中国スポーツ産業の新たな実験場 ―「中国都市野球リーグ」の挑戦―

中国スポーツ産業の新たな実験場—「中国都市野球リーグ」の挑戦—
鹿屋体育大学准教授
石原豊一

中国で「プロ野球」が再び動き出した。「野球途上国」と見なされがちなこの国だが、アジア全体に視野を広げれば、日本、韓国、台湾に次ぐ「ビッグ4」の一角とみなされている。実際、中国代表は自国開催となった前回アジア競技大会で社会人選抜の日本代表を史上初めて破っている。
中国ではこれまで二度、プロ化の試みがなされた。最初は2002年で、2008年北京五輪に向けた代表強化を主目的として中国野球リーグ(CBL)が発足した。しかし、五輪終了後にその存在意義が薄れると急速に規模を縮小し、いつの間にか「プロリーグ」の看板も姿を消し、現在は大学チームも参加するアマチュアリーグとして存続している。
二度目は2019年である。CBL所属球団のうちプロ化を志向する4球団によって中国プロ野球リーグ(CNBL)が発足したが、新型コロナウイルス流行の影響を受け、わずか1シーズンで活動休止に追い込まれた。
そして2026年、新たに中国都市野球リーグ(CPB)が南部の経済都市・深圳で開幕した。この試みが従来と大きく異なるのは、台湾のスポーツビジネス資本が深く関与している点にある。
リーグ運営会社である酷棒体育は、台湾で長年にわたり野球大会の運営などに携わってきた台湾人起業家が率いるスポーツビジネス企業である。同社が中国での新プロ野球リーグ構想を具体化したのは2023年頃で、その背景にはアジア野球全体の発展において中国市場が持つ潜在力への期待がある。


CPBの特徴は、単なる競技リーグではなく、「スポーツ+観光+都市開発」を組み合わせた産業モデルとして構想されている点にある。参加球団のオーナー企業には文化・観光関連企業が含まれており、中国で近年推進されている「文旅融合(文化・観光融合)」政策との親和性が高い。  中国ではスポーツイベントを通じて観光消費を促進し、都市ブランドを向上させ、地域経済を活性化することが重視されている。CPBもまた、野球興行そのものだけでなく、都市イメージ戦略や地方振興政策の一環として位置付けられている。実際、リーグ戦が開催された深圳や中山のような経済発展地域では、スポーツイベントが都市マーケティングの有力な手段として活用されている。
2026年1月に開幕した第1回大会は「立春リーグ」として約1か月間の短期リーグとして開催された。しかし、将来的にはホーム&ビジター制による本格的な長期リーグへの移行を目指している。その実現には球場整備やファン基盤の構築が不可欠であり、運営側も地方政府の支援や企業資本の重要性を認識している。そのため最初の2年間を試験期間と位置付け、深圳エリアでの集中開催方式を採用しながらリーグ運営の基盤整備を進めている。2028年頃を本格的なプロリーグ化の目標時期とし、それまでに参加球団の拡大やインフラ整備を進める計画である。また、リーグ全体としての黒字化は5年後を想定しており、当面の運営資金はすでに確保されているという。
もっとも、過去二度のプロ化が失敗したことを踏まえると、興行として観客を引きつけられるだけの競技水準を維持できるかは大きな課題である。CBLやCNBLが主に中国人選手によって構成されていたのに対し、CPBでは台湾人選手や外国人選手が中心的な役割を担っている。元メジャーリーガーやWBC出場経験者も参加しており、リーグ全体の競技レベル向上が図られている。一方で、中国人選手の育成も重視されており、先発メンバーには最低3人の中国出身選手を起用するルールが設けられている。彼らを高水準の選手と同じ舞台でプレーさせることで、中国人選手の成長を促そうという狙いである。
この新リーグの試みには、スポーツビジネスのノウハウ移転、文旅産業の発展、都市ブランド戦略、スポーツ市場化、インフラ整備、青少年育成、さらには国際的な選手移動といった多様な要素が交差している。注目すべきは、中国における「野球の強化」とともに「野球の産業化」が重要課題として認識されている点である。CPBは、中国における新たなスポーツ産業モデル形成の実験場として位置付けることができるだろう。

この原稿執筆にあたっては日本学術振興会 科学研究費助成(課題番号24K23782)を受けている。

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