スポーツ産業を測る 日本版スポーツサテライトアカウント
スポーツ産業を測る
日本版スポーツサテライトアカウント
庄子博人│同志社大学スポーツ健康科学部・助教
日本版スポーツサテライトアカウント これまでの「スポーツ産業を測る」シリーズでは、英国を中心とした欧州のスポーツ産業の計測方法であるスポーツサテライトアカウント(Sport Satellite Account; SSA)を紹介してきました。欧州においては、スポーツ産業の定義である「ヴィリニュス定義」に基づき、国際比較可能なスポーツ産業統計値が公表されています。
日本政策投資銀行は、欧州の手法に準拠した日本版スポーツサテライトアカウントを開発するため、伊藤元重先生(東京大学名誉教授・現学習院大学教授)を顧問とした「スポーツ産業経済規模調査検討委員会」を設置し、わが国スポーツ産業の定義や推計方法について検討しました。この検討委員会の成果として、2018年3月、日本政策投資銀行と同志社大学は、スポーツ庁と経済産業省の監修のもと「わが国スポーツ産業の経済規模推計~日本版スポーツサテライトアカウント~」を発表しました。このレポートでは、国内スポーツ産業の2011年から2014年までの経済規模を推計しています。
日本政策投資銀行の日本版スポーツサテライトアカウントは、わが国の産業連関表の最も細かい分類を用いてスポーツ産業の定義が作成されています。その作業は、欧州基準に合わせるためにヴィリニュス定義との照合をした上で、日本独自のスポーツ産業に対応するために、わが国スポーツ産業の特殊性を踏まえた検討が行われました。 また、具体的な計算は、日本の産業連関表から「スポーツ部門」「流通部門」「投入部門」を計算し、3部門を合わせて「スポーツ産業」としています。スポーツ部門は、スポーツに関連する産業として委員会で定義された財で構成され、スポーツに関連している度合い(シェア)に応じた金額を推計しています。また、流通部門は、小売・卸などの商業と運輸などの物流を合わせた部門を指します。さらに、投入部門は、スポーツ部門を成立させるために必要な産業を計上しています。
わが国スポーツ産業の経済規模推計 下の表に日本版スポーツサテライトアカウントによる国内スポーツ産業の経済規模推計結果を示しました。2014年は、スポーツ部門が4.6兆円、流通部門が1.0兆円、投入部門が1.0兆円、合計でスポーツ産業6.7兆円という結果となり、2011年からの年次推移をみると、2011年を100%とした時、2012年=95.3%、2013年=99.1%、2014年=100.9%でした。2012年に大きく落ち込んでいる理由として、東日本大震災による国内産業全体の低下が理由の一つとして考えられます。いずれにせよ、わが国のスポーツ産業は、全体として6兆円を超える規模で推移していると言えそうです。
また、国内産業全体に占める割合は、1.40%であり、日本経済へのインパクトという意味において、決して小さくない産業分野の一つであると言えるでしょう。
今後の課題は、長期にわたって推計し続けていくことが重要となります。また、日本版スポーツサテライトアカウントを活用したスポーツ産業の構造分析などを通して、スポーツ産業振興の戦略立案に貢献することも重要な課題となるでしょう。これまで日本には、スポーツ消費額などセクター別の統計はあったものの、スポーツ産業全体のベンチマークとなるような経済統計はありませんでした。日本再興戦略2016など国家戦略としてスポーツの成長産業化が取り上げられている現在、客観的な数値を用いてスポーツ産業振興の戦略を策定していく必要があると思います。現在、遂行されているスポーツ産業振興の施策を検証し、改良し続けて行くために、経済統計は欠かせないベンチマークとなると考えられます。
株式会社日本政策投資銀行地域企画部,同志社大学:わが国スポーツ産業の経済規模推計~日本版スポーツサテライトアカウント~,スポーツ庁 経済産業省 監修,2018.
URL http://www.dbj.jp/ja/topics/region/industry/files/0000030092_file2.pdf