eスポーツ教育の未来─eスポーツ産業の発展の基盤─

橋本太郎 │ ブロードメディア株式会社代表取締役社長 ルネサンス高校グループ代表

 2018年4月、ブロードメディア株式会社は、同社が運営するルネサンス大阪高等学校(大阪・梅田)に日本初の高校でのeスポーツコースを開講した。eスポーツ専用キャンパスを有する同コースには大きな反響があり、後に東京・名古屋と拠点を拡大している。eスポーツコースの存在は学校や勉強が苦手で不登校になってしまった経験のある生徒も、再び学校に行きたくなるきっかけの1つとなっている。

 ここでは、そのルネサンス高校グループの独自の教育現場におけるeスポーツと、同社が運営するプロeスポーツチームの活動、eスポーツを支える通信技術など、同社が描く「eスポーツの可能性」についてご紹介いただく。

ルネサンス高等学校のeスポーツコース

 私どもブロードメディアが手掛けるeスポーツ事業には、大きく3つの取り組みがあります。1つ目は「教育におけるeスポーツの活用」ということで、ルネサンス高校グループという学校としてのeスポーツの取り組みです。2つ目は「プロeスポーツチームの運営」、3つ目は「eスポーツインフラの整備」の取り組みで、この3つが相互に補完し合いながら成長を目指しているという、そういう事業の関わり方でございます。

 大半の皆さんは、学校といえば学校法人を思い浮かべると思いますが、ルネサンス高校グループはブロードメディア株式会社が運営する株式会社立の広域通信制高校3校の総称です。小泉政権のときに、教育の自由化、制度規制改革の一環で教育特区が成立し、それによって株式会社が高等学校を経営してよろしいという自由化があって、それに基づいて創立された学校です。

 2006年に最初の高校を設立してからもう15年以上になりますが、おかげさまで現在、生徒数は3校の合計で5,000名を超えています。2006年から15年ぐらいの間に、卒業生は1万5,000名を超える規模に成長しています。

 eスポーツについて多少私どもの名前が知られたのは、日本の高校として初めて、eスポーツコースというカリキュラムを擁した通学コースを作ったからでした。現在、主要な通学拠点である、東京の代々木、大阪の梅田、名古屋の栄、この3カ所でeスポーツコースを展開しております。2018年の4月に大阪梅田キャンパスでスタートし、その後、新宿代々木キャンパス、それから名古屋の栄キャンパスという展開をしてきていて、この4月から横浜校もオープンして、eスポーツコースを提供する予定です。

 また、昨年の10月から中学生向けに、ルネ中等部という、eスポーツとプログラミングを合わせた塾のようなスクールを開設いたしました。元々のeスポーツコースは高校ですから中学生は入れないのですが、どうしても来たいという子供たちがいて、その子供たちに対して、ルネ中等部という形でeスポーツ教育をスタートさせています。

 私どものこの試みの中で、とても力を入れているカリキュラムに語学があります。通常の、文法を中心とした普通の英語の教育に加えて、バイリンガルな先生方、大学生の講師を中心とした、eスポーツに習熟した先生による実践的な英語教育を行っています。英語は当然、eスポーツの基本的な公用語になっていますので、こちらのほうをしっかりと学ぶということをやっています。

 それと、ユニークな試みと言われていますけれども、コミュニケーション能力の育成というカリキュラムがございます。おかげさまで割と強い選手が育って、勝利者インタビューなどを受ける機会があるのですが、その受け答えがすばらしいという御評価を多方面からいただいています。これは、私どもに言わせれば、そうあってほしいと思って行った教育の結果なのです。実際の授業の中で、模擬勝利者インタビューというのをやります。負けたときのインタビューというのもやります。実践的なインタビューの受け答えという訓練をすることによって、本当の話し方の授業といいますか、古い言い方でいうとレトリックの授業を通じて、ちゃんとした受け答えを高校生に学んでもらう、ということをやっています。

 同時に、eスポーツは仲間と一緒に戦う競技ですから、このカリキュラムには仲間とのコミュニケーション能力を高めるというプラスの副産物があって、とても有効であることが分かっています。

 3つ目にご紹介するのは、メンタルトレーニングです。大きな大会を実際に見る機会があった方なら分かると思うのですが、高校生が数名のチームで壇上に上がって決勝戦を戦うといった状況においては、極めて大きなプレッシャーがかかります。精神的に相当タフな状況に追い込まれます。そういうものに対して、日々それを克服する訓練を行うという、そんな名目で、楽しみながらメンタルトレーニングの授業を行っています。

 本番で力を発揮できる、それを鍛えることができる、という漠然とした思いでスタートしたのですが、こちらもとても好評です。先ほど中学生の為のルネ中等部の話をしましたが、実験的にルネ中等部でもやってみたところ、生徒にもご父兄にもとても好評であったため、中学生向けにもメンタルトレーニングを提供することにいたしました

 メンタルトレーニングという、対話型の様々な機会を設けると、自動的に生徒のメディカルチェックにもつながることも分かってきました。このメンタルトレーニングの授業を受けてもらうと、生徒が置かれた精神状態が指導する先生に伝わりやすいので、生徒の体調管理とか生活指導にも役立つことが分かってきています。

 4つ目のカリキュラムとしては、これはよくある科目ですけれども、プログラミング教育があります。よくあると言うとちょっと否定的な語感があるかもしれませんが、はっきり言って、一般的にプログラミングに関しては、興味を持てない生徒や、続かない生徒が実は多いのです。しかし、このeスポーツとの組み合わせの場合は、eスポーツ、つまり自分たちが遊ぶゲームの原理をよく理解するという意味で、プログラミングのほうも比較的熱心に続けることができる生徒が多いということが分かってきました。

 最後に、キャリア相談があります。とにかくeスポーツが好きで来ている生徒たちですから、プロになれなくてもeスポーツを続けたい、進学してもeスポーツを続けたい、あるいはゲーム関係の仕事に就きたいと思う子が大勢います。そういう子供たちに対して適切なアドバイスができるようなキャリア相談も学校として心がけているところです。こちらのほうは教師や講師に加えて、グループにプロeスポーツ選手が多数いるということもあって、今後さらに強化していきたいと思っています。

 このようなカリキュラムを通じて、eスポーツを楽しみながら、eスポーツ以外でも通用する様々な能力を鍛えるコース構成になっています。

 お気づきかもしれませんが、eスポーツの習得、語学、コミュニケーション(レトリック)、メンタル・トレーニング、プログラミング、といったカリキュラムは、リベラルアーツとSTEM教育を組み合わせたものになっています。そういう新たな形態の「読み・書き・そろばん」で、eスポーツに有効な科目構成になるように心がけています。

eスポーツの教育的意義

 大体、今お話ししたあたりが、いわゆる学校が行う授業の範囲だと思うのですが、私どもが目指しているものは、そこにとどまりません。もう一歩進めて、学外で生徒がイベントや展示会ブースの運営をするところまで踏み込んでいます。これは、「単なるカリキュラムの消化ではなくて、対外的に自分たちの活動を発信するところまでが教育の一環である。」という考えに基づいて行っていることです。

 そのような事例を3つ紹介させていただきます。最初は、昨年の「東京eスポーツフェスタ」です。第1回目の「東京eスポーツフェスタ」で実際のブースを高校生が中心になって作って、それを展示しながら、来た方々に説明も行うということを行いました。次は、2019年の「東京ゲームショウ」です。こちらのほうは、イベントの規模が大きく、出展者数も来場者数も多いのですが、その中に混ざって、実際に来た方にプレイしていただいたり、学校の紹介や自分たちの活動の紹介をやってもらいました。

 最後に、パリで開催された「Japan Expo 2019」を紹介します。こちらは多分、海外で行われる「Japan Expo」の中でも一番大きいフェスティバルですが、そちらに10人の高校生を連れて参画いたしました。ここも、イベント、展示会ブース、といったことを中心として行うのですが、単なるブースの運営に留まらず、現地の学生とエキシビションマッチを特設ステージで行うということをやってまいりました。海外でのブース運営もさることながら、やはり現地のステージで競技を行うこともこの遠征の非常に大きな目的でした。日仏のトッププロが参加してくれたこともあって、素晴らしいパフォーマンスが実現しました。多くの人が、ポケトークを活用したブースでの説明に耳を傾け、またステージでの試合を楽しんで行かれました。

 パリに行って知ったことは、eスポーツは、オリンピック種目に最も近いと真剣に唱える人たちがいることです。そういう意味で言うと、eスポーツはこの先大きな成長が期待できるスポーツ産業の分野なのだと思います。私どもはクラウドゲームとeスポーツを通じてフランスとの提携関係、事業を推進しているということもあって、このときも現地のゲーミングスクールと提携することで大々的にイベントを行うことができました。25万人が集うという「Japan Expo」でしたが、本当に高校生が頑張って、縦横無尽に活躍してくれました。

 一言申し述べておくと、この時パリに連れていった10名の中の9名がかつての不登校生徒です。かつて学校へ行くことをやめた子たちが、eスポーツを仲間と戦うために学校に戻ってきて、仲間と一緒にパリにまで遠征する、というのがこのプロジェクトの意図でもありました。結果として、親御さんから大変温かいコメントを頂いていて、例えば、「通わせた当初は不安だったが、不登校だった子供が学校へ喜んで通っている」であるとか、「完全な夜型だった息子が、朝の授業に出るために毎朝早起きしている」、あるいは「友達と楽しそうに話している姿を見ると、親として悩んでいた時期の苦しみが吹き飛んだ」といったコメントを頂いています。

 これらのコメントが象徴していますが、世の中には誤解があって。統計的なものはないのですが、ゲームをやっているから学校に行かないという、そういう不登校に対する偏見があると思います。私たちに言わせると、学校に行かなくなったから、ほかにやることがなくてゲームばかりやるようになったという方が現実に近いのです。つまり、原因と結果が逆であるような気がいたしております。そのあたりは、実際にこのように多くの生徒が、eスポーツのコースが出来たということでまた学校に戻ってきた事実が示していると思います。こうした点まで含めて、私どもとしては、eスポーツには極めて高い教育効果があると考えています。

 学校に行かなくなった子供たちの数は、多分皆さんが考えていらっしゃるよりも多いと思います。毎年全国で多くの高校生が学校に行かなくなるのですが、1つの世代(学年)でいうと、大体、高校卒業までの間に10%くらいの生徒が学校に行かなくなるという現実があります。全日制に通うことを止めた生徒が、毎年それなりの数、通信制の高校に転入してきます。eスポーツによるだけでなく、そういう生徒の不登校状態を徐々にほぐしていく、そういう役割を通信制の高等学校は結構多く担っています。

eスポーツコースが目指すもの

 前述の親御さんのコメントから分かるように、何といっても、生徒、保護者、学校の強固な信頼関係がないと、こういうeスポーツのようなコースは成立しません。

 また、ゲーミングPCは1台20万円とか30万円とかする、お高いパソコンですけれども、これをまとめて数十台単位で買うという行為は普通の学校ではなかなかやりにくいでしょう。私どもの場合は株式会社として、事業として学校教育を行っておりますから、要するに投資効果、あるいは教育効果、そういったものに確信が持てればどんどん積極的に投資を行うことができます。

 おかげさまで、さすがに生徒の数が5,000名くらいにもなると、学校の経営自体が黒字化しています。私に言わせると、それこそがまさに持続可能な学校経営です。外部に依存してはいけない。自分たちが生徒の保護者から頂いた授業料できちっと運営ができているというのが学校の原則であって、それがあって初めて、生徒第一主義という形で私どもが考える教育が実行できると考えています。

 また、何でeスポーツに取り組めたのかという意味でいうと、私どもは学校をつくった当初(15年前)からオンライン教育を実践してきたからだと思います。eスポーツコースは、オンライン教育と親和性が高く、コロナ禍の影響をほとんど受けずに活動をすることができています。まさにブロードメディア的な教育コースなのです。ブロードメディアという社名には、ブロードバンドとメディアの融合という意味合いがあります。

 ブロードバンド環境、モバイル環境に関して言いますと、ルネサンス高校グループは、eスポーツコースを日本で最初に始めただけではなくて、日本で最初に全校生徒にスマートフォンと、PCないしはタブレットを持たせた学校でもあります。それをやって初めて、一人一人に対するアダプティブラーニングの第一歩が実現したと思っています。

 学校に行かなくなった子であるとか、いじめに遭った子も、私どもの学校に来ますけれども、要するに、そういう生徒に関しては十把一からげでは対応できないのです。もちろん、全く手間のかからない生徒も多数います。通信制高校というのは、自分と学校の距離を生徒が自分で決めることができる点が最大のメリットです。例えは悪いですけれども、生き物というのは狭いところに閉じ込めていると、共食いとか、いろいろなナスティなことが起こるわけです。通信制の場合はその機会が少ないということもあって、逆に友達を大事にする子たちが育っているなと思うことがしばしばあります。

 また、今お話ししているように、ルネサンス高校グループは、いわゆる従来の学校の在り方にとらわれていません。当然、学習指導要領に基づくことをしっかりとやるのが通信制高校のミッションであり、根幹にあるのですけれども、それを超えた教育ということが私どもの本来のテーマです。eスポーツコースはそういう流れの中で、独自の通学コース(一種の補習コース)として設置いたしました。

 私どもが目指していることは、eスポーツコースがリベラルアーツとSTEM教育の掛け算であることからも分かる通り、学際的な学びであり、目的追求型/問題解決型のSTEAM教育です。また、興味のあることを学ぶことで、脱落者を作らない教育を実現していくことです。私たちにとって何よりもうれしかったことは、学校に行かなくなった子たちが、eスポーツコースで学校に戻ってきたことなのです。

 こういった独自の教育活動を支えている背景には、ブロードメディアが培ってきたガバナンスやコンプライアンスが学校にも適用されていることがあります。上場企業としてのガバナンスとコンプライアンスそのものが、生徒との関係においても、保護者との関係においても、学校の経営においても、徹底されています。

 私どもの学校の先生は、教員であり、ブロードメディア株式会社の社員です。したがって、36(サブロク)協定もありますし、不当な労働環境もハラスメントも許されません。また、ルネサンス高校グループでは「下着の色を白と規定している」といったルールもありえません。そういう基本的なところで、生徒、保護者との信頼関係を維持し続けることができたように思います。これを謙虚にそのまま続けていくことが、とても重要だと考えています。

 ルネサンス高校グループは、日本の高校としてeスポーツコミュニティーの発展に積極的に寄与してまいります。これは、学校それ自体の目的でもあるのですけれども、eスポーツコースは生徒が「やりたい!」と手を挙げたことをやるために作ったコースです。生徒の希望で始めてみたら、これだけ多くの生徒が集まってきてくれたという実感があります。将来、彼らが育つことによって産業としてのeスポーツを支えていってくれたら、こんなに嬉しいことはないと思っています。以上が、学校としてのeスポーツの取り組みであります。

eスポーツの発展と産業化への眼差し

 eスポーツコースを始めてからチャンスが巡ってきたのですが、1年ほど前にCYCLOPS athlete gaming(CAG)という、大阪を拠点とするプロのeスポーツチームを譲り受けました。そのプロeスポーツチームの運営についてお話しいたします。

 私どもの大阪・梅田のeスポーツキャンパスと、CAGの練習拠点は、同じフロアで隣り合わせになっています。先ほどお話ししたとおり、生徒の進路指導もありますけれども、隣にいるeスポーツのプロが、定期的に生徒に対してコーチングを実施できるというのも私どもの強みです。

 CAGは7つの部門によって活動を行っています。まずは格闘ゲーム。こちらは日本チャンピオンが複数在籍しています。それと、いわゆるファーストパーソンシューティングと言われている「レインボーシックス シージ」、それから「PUBG」のPC版とモバイル版、「Call of Duty」「VALORANT」、それとeスポーツとしての「FIFA」——サッカーゲームです。これら7つの部門で39名のプロ選手がいます。この選手たちはそれぞれが今活発に活動してくれていて、おかげさまで様々な大会で良い成績を残しています。残念ながら、日本のプロチームというのは、賞金の額が少ないので、多くの収入をこれまでスポンサーに頼ってきていたという現実があります。

 その中で、今年は非常に大きな動きがございました。既に御存じの方も多いと思いますけれども、NTTドコモさんがいよいよeスポーツリーグ、新たに「X-MOMENT」というブランドでリーグ戦を開催してくれることになりました。2つの大きなゲームのタイトル、1つは「PUBG MOBILE」、もう1つは「レインボーシックス シージ」によるリーグ戦です。「PUBG MOBILE」は2月にスタートしたばかりで、「レインボーシックス シージ」は、この3月13日からのスタートになります。

 これまでと何が違うかというと、賞金の規模感が大きく違っています。賞金が3億円(PUBG MOBILE)、それから3,200万円(レインボーシックス シージ)ということで、これまでとは比較にならない大きな金額が提供されます。CAGは、おかげさまでその両方に参戦することが決まっています。

 おおむね、日本のeスポーツ市場規模というのはプロチームの収入の拡大図みたいな形になっていて、収入の75%がスポンサーシップ収入です。直接市場と言われている、小さな市場規模は、今現在、大体60〜70億円程度ですが、これが2023年ぐらいには150億ぐらいになるのかなという予測がこれまでなされています(図1、図2)。

 2019年の61億という数字で賞金などがどれぐらいかというと、賞金とアイテム課金と合わせて大体5億5,000万円程度、というそんな市場規模です。したがって、先ほど見た「X-MOMENT」は「PUBG MOBILE」で3億円、それから「レインボーシックス シージ」で3,200万円という規模の賞金が出ますから、規模感としてはここからどんどん大きな大会が増えていくという期待があります。

 賞金以上にチーム側としてありがたいのは、実はこのリーグが発足するにあたって給与保証を出していただけたことです。「PUBG MOBILE」は規模も大きくて16チーム、保証の額が賞金を超える4億円という金額です。また、「レインボーシックス シージ」も賞金をはるかに超える給与保証1.7億円。これはチームのメンバー1人当たり350万円見当のギャランティーがつくということで、大変ありがたいことです。これによってeスポーツ市場は、賞金がそれなりのウエートを占める時代になっていくと予想されます。

eスポーツインフラとしてのICTの課題

 以上がプロeスポーツチームとしての活動ですけれども、3つ目に私どもが力を入れているのは、eスポーツインフラの整備という領域です。こちらのほうは、私どもが長年手がけてきたクラウドゲーム技術の提供、それと今まさに大きく花開こうとしているエッジコンピューティングの組み合わせです。私どもはクラウドからエッジへという時代の流れを先取りした、エッジコンピューティングを推進しています。

 まず、長年やってまいりましたクラウドゲーム事業の展開ですが、国内でいうと、例えばNTTぷららさんのひかりTVゲーム、あるいはNTTドコモさんのdゲームへのプラットフォーム技術の提供、またクラウドゲームアプリとして「FINAL FANTASY」シリーズ等をiPhoneやアンドロイドのスマートフォンに提供しています。ソニーさんやシャープさんのテレビ——Androidテレビですが、こちらのほうでクラウドゲームを遊ぶこともできます。最近で言いますと、アマゾンさんの「Fire TV Stick」に対してクラウドゲームを提供することも始めております。私どものクラウドソリューション技術をGクラスタといいます。私どもは、この技術プラットフォームを独自に開発し、提供してまいりました。

 Gクラスタプラットフォームは、国内のみならず、例えばフランスの最大手の通信会社Orange、二番手のSFRにもライセンス提供していますし、NTTさん経由でベトナムのVNPT-Mediaにも提供しています。

 クラウドゲームの仕組みを多少御説明しておきます。クラウドゲームというのは、手元の入力端末で操作を行って、その信号が、クラウド上にあるサーバーのゲームプログラムに届いて、そのゲームプログラムがサーバー側で動いて、描画までしたものが手元に動画として戻ってくるという仕掛けです。そういうネットワークの「行って来い」というのがあって、ネットワークの性能ではなく、インターネットの中での遅延によって、どうしても100msを超える遅延が発生してしまう状況にありました。Gクラスタという当社のクラウドゲーム技術は、多くの特許を取った優れたレイテンシーマネジメントの技術ですけれども、本質的に遅延が発生するインターネットの中でこれまでも結構苦労をしてきました。

 そういう従来型のインターネット環境によるサービスがある一方で、今進めているのが、光ファイバーの閉域網、あるいは将来的には5Gとモバイルエッジコンピューティングの閉域網という新たな動きです。簡単に言うと、「インターネットにコンテンツを取りに行かない。あるいは、インターネット上のサーバーでゲームプログラムを動かさない。もっとエッジ側(ネットワークの境界のところ)で直接、端末とサーバーを結びつけてしまおう。」としています。つまり、サーバーをエッジ側に置くことで遅延の解消をめざすことをいろいろな形で検証しているのが、現在のネットワーク事業者と我々の活動となっています。

 これが成立すると、当然ですけれども、ネット上を飛び交わないという意味で、おそらく遅延の解消のみならず、セキュリティーの観点からも、教育的なもの、あるいは個人情報的なものを保護する強度が増して、ネットワーク環境が整備されると思います。

 実は、全国規模の光ファイバーの閉域網というのは、NTTグループさんしか日本国内で持っていません。これは世界的に見ても非常にまれなケースです。そこで、みんなが何を期待しているかというと、これから携帯キャリア各社が普及させていく5Gのモバイル・ネットワークです。これが、まさにこれからという意味で、みんなの期待の星なのです。5Gはその先の6Gも含めて、多分、最も進化した独立的なネットワークの閉域網、ブロードバンド閉域網になります。それとエッジ側のモバイルエッジコンピューティングが合わさることによって、圧倒的な性能の改善—遅延がほぼない—という環境が出来ると言われています。ただ、実現にはまだもう少し時間がかかると思います。

 これについては、現時点で実現可能な光ファイバーの閉域網を利用したプロジェクトを2つ御紹介します。1つは、神戸市さんが行っている「高齢者向けeスポーツ実証事業」です(図3)。私が先ほどから強調しているエッジサーバーというのが、図3の真ん中の、NTT西日本さんのネットワークにあるGPUサーバーです。左側にユーザーがいます。このケースでいうと、介護施設を対象としたアプローチになっています。

 右側にインターネットがあるじゃないかという御指摘があると思いますが、ここで言っているインターネットは、マッチングサーバーとして活用されている部分です。つまり、一旦は右側のインターネット側にあるゲームサーバーでマッチングの相手を見つけます。しかし、その後の、真ん中にあるGPUサーバーと左側の特定のパソコンやタブレットとの間のゲームプレイ自体は、インターネットとは関係なくNTT西日本さんの閉域網で行います。これを「クラウドゲーミングエッジ技術」と命名して、実証事業として昨年12月からスタートさせています。

 もう1つは旭川市がスタートさせた実証実験です。旭川に、eスポーツ競技場「コクゲキ」という形でローカル5Gの通信環境をNTT東日本さんが構築されて、それを秋葉原の「eXeField AKIBA」とファイバー閉域網で接続するということをおやりになっています。これらは両方とも実に先端的な試みで、いずれのケースも私どものGクラスタ技術が使われています。

 以上、クラウドゲーム、それからエッジコンピューティングという動きを御紹介しましたが、これがeスポーツにどう関わってくるかという部分をもう少しお話します。

 皆さんお聞き及びだと思いますけれども、今、日本の教育界ではGIGAスクール構想という、パソコンを小中校生全員に配る、1人に1台端末を配る、ということが着々と進行しています。これは合計すると950万人、端末の数でいえば950万台のPCもしくはタブレットとキーボードが配布されるという画期的なプロジェクトです。

 ただ、残念ながら、端末整備が先行してしまっていて、コンテンツやカリキュラムの準備が遅れているのではないか、ということが言われています。自治体によっては非常に優れた対応ができているところもあるとは聞いているのですが、全体でいうと、やはり対応が遅れがちという印象があります。特に端末の性能が、全員に配るということで予算が限られたこともあって、あまり高くないと言われています。その結果、高度な授業への対応が十分ではないし、eスポーツにも活用できない状況にあります。また、先生方のネットワークの知識と学校側のインフラも充分ではないという懸念の声が聞こえてきます。

 私どもは、エッジコンピューティングとクラウドゲームの技術というのは、こういった懸念を解決していく1つの目安になるのではないかと期待しています。少なくともこの950万台に関していうと、エッジコンピューティングとクラウドゲームという組み合わせが、eスポーツのインフラになりうると思っています。映像さえ表示できれば、学校で配られたような廉価なPC端末でも、十分にeスポーツが遊べるようになると思っています。その検証を現在進めています。

 ゲーミングPCは高額です。やはり、1台当たりの単価からすると、小学生にはなかなか手が出ません。中学生でもなかなか手が出ません。私どもは、そのような高価な端末をベースにやるeスポーツではなくて、GIGAスクールで配られた端末でも遊べるようなネットワーク環境を整備することによって、廉価なPC端末でも、小中学生やシニア層が本格的にeスポーツに参加できることを目指しています。

eスポーツ産業の広がり

 非常に裾野が広いと言われているeスポーツの産業・市場には様々な領域があります。その中で、私どもがやっているのは、教育、プロチーム、通信インフラ整備の3つの事業領域です。より具体的には、教育的活用、プロチーム経営や大会運営、練習場整備や選手育成、通信環境整備、クラウドゲーム化、といったeスポーツ関連事業です。結構いろいろなことに着手していますが、ここからさらに強化育成していく予定です。

 直接のeスポーツ市場というのは、数年後には150億円ぐらいと言われているわけですが、経済産業省では波及領域を含めた市場規模は2025年に3,000億円ぐらいになるという豪快な試算も出しています。その試算はどういうところからきているかというと、私どもが単独で行うことが難しい大規模なもの、例えば、大会用の会場建設であるとか複合型リゾート(IR)、あるいは、関連するヘルスケア事業等を含めています。こういった非常に大きな領域についても、eスポーツが需要を喚起すると期待されています。特に、数万人が集う大規模なeスポーツ専用アリーナは、経済波及効果が大きいと予想されます。

 数万人が一堂に会して楽しめるイベントというのはそうそうありませんが、eスポーツというのは既に諸外国においてはそのステータスを確立しています。膨大な人が集まってそれを楽しむという“スペクテーターシップ”が確立すると、それは巨大な配信ビジネスが確立することを意味しています。また、図4のような巨大な施設をみると、ローカル5Gはまさにこういうスペースのために存在しているようにも思えます。またそれ以上に、eスポーツと5Gとエッジコンピューティングの組み合わせを最大限生かした、全く新しいeスポーツタイトルが出現してくることにも期待が持てます。

 このような大規模イベントについては、まだ実現するまでに時間がかかりますが、いずれにせよ今、地平線に見えているロケーションエンターテイメントとして、eスポーツというのは多分最大級のものだろうと思います。

 私どもは、こうしたロケーションエンターテイメントとしてのeスポーツが発展することによって、プロチームも成長するし、小中高大学生の教育上のモチベーションも向上するし、産業として大きな未来が広がると考えています。こうした大規模なeスポーツイベントを日本国内でどうやって実現することができるか、また私どもとして何が貢献できるか、これからも様々な検討をしてまいります。

 私どもは、教育をコンテンツ事業と位置づけて学校を創立し、その教育事業の一端として、デジタル領域のサービスを組み合わせることでeスポーツコースをスタートさせました。それが成立したら、次にその周りにプロチームが加わり、さらに、これまで培ってきたクラウドゲームをeスポーツに活用しようとしています。まだまだ先は長いですが、これまで以上に努力して、より豊かなコミュニティーの形成、発展につなげていきたいと思っております。(了)

▶本稿は、2021年3月9日(火)に開催されたスポーツ産業アカデミー(ウエビナー)の講演内容をまとめたものである。

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