スポーツ庁ビジネス便り

スポーツ庁ビジネス便り
由良英雄│文部科学省スポーツ庁参事官

平昌オリンピック・パラリンピックでは、日本人選手が大いに活躍しました。2020大会や2022北京に向けて、更に競技力強化やアスリートの活動支援に力が入ります。それとともに、団体内の風通しやコンプライアンスの確保、ドーピング対策の徹底も重要課題です。スポーツ庁の進める取組を中心に、最近の話題をご紹介します。

ナショナルトレーニングセンター(NTC)の拡充整備

トップアスリートが、同一の活動拠点で集中的・継続的にトレーニング・強化活動を行うための施設として、東京都北区赤羽にある「味の素ナショナルトレーニングセンター」(味の素㈱のネーミングライツ)を運営していますが、ここにパラリンピック競技の使用を想定した施設を追加整備し、オリンピック競技とパラリンピック競技の共同利用化を図ることとしています。
追加整備する施設の規模は建築面積約10,183㎡、延床面積約29,956㎡。現在のNTCの屋内トレーニングセンターが延床面積29,058㎡であり、これとほぼ同程度の施設規模を見込んでいます。  平成29年度補正予算、平成30年度予算等で整備を進めているところであり、平成31年度の早い時期に竣工することにより、2020大会の前の1年間強化拠点として活用できる予定です。
NTCを中心とする同地区の競技力強化機能は、このコラムでもご紹介してきた「競技力強化のための今後の支援方針」(リオ大会直後の2016年10月策定:通称「鈴木プラン」)に沿って、情報・競技力データの一元化、スポーツ・インテリジェンス戦略の展開などを進める「ハイパフォーマンスセンター」として拡充を図っています。各種目別の競技団体(NF)もそれぞれ強化戦略プランを策定し、ハイパフォーマンスセンターと一体となって取り組んでいます。

スポーツ団体の基盤強化、インテグリティの充実

スポーツに更に注目が高まるこれからの時代に必要な取組を進めるため、種目別の競技団体(NF)においても事業内容の充実、人的体制や収支の改善などの基盤強化を進める必要があります。その取組を促すため、スポーツ庁では、JSC(スポーツ振興センター)、JOC(日本オリンピック委員会)、JPC(日本パラリンピック委員会)、日本体育協会などと連携して、各競技団体の取り組むべき課題の抽出や、改善のための手順の検討を進めています。
一つは、中期事業計画の策定支援です。複数の競技団体が自ら中期の事業計画を定め、競技の普及や広報・マーケティングなどの取組を進めています。シニアを含む幅広い世代にプレーヤーとして競技を楽しんでもらうための競技会の充実や、トップアスリートの活動をより広く情報発信するSNSの活用など、具体的な取組を積み上げていく必要があります。これらの活動を充実していくため、中期事業計画の策定を支援するとともに、競技団体相互間の意見交換を通じて効果的な手法の共有を図っていく予定です。
これに関連して、二つ目として、スポーツ分野の経営人材の確保育成についても取組を進めます。先日複数の有識者と意見交換を行った中では、リーグの主催者(J、B、V、Tなどの国内各種目リーグやラグビー、テニスなど国際リーグ)に更に経営ノウハウを蓄積、運用していかなければならないとの意見が出ており、それにチャレンジする人材の参入を呼び込んでいく必要があります。  また三つ目に、スポーツ団体の運営においては、アスリートの法令違反や予算の不適切な支出といったコンプライアンス上の課題に引き続き対策を講じていくことが必要です。これについても、現在、具体的な事例に基づいてリスクを洗い出し、それぞれの団体が自己評価や第三者による調査を通じて改善方法を特定していくためのチェックリストを作成中です。
四つ目に、平昌でも色々と事例が出たドーピング対策については、日本は2020大会を迎えるに当たってアスリートに対する研修の徹底はもとより検査体制の確保や巧妙なドーピングに対処する検出手法の開発など各般の取組を進めることとしています。
併せて五つ目として、アスリートのキャリア支援についても取組の充実を図ります。アスリートの発掘育成から引退以降までを広く捉えてアスリートのキャリア支援を展開するため、都道府県のスポーツ担当部署、教育委員会などとも連携して、それぞれの自治体ごとに地元出身のアスリートを応援するネットワークを形成し、行政、企業、スポーツ界が協力していくことにしたいと考えています。これらを通じて、スポーツ関係者が一体となって取組の質を高めていく必要があります。



スポーツ国際戦略

スポーツ審議会においてスポーツ国際戦略部会を設置し、スポーツ国際戦略を策定するための中間まとめ(案)を提示しました。国際戦略は、日本が戦略的にスポーツ分野での国際展開を図るための共通の指針を体系的に示すものです。ここでは、当面進めることとしている具体的な取組を幾つか説明します。
日中韓スポーツ大臣会合は、2年に1度偶数年に開催することとしており、今年は秋に東京において開催予定です。オリンピック・パラリンピックの東アジアでの開催が続くことをきっかけに相互連携を強めるためのものですが、スポーツ庁では、3国間でのスポーツツーリズムの取組を充実していくことが相互にメリットのある連携になると考え、関係事業者間の連携を含め提案をしていく予定です。
また、スポーツ・健康分野での日本企業のアジア展開がスポーツに関する日本のプレゼンスの拡大にもつながるため、スポーツ庁は経済産業省及びJETROとの協力関係を構築して行きます。JETROでは既に昨年の日ASEANスポーツ大臣会合@ミャンマーでJapan Sports Showcaseと銘打ったスポーツ産業の展示会を行ったところですが、こうした取組を加速します。
国際スポーツ団体での日本人役員選出の支援や日本人スタッフの派遣を進めます。また、国際競技大会の日本国内での開催誘致を支援します。これらの活動はこれまでから力を入れてきたところですが、国内のそれぞれの団体が行動計画を立てたり、国内での連携を強化したりすることにより、事業の充実を図ります。

チケットの高額転売を規制する新たな法律

2020大会の開催に向けてIOCから主要な立法課題の一つとして要請されてきた観戦応援チケットの不正な高額転売の防止について、罰則を伴う新たな法律の検討が進んでいます。
基本的な仕組みとしては、スポーツや音楽などの入場チケットのうち、興行主の同意無く転売することを禁止する旨を明示し、かつその防止のため個々のチケットごとに購入者の氏名を確認するなどの措置を講じているものについて、不正な転売に罰則を科するものです。
チケットの転売を広く規制することは取引自由の原則に反するので難しいと考えてきていましたが、スマホなどIT技術の進化により興行主が転売を適正にコントロールできるようになって来ているので、その仕組みを不正にかいくぐる行為に対しては刑罰を適用すべきというものです。
もともと国内のコンサートチケットについて不正な高額転売が問題になっていましたが、2020大会の運営上も対策の必要性が高いため、このタイミングで一気に立法化が進んでいます。自民党のライブ・エンタテインメント議員連盟が設置している検討プロジェクトチームにおいて条文案を作成中であり、早ければ今国会中にも法制化されます。
また現在、2020大会のチケットについての購入者本人確認等の手法についても、2020組織委員会や総務省などで実証事業が進んでいます。

日本版NCAAの設立準備委員会への参画募集

日本版NCAA創設に向けた学産官連携協議会は、3月26日に平成29年度の最後となる第三回の協議会を開催しました。協議会では、学業充実WG、安全安心WG、マネジメントWGの議論のポイントを整理し、平成30年度は次のステップとしてまず設立趣意書案に賛同する大学、学生競技連盟などを広く呼びかけて募集し、その賛同者が参画して設立準備委員会を設置することが合意されました。
設立準備委員会における実務的な検討や準備作業を経て、平成30年度中には一般社団法人として組織を設立し、事業展開を開始することを目指しています。

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