アメリカ大学スポーツにおける エリジビリティ(競技参加資格)③
アメリカ大学スポーツにおけるエリジビリティ(競技参加資格)③
帝京大学医療技術学部 教授
束原文郎
連載「アスリートの教育とキャリア形成」、第6回は引き続きアメリカ大学スポーツ統括機関NCAAの定める競技参加資格(Eligibility:エリジビリティ)を考えていく。今回は転校に関する規程についてディヴィジョンごとに整理し、2025-26シーズンから開始された画期的な方針転換の背景について確認する。
転校に関する規程
昨今のアメリカ大学界では、学生アスリートの流動性が非常に高まっている。そうした情勢が前提となり、転校に対する規程も各ディビジョンの哲学がタレント獲得と学生の流動性をどう捉えているかを明確に示している。
●Division I (D1)
D1の転校規程は、学生アスリートの流動性を促進していると言っても過言ではない。学生は、一度だけ一回限りの転校許可規定(one-time transfer exception)を利用して、転校後すぐに新しい大学で競技に参加できる。このプロセスには、学生がトランスファー・ポータル(Transfer Portal)に登録する必要がある。このルールは、学生の大学選択権を増強する一方で、競技指導者へのプレッシャーを増大させ、選手獲得競争を激化させている。これは、勝利志向とアメリカ全体での(ナショナルな)優秀性を追求するというD1の哲学の副産物であり、移籍市場の活性化は、競技のプロ化(professionalization)という大きなトレンドの一部をなしている1。
●Division II (D2)
D2の転校規程は、D1のような自由を促進する性向はなく、より管理志向が強い。通常、4年制大学からの転入生には、1年間の居住期間が経過して始めてNCAA主催競技への出場が可能となる。ただし、特定の条件(例えば、転校元でのクオリファイア・ステータス2、転校前にそのスポーツで競技に参加していなかった場合など)を満たせば、居住期間の義務は免除される。2年制大学からの転入生は、特定の単位数とGPA(最低2.200)を満たすことで即座に競技に参加できる。この転校プロセスを管理し、学生が新しい環境に順応し、学業的な遅滞を招かないようにするための期間を設ける規程は、D2の“Life in the Balance”の哲学に則っているとされる3。
●Division III (D3)
D3の転校ルールは、学生の選択の自由を最大限に尊重してきた。転校生は原則、前所属校の当該スポーツで競技していなかったこと、または一定期間そのスポーツで競技していないことを条件に、最初の学期から競技に参加できた4。このルールの寛容性は、学生アスリートが自身の教育的・個人的なニーズに基づいて大学を選択する自由を最大限に尊重するというD3の理念に由来するだろう5。つまり、D3では転校の障壁が低いため、学生は学業や社会生活のバランスを求めて、より最適な環境を探すことができた6。
ところが、D3の運営評議会は2025年7月、D1やD2と同様に、学生アスリートにトランスファー・ポータルの使用を義務化する提案を承認した7。これは、学生アスリートの流動性が著しく上昇しているという環境変化に、D3も対応を迫られたことを意味する。
転校規定・プロセス変更の背景
2025年6月、カリフォルニア州連邦地裁のクラウディア・ウィルケン判事が予備承認した「ハウス対NCAA」訴訟の和解案は、過去の学生アスリートに対するパブリシティ権(NIL)の不当な制限への賠償として、NCAAと主要5カンファレンス(Power 5)は元学生アスリートに10年間で約27.8億ドルを支払う、というものだった8。NCAAはこの莫大な賠償資金を確保し、かつ将来的な収益分配モデルを構築するために、D1で従来の「奨学金枠(Scholarship Limits)」を撤廃し、新たに「スポーツ別ロースター9上限(Sport-Specific Roster Limits)」を導入するというドラスティックな方針転換を行った10。
この改革の帰結として、D1全体で約4,000人から13,000人のアスリートが現在の所属チームから放出されるか、あるいは希望していたD1でのプレー機会を失うと予測されている 11。
D1でのロースター削減により行き場を失った準エリートアスリートたちは、必然的にD2やD3への移籍、あるいは最初からの進学を検討せざるを得なくなる。D3はアスリート奨学金を支給しない唯一のディビジョンであったが、D1レベルの競技力を持ちながらロースター枠から漏れた選手が大量に流入することで、D3の競技レベルと移籍市場の流動性が急激に高まるものと予想される。D3の運営評議会がトランスファー・ポータルを義務化したのは、この未曾有の移籍ラッシュに対応するためだと考えられる。
参考文献
1.NCAA(2024)NCAA Division I Four-Year Undergraduate Transfer Basics, http://fs.ncaa.org.s3.amazonaws.com/Docs/eligibility_center/Transfer/DITransferBasics.pdf
2.高校卒業時点での学業成績に基づいて認定される「競技活動・奨学金受給の適格者」のこと。
3.NCAA(2025)2025-26 NCAA Division II Summary of Key Regulations, 9月 4, 2025にアクセス、 https://ncaaorg.s3.amazonaws.com/compliance/d2/2025-26/2025-26D2Comp_SummaryofNCAARegulations.pdf
4.NCAA(2025)2025-26 NCAA Division III Summary of Key Regulations For, https://ncaaorg.s3.amazonaws.com/compliance/d3/2025-26/2025-26D3Comp_SummaryofNCAARegulations.pdf 5.NCAA(2013)Division III Philosophy Statement。https://www.ncaa.org/sports/2013/11/14/division-iii-philosophy-statement.aspx 6.NCAA(2025)2025-2026 NCAA Division I Manual. https://ncaapublications.com/products/2025-2026-ncaa-division-i-manual 7.NCAA(2025)DIII Management Council approves per diem increase for postseason competition. https://www.ncaa.org/news/2025/7/23/media-center-diii-management-council-approves-per-diem-increase-for-postseason-competition.aspx 8,Dennis, B. G., III, Bland, D., and Kaner, J. S. (2025) Unpacking the “House” Settlement’s Impact on Collegiate Athletics. Jackson Lewis, https://www.jacksonlewis.com/insights/unpacking-house-settlements-impact-collegiate-athletics-0, (参照日2026年3月1日).
9.登録メンバーのこと。日本では部員、つまりロースター規制は部員数規制を意味する。
10.Solomon, R. L. (2025) House v. NCAA Settlement Sparks New Age of Student-Athlete Compensation. BakerHostetler, https://www.bakerlaw.com/insights/house-v-ncaa-settlement-sparks-new-age-of-student-athlete-compensation/, (参照日2026年3月2日).
11 Wingert Grebing Brubaker & Walshok LLP (2026) The House v. NCAA Effect: How the $2.8 Billion Settlement is Rewriting the Rules for California College Sports. Wingert Grebing Brubaker & Walshok LLP, https://wingertlaw.com/2026/02/28/house-v-ncaa-settlement-california-guide/, (参照日2026年3月2日).

