新たな熱狂の創出 -SVリーグが世界に創出する価値-
大河正明
公益社団法人SVリーグ代表理事、びわこ成蹊スポーツ大学特別招聘教授/運営アドバイザー
Bリーグを成長軌道に乗せた大河氏が次なる挑戦へと向かう。それが、ポテンシャルを秘めながらもビジネス面で立ち遅れていたバレーボール界の再生だった。本稿では、Bリーグ創設時に掲げた三つのミッションを起点に、日本のプロスポーツをいかに産業として成立させてきたのか、そしてSV.LEAGUE誕生と「世界最高峰のリーグ」を目指す現在地までを、自身の実践を通して描き出す。
Bリーグが掲げた3つのミッション
まず私にとってスポーツ業界の仕事に関わる最初の競技がサッカーでした。Jリーグが1993年にスタートし、エキスパンションを展開する中で、J2(2部)、J3(3部)の立ち上げに携わりました。その後、私自身が学生時代にバスケットボールで全国大会に出場した経験があることが転じて、Bリーグの創設に関わることになります。当時は、川淵三郎氏(Jリーグの初代チェアマンなどを歴任)が、「bjリーグ」と「NBL」の2つに分断されていた国内のバスケットボール界の立て直しに尽力されており、そこで私はリーグの立ち上げからガバナンス改革に着手しました。
Bリーグが創設するにあたって掲げたのは3つのミッションです。そもそもプロスポーツを目指した「bjリーグ」は「地域に根ざしてバスケットボールで、地域を元気にしていく」という発想自体はよかったのですが、そのことで日本全体のバスケットボールを強くする思いはありませんでした。そこでBリーグでは【世界に通用する選手やクラブを輩出する】を1つ目のミッションにします。
次に、日本代表の大半はNBLから輩出されていたわけですが、特に企業チーム同士の試合は無味乾燥でエンターテイメント性がまるで感じられませんでした。競技以外のことを展開しようとすれば、それを嫌う意見も出てくるものですが、とはいえ勝負事である以上、応援しているチームが常に試合で勝つとはかぎりません。負けることもありますし、内容がつまらない場合だってある。けれども、試合だけではなく、会場に足を運んだ時間が楽しめるようであれば、そこに確かな満足度がある。ですから、2つ目のミッションに【エンターテイメント性の追求】を掲げました。
そして、最後のミッションが【夢のアリーナの実現】です。アリーナにおいて最も大事なのは設備や収容人数はもちろんですが、何よりも「自由に使えること」です。従来の施設ですと、そこを本拠地とするチームでさえ一般の利用者と同じように抽選などを経て、利用の権利を得る必要がありました。ですが、その制約がなく、試合の開催日を設定するにしても自由に使えることを「夢のアリーナ」の定義としまして、実現に向けて動き出しました。それから2016年にBリーグがスタートし、今では沖縄の琉球ゴールデンキングスを皮切りに各地で「アリーナ」と呼べる施設が続々と誕生しています。アリーナの存在によってBリーグのクラブの事業規模が圧倒的に拡大し、立派な産業の一つになっています。
競技人口が多く、認知度も高く、男女同一の競技というバレーボール
さて、そんななかで次はバレーボールの話が私に舞い込んできました。当時、私はびわこ成蹊スポーツ大学でスポーツビジネスを教えていたのですが、やはり「現場感覚がないよりかはあるほうがいい」んですね。京都府バスケットボール協会の常任理事を務めたときに、そこで協会の悩みや地域の実状を知られたことは、とても大きかったです。
そのバレーボールについては、断トツの国民的スポーツといえる野球、国内で最も競技人口の多いサッカー(80万人)、バスケットボール(58万人)とともに、競技人口は45万6632人(2024年度の〔公財〕日本バレーボール登録人数)と、日本の四大競技であることは間違いないと感じました。また、競技人口の推移でいえば、コロナ禍で一時期は減ったとはいえ学生世代を中心に増加傾向にありました。これは現場の指導者の方々の頑張りもありますが、やはり漫画・アニメ作品の『ハイキュー!!』の影響によるものでしょう。
さらにジョギングやゴルフを除き、他のスポーツや四大競技の中でもバレーボールは女子の割合が多いことが特徴の一つでした。特にサッカーやバスケットボール、ラグビーといった競技は男女を見比べた際に、スピードとパワーが圧倒的に違います。バレーボールはネットの高さが男女で違いますし、床にボールが落ちないという競技特性においては、男女問わず「つなぐ」ことに関して見る者に楽しさを提供できるわけです。
そして世界的な競技人口においても、バスケットボールが4億5千万人、サッカーが2億6千万人と比較して、バレーボールは5億人にのぼります。日本代表は男女とも世界的に強豪国に位置付けられており、2024年のパリ五輪では大会の視聴率1位は、男子の準々決勝。惜しくもイタリアにあと一歩で敗れてしまいましたが、その試合を含めてバレーボールが視聴率の上位を占めました。
競技者も多く、観戦する対象としても魅力的。また、LINEリサーチの調べによればバレーボールは中高生たちのおける「チケットを買って見にいくような将来のファンになる」スポーツとして男子が3位、女子が1位でした。前述のとおり『ハイキュー!!』の影響もあるでしょうし、実際に日本代表の試合は人気があります。
ですが、それほどのポテンシャルがあるのに、国内リーグはぱっとしない。それが、バレーボールに私が触れた当時の状況でした。
世界的に見ても、ビジネス力に乏しいバレーボールの特性
バレーボールの国内リーグ、当時はV.LEAGUEの弱みは「プロとアマチュアが混在している」ことにありました。さらに運営側の体制も弱く、収益を上げる力に乏しい。年間の試合シーズンが短く、試合数が少ないことなども理由に挙げられます。そもそも試合数でいえば、どの競技にしてもトップカテゴリーが最も多く実施しているものです。
また、コロナ禍における措置が最も顕著な例でした。あのとき、野球やサッカーは真っ先に、無観客でも実施する方向で動きました。Jリーグの場合はDAZNから200億円の配信料を得ているわけですが、試合を行わなければゼロになることだってありました。となれば、チームの経営が行き詰まる可能性も出てきます。結果的に資金確保に動くなど策を講じたわけですが、その一方でバレーボールとラグビーに関しては、大会を取りやめる決断をしました。クラブの運営母体である企業側のアマチュアイズムによって、リスクやコストがかかることを忌避する傾向にあったわけです。
同時に、運営に関してもガバナンスが効いておらず、例えばライセンス制度を導入しているとはいえ、それを守れなかったからといって特に処分もなかった。他競技の真似をしているだけで、組織運営に魂がこもっていないと感じました。
そこで私もバレーボールに携わるなかで、国内リーグを再生するための「V.LEAGUE REBORN」構想に着手します。定款や規約といったガバナンスの整備を始め、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に遵守するかたちで運営を図りました。当時は、そうした法律に基づいた組織運営がなされていなかったのも事実です。
そしてリーグ運営において体質改善を施します。それまでも大会形式については熱心に議論がなされていたわけですが、何のためにこの組織があるのか、あるべき姿をどのように見定めて何を目指しているのか、というミッションがまるでなかった。唯一、バレーボールが好きなので「世界最高品質のバレーボールを見せたい」思いは、そこにありました。
ならば「世界最高峰のリーグになろう」と定めたわけです。バレーボールはその競技人口に対して、世界的にビジネス力が弱い点が特性にありました。ビジネスという観点で例えば、BリーグがNBAに勝つことはかなりハードルが高いでしょう。日本プロ野球がMLBに、Jリーグがプレミアリーグ(イングランド)やブンデスリーガ(ドイツ)に勝てることも当面はなさそうです。これは私の仮説ですが、バスケットボールや野球といったアメリカで発展してきたスポーツ、それにサッカーというヨーロッパが主体となって引っ張ってきたスポーツは総じて高いビジネス力を誇ります。ですがバレーボールは東欧の国が主体となって発展してきたので、ビジネスとして収益を上げることがそれほどできていなかった。今では、FIVB(国際バレーボール連盟)が「Volleyball World」というマーケティング会社を設立して、スポンサーの価格体系一つから見直していく動きが出てきました。これは喜ばしいことで、やはり各国のリーグがどれだけ頑張っても、世界全体のバレーボール界のマネタイズが大きく運ばないことには厳しい。FIFA(国際サッカー連盟)が主催する世界大会の賞金と比較すれば、そこには圧倒的な差がありますが、それでも変えていく必要があります。
そのなかでも、「世界において軸となるリーグに日本がなれる」という考えから、日本のトップカテゴリー「SV.LEAGUE」を新設しました。
2026-27シーズンから完全プロ化、そして「世界最高峰のリーグ」へ
私自身、これまで培ってきたJリーグやBリーグでの知見を活かすことで、このポテンシャルのあるバレーボールを甦らせる、さらには人気だけでも事業として成功に導くことができると考えていました。とはいえ、その頃、リーグは2年連続の債務超過で、3年連続も目前に迫っている状況です。とにかく収益を上げる必要がありました。
当時のV.LEAGUEでいえば、協賛パートナーの収入はおよそ8千万円。それも基本的には各クラブの親会社とスポーツメーカーだけで、実質は何もしていない同然でした。一方でJリーグやBリーグは数十億円のパートナー協賛金収入を得ているわけです。事業改革の一歩目として、バレーボールやリーグの魅力をしっかりと将来性にコミットするかたちで各企業へ伝え、社会的課題の解決への活用に競技を活かしてもらうことなどを地道に、それもほとんどのケースで代理店を通さずに直接の営業を手掛けました。その結果、V.LEAGUEのトップカテゴリーであるDIVISION1が当時8億円ほどの収益だったのが、SV.LEAGUEになり、その初年度でおよそ35〜36億円になりました。
さらに2026-27シーズンから男女ともに完全なるプロクラブとしての運営法人を持つことが、今年(2025年)に入り、ようやく決議されました。
振り返れば、バレーボールの国内リーグがプロ化を掲げて「Vリーグ」をスタートさせたのは1994年のことです。前年にJリーグが開幕し、サッカーに「追いつき、追い越せ」という精神で立ち上げたわけですが、やはり企業主体の運営だったバレーボールはプロ化に頓挫します。やがて2016年にBリーグが誕生し、競技の世界的な強さや規模でいえば「格下」ともいえたバスケットボールの盛り上がりを受けて、バレーボール界の中でも「このままでは抜かれる」という危機感が生まれます。そうして前述のV.LEAGUEが始まったわけですが、それでも「時期尚早」「プロ化は反対」という声を上げるクラブチームがいました。
そうした実状に対して、これはもう実績で示すしかありませんでした。ガバナンスを変えて、考え方を変えて、ミッションやビジョンを明確に示す。ホームタウンにおいては、町の首長はもちろん地元のテレビ局や新聞社にNHKローカルには必ず足を運ぶことを徹底させるといった意識改革を施し、ようやく「プロ化」へ前向きな姿勢を見せてくれるクラブも出てきました。
今、スポーツ産業は10兆円を超えて、将来的に15兆円を目指していると聞きます。とはいえ、競技ごとに見るとプロ野球は3000億円、サッカーは2200〜2300億円ほどと言われ、それ以外は遠く及びません。コンテンツホルダーと称される、つまりは競技ごとの売り上げも1兆円には届かない。本来は最も貴重で最も影響力がなければいけない部分が脆弱なわけです。その点では日本のスポーツ界全体としても頑張っていかなければならないでしょう。
配信事業のビジネスモデルに加えて、さらに収益の配分だけでなく投資も行っていくことを。バレーボールでいえばアジア圏にむけて、最初から黒字とはいかなくてもゆくゆくはイーブンそして大きくバックされるように先行投資を行い、それが全体のプラスになるような仕掛けを講じていきたいです。また投資でいえば、人材育成も同様です。どうしてもスポーツ界は各競技で「タコツボ化」してしまうものですが、教育・人材育成においては「横に串が刺さっている」ほうがいい。人材の流動化はあるものですが、いろんなリーグやクラブが競技の壁を超えて、そこでは若手を受け入れられるような環境を整えたいと考えています。
2024年にSV.LEAGUEがスタートし、今は「V.LEAGUE REBORN2」と題して、次の中期計画を作成しています。リーグの運営にはすべてKPIを置いていますし、もちろんその数字を協賛企業の皆様にも説明した上で進めています。
加えて、バレーボールは競技として女子も非常に面白いですから、速さやパワーで劣るのは事実だとしても従来の「プロスポーツ=男子」という根底をくつがえすほどに、女子のプロ化にも尽力し、いずれは女子スポーツ界においてSV.LEAGUEがリーダーでありたいと願っています。
やらなければいけないことはたくさんありますが、「2030年に世界最高峰のバレーボールリーグになる」という大きな夢に向かって、志をぶらすことなく、これからも邁進していきます。


