スポーツ産業のイノベーション ビジネスチャンスはどこにある?
スポーツ産業のイノベーション
ビジネスチャンスはどこにある?
植田真司│大阪成蹊大学マネジメント学部 教授
今回は、ビジネスチャンスがどこにあるのかをテーマに、 1848年に起きたゴールドラッシュを事例に、考察してみます。 ゴールドラッシュの成功者 1848年、カリフォルニア州(当時はまだ州になっていない)のジョン・サッター氏の所有地で、使用人のジェームス・ウィルソン・マーシャルが、川の中で光っている金の粒(砂金)を発見します。
この砂金発見の噂はすぐにアメリカ全土に広がり、海外含めおよそ25万人が集ったと言われています。当時のアメリカの労働者の日給が1ドル程度でしたが、ここでは1日で10〜20ドル稼ぐことが出来ました。しかし、金の採掘で富を得たひとは、ごくわずかでした。なぜなら、物価が上昇し(小麦の価格は40倍)、収入より出費が多かったのです。では、このゴールドラッシュ時に成功した人は、何をした人なのでしょうか? 実は、金を目当てに集まってきた人が必要とするモノを提供した人なのです。
最初の成功者は、サンフランシスコで新聞を発行し、小さな商店を経営していたサミュエル・ブラナンという人物です。彼は、「金が出た!」という話しを聞いて、採掘に走ったのではなく、サンフランシスコで採掘用のシャベルとバケツを、手当たり次第に買い占めました。そして、「金が出た!」と新聞に載せてこの話を広めました。すると、シャベルとバケツの価格は上昇し、20セントで仕入れたバケツが、15ドルで売れたそうです。なんと原価の75倍で売れ、ブラナンはわずか9週間で、3万6000ドルを手にしました。
もう一人の成功者は、雑貨商を営んでいたストラウスです。彼は、1853年にサンフランシスコにやってきて、採掘者向けの雑貨店を開きました。なかでも、栄養があり、どこでも手軽に食べられる「ドライフルーツ」などの「ドライフーズ」が売れました。さらに、テントに使われている丈夫なキャンバス生地を使って、手荒い作業でもやぶれない採掘者用のパンツを作り、大成功します。ストラウスとはLevi’sの創業者リーバイ・ストラウスです。
ビジネスチャンスは周辺にある
これらの事例から学ぶべきことは、ビジネスチャンスはメインとなるビジネスの周辺にもあるということです。
例えば、自動車が誕生したのは1769年。フランスのニコラ・ジョセフ・キュニョーが、蒸気で走る自動車を発明します。日本はまだ江戸時代です。その後、1885〜1886年にドイツ人のゴットリープ・ダイムラーとカール・ベンツによりガソリン自動車が誕生します。1908年にアメリカ人のヘンリー・フォードによりT型フォードの量産化が始まり、1913年には史上初のベルトコンベヤにより1日に1000台が生産され、自動車は大衆化し、産業が発展していきます。
しかし、発展したのは自動車産業だけではありません。 1835年にソリッドタイヤが発明され、1888年にスコットランドのJ.B.ダンロップにより、空気入りタイヤが実用化され、自動車産業と共にタイヤ産業も大きく成長しました。
ガソリンスタンドもそうです。1920年以前のガソリンは缶に入れられ、一般の小売店で販売されていました。その後、やぐらの上にタンクを設け、ガソリンをホースで車に直接注入するお店が誕生し、シェル石油が今のガソリンスタンドのモデルを作り、自動車と共に成長していきます。
例えば、1942年、米国で初めてコンピューターと呼ばれる電子計算機が誕生します。1965年にトランジスタ、1975年にIC(Integrated Circuit・集積回路)が開発され、パーソナルコンピューター(PC)と呼ばれる小型のコンピューターが誕生しました。それと共に、モニター、プリンター、記録媒体(フロッピーディスク、DVD、USBメモリー)など、周辺機器も開発され、共に発展していきます。さらに、マイクロソフトなどのOS、インターネットの普及でネット販売のamazonなど、さまざまなサービス関連のビジネスも成長しました。 スポーツ産業の周辺ビジネスとは スポーツ産業は、すべての産業に関連するハブ産業です。「国民すべてがスポーツをするようになれば、今後何が必要となるのか?」「どのような問題が生まれるのか?」を考えることで新しいビジネスが容易に創造できます。スポーツカフェのようなコミュニティーや休息・癒し・睡眠など、スポーツの楽しみ方を考えるとビジネスのヒントが生まれて来ます。
昨年より、関西では大阪商工会議所を中心に「スポーツハブKANSAI」として、スポーツ産業が求めるテーマと周辺産業が提供できるシーズから、新しいビジネスの創出に取り組んでおり、私も協力しています。これからのスポーツ産業の発展が楽しみです。