SPORTS SCENE
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早稲田大学文化構想学部 高田彩乃
爪を見れば、どんな体の使い方をしているのか大体分かるんです」。スポーツ選手の手足の爪を整える「アスリートネイルトレーナー」。全国で105人しかいない専門職だ。6年目の木村春香さんが経営するアスリートネイルサロン「爪SPA」(北区赤羽)には、プロバスケットボール選手らが通う。
2021年、東京オリンピック・パラリンピックの選手村で爪のケアを担当した。日本人選手にとって施術は試合後の「ご褒美」だ。しかし、外国人選手は試合前に来る。「闘う爪」を作り上げ、メダルを獲って帰ってくるのだ。
「トラブルが起きてからでは遅い。試合で100%の力を出すために、予防としての施術を伝えなければ」。憧れの舞台で、新たな使命を見つけた。
ケアを必要とするのは、プロ選手とは限らない。「右手の親指と中指の爪が固いね。ボールをよく掴むの?」。日焼けした大きな両手を握った瞬間、指摘する木村さん。八木義仁さん(早大米式蹴球部4年)は驚きながらも頷く。ポジションはパス出しを担うQB(クオーターバック)。ボールを触る時間はチームで一番長い。元プロ野球選手の著書を読み、爪のケアの存在は知っていた。しかし、具体的なやり方は分からず、「試合1週間前に切る」という自己流だ。およそ1時間の施術中、気になることは木村さんに何でも尋ねた。「週に1回、爪やすりで軽くこするんだよ」「爪の付け根が腫れているね。化粧水でいいから保湿をしてみて」。仕上げのオイルで艶々になった右手に、思わず笑みがこぼれる。練習や試合を終えた1週間後、爪が欠けていないことに気が付いた。初めてのことだった。
木村さんは、大学の部活動で爪の正しい切り方やセルフケアの方法を指導している。オンラインショップで販売する1個220円の爪やすりは、学生アスリートのお財布にも優しい。「今後は地域のクラブチームや鍼治療院にも専門知識を伝えていきたい」と木村さんは意気込む。爪のケアは決して「贅沢」ではない。最高のパフォーマンスを発揮するための自己管理だ。アスリートネイルは当たり前。そんな時代が、すぐそこまで来ている。