相撲部屋の活動を社会に開き、持続可能な形にするために
私は1997年1月場所から2019年7月場所まで、相撲の世界としては長い間、現役力士として戦ってきました。2022年12月に安治川部屋を再興し、親方として部屋を預かるようになってからは、「指導者」であると同時に「経営者」であるという意識を持つようになりました。相撲部屋は伝統文化の継承の場である一方で、組織であり、事業体でもあります。人を育てるには、まず部屋そのものが安定していなければなりません。
これまでの相撲界は、後援会やタニマチの支援に大きく支えられてきました。私自身、その文化に助けられてきた一人です。ただ、時代が変わる中で、その形だけに頼るのはリスクが大きいとも感じていました。だからこそ私は、相撲部屋の活動を社会に開き、持続可能な形にするために女将と共に一般社団法人を立ち上げました。
この法人では、土俵を作るなどの相撲普及活動や地域イベントへの力士派遣、子ども向け体験事業、高齢者施設への訪問などを行っています。これらは単なる社会貢献ではなく、相撲というコンテンツの価値をより大きくし、また、企業や地域など外部とつながるための事業でもあります。相撲を知らなかった人たちに興味を持ってもらい、力士たちも、例えば普段会えない経営者や地域のリーダーと関わる関係性が生まれます。まさに、勝利と資金と普及が好循環することを意識しています。
企業との関係づくりでも、「ただ支援される立場」から脱したいと考えています。私が目指しているのは、相撲部屋と企業が対等なパートナーとして社会に価値を提供できる関係です。相撲が持つ教育性や国技としてのストーリー性、人材育成の側面は、企業理念とも親和性が高いと感じています。そうした価値を言語化し、説明し、理解してもらうことも、今の私の大切な仕事の一つです。
もちろん、現場での指導も疎かにはできません。弟子一人ひとりを見て、将来を見据えて育てる。全員が関取になれるわけではないからこそ、相撲で培った経験が次の人生につながるようにしたい。女将を含めたチームで部屋を運営する意識も、経営者として欠かせない視点だと思っています。
相撲部屋を「強い集団」にするだけでなく、「続いていく組織」にすること。その責任を覚悟を持って引き受けています。
プロフィール(すぎのもり・りゅうじ)早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了修士(スポーツ科学) 1996(平成8)年12月に、 安治川部屋(現伊勢ヶ濱部屋)に入門。1997(平成9) 年一月場所、「杉野森」の四股名で初土俵。同年七月場 所から四股名を「安美錦」と改める。2000(平成12)年一月場所で新十両。2006年(平成18)年十一月場所で新小結、2007(平成19)年九月場所で新関脇に昇進。 出し投げを軸とした多彩な取り口で「上位キラー」「くせ者」として活躍。 対戦した5横綱全員から金星を奪う。獲得した金星は計8つ。殊勲賞4回、敢闘賞2回、技能賞6 回。2003(平成15)年七月場所では右膝 の前十字2019(令和元)年七月場所で引退。年寄・安治川を襲名。


