スポーツ産業のイノベーション アイデアを出すためのヒント
スポーツ産業のイノベーション
アイデアを出すためのヒント
植田真司│大阪成蹊大学マネジメント学部 教授
我々は知らない間に、既成概念や固定観念、思い込みなどの思考にとらわれ、新しい事業のチャンスを見落としている可能性があります。今回は、スポーツ産業でイノベーションを起こすアイデアを出すには、どうすればよいのか?二つの方法を紹介します。
常識にとらわれない。
コップに水が半分入っている下の画像を見て、あなたはどのように考えますか?
一般的には、「コップに水が半分しかない」または
「コップに水がまだ半分ある」と考えるでしょう。しかし、ドラッカーは、水にとらわれるのでなく空間に目を向けることを提案しています。コップの半分がカラであることに気づくと、「コップに水を足すことが出来る」など、新たな発想が出てくるのです。
例えば、みかんは果物で、甘くてすっぱいデザートという既成概念にとらわれると、みかんは単に食べもので終わってしまいます。そこで、「コップ半分の水」から学んだように、みかんは食べるものという常識にとらわれず、そのものの本質をみることで、新たなアイデアが生まれてきます。
みかんの皮には、ペクチンやリモネンといった成分が含まれており、水垢や油汚れを落とす洗剤として使うことができます。また、血の巡りを良くして体を温める効果があり、漢方の原料としても使えます。
スポーツも同じです。スポーツを勝ち負けや競争するものと思い込むと、スポーツの新たな役割や価値に気づかないでしょう。例えば、日本の柔道は、勝負に勝ちメダルを獲得することを重要課題と考えていますが、柔道人口は減少を続けています。一方、フランスやブラジルでは、柔道で「礼儀」や「他人を尊敬する精神」を身につける教育的価値を提供することで、子どもを中心に柔道人口を増やしています。思い込みや常識にとらわれないで素直な気持ちで、スポーツの役割や価値を考えれば、今まで見えなかったものが見えてくるのではないでしょうか?
頑張らないで、楽しみながら気軽に考える。
我々は頑張ったときに、良い結果をもたらし、良いアイデアが生まれると思い込んでいます。しかし、それが正しくないことが分かってきました。
プリストン大学のグラックスバーグ氏が「ロウソク問題」を使って「インセンティブの力を知る実験」を行いました。「ロウソク問題」とは、次の画像のように、テーブルにロウソクとマッチと画鋲があり、「テーブルにロウが垂れ落ちないように、ロウソクを壁に取り付けてください」という問題です。ちなみに答えは、「画鋲を箱から取り出し、空になった箱を画鋲で壁にとめ、そこにロウソクを立てる」です。一般的には、5~10 分で答えが出るといわれています。
この実験では、「報酬の無いAグループ」と、「一番の人に20ドル、上位25%なら5ドルの報酬をあげると約束したBグループ」で、回答までの時間を計りました。その結果、Aグループ(無償)は平均7分、Bグループ(有償)は平均10. 5分かかりました。予想とは反対に有償のBグループのほうが、回答に時間がかかってしまったのです。
実は、人は報酬や〆切があると急いでしまい、視野を狭め、一つの答えに固執し、周りが見えなくなるのです。アイデアを出すには、頑張らないで、楽しみながら気軽に考える余裕が必要なのです。(この実験の詳細は、ダニエルピンク著「モチベーション3.0」講談社 2010.7 p73-75参照)
いま、Yahoo! Japanを運営するヤフーでは週休3日制の導入を検討しているそうです。理由は、IT業界では独創的な発想が必要で、アイデアが生まれる質を重視した働き方に対応するためだそうです。労働時間の量で勝負する企業とは、ますます差が広がりそうです。