競技人口減少下におけるゴルフのサスティナビリティを探る──前編

競技人口減少下におけるゴルフのサスティナビリティを探る──前編
服部 宏│株式会社ダンロップスポーツエンタープライズ トーナメント事業部 企画グループ

少子高齢化による競技人口減少が明らかなスポーツビジネスにおいては、積極的な需要供給バランスの調整が必要になります。ピークは3兆円市場であったゴルフ産業を事例に、今後のスポーツビジネスの持続可能性を探ります。
ゴルフ市場の変化
ゴルフ市場は1992年頃をピークとして、現在では約50% の市場規模に縮小しています。ゴルフ業界の市場の変化をピーク時との比較により見てまいります。
まずゴルフ産業の推移をピークと比較します。
ゴルフ場市場規模(2016年)8,740億円
[最大:1兆9,610億円(1992年)55.4%減少]
ゴルフ用品市場規模(2016年)3,310億円
[最大:6,260億円(1991年)47.1%減少]
ゴルフ練習場市場規模(2016年)1,290億円
[最大:3,140億円(1993年)58.9%減少]
ゴルフ産業市場規模合計(2016年)1兆3,340億円
[最大:2兆8,860億円(1992年)53.8%減少]

続いて競技人口と全国で1年間にプレーされていたラウンド数をピークと比較しますと以下の通りになります。
競技人口(2015年推計)720万人
[最大:1,480万人(1992年)51.4%減少]
年間ラウンド数合計(2015年)8,650万ラウンド
[最大:1億233万ラウンド(1992年)15.5%減少]
ゴルフ場施設数(2016年末)2,293施設
[最大:2,460施設(2002年)6.8%減少]

続いて施設の売上と年間来場者数から客単価を比較してみますと以下の通りになります。
1施設あたりの年間売上高(2016年2,293施設平均)3億8,116万円
[最大:9億6,696万円(1992年2,028施設平均)60.6%減少]
1施設あたりの年間来場者(2016年2,293施設)37,723人
[最大:50,458人(1992年2,028施設)25.2%減少]
1プレーヤーあたりの単価(2016年2,293施設)10,104円
[最大:19,164円(1992年2,028施設)47.3%減少]

数値から市場変化(状況)を見てみると、2つのポイントが明らかになります。
①売上規模は半減するもゴルフ場の数は6.8%(約16 0施設)しか減少していません。(経営が厳しくなったゴルフ場は会社更生や民事再生など再生型の倒産を経験して
いますが、その大半が現在もゴルフ場として経営を続けています)
②客単価を下げながら来場者数を維持しています。
つまりゴルフ市場規模の縮小は施設数の減少ではなく、施設の売上減少(来場者数減少や客単価の減少、利益の減少)によることが明らかです。
全国のゴルフ場数の増加と1ゴルフ場あたりのプレー人数(来場人数)の増減を比較してみますと、需要供給のバランス関係を見ることができます。ゴルフ人口の増加を追いかけるようにゴルフ場の数が1980年代後半まで増加しました。その後19 90年代前半をピークにプレー人数は減少を始めました。しかしゴルフ場の数は「ほぼ横ばい」であり「供給過多」の状態であることが明らかです。価格競争は激化し、ゴルフ場の利益を削りながら経営を続けています。(図1参照)

ゴルフ場の経営課題

現状のゴルフ場経営を考察する上で注目すべきことは売上高・利用者数の推移とゴルフ場で勤務する従業員の推移との関係です。(以下は調査対象約2 00施設の合計数字になります)
対象となるゴルフ場の売上高合計のピークは20 02 年1, 230 億円で、2014年933億円と比べ24.1%減少、利用者数のピークは2003 年の998万1, 000人で2 014 年は941万9,000人と5.7%減少に留まり、また従業員のピークは2002 年の9,038人で2014年は8,498人と6%の減少に留まっているという状況です。つまり、客単価を落としながら来場者の確保はできていますが、売上は2 4.1%減少する状況でも従業員数は6%しか落せていないことは、人件費面での課題があると推測することができます。(図2参照)

日本のゴルフ場は、メンバーシップ(会員制)がその大半を占めています。
戦後の経済復興や高度経済成長への移行に合わせ、生活が豊かになると共に、高価な娯楽と考えられていたゴルフが大衆化し、それに伴いゴルフ場開発は年々増加しました。1984年林野庁長官から「森林空間総合利用設備事業(ヒューマングリーンプラン)の実施についての通達を出し国有林内での第三セクターによるゴルフ場造成を認められ、1987年6月9日に制定された「総合保養地域整備法(通称:リゾート法)」が制定されると共にゴルフ場の開発は更に促進されることになりました。リゾート法は第三セクターや民間企業によって大規模なリゾート、レジャー施設を整備し、地域振興を図ることを目的としたことに加え、それまで規制の厳しかった農地や森林がリゾート開発できることになったことは、ゴルフ場の建設が流行る理由の一つとなりました。さらに1986年から1992年に発生したバブル期においては、不動産を中心に投資が増加し、ゴルフ場の開発も投機の目的となり建設増加に拍車がかかりました。
日本におけるゴルフ場の建設費用獲得の手段として「預託金システム」が多用されました。「預託金システム」とはゴルフ場経営会社が会員権を発行し、その代金を預託金として会員から借り受けるシステムです。この預託金は無利子・無担保で調達でき、かつ預託金であるため税金がかからないという大きなメリットがあり、預託金の運
られたため、その膨大な建設費用を集める為に、会員による預託金システムが多くなった」とのことです。
投資や企業の接待に活用され、バブル期のゴルフ場は、大きなクラブハウスや著名なコース設計家が採用され、クラブハウスにおいては運営セクションも多く、多くの人件費、華美な調度品、巨額な光熱費がかかる仕様が多いです。
しかし会員の高齢化やプレー回数の減少、投資価値の低下、社用利用の減少、建設当時の施設やサービスのまま、客単価の下がったプレーヤーに対してフルサービスを続けている状況です。会員から集めた資金でゴルフ場を建設、運営していることもあり、健全な経営を目指す上で会員と話し合い、会員とゴルフ場との関係を、現状に即して改善を図ることが課題であることは明らかです。
ここまで日本におけるゴルフ産業の成長と現在の状況をみていただきました。
少子高齢化が懸念される現代において、競技人口の減少は避けられません。団塊の世代と共に成長し、3兆円にまで迫る勢いであったゴルフビジネスのピークと、現在の比較や各施設で取り組まれている改善事例調査をもとにゴルフ産業のサスティナビリティ(持続可能性)につきまして後編でお話しさせていただきます。

▶引用:公益財団法人 日本生産性本部「レジャー白書2017」
一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会(ラウンド数/ゴルフ場施設数データ)

 

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