スポーツ産業を測る─㉚ 家計調査でみるスポーツ消費支出
スポーツ産業を測る─㉚
家計調査でみるスポーツ消費支出
庄子博人│同志社大学スポーツ健康科学部准教授
スポーツ産業の経済価値を考える時、生産側からも支出側からもアプローチすることができます。生産側の観点では、スポーツ関連事業所が生み出す生産額からコストである中間投入を引いた額が付加価値(=スポーツGDP)となります。支出側の観点では、GDP=個人消費+民間投資+政府支出+固定資本形成+輸出—輸入であり、スポーツに関連する個人と企業と政府の最終需要を合計し、輸出入を調整することでスポーツGDPを計算することができます。
実際に利用できる統計を確認してみましょう。生産側のスポーツに関連する財・サービスは、この連載の♯27「スポーツ産業を測る─㉖経済統計の中のスポーツ」に表として掲載した内容ですので、そちらをご覧ください。本稿では、支出側からの項目を確認したいと思います。GDP統計において、支出側の観点で計算した時に最も大きな分野は個人消費です。この個人消費の項目は、家計調査から確認することができます。表に、家計調査から消費支出におけるスポーツ関連の項目を掲載しました。家計調査は、用途分類と品目分類の2通りによって分類され、用途分類は使用用途によって分類する方法、品目分類は用途に関わらず同じ商品は同じ項目に分類する方法です。分類としては、大分類(1桁)、中分類(2桁)、小分類(3桁)、品目(品目の番号)と分かれています。表には、スポーツや運動の項目として、確かだと考えられる品目を抜粋しました。運動やスポーツと言う名前が入っていない、保険医療の「整骨(接骨)・鍼灸院治療代」「マッサージ料金等(診療外)」については、スポーツ消費と認められないという意見もあるかもしれませんが、スポーツとの近接分野だと判断し、表に加えています。
家計調査を利用することの利点は、2点あります。1点目は、年・四半期・月の区分で、生産側の数字と比べて直近の数字が公開されていると言うことです。これは、流行や季節変動などの影響の大きいと考えられるスポーツ経済活動にとって、直近の統計が入手できることは重要だと考えられます。また、2点目は、印象の問題ですが、個人の消費ですので項目が直感的にわかりやすく、一般的に理解しやすいということです。生産側の品目の場合、事業所が生産する財やサービスの品目とその金額となりますので、項目名と金額とのイメージが一致しないことが生じます。例えば、生産側でのプロスポーツ観戦に関する品目としては、「興行場・興行団」と言う品目があり、これにプロスポーツ事業所も含まれていますが、これは事業所の生産額ですので、消費者が支払う価格とは異なります。一方、家計調査での「スポーツ観覧料」は家計が支払うスポーツ観戦のチケット代ですので、これは金額と項目のイメージが一致しやすいと言えます。
家計調査を利用することの現時点での課題も2点あります。1点目は、表に示すように、いくつかの分野はカバーしているものの、スポーツ消費全体を示すには十分な項目数があるとは言えないことです。例えば、スポーツメディアやスポーツ放送の項目は存在しません。現状、もし家計調査を用いてスポーツメディアやスポーツ放送の金額を推定するならば、スポーツに関連する部分のシェアを決めて、メディアや放送に関する消費額から割り出す形で計算するしかないと考えられます。また、課題の2点目は、家計調査は輸入品と国産品との区別をつけていないため、国内の付加価値を計算するためには、輸入の割合を特定して考慮する必要があります。