sports scene
新型コロナウイルスの影響で平日も自宅周辺で過ごす人が多くなっているのを実感する。職場と自宅との行き来の間に存在した「切り替え」の時間がなくなり、気軽に遊びにも行けなくなった今、人々はどのように生活の中に非日常を見出しているのだろうか。 東京・多摩西部の住宅地の一角にあるとある神社。境内にあるモミジの大木を老若男女さまざまな人たちが見上げている。この木に空いた洞に、アオバズクという小型のフクロウの仲間が遠く東南アジアから2000㎞以上の距離を渡って毎年巣作りにやってくるのだ。7月ごろに生まれるヒナを一目見ようと野鳥好きが集まってくるちょっとした有名スポットだが、今年は少し様子が異なっていた。
大きな望遠レンズのカメラを抱えたバードウォッチャーだけでなく、仕事の前後に手ぶらでやってくる近隣住民の姿も見られ、例年より賑わいを見せているのだ。何の変哲もない小さな神社に、朝は5時台、夕方は日が暮れる19時ごろまで人手がある。長居する人のほとんどはベストショットを狙う愛好家たちだが、軽い運動を兼ねて神社を訪れ少しの間木の上を見上げて帰っていく人も少なくない。暗いニュースばかりの現在、かわいらしいアオバズクのヒナが無事巣立つのを見守る時間は、野鳥に詳しくない人にとっても心が休まるひと時なのだろう。
「sport」の語源であるラテン語・「deportare」が「娯楽・気晴らし」を意味することはよく知られている。義務から離れ気分転換をすること、これが本来のスポーツの姿だった。 オリンピックが延期となり、各種スポーツイベントを楽しむ機会も少ない現状。今まで通りの日常にはまだ戻れないが、鬱屈としがちな心と体を開放してくれる「スポーツ」は、少し周囲を見渡すと色々なところに転がっている。コロナ禍の今だからこそ、シンプルな「deportare」の原点に立ち返ってみるのも、また一興である。
▶伊勢采萌子