スポーツ産業を測る ドイツとフランスのスポーツ産業
スポーツ産業を測る─⑭ ドイツとフランスのスポーツ産業
庄子博人│同志社大学スポーツ健康科学部准教授
EUの行政執行機関にあたる欧州委員会(European Commission : EC)は、2006年に「スポーツ経済ワーキンググループ」を設置し、スポーツ産業を各国共通の指標で計測する「スポーツサテライトアカウント」を開発しました。当初は、英国をはじめとした数カ国のみでありましたが、2018年には、2012年を推計対象年とした欧州28カ国のデータが公開されています。今回は、国別に着目し、欧州28カ国の中でスポーツGDPの最も大きいドイツと、2番目の大きさのフランスのスポーツ産業を紹介したいと思います。スポーツGDPとは、国内全体の付加価値額を示すGDPの中で、スポーツで生み出された付加価値額を意味します。
表に、ドイツとフランスのスポーツ産業構造を示すために、スポーツ産業が生み出した付加価値であるスポーツGDPとその割合を示しました1)。総額では、ドイツは1,047億700万ユーロ、GDPに占める割合は3.90%です。またフランスは、399億2,300万ユーロ、GDPに占める割合は1.91%です。1ユーロ120円で計算すると、ドイツはおよそ12.5兆円、フランスはおよそ4.8兆円となります。欧州28カ国のスポーツGDPの総額は、2,797億ユーロです。したがって、欧州スポーツGDPの中で、ドイツは37.4%、フランスは14.3%を生み出していることになり、ドイツとフランスを合わせると51.7%となり、この2カ国だけで欧州の半分のスポーツGDPを生み出していることがわかります。これは、そもそも国全体のGDPが欧州の中でドイツとフランスが大きいことが強く影響していると考えられます。
スポーツ産業の分類別に見てみると、ドイツとフランスでは異なる産業構造をしていることがわかります。ドイツは、割合の大きい分類順に、「流通・商業(22.6%)」、「公務(15.9%)」、「スポーツ活動(13.3%)」となります。また、フランスは、「教育(33.3%)」「公務(27.2%)」「スポーツ活動(19.9%)」となります。スポーツ活動とはフィットネスクラブやプロスポーツなど「する・みるスポーツ」自体が含まれる分類ですが、2カ国ともに、スポーツ活動は第1位の分類とはなっていません。ドイツは、「流通・商業」が最も大きく、アディダスやプーマなどに代表される世界的メーカーの存在と、ドイツ国内の消費意欲の大きさが影響している可能性があります。また、フランスの最も大きいのは「教育」となっており、体育やスポーツ指導などの教員の人数や人件費の割合が高いことが推察されます。
なお、わが国のスポーツGDPは、2016年におよそ7.6兆円(2019年公表)であり、金額ベースでは欧州28カ国の比較ではドイツの次の2番目となります。ただし、GDPに占める割合では、およそ1.41%となり、28カ国比較では14〜15番目となります。スポーツGDPの金額が大きいのは、国の産業規模に強く規定されており、産業全体に占めるスポーツ産業の貢献を増やしていく必要があるかと思います。
1)産業分類は日本のスポーツGDPとの対応で理解しやすいように筆者が加工している部分がある。CPA分類に基づいた元データはレポートを参照されたい。