(スポンサー、放映権者、マーチャン事業者)
eスポーツの盛り上がりに伴い、その広告価値に目をつけ、様々な取引事業者が参入してきています。図の上部に「BRANDS」と書かれていますが、これはいわゆるスポンサーです。主催者だけでなく、チームや選手個人にスポンサードしたり、またまたプラットフォームにおける広告掲出者としても度々登場します。
また、オールドメディアかもしれませんが、テレビ局などの映像事業者も、eスポーツイベントの放送を手掛けるようになってきています。  加えて、大会グッズ、チームグッズ、選手グッズの製造販売も好調ですので、このようなグッズを製作、納入するマーチャン事業者も取引事業者としては重要です。
⑦ファン
最後にないがしろにしているわけではありませんが、図の真ん中下にある「FANS」、すなわち、ファンの存在は、eスポーツビジネスにとっても重要な存在です。ファンは、eスポーツイベントの観客、物販の対象者というだけではありません。リアルのスポーツビジネスではここから大きく広っていませんが、eスポーツビジネスでは、そもそもeスポーツが対象とするゲームのユーザーであることが多く、ゲーム業界全体にとっても大きな収入源ですので、貴重な存在になります。

以上、今回は、eスポーツビジネスにおけるステークホルダーの整理を行ってみました。次回は、これらのステークホルダー間でどのような業界内ルールが形成されていくのかについて整理したいと思います。

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